頭痛・風邪・熱
“頭痛持ち”の頭痛(慢性頭痛)とは?症状と診断基準
監修/飯ヶ谷 美峰先生(北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長 病院長補佐(兼務))

忙しさや、さまざまなストレスによる心身への負荷が大きい現代社会。たびたび頭痛が起きる、いわゆる“頭痛持ち”を自覚している人も多くいることでしょう。本記事では、そうした“頭痛持ち”の頭痛(慢性頭痛)の特徴や主な症状、治療と予防法について北里大学北里研究所病院脳神経内科部長の飯ヶ谷美峰先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
慢性頭痛とは?
頭痛と一口に言ってもその原因は様々で、国際的な頭痛分類では実に360種類以上に分類されています。成り立ちから2つのタイプに大別され、その1つが「一次性頭痛」で、ほかにはっきりとした原因や疾患が見当たらない、「頭痛そのものが病気」、「頭痛持ち」の頭痛です。慣習的に「慢性頭痛」と呼ばれてきました。ここでは一次性頭痛(慢性頭痛)について、国内の診療ガイドライン※1や、国際的な頭痛診断の根拠となっている国際頭痛分類第3版(ICHD-3)※2をもとに解説します。
※1:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修「頭痛の診療ガイドライン2021」(https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf別ウィンドウで開きます)を2025年1月6日に参照
※2:日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 訳「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版」(https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html別ウィンドウで開きます)を2025年1月6日に参照
頭痛の主な分類と種類
一次性頭痛に分類される主な頭痛としては、片頭痛、緊張型頭痛、そして三叉神経・自律神経性頭痛(群発頭痛が代表的)が挙げられます。もう1つが「二次性頭痛」で、くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎や副鼻腔炎、むち打ちなど、脳やほかの疾患が原因となって起こる頭痛です。
一次性頭痛における痛みの強さや性質は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛でそれぞれ大きく異なり、人によっては複数の頭痛を併発するケースもみられます。ただ、いずれにおいても頻繁な頭痛発作により集中力の低下やQOL(生活の質)の低下が生じ、それに伴う経済的損失も大きな問題になっています。
慢性頭痛の種類と主な症状
片頭痛は、頭の片側または両側のこめかみの辺りにズキンズキンと拍動性の痛みが起こるのが特徴です。吐き気を伴ったり、光や音の刺激に過敏になったりすることもあり、一部の人では、頭痛が始まる直前に、視界にキラキラもしくはギザギザと瞬くような光の模様が広がる「閃輝暗点(せんきあんてん)」という視覚性前兆症状が現れ、20分程度持続することもあります。ひとたび発作が起こると市販の鎮痛薬では効果不十分で、家事ができなくなるなど生活のさまざまな面で支障が出ます。片頭痛の頻度は人それぞれで、年に数回という人もいれば、週に2~3日と高頻度にみられる人もいます。
慢性頭痛の中で、患者数が多いのが緊張型頭痛です。頭部をぎゅっと締め付けられるような鈍い痛みが続くのが特徴です。痛みは頭の両側で感じられ、圧迫感や締め付けられるような感覚を訴える人も多いです。痛みは軽度から中等度で、何とか日常生活を送ることが可能な程度であり、動けず寝込む事態にはなりません。
群発頭痛は、一度発症すると、ほぼ毎年同じ時期に1~2カ月間にわたり毎日のように起こります。この頭痛発作が起こっている期間を群発期と呼び、ほぼ同じ時間帯に、目の奥や頭の片側が15分~3時間強烈に痛みます。涙や鼻水などの「自律神経症状」が同時に起こるのも特徴です。目の奥がえぐられるような痛みや、あまりの痛みでじっとしていられないという人もいます。
慢性頭痛の診断基準と検査
診断の際、頭痛を訴える患者さんに対しては、まず一次性頭痛か二次性頭痛かを考えたうえで、脳もしくは脳血管の病気、あるいは外傷や感染症が原因とみられる緊急性の高い二次性頭痛を鑑別します。二次性頭痛ではないと除外診断した後に、一次性頭痛のいずれであるかを特定します。
頭痛の鑑別診断には、問診と神経学的検査のほか、必要に応じて画像検査、血液検査が行われます。痛みは人から見えず、すべての頭痛を詳細に記憶しておくことはできませんから、受診する際は、頭痛ダイアリーで症状や生活状況(頭痛で仕事や学校を休んだ、など)を記録することをおすすめします。
頭痛の発症は、ライフスタイルと密接に関連しています。基本的な生活パターンや1日の行動記録は、自身を客観的に振り返るきっかけになり、医師とのコミュニケーションの中で治療方針を決める際にも役立ちます。
慢性頭痛の原因と誘発要因
繰り返し発作が起きる慢性頭痛には、日常生活や行動習慣に何らかの原因や誘発要因が潜んでいる可能性があります。
ストレスと慢性頭痛の関係
物理的ストレスや、精神的なストレスは痛みを誘発し、増幅させることが知られています。日頃からストレス解消法や自分なりのリフレッシュ方法を見つけ、ストレスをため込まないようセルフマネジメントすることが頭痛予防の第一歩となります。
生活習慣と慢性頭痛の関連
生活習慣も慢性頭痛の発症に大きく影響します。例えば、不規則な睡眠は身体に負担をかけます。寝すぎも寝不足も体内リズムを乱し、片頭痛や緊張型頭痛を引き起こす原因となります。
アルコールは片頭痛の引き金になりやすいといわれます。片頭痛持ちの人や群発頭痛の群発期にある人は控えることをおすすめします※3。空腹や過度のダイエットも誘発要因になります。片頭痛発作は、低血糖や栄養不足によって脳血管の周囲にある神経が刺激されることで起こりやすくなると考えられています。できるだけ決まった時間に、バランスよく食事を摂ることが大事です。
運動習慣は、さまざまな病気に対処する免疫力アップにつながり、筋力の維持など、身体基盤を整えるために有効です。適度な運動は、緊張状態にある身体をほぐして血行を促し、頭痛発生の引き金となるストレスの解消や血管の収縮を防ぐことが期待できます。
※3:Devi A, et al. Sci Rep. 2023 Nov 20;13(1):19503.
