咳・くしゃみ・鼻水・鼻づまり
安易な自己判断は禁物!花粉症の症状と対策を正しく知ろう
監修/大久保 公裕先生(日本医科大学大学院医学研究科頭頸部感覚器科学分野 教授)
鼻水、くしゃみ、かゆみなどの症状に悩まされているあなた、もしかしたらそれは花粉症かもしれません。この記事では、まだ診断を受けていない人や自覚症状から疑いを持った人に向けて、花粉症とは何か、その治療と予防について解説します。花粉症の原因、症状、検査と診断方法、効果的な治療法、日常生活での対策など、日本医科大学大学院医学研究科頭頸部感覚器科学分野 教授の大久保公裕先生に伺いました。
花粉症とは?
花粉症は、花粉という異物が体内へ侵入しようとすることを防ぐアレルギー反応によって生じます。目や鼻から入ってきた花粉が、体内の免疫システムによって「異物=敵」とみなされると、敵に対抗するための抗体(IgE抗体)がつくられます。くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、のどの腫れなどの症状は、いずれも入ってきた花粉を取り除こうと免疫機能が過剰に働くことで生じるアレルギー反応であり、日常生活で必要な集中力や判断力を大きく低下させることがあります。これが私たちを悩ませる花粉症のメカニズムです。
花粉症のタイプ別症状
花粉に対するアレルギー反応は人それぞれですが、花粉症の症状への対処として、次のようなものが挙げられます。
- くしゃみで吹き飛ばす
- 鼻水で洗い流す
- 鼻づまりで体内への侵入を防ぐ
- 目のかゆみから目をこする
花粉症では、くしゃみ・鼻水から始まり、だんだん鼻づまりがひどくなることがあります。くしゃみ・鼻水が多いタイプと鼻づまりがひどいタイプに分けられます。
通年的な鼻づまりの症状がみられることもありますが、花粉症は季節性アレルギー性鼻炎に分類されます。
花粉症の原因
一般的に、花粉症の多くはスギ花粉を原因とするもので、2〜4月にかけて症状が出ます。スギの花粉がほとんど飛散しない北海道とスギが全く生息しない沖縄以外、日本全国どこでもみられます。地域によっては、ヒノキ花粉が多く飛散するところもあります。ヒノキの花粉を原因とする場合、5月の連休ごろまで症状が続きます。このため、花粉症というとシーズン的には春をイメージしがちですが、原因となる花粉には、スギやヒノキのほかにもさまざまな種類があります。例えば土手へ行くと雑草の花粉があります。6月ごろからの雑草の花粉は下から舞い上がってくるため、地面に近い小児のほうが成人よりも悪化しやすいという特徴があります。
主な花粉の飛散時期※1
- 春花粉:スギ(2〜4月)、ヒノキ(3月後半〜5月の連休ごろ)などの木本植物
- 夏花粉:イネ科の草本植物(5〜9月)
- 秋花粉:ブタクサ(8〜10月)、ヨモギ(8〜10月)などキク科の草本植物
花粉の種類や飛散量には地域差がありますが、寒くなって花粉があまり飛散しない11〜1月ごろ以外、日本全国どこでも花粉症を発症する可能性が考えられます。
また、花粉症には遺伝も影響します。親が花粉症である場合、その子供が花粉症になる可能性が高いことは、これまでの臨床経験などからも明らかです。
※1 環境省:花粉症環境保健マニュアル(https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual/2_chpt2.pdfを2023年8月7日に参照)
花粉症の検査と診断
花粉症は、風邪などの感染症、ハウスダストやダニなど他のアレルギーと混同されやすい症状を生じます。時期や自覚症状から「恐らく花粉症だろう」と自己判断する方も少なくないですが、症状を重症化させないためには、本当に花粉症かどうか医療機関できちんと診断を受けることが重要です。
花粉症の診断には、血液検査と鼻汁検査を行います。血液検査では、血液の中のスギに対する、あるいは他の抗原に対する抗体量を量ります。鼻汁検査では、鼻の中にアレルギー反応に特有な好酸球が生じていることを確認します。
- 血液検査:花粉症を引き起こしている花粉(抗体)を特定
- 鼻汁検査:アレルギー反応が起きていることを確認
花粉症を引き起こしている抗体とアレルギー反応を示す好酸球の存在が証明されなければ、アレルギー反応は起きていないということになるため、花粉症以外の症状であることが考えられます。自己診断では花粉症を正しく知ることはできないことに注意しましょう。
何科を受診する?
