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季節のテーマ

「寝ているはずなのに眠い」冬の睡眠対策

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監修/中村 真樹先生(青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長)

寒かったり日差しが弱かったりする冬は、「なかなか起きられない」「十分寝ているはずなのに眠い」という人が多いかもしれません。そんな冬でも、良い睡眠を取り、快適に目覚めるにはどうしたらいいのでしょうか。また、「いくら寝ても眠い」という状態には病気が隠れている可能性もあります。受診・治療が必要な状態についても知っておきましょう。青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長の中村真樹先生に伺いました。

冬は夏よりも睡眠時間が長くなる

冬は夏よりも睡眠時間が長くなる

「冬はなかなか起きられない」という方も少なくないのではないでしょうか。季節による睡眠の変化については、最近になってさまざまな研究が行われており、冬は夏に比べて睡眠時間が長くなることが分かってきています。

例えば、日本人約7万人を対象とした調査では、冬は夏に比べると睡眠時間が40分ほど長くなっていました※1。就寝時間は季節に関係なくほぼ同じであるにもかかわらず、起床時間が冬に遅くなっているという結果を踏まえると、冬は日の出の時間が遅くなり、日照時間が短くなることが影響しているのではないか、と考えられています。光の刺激があると目覚めやすくなりますが、日の出が遅くなる分だけ、その刺激が入ってくる時間帯が遅くなり、目覚めも遅くなる、というわけです。

「冬は寒くて眠りにくい」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、眠りが浅くなりやすいのはむしろ夏のほうです。夏は、エアコンをつけて就寝しても、室温が十分下がるとエアコンが弱まり、室温が上がってくるとまた冷気を出す、といった変動がどうしても起きがちです。こうした変動に合わせて眠りが不安定になりやすいのです。ただ、「冬だから睡眠が深くなる」というデータもありませんので、眠りにつきやすい生活習慣や寝室の環境整備は大切です。

※1: Li L, et al. Seasonal Sleep Variations and Their Association With Meteorological Factors: A Japanese Population Study Using Large-Scale Body Acceleration Data. Frontiers in Digital Health Vol.3, 677043, 2021

冬、ぐっすり眠ってすっきり目覚める工夫

冬、ぐっすり眠ってすっきり目覚める工夫

冬の快眠のために、特に気をつけたいことを紹介します。

<寝る前の準備>

寝る1~2時間前に、38~40℃のぬるめのお風呂に入るのがおすすめです。冬に限ったことではありませんが、深部体温(体の内部の体温)が下がり出したときに眠気が訪れます。そこで、入浴によっていったん深部体温を上げ、下がったときとの落差を作り出すことで、眠りにつきやすくなります。

寝室の室温は、冬であれば16℃前後が好ましいと考えられます※2。厚めの敷き布団と、肩まで覆う掛け布団を使用するとよいでしょう。足が冷えるようであれば、靴下で足先まで覆ってしまうよりも、レッグウォーマーのほうが望ましいと考えられす。深部体温が下がっていく際には手足から放熱するため、靴下を履くと放熱の妨げになります。

ただ、体感や好みには個人差があるものです。例えば、どうしても足先の冷えがひどくて寝付けないようであれば、靴下を履いたほうが眠れるかもしれません。上記の内容を目安としつつ、自分が「心地良い」と感じられることを大切にしてください。あまり神経質に考えるよりも、リラックスできることのほうが大切です。

※2: 水野一枝「睡眠環境」、日本睡眠改善協議会編『基礎講座 睡眠改善学』(ゆまに書房)p.57-67、2019

<朝、目覚めるとき>

朝すっきりと目覚めるためには、光の力を借りましょう。太陽の光が最も強くて効果的ですが、日の出の遅い冬は、室内の照明を上手に活用してください。タイマー付きの照明などを使い、起床の30分前から寝室の照度を少しずつ上げていくと、目覚めやすくなります。また、午前中のうちに太陽の光を浴びるようにしましょう。

眠気が強い場合に疑われる病気

眠気が強い場合に疑われる病気

「朝起きられない」「日中も眠い」といったことは、季節だけが原因とは限りません。眠気には主に3つの要因が考えられます。

①睡眠不足

最も多いのが、睡眠不足による眠気です。全米睡眠財団によると、就労世代に推奨される睡眠時間は7~9時間です※3。必要な睡眠時間に個人差はありますが、日々の睡眠時間がこれより短い人も多いのではないでしょうか。睡眠不足による眠気には数日で慣れてしまうため、眠い状態が当たり前になり、睡眠不足を自覚していない人もいます。しかし、1日6時間しか眠らない日々が2週間続くと、眠気が強くないと感じていても、注意力が明らかに落ちていくことが研究で分かっています※4。睡眠時間が6時間程度だと「十分だ」と思うかもしれませんが、これでは不十分なのです。自覚以上に、睡眠不足によって脳は疲弊します。

