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病気と医療の知って得する豆知識

大人のための予防接種の基礎知識

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監修/氏家無限先生(国立国際医療研究センター 国際感染症センター トラベルクリニック医長)

子どものうちに受けることが多い予防接種。大人になるとあまり意識しない方も多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっている今、改めて予防接種について考えてみませんか。予防接種が必要な理由や副反応、大人が予防接種を検討すべき場合などについて、国立国際医療研究センター 国際感染症センター トラベルクリニック医長の氏家無限先生に伺いました。

自分自身だけでなく社会を守る予防接種

なぜ予防接種を受ける必要があるのでしょうか。そこには次のような利点が考えられます。予防接種を受けると、まず一人ひとりが病気を予防できます。予防接種を受けた個人が、病気にかからなくて済んだり、かかってしまった場合にも死亡や後遺症につながるような重症化を予防できたりします。

また、周囲の人を守る効果もあります。予防接種で感染症を予防すれば、感染した人がさらに周りにうつす可能性(二次感染)を減らすことにもつながります。大人の場合、事前に病気を予防できれば、欠勤などによる周りへの負担や収入への影響、サポートする家族への負担なども防げるでしょう。

さらに、社会機能を維持するためにも、予防接種は大切です。感染者が増えると、社会が立ち行かなくなるからです。例えば、新型コロナウイルス感染症のように、あまりに多くの人が同時に病気にかかってしまうと、通常の病院の機能が維持できなくなり、別の病気の患者さんにも影響が出ます。また、多くの医療従事者が感染すれば、医療を提供すること自体が難しくなります。さらに、感染対策のために社会機能を制限する必要が生じれば、経済活動も低下します。そうなる前に、予防接種で生活を安全に維持することは、社会的責任としても大切です。

このように、予防接種は受けた人だけでなくその周囲の人々にも利益があるほか、多くの人が受けることによって社会全体を守ることにもつながります。広く、医療と経済の損失を事前に防ぐ手段のひとつが予防接種なのです。

副反応が気になる方もいらっしゃるでしょう。確かに、予防接種によって免疫が作られる過程で、熱が出たり、接種した部分が腫れたりするなど、副反応が一定数みられます。しかし、どのぐらいの頻度で発生し、どの程度影響を及ぼすものなのかを正しく知り、接種する利益とリスクのバランスを考慮する必要があります。副反応は、安全性に実績のあるワクチンでも必ず避けることができるわけではありません。一方で、副反応の中でも、きわめて頻度の低いものや、時間が経てば回復するものまで、あまりにも大きく捉えてしまうと、病気を予防する機会を逃してしまうことにつながり、こうしたことが積み重なれば、社会全体を守るという利益も得られなくなってしまいます。

病気になってから服用する薬であれば、苦しい症状が緩和されるため、「飲んで良かった」と実感しやすいと思います。一方、予防接種の場合は、元気なときに接種を受けなければならないうえ、得られる効果は、接種することで病気にかかりにくくなるというものです。何事もなく日常を過ごせることから、予防接種で得られた利益は実感しにくいでしょう。だからこそ感覚で必要性を判断するのではなく、科学的なデータに基づいた知識を事前に得て、理解しておくことが大切だと言えます。

予防接種が効くしくみ

感染症にかかると、体の中でウイルスや細菌などの病原体に対する免疫が作られ、次に同じ病原体が体内に入ってきた際にすぐに攻撃するしくみができあがります。予防接種は、このような免疫のしくみを利用して、病原体が体内に入ってきても病気になりにくい状態をあらかじめ作っておくものです。

現在使われているワクチンの主成分(抗原)を大きく区分すると、以下の3種類です。

・生きている病原体を用いたワクチン(弱毒生ワクチン)

症状を軽減して免疫が得られるように、生きている病原体の毒性を弱めたもの。実際に感染した場合と同じように、ワクチン抗原が体内で感染して免疫が作られるため、少ない接種回数で強い免疫を得やすいが、免疫力が低下している人には接種できず、まれに感染症そのものの症状が生じる可能性もある。
麻疹、風疹、黄熱ワクチンなど

・病原体の一部の成分や不活化した病原体を用いたワクチン
(不活化ワクチン・遺伝子組み換えワクチン・多糖体ワクチン・タンパク結合ワクチン・サブユニットワクチンなど)

病原性をなくした(不活化した)病原体や、免疫を作るのに必要な病原体の成分のみをワクチンとしたもの。感染性はないため、予防接種を受けて感染そのものの症状が生じることはなく、免疫力が低下している人も接種できるが、原則として複数回の接種を必要とする。
インフルエンザ、肺炎球菌、B型肝炎ワクチンなど

・病原体の出す毒素を用いたワクチン(トキソイド)

病原体の出す毒素の病原性をなくし、免疫を作る性質を残したもの。不活化ワクチン等と同様、免疫力が低下している人も接種できるが、原則として複数回の接種を必要とする。
ジフテリア、破傷風ワクチンなど

