病気と医療の知って得する豆知識
感染症に負けないカラダを! 免疫力をしっかりつける生活習慣
監修/宮坂 昌之先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大名誉教授)
新型コロナウイルスの感染予防で、免疫力に注目している人も多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスによる感染症とほかの感染症との違いは何か、感染リスクを減らすにはどんなことに気を付け、免疫機能をフル活動させるためには何をすればよいのか。感染症に負けないカラダづくりのために取り組みたいことを、免疫学の第一人者である宮坂昌之先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
感染症は、どこからやってくるのか
感染症の多くは、感染している人のくしゃみや咳から周囲に広がっていきます。新型コロナウイルス感染症の場合も、感染者のくしゃみや咳、会話などによって出る飛沫(水分を含む粒子)を吸い込むことで感染します。飛沫が付いた手で口や鼻、目などに触れ、体内にウイルスが入り込んで感染することもあります。また、非常に人が多く、換気が悪いところなど、微小飛沫の密度が高い場所でも感染する可能性があります。
新型コロナウイルスに感染しても、症状の出ない人が約半数ですが、症状が出る場合には、発熱や咳、のどの痛み、だるさ、頭痛や下痢などが見られ、風邪やインフルエンザの症状と似ています。また新型コロナでは、食欲がなくなり、息切れ(呼吸困難)が起きるといった症状も報告されています。これらの症状が、風邪やインフルエンザに比べて長く続く傾向にあるのが、新型コロナの特徴的な点です。
人に感染するウイルスの特徴
ウイルス | 感染経路 | 特徴 |
---|---|---|
新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) |
飛沫感染、接触感染 ※その他、微小飛沫や便が感染経路となる可能性も残っている |
感染しても症状が出ないことがあり、出る場合にはインフルエンザに似ていて、より長く続く傾向がある。初期症状は発熱、倦怠感、咳など。食欲不振、頭痛、下痢がある場合も。高齢者、糖尿病・心不全・呼吸器疾患などの基礎疾患を持つ人は重症化しやすい。 |
インフルエンザウイルス | 飛沫感染、接触感染 | 季節性インフルエンザ(主にA型、B型)は毎年流行を繰り返す。日本では12月から3月にかけて患者が増える。ワクチンは毎年製造 |
麻しんウイルス ※麻しん(はしか) |
空気感染、飛沫感染、接触感染 | 感染するとほぼ100%の人が発症する。治るとほぼ全員が強い免疫を獲得。予防にはワクチン接種が有効 |
風しんウイルス | 飛沫感染、接触感染 | 症状が麻しんと似ていて、2~3日で治ることが多い。感染力が比較的強い。予防にはワクチン接種が有効 |
水痘・帯状疱疹ウイルス ※水痘(水ぼうそう) |
空気感染、飛沫感染、接触感染 | 感染力が強い。予防にはワクチン接種が有効 |
ムンプスウイルス ※流行性耳下腺炎(おたふく風邪) |
主に飛沫感染。接触感染もある | 感染力が強い。合併症(無菌性髄膜炎、ムンプス難聴など)がしばしば見られる。ワクチンは任意接種 |
宮坂先生への取材をもとに作成(『免疫力を強くする』講談社)
予防のために必要なこと
感染リスクを減らすためには、「手洗い」と「消毒」、そして「人混みを避ける」ことが重要です。新型コロナ対策として皆さんもよくご存じだと思いますが、いわゆる密集した場所や、密閉空間、不特定多数の人との密接を避けるとともに、 外出から戻ったら石けんを使っての手洗いや消毒をしましょう。新型コロナウイルスの外側は、油を含む膜でできていますから、石けんで手を洗うことで病原性が格段に減りますし、洗い流すことにもなります。
マスクは、自分の感染を防ぐというより、相手を感染させないための予防手段です。通常の会話であれば、口からの飛沫は2メートル以上飛ぶことはなかなかありません。また、飛沫を可視化した実験(※1)から、飛沫の拡散に関しては、片方がマスクをしていれば5割、双方がマスクをしていれば相乗効果で9割防げることが分かりました。お互いの距離を保ったうえで双方がマスクをしていれば、飛沫はほぼ防げます。この新型コロナでは、感染しても無症状の人が一定数いることも分かってきています。自分は元気だと思っているけれど、実は感染者かもしれない。そう思ってみんなが予防の手立てをとることが大切なのです。
(※1)理化学研究所、豊橋技術科学大学、京都工芸繊維大学、大阪大学の連携により2020年6月に実施。布マスクでも不織布のマスクでも、ある程度の飛沫拡散を防げることが確認された
マスクの材質は不織布でも、布でも問題ありません。ただし顔に密着していないと、すき間から飛沫が出てしまいますので、自分の顔の形に合っていて口の周辺をしっかり覆え、付け心地のいいマスクを選ぶとよいでしょう。マスクをしていれば、手にウイルスが付着していたとしても、不用意に口や鼻に触ってウイルスを体内に入れてしまうといったことも避けられます。
