頭痛・風邪・熱
風邪予防の秘訣!免疫力アップで家族を守ろう
監修/市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)

かつては冬場が主流だった風邪。いまや季節を問わず流行が見られるため、1年を通して気を付ける必要があります。食事や睡眠などの生活習慣を大事にして、日ごろから体調を整えておきましょう。風邪に打ち勝つ身体をつくり、自分だけでなく家族や周りの人も守りたいものです。基本的な風邪の予防対策や、免疫力を高める生活習慣について「東京みみ・はな・のどサージクリニック」名誉院長の市村恵一先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
基本的な風邪の予防対策
風邪が流行りだすと真っ先にひく人と、そうでない人がいますが、この違いは日ごろからの基本的な対策によるところが大きいです。小さな習慣の積み重ねで、風邪を防ぎましょう。
手洗い・うがい・マスク着用の徹底
手洗いとうがいは、風邪を防ぐのに有用で最も基本的な衛生習慣です。外から帰ったら、まずは石けんを使って指の間や爪の間、手首までしっかり洗いましょう。
うがいは、のどの洗浄や感染症予防の観点からおすすめです。ポビドンヨードやアズレン含嗽液(がんそうえき)などのうがい薬も多く市販されていますが、日ごろの感染症予防においては、コップ1杯のぬるま湯に小さじ2分の1杯程度の塩を溶かす塩水うがい、もしくは水道水で行っても十分です。
マスクの着用も効果的です。ウイルスを含んだ飛沫を防ぐだけでなく、自身が感染した風邪を人にうつさないという点でも有用です。また、マスクで口と鼻を覆うことで、のどや鼻の粘膜を乾燥から守る保湿効果も期待できます。さまざまな大きさや形のマスクが市販されていますので、顔にフィットするものを選びます。何度も付け外ししたり、一度使ったものを使い回したりするのは避けましょう。
適切な室内環境の維持
風邪やインフルエンザなどのウイルスは、乾燥した低温の環境を好みます。そのため、湿度と温度を管理し、室内環境を整えることが重要です。
感染症対策としては、室内の湿度を40%以上に保つことが推奨されています※1。湿度が低い場合は、加湿器や洗濯物の部屋干しも有用です。近年は猛暑続きで、冷房を長時間つける機会も多いことでしょう。そうした場合も、冬場と同様に室内の湿度を保つ対策をしたり、こまめに水分補給をしたりして、乾燥を防ぐことが大切です。
部屋の換気も行いましょう。窓やドアを開け、サーキュレーターなどを使用して空気を循環させることで、室内に新鮮な空気を取り込めます。換気は、ただ空気を循環させるだけでは不十分で、外から新鮮な空気を取り入れ、室内のよどんだ空気を追い出すことが重要です。
※1:厚生労働省「寒冷な場面における感染防止対策の徹底等について 」(https://www.mhlw.go.jp/content/000695178.pdf別ウィンドウで開きます)を2025年1月31日に参照
体温調節のための服装の工夫
近年の異常気象や極端な寒暖差で、衣服の調節が難しい場合も多いでしょう。暑さや寒さの感じ方は人それぞれです。冷えすぎたり、逆にたくさんの汗をかいたりする前に、状況に応じてこまめに着衣を脱ぎ着して体温を調節しましょう。
気温が変化しやすい季節の変わり目は、特に自律神経が乱れがちになります。体温調節や体内の水分調節がうまくできず、人によっては体調を崩すこともあるでしょう。また、夏場や冬場は、空調によって室内と屋外の温度差が大きくなり、身体に負担をかけてしまいます。体温を一定に保つ工夫の一つとして、カーディガンやストールなど脱ぎ着しやすい羽織物を、季節を問わず持ち歩くこともおすすめです。
免疫力を高めるための生活習慣
風邪を寄せつけない身体づくりのポイントは免疫力にあります。免疫力の高い健康な身体は、規則正しい生活習慣によってつくられます。逆に、睡眠不足や偏った食生活は風邪を長引かせ、悪化の原因にもなるので注意が必要です。
十分な睡眠の確保
質の良い睡眠は大切です。身体を休めることで疲れが取れ、体力が回復するのはもちろんですが、十分な睡眠は免疫力を増強させると言われています。
適度な温度や湿度を保った寝室で、自身が一番リラックスして眠れる環境を整えてみましょう。生活リズムの基礎となる睡眠に最適な時間は、ライフステージや人によってさまざまです。大切なのは、一度決めたらできるだけ同じ時間に寝起きするよう努めることです。
コーヒーやお茶に多く含まれるカフェインは覚醒を促す作用があります。また、アルコールには、眠りを促す作用がある一方、中途覚醒や早朝覚醒の原因になり、利尿作用で夜中に目覚めることもあります。いずれも就寝前の摂取は控えたほうがよいでしょう。
バランスの取れた食事
