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ミライのヘルスケア

実用化目前 「AI内視鏡」で早期の胃がんも見逃さない!

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監修/多田智裕先生(AIメディカルサービス代表取締役、ただともひろ胃腸科肛門科)

早期発見で完治できる確率が高まる胃がん。しかし、ごく早期の場合は胃炎などに紛れて見つけにくい場合も少なくないといいます。そこで胃がんの内視鏡診断の精度を高めるため、研究開発が進められているのが「内視鏡AI(人工知能)」です。どのような機能をもち、どんなメリットをもたらしてくれるものなのか、医師であり、内視鏡AIの開発者でもあるAIメディカルサービス代表取締役・CEOの多田智裕先生に伺いました。

実は医師の負担が大きい、胃がんの内視鏡診断

 1997年以前は、胃がんが部位別のがん死亡者数のトップを占めていました。しかし人口10万人あたりの死亡率は年々低下し、2018年の死亡者数は男性では3位、女性では5位(※)となっています。

(※)厚生労働省「2018年人口動態統計(確定数)」による

 この背景にはがん検診による早期発見や治療法の進歩など医療の発展が大きく貢献していると考えられます。

 中でもがんの早期発見に重要な役割を果たしているのが内視鏡検査です。先端に小型カメラ(CCD)またはレンズが内蔵された直径1㎝程度の細長い管を口から挿入し、モニターに映し出された胃の内部の画像を医師が直接観察するもので、これを「一次読影」といいます。この後、1人当たり数十枚の静止画像からがんの有無を判断する「二次読影」(ダブルチェック)を経て、診断結果を確定します。

 日本の内視鏡技術は世界でもトップレベルであり、高度な技術をもった消化器内視鏡専門医も数多く存在しています。一方で、胃がんは慢性胃炎から発生することが多く、早期がんの場合は胃炎に紛れてしまい見つけにくい場合があるのも事実です。また、内視鏡経験が少ない医師は胃がんを見逃しやすいという報告もあります(※)。

(※)Hosokawa O.Hattori M,Douden K,et al; Diffrence in accuracy between gastorosgcopy and colonoscopy for detection of cnacer..Hepato-Gastroenterology 2007.54(74):442-444.
Hosokawa O,Tsuda S,Kidanin E,et al; .Diagnosis of gastric cancer up to three years after negative upper gastrointestinal endoscopy. Endoscopy 1998.30(8)669-674.

 さらに、ダブルチェックは医師の負荷が大きいという問題もあります。例えば、2006年から診療している埼玉県さいたま市では、全市民(約131万人)に対し、内視鏡による対策型胃がん検診(自治体や職場などで実施するもの)が行われており、消化器内視鏡専門医によるダブルチェックが月2回実施されていますが、医師1人が1回につき読影する画像は約2800枚にも及びます。身体的な負荷はもちろん、がんを見逃してはならないという精神的なプレッシャーも強くかかります。

内視鏡AIが見逃しやすいがんを素早く発見

 そこで医師の負担を軽減し、「がんの見逃し」防止の精度をより向上させるために開発を手がけたのが「内視鏡画像診断支援AI(人工知能)」です。

 画像診断はAIが得意とする分野の一つで、日進月歩で発展しています。これを、内視鏡の画像診断に活用しようという発想で開発をスタートしました。

 共同開発に参加している医療機関から収集した大量の内視鏡画像から、実際のがんが写っている画像に対してがんの種類や場所を正確に示した「教師データ」を作成。それをAIに学習させることで、次の機能を働かせることが可能になりました。

●検出(Detection)
内視鏡画像のどこにがんなどの病変があるのか、実際にマークで示す機能

●分類(Classification)
ピロリ菌感染の有無、消化管の部位の識別、腫瘍・非腫瘍の判別、腫瘍の深達度や分化型の識別など、その画像が「何なのか」を判別し、カテゴリ分けする機能

実際の画像を見る

がんの検出感度は90%以上

 実際にWEB上で約3000枚の画像の中から、どこに胃がんがあるのかを見つける試験を医師(70人、うち内視鏡専門医34人)と内視鏡AIで行ったところ、発見率は次のような結果になりました。