手洗い、消毒、人混みを避けるという防御策に加え、ウイルスに負けないように、体を健康な状態に保つことが大切です。それには体内時計を狂わせないことが肝要です。消化、吸収、睡眠など、体の働きはすべて体内時計に支配されていて、体を守る免疫機能も同様です。朝、早起きして太陽の光を浴び、食事をとり、夜は決まった時間に寝る。体内時計に従って行動することが、免疫機能の向上につながります。
とはいえ、免疫力は、ただ高めればいいというものではありません。例えばアレルギーは、起こさなくてもいいものに対して免疫が反応している状態です。免疫機能は、年齢とともに弱くなる傾向がありますが、だからといってやみくもに免疫を上げるのではなく、免疫力をしかるべき形で維持し、フル活用できるようにすることが大事なのです。
私たちの免疫は2段構え
ウイルスなどの病原体が体内に入ってくると、最初は「自然免疫」が働きます。これは城に例えると城壁や城門を守る番兵のような役割。敵が侵入しないように異物を見つけたらすぐに駆け付け、やっつけます。病原体がそこ(自然免疫)を突破すると、今度は「獲得免疫」が働きます。これはリンパ球が強く働く免疫で、以前侵入してきた病原体を覚えていて、再びその病原体に出会うと、抗体(病原体を排除するための物質)を作り、病原体を追い払おうとするのです。相手に応じて、より強力な武器で戦うイメージです。出合った敵を認識・特定して戦い方を身につけていくため、攻撃態勢をととのえるまでには時間がかかり、個人差もあります。私たちの免疫の強さとは、自然免疫と獲得免疫の両方を合わせたものを指し、病原体の強さとは、体内に侵入してきた病原体の量と、感染力の強さを合わせたもののことです。病原体の強さが、私たちの免疫の強さを上回ると感染症が起こります。
弱った免疫機能を高めることはできるのか?
免疫細胞を作る骨髄の造血幹細胞の分化能力は、加齢とともに低下し、その機能も落ちてしまいます。では、どうすればよいのでしょうか。免疫機能の働きを取り戻すための方法は、いくつかあります。
[1]運動をする
免疫系の細胞を刺激してくれる物質は、骨や筋肉からつくられることが分かってきました。適度な運動によって筋肉や骨が刺激を受け、免疫系の機能が落ちかけていた状態をもとに戻してくれるという働きが期待できます。運動は、ウォーキングなどの有酸素運動がおすすめです。逆に、過度な運動をするとそれがストレスになり、かえって免疫細胞に悪い影響を与える可能性がありますので注意しましょう。
[2]体温を高める
運動や入浴などで体温が上がる状態をつくりましょう。体温が少し上がると、免疫細胞が動きやすくなります。風邪をひいたときに熱が出るのは、免疫細胞ががんばっているという意味に捉えることもできます。体温が上がると血流やリンパの流れがよくなり、その流れにのって全身をパトロールする免疫細胞が、侵入してきたウイルスを捕まえやすくなります。
[3]バランスのよい食事と、腸内環境への気遣い
1つの食品で免疫機能を高めることはできません。バランスのよい食事をしていれば、からだに必要な糖分、アミノ酸、脂肪分、ビタミンなどは十分摂れます。規則正しい生活をおくり、食べ過ぎない、飲みすぎないことを心がけ、空腹だからと一度にたくさん食べたり、食後すぐに寝てしまったりという過ごし方も避けましょう。食べた食品が効率よく消化吸収され、代謝をよくするといった腸内環境を整える意識も必要です。ヨーグルトや納豆などの発酵食品を適度にとるのもおすすめです。
過度のストレスに注意し、対策を習慣化する
過剰なストレスは、免疫細胞の機能を低下させます。ストレスがある時に風邪をひきやすくなったり、皮膚に不調が出たりするのはこのためです。しかし、ストレスを気にしすぎることで、かえって健康に悪い影響を与える可能性もありますから、くよくよ考えすぎないほうが得策です。
適度な有酸素運動を毎日続ける、入浴時にはシャワーだけでなくぬるめのお湯にゆっくりつかる、バランスのよい食事を規則正しく摂る。当たり前に聞こえるこれらのことを、1回、2回だけ意識して行うのではなく、日々習慣化し、続けていくことが大切なのです。
監修者プロフィール
宮坂 昌之先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大名誉教授)
【宮坂 昌之(みやさか まさゆき)先生プロフィール】
大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大名誉教授
1947年長野県生まれ、京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所、1994年に大阪大学医学部附属バイオメディカル教育研究センター・臓器制御学研究部教授。医学系研究科教授、生命機能研究科兼任教授、免疫学フロンティア研究センター兼任教授を歴任。2007~08年日本免疫学会会長。医学博士・PhD。著書に『免疫力を強くする 最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ』(講談社ブルーバックス)、共著に『免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か』(講談社ブルーバックス)など。