免疫力アップの基本は、栄養面で偏りのないバランスの取れた食生活です。忙しくても食事を抜いたりせず、3食を決めた時間に摂るようにしましょう。できれば1日の食事の中で5大栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル)をバランスよく食べたいところです。
不足しがちな栄養素があれば、サプリメントで補うのもよいでしょう。
胃腸を整えるためにヨーグルト、味噌や納豆などの発酵食品、食物繊維を日ごろから摂ることもおすすめです。食事は免疫力アップの基礎固めの役割を担っています。毎日の食事で身体の中から健康を支えましょう。
適度な運動の実践
日ごろの運動習慣も、病気への抵抗力向上につながるだけでなく、筋力の維持など身体基盤を整えるうえで有効です。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動で身体を適度に動かすと血行が良くなり、体温が上がって免疫機能の向上も期待できます。
ストレスや疲労は免疫力を低下させ、それによって細菌やウイルスが体内へ侵入しやすくなります。自分なりのストレス解消法を見つけ、心身の健康を保つ工夫も大事です。ストレッチやヨガ、瞑想などのリラクセーションは、ストレスの解消や緊張状態の緩和に有用な面もあります。無理のない範囲で毎日少しずつ身体を動かすことを習慣化してみましょう。
重症化リスクの高い人への対策
風邪は、さまざまな症状に対応した市販薬も数多く販売され、セルフケアで対処する人も多いでしょう。しかし、重症化リスクの高い人は注意が必要です。
高齢者・慢性疾患のある人の注意点
高齢者や慢性疾患のある人は免疫機能が低下しているため、合併症や重症化のリスクが高いと考えられます。特に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息といった呼吸器疾患のある人は、風邪の症状が悪化しやすいだけでなく、元々持っている疾患の症状が急速に悪化する(フレアアップ)こともあるので注意が必要です。
「ただの風邪」と考えず、気になる症状がみられる時は早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。同時に、こうした方々の家族や周囲の人たちが、自身の体調管理に気を配ることがリスクのある人を守ることにつながります。
ワクチン接種による予防
風邪症状を引き起こすウイルスは200種類を超えていて、医療現場で特に多く確認される4つのウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス)のうち、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスについてはワクチン接種によってある程度の予防効果が見込めます。
ただし、ワクチンは万能ではありません。ワクチン接種後も、手洗いやうがいといった基本的な予防対策を継続するとともに、人の多い場所ではマスクを着用してウイルスをもらわない、うつさないという心がけが大切です。
風邪症状が出た際の対処法
風邪をひいたら、無理をせずゆっくり休養を取り、回復に専念するのが望ましいです。特に、高熱時は安静にすることが何よりも大切です。水分補給も欠かせません。発熱による発汗では水分が失われるだけでなく、のどの痛みや鼻づまりなどの症状も加わって食欲が低下し、栄養バランスが崩れることもありますので、こまめな水分補給や消化のよい食事を心がけましょう。
熱が下がってきたら、身体を適度に動かして少しずつ元の生活リズムに戻していきましょう。風邪が治らないうちに無理をして、人の多いところへ行くのは、治る過程を遅らせたり、二次感染のリスクを高めることになり、結果的に長期にわたる治療が必要になります。病原体をうつされない、あるいは、自らもうつさないためには、体調が完全に回復するまで安静にすることが大事です。
風邪の主な症状は上気道のものですが、長引くと下気道に症状が出ることもあります。そうした場合は、より詳しい診察を受けて治療するためにも呼吸器内科の受診をおすすめします。
監修者プロフィール
市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
【市村恵一(いちむら けいいち)先生プロフィール】
東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、浜松医科大学耳鼻咽喉科を経て、1982年より米アトランタ市エモリー大学留学。帰国後、東京都立府中病院耳鼻咽喉科医長、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師その後助教授、自治医科大学耳鼻咽喉科学教授、副学長、石橋総合病院院長などを経て、2019年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)。小児耳鼻咽喉科学会初代理事長。オスラー病鼻出血治療の第一人者。現在は主に補聴診療を担当。