  • 内視鏡AI 約80%
  • 内視鏡専門医 約60%
  • 非専門医 約50%

Yohei Ikenoyama1,Toshiaki Hirasawa et al.:Gastrointestinal Endoscopy June 2019.Volume 89,Issue 6,Supplement,Page AB75

 内視鏡AIは胃がんだけでなく、ピロリ菌感染による胃炎、食道がん、大腸がん、十二指腸潰瘍、小腸びらん・潰瘍、潰瘍性大腸炎でも研究が行われています。

AIを使った場合の、検出の感度

*小腸はカプセル内視鏡画像を評価
*大腸がんは、超拡大内視鏡を用いた試験
[出典]平澤俊明他(2019年).人工知能を用いた内視鏡診断,癌と化学療法,第46巻 第3号,412-417

このうち胃内視鏡用診断補助AIでは胃がんの検出感度は92.2%。6㎜以上の胃がんに限ると98.6%を検出しました。しかも1画像の診断に要する時間は0.02秒(2296枚の画像を47秒で処理)と、瞬時に見つけることができます(※)。これにより、ダブルチェックに費やす膨大な時間を大幅に短縮できることが見込まれます。

(※)Hirasawa T.et al;Gastric Cancer.2018.21(4):653-660.

 さらに、胃がんだけでなく胃潰瘍の画像も大量に記憶させた内視鏡AIを作製することで、胃がんと胃潰瘍をかなり高い精度で判別できるようになっています。

 先に挙げたデータは静止画を診断した場合のものですが、動画で内視鏡AIを利用する研究も進めています。内視鏡AIの1画像あたりの画像処理スピードがわずか0.02秒であることから、実用化されれば内視鏡の検査中にリアルタイムでがんを発見するサポートが得られることになります。

 胃潰瘍など他の病変との見分けが難しく、医師が診断に迷うようなことがあるようながんの場合でも、内視鏡AIは警告を発し続けてくれます。見逃しを防止できるのはもちろん、診断の精度を高めることで、早期胃がんの確実な発見につなげることができます。

 胃がんは早期の段階で治療すれば完治できる病気です。内視鏡AIを利用することでがんの見逃しが半減すれば、より多くの患者さんの命を救うことにつながるでしょう。また、医療費の大幅な削減にもつながると考えられます。

2021年の実用化を目指す

 実用化については、厚生労働省の承認が取れ次第、運用を開始する予定です。まず第一弾として胃内視鏡用診断補助AIの商用化を2021年にスタートし、以後、食道や大腸など他の消化器の内視鏡AIを順次実用化していくことを目指しています。

 内視鏡AIが導入されても、検査自体はこれまでの内視鏡検査といっさい変わりません。患者さんにとっても負担が増えず、また医師も通常の内視鏡検査の手順の中で利用できるのも大きなメリットです。

 なお、「内視鏡AIなら100%確実にがんを見つけてくれるはず」「医師ではなく内視鏡AIががんを診断してくれるのですね」といった声が聞かれることもありますが、そうではありません。内視鏡AIはあくまでも、医師とタッグを組んでがん発見率を高める優秀なアシスタント的存在です。AIが“これはがんではないですか?”と警告した病変を、本当にがんかどうかを判断し、診断を下すのは医師であることは変わりません。

 また、先に挙げたように、内視鏡AIのがんの発見率は100%ではありません。しかし消化器内視鏡専門医と内視鏡AIがタッグを組むことで診断の精度がこれまで以上に高まることは確かです。

 より多くの人が健やかに長生きできる、より良い医療の実現。その大きな一助となるのが内視鏡AIといえるでしょう。1日も早く現場で活用される日が来ることを願っています。

監修者プロフィール
多田智裕先生(AIメディカルサービス代表取締役、ただともひろ胃腸科肛門科)

【多田智裕(ただ ともひろ)先生プロフィール】

AIメディカルサービス代表取締役、ただともひろ胃腸科肛門科理事長
1996年東京大学医学部卒業。2005年同大学大学院外科学専攻卒業。東京大学医学部附属病院外科、国家公務員共済虎の門病院 麻酔科、東京都多摩老人医療センター 外科などを経て、2005年よりただともひろ胃腸科肛門科院長、2019年12月より理事長就任。2017年9月よりAIメディカルサービス代表取締役・CEOに就任し、内視鏡の画像診断AIの開発を手がける。

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