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季節のテーマ

家の中に潜む害虫とは?特徴や健康被害、対処法を知っておこう

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監修/夏秋 優先生(兵庫医科大学医学部皮膚科学教授)

家の中に潜んでいたり、屋外から知らずに持ち込んで繁殖したりする害虫。最近は、トコジラミ(ナンキンムシ)による被害の拡大が報道されています。他にも、ダニやノミなど、ヒトを刺したりアレルギーの原因になったりする害虫がいます。屋内で健康被害を及ぼす害虫の特徴や、健康被害への対処法、害虫の駆除方法などについて、兵庫医科大学医学部皮膚科学教授の夏秋優先生に伺いました。

トコジラミは「持ち込まない」ことが第一

トコジラミは「持ち込まない」ことが第一

近年話題になっているトコジラミの被害。もともと、2000年代以降に世界各地で大きな問題になっていましたが、2020年からのコロナ禍で人流が減ったことにより一時的に落ち着いていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の位置づけが第5類に変更され、海外からの旅行客が増えたことや、国内の移動が再び盛んになったことで、増加傾向にあります。

トコジラミは、ヒトを刺して血を吸う吸血性の昆虫です。気温の低い冬はほぼ休眠状態で、気温が20℃を超える頃から活動が盛んになります。ただ、宿泊施設のように室温が1年中暖かく保たれている場所では、季節を問わず活動している可能性があります。

【生息場所、侵入経路】

現在、国内では主に宿泊施設でトコジラミが繁殖していると考えられ、宿泊先でトコジラミに刺されたり、宿泊先から自宅にトコジラミを持ち込んだりするケースが増えていると予想されます。

ただしトコジラミに刺されるのは、宿泊施設を利用した直後とは限らないことに注意が必要です。前年の秋や初冬に旅行先からトコジラミを持ち帰っていたとしても、そのまま気温が下がって活動が鈍くなり、刺されずに済んでいた可能性があるのです。翌春、休眠していたトコジラミが家の中で活動を始めたタイミングで刺されることも考えられます。

トコジラミは、昼間は室内のさまざまな隙間に潜んでいます。例えばベッドフレームの隙間、ベッドの近くに置いている家具の隙間、カーテンのひだの裏側、壁に貼ったポスターの裏側、本棚に置かれた本と本の間などに生息し、繁殖します。和室の場合は畳の隙間に入り込むこともあります。夜間に活動し、ヒトの就寝中に吸血するため、最も多く見られるのは寝室やベッドの周辺です。

また、通販で購入した商品にトコジラミが混入していることを心配する声も聞かれますが、可能性は低いと思われます。トコジラミはヒトの血液を餌(えさ)としており、ヒトの就寝中に吸血しますが、商品や段ボールを保管している倉庫は、吸血に適した環境とはいえないからです。ただし、個人宅で保管されていた中古品を購入する場合など、商品や梱包材の保管場所が明確でない場合は、念のため、広い場所でシートを敷いてから開封するとよいでしょう。

【健康被害】

トコジラミは吸血する際、ヒトの皮膚に唾液腺物質を注入します。この唾液腺物質によるアレルギー反応で皮膚症状が現れます。一度刺されただけでは症状は出ず、複数回刺されて初めてアレルギー反応が生じます。症状の現れ方には個人差がありますが、多くの場合、刺されてから1~2日後にかゆみや赤いブツブツなどの症状が出ます。通常、こうした症状は1~2週間で改善しますが、トコジラミが繁殖すると、治る前にまた刺されたり、多数のトコジラミに刺されて眠れないほどかゆくなったりすることもあります。

トコジラミによる皮膚症状は、他の虫刺されと似ているため、症状だけではどの虫に刺されたか判断することは困難です。しかし、トコジラミは顔、首、手足など、就寝時に服で覆われていない部分を刺す傾向にあります。

【治療・対処方法】

市販の虫刺され用の塗り薬を使用すれば、通常は1週間程度で症状が治まります。新しい皮膚症状が次々に出現して治らない、たくさん刺されて眠れないほどかゆいなど、症状がひどい場合は皮膚科を受診することをお勧めします。