また、2021年2月に接種が始まった新型コロナウイルスのワクチンは、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンという新しいメカニズムで開発されたワクチンです。mRNAは、DNAからコピーした遺伝情報を持つRNAのことで、新型コロナウイルスワクチンの抗原であるmRNAは、新型コロナウイルスの一部であるスパイクたんぱく質の遺伝情報が含まれています。このmRNAワクチンを接種すると、人の細胞内でウイルスのスパイクたんぱく質が作られ、この病原体の一部に対して免疫が反応して抗体などが作られます。mRNAはDNAがある細胞の核内に入ることはないため、人間の遺伝子に影響を与えることはありません。またウイルス自体が体内で作られるわけでもないので、ウイルスに感染することもありません。mRNAワクチンは、最新の技術を用いた新たな種類のワクチンですが、従来のワクチンと比べて開発にかかる時間を短縮できる点も利点となります。

大人が検討したい予防接種は?

多くの予防接種は、まだ病原体に感染したことがないため感染のリスクがあり、病気にかかると重症化しやすい小さな子どものうちに受けることが多いですが、大人になってから検討すべき予防接種もあります。

まず、病気にかかりやすい人や、かかってしまった場合に重症化しやすい人は、予防接種を積極的に受けることが推奨されます。これにはまず、加齢に伴って免疫機能や臓器機能が低下している高齢者が該当します。65歳以上の場合(基礎疾患によっては60歳以上でも)、予防接種法に基づいた定期接種として、インフルエンザワクチンと肺炎球菌(多糖体)ワクチンの接種を、費用の一部に公費を使って受けられます(肺炎球菌ワクチンは接種できる年齢に制限あり)。また、50歳以上で任意接種とされている帯状疱疹ワクチンも、高齢者で発症しやすく、痛みなどの健康問題となりやすいことから、現在、厚生労働省の審議会で定期接種化が検討されています。

妊婦も免疫機能が低下し、感染症の発症時には重症化しやすくなるため、インフルエンザワクチンの接種が推奨されます。また、麻疹、風疹、水痘などは、妊娠中に感染することでお腹の中の赤ちゃんに悪影響が生じるため予防が大切ですが、妊娠中は弱毒生ワクチンを接種できないため、妊娠する前に接種を受けておく必要があります。こうした感染症を確実に予防するためには、妊娠前に医師に相談しておくとよいでしょう。

過去の予防接種制度によって、現在必要とされている予防接種を受けていない人は、大人になってからでも接種が必要となります。例えば、風疹ワクチンは、1994年以前には、中学生女子にしか接種されていませんでした。そのため、一部世代の男性は、風疹の抗体を持っていない人の割合が高くなっています。そこで、2025年3月までの予定で、1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性に、無料で抗体検査と(必要な場合に)ワクチン接種が受けられるクーポン券が配布されています。風疹は、妊娠中に感染すると、生まれる子どもが心疾患や白内障、難聴といった病気を持つことで知られる先天性風疹症候群を発症する可能性があり、2019年にも2020年にも、実際に発症例が報告されています。前記の年代に該当する男性は、周りの人に風疹をうつさないために、この制度を利用して検査および予防接種を受けることが勧められます。

さらに、海外への渡航の機会がある人も注意が必要です。日本では流行のない感染症に渡航先でかかり、日本に持ち込んでしまう可能性があります。言葉や制度の異なる国では、医療機関を受診するハードルも高くなりがちです。渡航前に、現地で流行している病気や、受けておいたほうがよい予防接種の情報などを確認しておきましょう。検疫所のWebサイト「FORTH」や、外務省のWebサイト「世界の医療事情」が情報源としてお勧めです。

近年、「生涯を通した予防接種」という考え方が提唱されるようになってきました。子どもだけでなく大人も予防接種を受け、予防可能な病気をできるだけ予防しようという概念で、これによって健康で自立した生活を長く保てる可能性が高くなります。

大人に必要な予防接種もあります。予防接種に関する正しい知識を身につけて、自分自身や周りの人たちの健康に役立てましょう。大人向けの予防接種の情報は、国立感染症研究所のWebサイトや、日本プライマリ・ケア連合学会の「こどもとおとなのワクチンサイト」などにも掲載されています。

監修者プロフィール
氏家無限先生(国立国際医療研究センター 国際感染症センター トラベルクリニック医長)

【氏家無限(うじいえ むげん)先生プロフィール】

国立国際医療研究センター 国際感染症センター トラベルクリニック医長
昭和大学医学部卒業、長崎大学熱帯医学修士。長崎大学熱帯医学研究所、厚生労働省などを経て、2018年9月より現職。予防接種支援センター長も兼任する。専門は熱帯・渡航医学、予防接種を中心とした感染症全般。
Twitter:@carpe_diem0820

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