目の症状があれば眼科、鼻やのどの症状があれば耳鼻科/耳鼻咽喉科を受診します。正確な診断や治療につなげるためにも、症状に応じた診療科を受診するのが望ましいです。
花粉症は小児にも多くみられます。小児科やアレルギー科を受診して症状が抑えられるようであれば問題ありませんが、改善がみられない場合には、小児であっても眼科や耳鼻科/耳鼻咽喉科など症状に応じた診療科を受診することもよいでしょう。
- 鼻水、くしゃみ、のどのかゆみ:耳鼻科/耳鼻咽喉科へ
- 目のかゆみ:眼科へ
花粉症の治療法
花粉症の治療法には、まずは治療薬を用いて症状を抑える対症療法があります。治療薬では生活の質(QOL)が維持できず、満足ができなかった場合には、免疫療法やレーザーによる手術療法があります。
花粉症の治療薬としては、飲み薬、点鼻薬、点眼薬、注射薬があります。飲み薬としては、小児にも適応のある抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬があります。プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬などもありますが、現在は抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬が多く使われています。重症花粉症に対しては、2019年に重度のアレルギー性喘息の治療などに使用される治療薬が新たに適応を取得しました。小児に対しても飲み薬、点鼻薬、点眼薬がありますが、小児に適応のある飲み薬は大人ほど多くはありません。妊婦の場合、妊娠9カ月以降は飲み薬を用いることもありますが、主に点鼻薬や点眼薬を用います。
免疫療法は根治が期待される治療法で、舌下免疫療法や減感作療法(皮下免疫療法)などがあります。スギに対する舌下免疫療法では舌の下に薬を1分間保持すること、減感作療法では皮下注射することが必要になります。これらの治療に対応可能であれば、小児でも治療を受けることができます。
一方、手術療法は小さな小児に対してはほとんど行われません。ハウスダストなど複合的なアレルギーにより粘膜が腫れている、他の治療法では鼻水が出る経路を止められないなど、慢性的な症状が継続する場合に行われます。また、シーズンを迎える前に粘膜にレーザーを当てることで、服薬の必要がなくなるため、妊婦さんや忙しい方、受験を控えている方など、状況に応じて手術療法を行うこともあります。
対症療法
- 治療薬
- 手術療法(レーザー)
根治療法
- 免疫療法:舌下免疫療法、減感作療法
花粉症の対策
そもそも花粉が体に侵入し作用しなければ花粉症の症状は出ないため、花粉を避けることそれ自体が対策になります。極端にいえば、スギの花粉が原因の花粉症の人が、その時期に沖縄や海外へ行けば、花粉症は避けられるでしょう。しかし現実的にはそうはいきません。日々の生活の中でできることとしては、花粉情報を確認して、飛散量が多い日の外出を避けたり、メガネをかけたり、マスクをつけたりしてセルフケアをすることが症状の軽減につながります。
また、自分が何の花粉に反応しているのかを正しく知ることも花粉症対策には大切です。詳細な自身の体質を知るためにも、医療機関でアレルギー検査を受けることが、予防の観点でも有効です。スギやヒノキのように広い範囲で飛散する花粉を避けることは難しいですが、ブタクサやヨモギのような小さな植物の花粉は遠方まで飛ぶことはありません。普段利用する道にある土手を通ると花粉症の症状が出てしまうというような場合には、他の道を通るといった対策も一考かもしれません。
花粉症対策のポイント
- 自分がどの種類の花粉に反応しているかを知る
- 花粉情報を確認し、花粉が多い日の外出は避ける
- メガネ、マスクなどを使用する
高血圧・脂質異常症など、数値の異常以外に具体的な症状がなくとも治療薬を飲む必要がある病気と異なり、花粉症は症状が出なければ完治と考えてよい病気です。一度花粉症を発症したとしても、シーズンごとの花粉の飛散量などによっても症状は変化しますし、適切な予防と対策で完治する可能性もあります。
そのためには、今、自分の体がどんな状態にあるのかを知ることが第一です。本当に花粉に対してアレルギー反応を起こしているのか、起こしているならばそれはどの花粉に対してなのか、医療機関で診断を受けて、正しく知るところから始めましょう。
監修者プロフィール
大久保 公裕先生(日本医科大学大学院医学研究科頭頸部感覚器科学分野 教授)
【大久保公裕(おおくぼ きみひろ)先生プロフィール】
日本医科大学大学院医学研究科頭頸部感覚器科学分野 教授
日本医科大学卒業後、同大学院耳鼻咽喉科卒業、1989〜1991年アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学し、経験を積んだ後、現在は日本医科大学大学院医学研究科頭頸部感覚器科学分野教授。日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科部長、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会理事長、奥田記念花粉症学等学術顕彰財団理事長、NPO花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会理事長、日本耳鼻咽喉科学会代議員など多数の重責を務める。花粉症に関する著書も数多く、花粉症への正しい理解の普及に貢献する。