慢性的な睡眠不足を借金に例えて「睡眠負債」と呼びますが、睡眠負債の解消には、十分な睡眠を取るしかありません。平日でも休日でも、できるだけ同じ時間に起床、就寝するのが理想ですが、平日に睡眠不足を感じたら、休日に2~3時間多く眠って、翌週に睡眠負債を持ち越さないようにするのも一つの方法です。睡眠負債は溜まれば溜まるほど、数日長く寝たぐらいでは解消できなくなるからです。この場合、「ミッドポイント」(就寝時刻と起床時刻の真ん中の時刻)を2時間以上ずらさないことがポイントです。ミッドポイントが2時間以上ずれると、体内時計がずれてしまい、平日の生活リズムにも影響するためです※5。

例えば、普段深夜0時に寝て朝7時に起きている場合、ミッドポイントは午前3時半です。週末、深夜0時に寝て午前9時まで寝た場合、ミッドポイントは午前4時半で、1時間のずれでおさまりますが、午前2時まで夜更かしして午前11時に起きると、ミッドポイントが午前6時半となり、普段よりも3時間遅くなってしまいます。週末だからと夜更かしをしてしまうと、体内時計が後ろにずれやすくなり、平日の生活リズムに戻すことが難しくなります。

※3: Hirshkowitz M, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health Vol.1(1), 40–43, 2015
※4: Van Dongen HPA, et al. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep Vol.26(2), 117–126, 2003
※5: Roenneberg T, et al. Chronotype and Social Jetlag: A (Self-) Critical Review. Biology (Basel), 8(3): 54, 2019

②睡眠にかかわる病気

規則正しい生活を送り、十分な睡眠時間を確保できているにもかかわらず眠い場合は、病気の影響で睡眠が妨げられている可能性が考えられます。

  • 睡眠時無呼吸症候群
    睡眠中に何度も呼吸が止まったり弱まったりするため、脳が酸欠状態に陥り、眠りが浅くなります。睡眠時間は足りているはずなのに、「寝起きが悪くなった」「寝た感じがしなくて日中眠い」といった場合は、この病気の可能性も考えられます。同居の家族に、いびきをかいた後に息が止まっている様子を指摘されて気づく場合が多いものです。肥満のある人に多いですが、顎が小さい人や、閉経後の女性にもみられます。
  • むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
    寝ようとすると脚がむずむずするなどの不快感が生じる、この不快感を抑えるために脚を動かしたくなり、眠れなくなる、という症状がみられる病気です。一般的に夕方から夜に症状が出るため、寝付けなかったり、寝付いてもすぐに目覚めてしまったりすることで、日中の眠気につながります。原因はさまざまですが、鉄不足による貧血など、他の病状に関連するものもあり、そちらを治療することで改善する場合があります。

③過眠症

過眠症とは、規則正しく、十分な睡眠時間を連続して確保しているにもかかわらず、3カ月以上ほとんど毎日、強い眠気がある状態を指します。代表的な過眠症に「ナルコレプシー」という病気があります。日本人の発症率は600人に1人程度とされ、10~20代で発症することが多くなっています※6。脳の中の睡眠や覚醒を司る神経細胞の障害が原因とされており、日中に強い眠気を感じます。また、金縛り、寝てすぐに夢を見る、笑ったときなどに突然体の力が抜けてしまう(情動脱力発作)といった特徴的な症状もみられます。

※6: 日本睡眠学会「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」(https://jssr.jp/files/guideline/narcolepsy.pdf)2022年11月15日閲覧

いずれの場合も、生活や仕事に支障をきたすような眠気がある場合は、受診を検討してください。睡眠に関するスペシャリストとして学会の認定を受けている「日本睡眠学会専門医」の受診がおすすめです。分からなければ、かかりつけの内科・心療内科・精神科の先生に紹介していただくのもよいでしょう。特にナルコレプシーが疑われる場合は、診断基準に沿った厳密な検査・診断がなければ薬の処方ができず、処方できる医療機関が限定されている薬もあります。日本睡眠学会のWebサイトに学会専門医の名簿が公開されていますので、参考にしてください。

監修者プロフィール
中村 真樹先生(青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長)

【中村真樹(なかむら まさき)先生プロフィール】

青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長
医学博士、日本睡眠学会専門医。東北大学大学院医学系研究科修了後、東北大学病院精神科で助教、外来医長を務める。2008年に睡眠総合ケアクリニック代々木に入職、2012年に同病院の院長となる。2017年6月、青山・表参道睡眠ストレスクリニックを開院し、院長に就任。著書に『仕事が冴える「眠活法」』(三笠書房)がある。

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