睡眠・休息・メンタルケア
睡眠障害や集中力の低下などを招く “むずむず脚症候群”とは?
監修/丹羽潔先生(にわファミリークリニック院長)
概要・目次※クリックで移動できます。
男性より女性に多く、年齢とともに増加傾向に
「下肢静止不能症候群(レストレスレッグス症候群/Restless Legs Syndrome:RLS)」。これが“むずむず脚症候群”の医学的な名称です。むずむず脚症候群というのは俗称になります。というのも、この病気の患者さんが医師に伝える自覚症状の中でとりわけ多いのが「脚がむずむずする」という症状だからです。
むずむず脚症候群(RLS)は、こうした下肢を中心とした異常感覚のために、寝ているときやじっと座っているときなどに脚に不快感を覚えたり、「どうしても脚を動かしたい」という我慢できないほどの運動欲求が生じたりする感覚障害です。
異常感覚による不快感の表現は患者さんによってさまざまですが、「脚がむずむずする」こと以外に、下記のような症状が脚(足)を中心に見られます。
- チクチクする
- ピクピクする
- かきむしりたくなる
- ほてる
- 電流が流れているような感じがする
- 無意識のうちに脚がでたらめに動く
- じっと座っていられない
- 脚が痛い、だるい
- 寝相が悪い(家族などからそう指摘される)
あまり聞き慣れない病名だと思う人もいるかもしれませんが、日本人のむずむず脚症候群(RLS)の有病率は決して低くはありません。
2008年に全国の20~59歳の8,426名を対象に行われた調査(※)では、その有病率は4.0%に上りました。さらに男女別でみると、男性は3.0%、女性は4.9%と、女性のほうが男性より有病率が高いことが示されています。
(※)Sleep Biol Rhythm;6 ,139-145, 2008
また、加齢に伴って有病率が高くなることもさまざまな研究などから分かっており、欧米の調査結果(下記のグラフ参照)では、40代から60代にかけて増加することが見てとれます。
正しい診断で適切な治療を
むずむず脚症候群(RLS)は、原因や発症時期から次のように大きく分けることができます。
一次性(特発性)のむずむず脚症候群(RLS)の発症のメカニズムは解明されていませんが、近年では脳の中枢神経に存在する神経伝達物質・ドーパミンの調節障害が関係しているという説(※)が有力です。治療薬として、ドーパミン受容体作動薬や脳内の興奮性神経伝達物質に関与する薬剤などがあります。
(※)Clemens, S.et al.: Neurology, 67:125-130, 2006
ただし、こうした治療は医師の正しい診断があってこそ受けられることを知っておくとよいでしょう。
この病気の特徴の一つとして、睡眠障害を伴う場合があることが挙げられます。脚の不快感によって寝つきが悪くなったり、やっと眠りについても頻繁に脚を動かして寝返りを打ったりすることが多いためです。また、無意識のうちに脚がピクンピクンと動く「周期性四肢運動」を伴う場合もあり、これも睡眠を妨げる要因の一つとなります。
このため、「脚がむずむずする」といったことよりも、「どうしても眠れない」という症状に悩んで医療機関を受診する人は少なくないようです。結果的にはっきりした原因が分からないまま、睡眠導入剤などを処方される例も見受けられます。
しかし当然のことながら、それではむずむず脚症候群(RLS)の根本的な改善にはなかなかつながりません。ぐっすり眠れない状態が続き、日中も眠気がとれない、仕事に集中できない、疲れがとれない、といった負のスパイラルに陥ってしまう可能性があります。
むずむず脚症候群(RLS)には次のような4つの診断基準があります。
- 1 脚を動かしたいという強い欲求が、不快な下肢の異常感覚が原因となって起こる
- 2 その異常感覚が、安静にして、静かに横になったり座ったりしている状態で始まる、あるいは増悪する
- 3 その異常感覚は運動*によって改善する
*叩く、もむ、足をこすりつける、足踏みをする、歩き回る など
- 4 その異常感覚は日中より夕方・夜間に増悪する
上記のような気になる症状がある場合なども、早めに医療機関を受診するとよいでしょう。
むずむず脚症候群(RLS)専門の外来がある医療機関や脳神経内科、総合内科(総合診療科)のほか、不眠が続いているような場合は精神科や睡眠専門の外来なども選択肢として挙げられます。
むずむずして眠れないときのおすすめ対処法
医療機関で中等度から高度のむずむず脚症候群(RLS)と診断された場合には、薬物療法で症状を抑えることが可能です。比較的症状が軽ければ、日常生活を工夫することで不快感を和らげたり、眠りにつきやすくしたりすることも期待できます。
例えば、むずむずなどの不快感は温度や湿度が高くなるほど強くなる傾向にあるため、梅雨時や夏場などは室内(とくに寝室)の除湿をしっかり行い、湿度を40~70%くらいに保つことが大切です。
逆に冬場は室内の湿度が40%未満になると皮膚が乾燥し、皮脂が欠乏する恐れがあります。これもまたむずむずを悪化させる原因になるので気をつけましょう。
なお、夏の就寝時には次のような方法もおすすめです。
- 1 コーヒーなどの缶入り飲料のショート缶(190ml前後)を2本、冷やしておく
- 2 1の缶を洗面器などに入れ、タオルと一緒に枕元やベッドのわきなど、手の届きやすいところに置いておく
- 3 脚がむずむずしてきたら、缶の水滴をタオルで拭き取り、症状が出ている部位に缶を直接当てて、コロコロ転がす
患部を急激に冷やすことで不快感が緩和され、その後は眠りにつきやすくなります。また、寝たまま行うことができるので、わざわざ起き上がる手間などがないのもメリットです。目が冴えてさらに眠れなくなるといった心配もありません。それでも、どうしても眠れないときは、起きて脚を動かすのも一つの手です。30~60秒程度動かすことで、むずむず感が落ち着くはずです。
日中、じっと座っているときに下肢に不快感を覚え、どうしても脚を動かしたくなるようなときは、趣味に没頭するのもおすすめです。例えば、ゲームや手芸など手先を動かして集中できることがよいでしょう。脚以外のことに意識を向けて集中することで、脚を動かしたいという欲求を抑えることができます。
なお、アルコールや唐辛子などを含む辛い食べ物は血流を促進し、むずむず感を強くする場合があるため、なるべく控えたほうがよいでしょう。タバコは症状を悪化させる一因になるので、禁煙することをおすすめします。
日常でできることを実践しながら、気になるときや治らないときは速やかに医療機関を受診しましょう。
監修者プロフィール
丹羽潔先生(にわファミリークリニック院長、東京頭痛クリニック理事長)
【丹羽潔(にわ きよし)先生プロフィール】
にわファミリークリニック院長、東京頭痛クリニック理事長
東海大学医学部卒業後、独国ミュンヘン・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学神経内科、米国ミネソタ大学神経内科に留学。東海大学医学部神経内科専任講師などを経て、2005年「にわファミリークリニック」開設。日本内科学会認定内科専門医(総合内科専門医)。日本神経学会専門医・指導医。日本脳卒中学会専門医。日本頭痛学会認定専門医、指導医、評議員。
「夜、布団に入ると脚がむずむずして眠れない」。そんな症状に代表される「むずむず脚症候群」。熟睡できないために日中も眠気がとれず、集中力が低下するなど日常生活に支障をきたすこともあります。しかし、「気のせい」と見過ごしてしまったり、ほかの病気と間違われたりすることも少なくありません。適切な治療や対処法につなげるための正しい知識について、にわファミリークリニック院長の丹羽 潔先生にお聞きしました。