【対策・駆除方法】

トコジラミを宿泊施設などから持ち帰らないこと、自宅に持ち込まないことが何よりも大切です。宿泊先では、ベッドの近くに荷物や衣類を置かないようにしましょう。ベッドの近くに荷物を置いていると、吸血した後のトコジラミが紛れ込む可能性があるからです。バッグやスーツケースは必ず閉じて、できれば大きなポリ袋に入れたうえで、ベッドから離れた部屋の入口付近に置くとよいでしょう。トコジラミは夜間に活動するため、洗面所やバスルームに置いて、照明をつけっぱなしにしておくのも一案です。

トコジラミは吸血した後、家具などの隙間に戻るまでの間に、黒い液状の血糞(けっぷん)を排泄します。柱や畳、寝具などに黒い点々としたシミが付いている場合は、その周辺にトコジラミが潜んでいると推測されます。さらに、夜に寝具の上で横になって電気を消し、約30分後に電気をつける「うそ寝作戦」を行うと、隙間から出てきたトコジラミを見つけられることがあります。

トコジラミが家の中に生息していると思われる場合は、駆除を行います。駆除方法として第一に考えられるのが殺虫剤ですが、現在、ほとんどのトコジラミが、他の害虫に効く殺虫成分(ピレスロイド系)に抵抗性を持っていることが確認されています。家庭用殺虫剤でトコジラミに有効な成分は、プロポクスル、メトキサジアゾン、ブロフラニリドの3種類です。プロポクスルとメトキサジアゾンはスプレータイプの殺虫剤で、トコジラミが潜んでいると思われる隙間や寝具の周囲に噴霧しておくと1カ月ほど効果が継続します。ブロフラニリドは「くん煙式」の殺虫剤で、室内に殺虫成分を拡散させることができます。殺虫剤を使っても駆除できなければ、専門業者に依頼する必要があります。手間も費用もかかりますので、日本ペストコントロール協会や自治体に問い合わせて、信頼できる業者を紹介してもらいましょう。

トコジラミだけではない、家の中で吸血する害虫

トコジラミだけではない、家の中で吸血する害虫

トコジラミ以外で、屋内で吸血する代表的な害虫が、ネズミに寄生するイエダニと、主に野良猫に寄生するネコノミです。

【生息場所、侵入経路】

イエダニは、ネズミの巣内に多く発生します。天井裏や床下などにネズミの巣が作られてイエダニが大量繁殖すると、通風口などから家の中に入り込み、ヒトを刺すことがあります。ただし、イエダニは屋内に入り込んでも、ヒトの生活環境で繁殖することはありません。

ネコノミは、野良猫が集まって繁殖している場所に多数生息しています。猫の体表面に卵を産みますが、卵は地面に落ちて孵化し、土の中で幼虫が育ちます。飼い猫が屋外に出たときにネコノミを付けて帰ってくることがあるほか、公園や庭先にネコノミを付けた野良猫が来たときにヒトの足にネコノミが付着し、家の中に持ち込まれる可能性があります。屋内では、毛足の長いじゅうたんや、ホコリやゴミが溜まっている場所で繁殖することがあります。

【健康被害】

イエダニに刺されると、かゆみや赤いブツブツなどの皮膚症状が現れます。皮膚症状はトコジラミと似ていますが、イエダニは皮膚の柔らかい部分を好んで刺し、脇の下、下腹部、太ももの内側など衣類に覆われている部分に症状が出ることが多くなっています。刺されて1〜2日で症状が現れることが多く、通常は1~2週間で回復します。

ネコノミに刺された場合、かゆみや赤いブツブツのほか、水ぶくれができやすい傾向にあります。足元から飛びついてきて吸血するため、足首やふくらはぎなど、地面から30cmほどの場所に皮膚症状が集中します。スカートとサンダルなど、足を出した服装で庭先に出ていると刺されやすくなります。

