手軽に効果!運動・ボディケア
肩こりにおすすめ!肩甲骨ストレッチ
監修/遠藤健司先生(東京医科大学整形外科学分野 准教授)
ガンコな肩こりの解消には、肩甲骨周辺の筋肉のストレッチがおすすめです。猫背や冷えの改善にもつながるストレッチについて、東京医科大学整形外科学分野 准教授の遠藤健司先生にお話を伺いました。
ストレス、動かない生活、首の形状などが肩こりに影響
一口に肩こりといっても、首、肩、背中にかけての広い範囲が硬くなって重く感じたり、痛んだりと、人によって自覚症状はさまざまです。慢性化すると、頭痛、めまい、眼精疲労などを伴うこともあります。
肩こりによる痛みや不快感は、もともとの体型や前かがみの姿勢を続けることなどによって、筋肉が緊張して血行が悪くなることで生じます。特に冬は、寒さや厚着による服の重みなどの影響で、筋肉がさらにこわばって血行不良が進み、肩こりが悪化しやすくなります。このような筋肉の状態に、ストレスや、座りっぱなしで動かない生活習慣が加わると、肩こりの不快感がさらに増し、症状を強く感じるようになります。
また、首(頸椎)の形状も肩こりや首こりに影響します。本来、頸椎は緩やかな前弯のカーブを描いていますが、パソコンでの作業やスマートフォンの操作などで前傾姿勢をとり続けることで、このカーブがまっすぐになったり(ストレートネック)、後弯したりします。すると、5 kgもある頭の重さを支えるために首の筋肉に大きな負担がかかるようになります。首を30度前に傾けると、頭の重さの3倍以上の18 kg、60度傾けると27 kgもの負担が首の筋肉にかかります。
さらに、鎖骨も肩こりに関係していることが分かっています。首の下部分の中央から左右に伸びて胸を広げる「突っかい棒」の役割をしている鎖骨は、本来V字に上がっています。しかし、なで肩などが理由で鎖骨が水平に近い状態に下がると、鎖骨の外側とつながっている肩甲骨もあわせて下がり、首周辺の筋肉が引っ張られて緊張するため、肩こりの原因になるのです。
肩こり対策の鍵を握るのは肩甲骨
肩こり対策として、入浴やマッサージなどは血行が良くなるため有効ですが、いずれも根治にはつながりません。特にマッサージは深いところに届きにくいうえ、強く揉みすぎると筋肉が傷ついてしまいます。かえってこりを強くしてしまう場合があるため、注意が必要です。また、首のこりを感じて首を回す人も多いですが、肩こりに関係する筋肉は一部しか動かず、大きな効果は期待できません。
じつは、肩こりの原因となる筋肉は、首よりも肩甲骨につながって存在しています。本来、肩甲骨は肋骨の背中側の上にあり、島のように浮いた構造をしていて、肋骨の上をすべるように動くようにできています。しかし、長時間じっとして前傾姿勢を続けることが多くなった現代人の場合、肩甲骨が外側に広がったままで動かないため、肩甲骨周辺の筋肉の血行が悪くなって硬くなりやすいのです。そのため余計に肩甲骨の動きも悪くなり、ガチガチにこりかたまっていくという悪循環に陥ります。
特に、肩甲骨を上に引き上げる役割をする「肩甲挙筋」と、肩甲骨を寄せる「菱形筋」が、肩こりと深く関連します。これらの筋肉は深部にあるため、マッサージでほぐすことができません。肩甲骨を動かすストレッチによってこれらの筋肉をほぐし、肩甲骨の動きを良くすることが、肩こり解消につながります。
肩甲骨の状態をチェックしよう
自分の肩甲骨がどのくらい動くかチェックする方法を、遠藤先生に教えていただきました。早速試してみましょう。
■肩甲骨の動きは角度でチェック!
- 1.壁に背をつけて立ち、腕を伸ばしたまま肩の位置まで上げる。
手のひらは下向きに。
- 2.そのまま壁伝いに腕を上げていく。
痛みを感じず無理なく上げられるところまで腕を上げて、角度をチェックする。
肩の水平ラインから腕が上がったところまでの角度で、肩甲骨の状態を判定します。
- 0~45度=ガチガチ
肩甲骨周辺の筋肉が硬く、肩甲骨の動きが悪くなっています。 - 45〜60度=少し硬い
肩甲骨周辺の筋肉が少し硬くなっていて、肩甲骨の動きもやや悪くなっています。 - 60〜90度=問題なし
肩甲骨が柔軟に動いています。
肩と水平の高さまでは、肩関節の動きだけで腕を上げられますが、それ以上に腕を上げるためには、肩甲骨のスムーズな動きが必要になります。
肩こりが楽になる! 肩甲骨ストレッチ
遠藤先生に教えていただいた肩甲骨ストレッチをご紹介します。肩甲骨を肋骨からはがすようなイメージで動かし、肩甲骨周辺の筋肉をほぐしましょう。肩甲挙筋と菱形筋を意識して動かすことで、背中から肩にかけて楽になります。猫背や冷えの改善などの効果も期待できます。
■「肩甲骨をはがす」ストレッチ
- 1.両ひじを曲げて肩より上に上げる(腕が上がらない人はできるところまででOK)。手は軽く握って鎖骨のあたりに置く。
- 2.両ひじを、ゆっくりと後ろに引く。5秒かけて息を吐きながら、ひじの位置はできるだけ下げないように。肋骨から肩甲骨を「はがす」意識でぎゅっと強めに寄せる。
- 3.肩甲骨を寄せたままひじを下げ、脱力する。これを5回繰り返す。
朝起きた時に5回、寝る前に5回、習慣にするのがおすすめです。デスクワークの合間などにも随時行うとよいでしょう。一つひとつの動作をじっくりと行うことが大切です。
肩甲骨のストレッチを習慣化して、自由に動く肩甲骨を取り戻しましょう。
監修者プロフィール
監修/遠藤健司先生(東京医科大学整形外科学分野 准教授)
【遠藤健司(えんどうけんじ)先生プロフィール】
東京医科大学整形外科学分野 准教授
1988年東京医科大学卒業。1992年米国ロックフェラー大学ポスドクとして留学し、神経生理学を専攻。1995年東京医科大学茨城医療センター整形外科医長を経て、2007年東京医科大学整形外科講師。著書に『本当は怖い肩こり』(三原久範共著、祥伝社新書)などがある。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会指導医。