その他の慢性頭痛の誘発要因
女性では、月経周期に伴うホルモンの変動も片頭痛の誘因になることがあります。このほか、光や音、においなどの刺激、気圧の変化など、慢性頭痛の誘発要因にはさまざまなものが挙げられます。実際にどれが誘因になるかは人によって異なるため、自分の誘因を見極め、避けられるものを避けることは頭痛予防につながります。
慢性頭痛の治療法と予防策
慢性頭痛の代表格である片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛は、発症のメカニズムはいずれも十分には解明されていませんが、治療法や予防策については研究が進んでいます。
慢性頭痛の薬物療法
市販薬を使う場合には、薬局の薬剤師に相談するなどして、症状に合わせた適切な薬を選ぶことが大切です。市販の鎮痛薬を飲みすぎていると、逆に頭痛の頻度が高まることがある(薬物乱用頭痛/薬剤の使用過多による頭痛)ため、月に10日以内の使用が目安となります。頭痛薬に頼りすぎず、生活習慣の改善やストレス管理といった根本的な対策も併せて行うことが重要です。
慢性頭痛の非薬物療法
慢性頭痛の中でも片頭痛の非薬物療法として、認知行動療法があります。ストレスなどで固まって狭くなってしまった自身の考えや行動を振り返り、考え方を見直したり、考えの幅を広げたりすることで気分を楽にする心理療法※4で、薬を使わない治療を希望する人や薬物療法で効果が得られなかった人、妊娠中または妊娠の可能性がある人、薬の使用過多による頭痛の既往歴がある人にすすめることがあります。
医療的対処法ではありませんが、深呼吸や瞑想などのリラクセーション法は、ストレスの解消や緊張状態の緩和に有用な面もあると考えられていますので、片頭痛や緊張型頭痛の方に比較的向いています。
ただし、認知行動療法及びリラクセーション法は、頭痛発作の起こるメカニズムが異なるため、群発頭痛に対しては有用ではありません。注意してください。
※4:国立精神・神経医療研究センター(https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/rinshoshinri/rinshoshinri_blog20220713.html別ウィンドウで開きます)を2025年1月22日に参照
専門医療機関で適切な治療を
頭痛によって仕事や家事など生活に支障がある、しばしば頭痛で寝込むことがある、頭痛で市販の鎮痛薬を月に10日以上飲むような状態が3カ月以上続く場合、医療機関の受診を検討しましょう。適切な診断と治療を進めるためには、頭痛専門医や総合内科専門医、脳神経内科、脳外科の受診をおすすめします。日本頭痛学会Webサイトの認定頭痛専門医一覧(https://www.jhsnet.net/ichiran.html別ウィンドウで開きます)も参考になります。
慢性頭痛は、痛みや日常生活への影響が心身のストレスとなり、うつ病や不安障害のリスクを高めると考えられています。逆に、こうした精神疾患が頭痛の発症頻度や重症度を高めることもあります。「頭痛持ちだから」と我慢せず、信頼できる専門医と協力して適切な治療を受け、ぜひQOL向上への一歩を踏み出してみてください。
監修者プロフィール
飯ヶ谷 美峰先生(北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長 病院長補佐(兼務))
【飯ヶ谷美峰(いいがや みほ)先生プロフィール】
北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長 病院長補佐(兼務)
1993年北里大学医学部卒業。小田原市立病院神経内科、北里大学病院神経内科などを経て、2006年より北里大学医学部神経内科学講師。2007年より北里研究所病院神経内科、2016年より脳神経内科部長。2021年より現職。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本神経学会神経内科専門医・指導医・代議員、日本頭痛学会専門医・代議員、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。頭痛の生活支障度票MIDAS日本語版の開発、頭痛記録アプリ「頭痛Click®」の開発などを行い、頭痛の診療および研究に長年従事している。