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長引く辛い痛みで後悔しないために 帯状疱疹の防ぎ方・治し方

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監修/江藤隆史先生(あたご皮フ科 副院長)

痛みや皮膚の状態など症状の現れ方に個人差が大きい帯状疱疹。軽症だとつい「たいしたことない」と思ってしまうかもしれませんが、放っておくと重症化し「帯状疱疹後神経痛」という症状に進行することもあります。早期治療のベストなタイミングや、発症や重症化を防ぐ方法などについて、あたご皮フ科副院長の江藤隆史先生に伺いました。

顔や体の片側だけの痛みから始まる

帯状疱疹とは、子供の頃に罹患した水痘(すいとう)、すなわち水疱瘡(みずぼうそう)のウイルス(VZV=varicella-zoster-virus)が再活性化することで発症する病気です。

VZVは水痘が治癒した後、皮膚にのびてきている知覚神経を伝って、背骨に付随している神経根(脊髄後根神経節)にたどり着き、潜伏します。水痘にかかったことがある人は全員、その状態になっていると考えられます。

水痘に対する免疫が完成すると二度と同じ病気を発症することはありませんが、先に挙げた要因などによって一部の免疫(メモリーT細胞という水痘を記憶しているリンパ球)が低下すると、それまで眠っていたVZVが目覚め、神経を壊しながら増殖していくのです。

症状の現れ方には次のような特徴があります。

  • 体や顔の左右どちらかに、ピリピリ、チクチク、ズキズキといった神経痛が生じる
    (痛みの感じ方は個人差が大きい)。
  • 数日後、痛みのある部位に赤い発疹が出てくる。初期段階では「虫刺され」「小さなおでき」「かぶれ」のように思われることが多い。
  • 進行すると発疹が小豆大くらいの水ぶくれになり、体や顔の片側に、帯状になって広がる。水ぶくれはやがて破れてただれ、かさぶたになる。

多忙で疲れているときほど発症しやすい!?

帯状疱疹の発症率は50代から高くなり、年代が上がるにつれて増加する傾向にあります(下グラフ参照)。

■性別・年代別帯状疱疹発症率

(グラフ出典)Shiraki K,et al. Open Forum Infect Dis. 2017; 4(1): ofx007.

上のグラフは1997~2011年に宮崎県で実施された帯状疱疹の大規模調査における発症率です。同調査では、80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定されています。

(外山望,白木公康「宮崎県の帯状疱疹の疫学(宮崎スタディ)」IASR 2013; 34: 298-300)

高齢になるほど発症率が高くなる要因の一つとして、加齢に伴い免疫力が低下することと関係があると考えられています。

このほか、がんや糖尿病など免疫力が低下する病気を患っていたり、ステロイドの内服薬や抗がん剤など免疫の働きを抑制する薬を服用していたりする場合も帯状疱疹を発症する要因となり得るとされています。

とはいえ上のグラフからも分かるように、50代以下でも一定の割合で発症する人はおり、加齢や病気、薬剤の影響だけが原因ではありません。働き盛りの世代でも、仕事や家事、子育てや介護などで多忙な日々が続いていたり、ストレスや疲労を重ねていたりすると、ある日突然帯状疱疹を発症する場合があります。しかもそういうときに限って、どうしても休めない重要な仕事や、自分が仕切らなくてはならない家の事情を抱えていたりするケースは少なくありません。

発疹が出たら3日以内に受診を

体の片側に起こる神経痛が帯状疱疹の最初のサインですが、次のような病気や症状と誤解されることは少なくありません。

◆頭の痛み――偏頭痛
◆肩周りの痛み――五十肩
◆胸の痛み――狭心症
◆腰の痛み――腰痛症
◆腹部の痛み――虫垂炎、尿路結石など

上記のような病気や症状には該当しない、医療機関を受診しても痛みの原因が判明しない、ということも痛みだけの段階ではよくみられます。

そこでぜひ覚えておいてほしいのが、痛みに加えて皮膚に発疹などが現れた場合には、3日以内に皮膚科を受診する、ということです。

帯状疱疹は早期発見、早期治療で後遺症なく治癒できる病気です。治療は抗ウイルス薬が中心で、外来での内服または入院での点滴が行われます。ただし、治療を開始してすぐに症状が改善するわけではありません。抗ウイルス薬が体内に取り込まれ、ウイルスの活動が停止するまでに2~3日かかると考えられています。痛みや皮膚の症状が改善してくるのはその後ということになります。

