季節のテーマ
静電気の悩みはこれで解決! すぐに試せる5つの対策
監修/髙森建二先生(順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所 所長)
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静電気が起きるのはなぜ?
静電気とは、物質内にたまった状態の電気のことです。人間の体を含め、どんな物質もすべてプラスとマイナスの電気を持っていて、通常はプラスとマイナスの電気量が釣り合った状態になっています。しかし、摩擦などが原因でプラスとマイナスの電気量のバランスが崩れることがあります。この状態でたまった電気が「静電気」です。洋服を脱ごうとしてバチバチと静電気が発生した経験は、多くの方がお持ちではないでしょうか。
通常、体にたまった静電気は、日常生活の中で知らないうちに少しずつ放電されていきます。例えば、湿度の高い夏には、空気中の水分を通して静電気は自然と放電されます。水は電気を通しやすいため、空気中の水分が多ければ多いほど放電が進むのです。
しかし、冬は乾燥して空気中の水分が少ないため、静電気が放電されにくくなり、どんどん体にたまっていきます。体に静電気がたまった状態で、金属製のドアノブなど電気が流れやすいものを触ると、体にたまっていた静電気は、ドアノブに向かって一気に流れます。あの「バチッ」という痛みは、この急激な放電によって生じるのです。
静電気は、湿度20%以下、気温20℃以下になると発生しやすくなります。晩秋から春先にかけて、特に注意が必要です。
静電気をためやすい人の傾向
しかし、乾燥する冬でも、静電気に悩まされる人とそうでない人がいます。この違いはなぜ生じるのでしょうか。
静電気をためやすいのは、肌の水分量が少ない乾燥肌の人です。健康な肌(うるおいのあるしっとり肌)と乾燥肌の皮膚を比較しながら詳しく見てみましょう。
皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層に分かれています。表皮の一番外側には、レンガの塀のように細胞がぎっしり積み重なった「角層」という層があります。細胞の間を埋めているのは、主に「セラミド」という脂肪です。セラミドは水分を吸着する役割も果たしており、角層には水分が蓄えられています。そして、皮膚の最も外側には、汗と皮脂が混ざり合ってできた「皮脂膜」という薄い膜があり、皮膚から水分が失われないように、全身を覆っています。セラミドと皮脂膜によって、肌の水分量は保たれています。
しかし、加齢などさまざまな理由で皮脂膜が少なくなると、肌の水分が蒸発しやすくなり、セラミドに蓄えられた水分も失われてしまいます。この状態が乾燥肌です。
水分がしっかり蓄えられた健康な肌の場合、静電気は肌の水分を通して日頃から少しずつ放電されるため、静電気で痛みを感じることはあまりありません。一方、乾燥肌の人の場合は、水分量が少ないため、静電気が放電されにくく、体にたまりやすくなっています。すると、金属などを触ったときにいっぺんに放電してしまい、「バチッ」と痛みを感じるのです。
また、乾燥肌に静電気が起きると、かゆみが増す原因になります。通常、かゆみを伝える神経(C線維)は、表皮と真皮の境界部分までしか伸びていません。しかし、肌が乾燥すると、C線維はより皮膚の表面に近いところ(角層のすぐ下)まで伸びてきます。乾燥した肌は、わずかな刺激でもかゆみを感じやすい状態になっているのです。静電気もC線維に刺激を与えてしまうため、かゆみがさらに増すことになります。不快な症状を減らすためにも、静電気対策が必要です。
今日から始める静電気対策
静電気は乾燥によって生じやすくなるので、静電気をためにくい体質にするためには、乾燥対策が大切です。今日から始められる静電気対策を5つ紹介します。
①部屋の加湿をする
空気中の水分が増えれば、静電気が生じても自然に放電しやすくなります。加湿器を使用したり、洗濯物を室内に干したり、部屋に水の入ったコップを置いたりして、部屋の加湿を心がけましょう。
②肌の保湿をする
不足している水分を補い、肌を保護するためにも、毎日保湿剤を塗るようにしましょう。手足や首まわりなどの外気に触れやすい部分だけでなく、洋服に隠れているお腹まわりや腰なども乾燥しやすいため、忘れずに塗って、全身を保湿します。特に、お風呂上がりがお勧めです。保湿剤は、薬局などで市販されている乳液やクリームでOKです。
③洗いすぎない
清潔にしようとするあまり、毎日ごしごし体を洗ってしまうと、皮脂膜まで落としてしまうことになり、かえって肌の乾燥を招いてしまいます。汗をかきやすい部分や汚れやすい部分以外は、毎日石鹸をつけて洗わなくても問題ありません。シャワーで洗い流すだけでも汚れを十分落とすことができます。また、石鹸を使う場合も、ナイロンタオルなどでこするのではなく、手でやさしく洗うようにしましょう。
④湯船の温度は40℃以下に
熱いお湯につかると、皮膚を守っている皮脂膜やセラミドを溶かしてしまい、乾燥肌の原因になります。湯船の温度は40℃ぐらいまでを目安にしましょう。また、長時間お湯につかるのも、同じ理由で禁物です。
⑤天然繊維の衣服を身に着ける
綿などの天然繊維の衣服を身に着けるとよいでしょう。天然繊維は吸湿性が高く水分を含みやすいため、静電気が自然と放電されやすくなります。一方、化学繊維は吸湿性が低いため、電気を逃さず、静電気がたまりやすくなってしまいます。肌への刺激になるため、避けたほうがよいでしょう。
静電気は不快なものですが、静電気に悩まされているということは、それだけ肌の乾燥が進んでいるサインでもあります。今回紹介した静電気対策は、乾燥肌対策にも有効ですので、「一石二鳥」を狙って、今日から早速試してみてはいかがでしょうか。
監修者プロフィール
監修/髙森建二先生(順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所 所長)
【髙森建二(たかもりけんじ)先生プロフィール】
順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所 所長
順天堂大学名誉教授・特任教授、学校法人順天堂理事。1967年順天堂大学医学部卒業後、同大学医学部生化学講師。デューク大学リサーチアソシエイトを経て、1993年に順天堂大学医学部皮膚科教授に就任。2005~2012年、順天堂大学医学部附属浦安病院院長。2008年より現職。2019年に新設された順天堂かゆみ研究センターのセンター長も務めている。専門は難治性かゆみのメカニズム解明など。
冬になると「バチッ」とした痛みに悩まされる静電気。あの痛みから解放される方法はあるのでしょうか。静電気をためやすい人の傾向や、簡単にできる静電気対策について、順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所 所長の髙森建二先生にお話を伺いました。