【治療・対処方法】

トコジラミと同様、市販薬で対処できますが、症状がひどい場合は皮膚科を受診してください。

【対策・駆除方法】

比較的古い一戸建てや長屋などの天井裏でネズミが走る音が聞こえている場合は、イエダニが生息している可能性が高いといえます。屋内での駆除には殺虫剤が有効で、トコジラミが抵抗性を持っているピレスロイド系の殺虫剤も効果があります。しかし、イエダニは根本原因を断たなければ、再び屋内に侵入してくる可能性があります。イエダニの発生源となっているネズミの巣を業者に駆除してもらうのが確実です。

ネコノミ対策としては、ペットを飼っているのであれば、予防薬を使用するなどのノミ対策を行うことが第一です。野良猫が多くいる場所や通り道に当たる場所では素足を避けること、虫除けスプレーを使用することも対策になります。屋内にネコノミを持ち込んだと思われる場合は、じゅうたんやホコリの溜まった場所など、ネコノミが発生していそうな場所にスプレータイプの殺虫剤を噴霧します。場所の特定が難しい場合は、くん煙式の殺虫剤を使用しましょう。

アナフィラキシーも!アレルギーを引き起こすダニ類に注意

アナフィラキシーも!アレルギーを引き起こすダニ類に注意

チリダニ類(主にヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ)やコナダニ類(ケナガコナダニ、ムギコナダニなど)は、吸血はしないものの、アレルギーの原因となるダニ類です。

【生息場所、侵入経路】

チリダニ類は、カーペット、畳、寝具類、布製のソファー、ぬいぐるみなどに多く生息しています。ハウスダストに含まれるダニの大部分はチリダニ類です。高温多湿の環境で繁殖しやすくなりますが、マンションなど気密性の高い住宅や、エアコンで室温が保たれている現代の住環境では、常にある程度のチリダニ類が存在していると考えられます。一方、コナダニ類は、乾物などの食品中でよく繁殖し、食品を劣化させることがあります。

チリダニ類やコナダニ類は、開封してから時間が経った小麦粉製品(特にお好み焼き粉、ホットケーキミックスなどアミノ酸を多く含むもの)に袋の隙間から侵入して、大量に繁殖することがあります。

【健康被害】

チリダニ類は、喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎などのアレルギー性疾患の原因になります。また、ダニアレルギーを持つ人が、チリダニ類やコナダニ類が大量繁殖した小麦粉製品を摂取すると、呼吸困難やじんましんなどのアナフィラキシー症状を起こすことがあります。

【治療・対処方法】

アレルギー症状が日常的に出る場合は、血液検査や皮膚テストを行って、ダニアレルギーがあるかどうかを調べます。ダニアレルギーと診断された場合は、生活環境からダニをできるだけ減らす努力が必要です。

万一アナフィラキシー症状が出た場合は、速やかに救急車を呼んでください。

【対策・駆除方法】

掃除機を使ってできるだけこまめに掃除を行い、チリダニ類の餌となる垢、フケ、食物などを取り除きましょう。カーペットを敷かずフローリングにする、ぬいぐるみを置かないなど、チリダニ類が生息・繁殖しやすい場所を減らすことも対策になります。室内が高温多湿にならないよう、風通しを良くしたり除湿したりすることも大切です。寝具類は、丸洗い可能なものは丸洗いすること、布団乾燥機などを使って高温で乾燥させることも有効です。

開封後、一度で使い切れなかった小麦粉製品は、チリダニ類やコナダニ類が侵入しないように、密閉して冷蔵庫で保存しましょう。

監修者プロフィール
夏秋 優先生(兵庫医科大学医学部皮膚科学教授)

【夏秋優(なつあき まさる)先生プロフィール】

兵庫医科大学医学部皮膚科学教授
兵庫医科大学卒業、同大学大学院(皮膚科)修了。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科の研究員を務め、大阪府済生会吹田病院皮膚科医長などを経て、2000年より兵庫医科大学皮膚科助教授(2009年より准教授)、2021年より現職。専門は、衛生害虫による皮膚炎や皮膚疾患の漢方治療。著書に『Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎』(学研メディカル秀潤社)などがある。

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