「帯状疱疹かもしれないけれど、医療機関を受診するのは2~3日後にしよう」などと先延ばしにすると、症状がさらに長引くことになるのはもちろん、抗ウイルス薬の効果が十分得られない可能性も高くなります。

症状に気づいたのが週末だった場合には、土日も診療している医療機関や救急外来などを受診してください。内服、点滴、いずれの場合も治療は7日間で終了します。疲労の蓄積などによって免疫が低下したことで発症している場合が多いので、十分に休息をとり、安静に過ごすことを心がけましょう。

最大の問題は長引く激しい痛み

前述のとおり、帯状疱疹は発疹が出てから3日以内に適切な治療を受ければ、1週間ほどで治癒します。しかし忙しいときに発症してしまうと、つい治療を後回しにしてしまい、結果的に重症化してしまう……。これが帯状疱疹の最大の問題点ともいえます。

治療の遅れや、そもそも痛みや皮膚症状がひどく重症だった場合などは、発症から数カ月後に「帯状疱疹後神経痛(PHN)」へと移行しやすくなります。これは皮膚の発疹や水ぶくれなどが消えた後も続く痛みのことで、数カ月から10年以上続く場合もあります。

帯状疱疹後神経痛を発症した患者さんからは「もっと早く治療をするべきだった」と深く後悔する声がよく聞かれます。激しい痛みによって日常生活に支障が生じたり、長年にわたって終わりの見えない痛みからうつ状態に陥ったりする例もみられます。

また、知覚神経のそばにある運動神経も障害されて麻痺が生じることがあり、顔の場合は顔面神経麻痺、お尻の場合は頑固な便秘や尿閉(尿を出したくても出せない)などを引き起こす場合もあります。

50歳以降は予防接種も選択肢の一つに

帯状疱疹の予防方法は大きく二つあります。一つは、睡眠や休息をしっかりとり、疲れやストレスをためこまないようにすること。もう一つはワクチン接種です。50歳を過ぎたら、ワクチン接種も帯状疱疹の発症や重症化を防ぐうえで効果的です。現在、帯状疱疹を予防するワクチンは次の2種類があります。

■帯状疱疹予防ワクチンの種類と特徴

生ワクチン接種回数1回他のワクチン接種をする場合の間隔他の生ワクチンは27日以上不活性ワクチンは制限なし接種できない対象者免疫抑制剤などによる治療を受けている人主な副反応免疫抑制剤などによる治療を受けている人保険適用なし、不活化ワクチン接種回数2回(2カ月間隔)他のワクチン接種をする場合の間隔制限なし接種できない対象者特になし主な副反応注射部位の痛み、腫れなど保険適用なし
※江藤先生の取材をもとに作成

いずれにしてもかかりつけ医などとよく相談したうえで適切にワクチン接種を行い、帯状疱疹の予防に役立てましょう。

監修者プロフィール
江藤隆史先生(あたご皮フ科 副院長)

【江藤隆史(えとう たかふみ)先生プロフィール】

あたご皮フ科 副院長
1977年東京大学工学部卒業、1984年東京大学医学部卒業。東京大学皮膚科助手、ハーバード大学病理学教室研究員、東京大学皮膚科講師・病棟医長を経て、1994年東京逓信病院皮膚科医長、1998年皮膚科部長、2014年副院長を歴任。専門分野はアトピー性皮膚炎、乾癬、接触性皮膚炎。

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