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明るい寝室で眠ると太りやすい⁉光と健康の関係

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監修/大林 賢史先生(奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 特任准教授/医療法人啓成会グループ CEO)

光は、睡眠や目覚めに影響を及ぼすだけではありません。肥満やうつ症状、動脈硬化など、光がより広く健康に影響を与えることを示す研究結果が出ています。光と健康の関係についてこれまでの研究で分かっていることや、健康的な光の浴び方について、奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 特任准教授の大林賢史先生に伺いました。

光を浴びる時間帯や量によって、身体にさまざまな影響が

「太陽の光を浴びることが大切」と聞いたことがあるかもしれません。私たちが日常的に浴びている光は、体内時計を調節し、朝目が覚めて夜になると眠くなるというリズムをつくるために大切なものです。

しかし、これ以外にも、光は身体にさまざまな影響を及ぼすことが分かってきています。大林先生も含めた奈良県立医科大学の研究グループでは、2010年から「平城京スタディ」という研究を進めています。約3,000人の被験者の自宅を訪問し、寝室に照度計を設置したり、手首に腕時計型の照度計を装着してもらったりして、日々の生活の中で浴びている光に関するデータを集め、光が健康にどのような影響をもたらすのか検討しています。

これまでに発表されている結果をいくつか紹介します。例えば、寝ている間に浴びる光の量が多い人ほど、うつ症状※1や糖尿病※2が多く、動脈硬化も進行している※3ことが分かりました。就寝時の光は睡眠障害、全身性炎症、肥満、脂質異常症とも関連がみられており、寝ている間に浴びる光の量が多い人ほどこうした病態が多いという結果が得られています※4。また、被験者を約2年間追跡したところ、夜寝ている間に光を多く浴びている人だけでなく、日中浴びる光の量が少ない人、夕方以降に光を多く浴びている人も、太る傾向にありました※5。このように、光を浴びる時間帯や量によって、異なる影響が表れているのです。

※1 Obayashi K, et al. Am J Epidemiol. 2018; 187:427-434.
※2 Obayashi K, et al. Sleep Med. 2020; 65:1-3.
※3 Obayashi K, et al. Environ Int. 2019; 133:105184.
※4 Obayashi K, et al. Environ Res. 2022; 215:114350.
※5 Obayashi K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101:3539-3547.

光の浴び方が健康に影響する理由は?

なぜ光の浴び方がこれだけさまざまな病態に影響するのでしょうか。光は目から入り、目の奥にある網膜を通ります。網膜には光の刺激を受容する細胞があり、この刺激が、脳にある「視交叉上核(しこうさじょうかく:SCN)」に到達します。SCNは、人間の体内時計の中枢(中枢時計)に当たる部分で、ホルモンなどの分泌を介して、各臓器の体内時計(末梢時計)も調整しています。体内時計には、光だけでなく食事や運動も影響を与えますが、目から入る光の影響が圧倒的に大きくなっています。夜遅い時間に光を浴びると体内時計が後ろにずれて夜型になり、朝早い時間に光を浴びると前にずれて朝型になることも分かっています※6

(大林先生のお話を基に作成)

光によって分泌量が変化するホルモンの一つにメラトニンがあります。眠りを誘う働きがあることから「眠りのホルモン」とも呼ばれます。近年では、ヒトや動物での研究において、メラトニンが脂質や糖の代謝改善※7,8や、精神・認知機能の改善※9などにも関連するという研究結果もあります。

メラトニンは光によって分泌が抑制されるホルモンです。日中に光を浴びると、日中のうちはメラトニンの分泌が抑制されますが、夜になってから多く分泌され、体内時計が調節されます。しかし、夜間に光を浴びてしまうと、夜であってもメラトニンの分泌が抑制されてしまうため、体内時計の乱れにつながります。

平城京スタディでは、日中あまり光を浴びなかったり、夜間に光を浴びたりすることで、体内時計の乱れやメラトニンの減少が生じ※10、全身にさまざまな影響を及ぼしたのではないかと考えられています。

※6 Khalsa SBS, et al. J Physiol. 2003; 549:945-952.
※7 Robeva R, et al. J Pineal Res. 2008; 44:52-56.
※8 Wolden-Hanson T, et al. Endocrinology. 2000; 141:487-497.
※9 LeGates TA, Nature. 2012; 491:594-598.
※10 Obayashi K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2012; 97:4166-4173.

日中はたくさん光を浴び、夜は強い光を避けよう

体内時計を整える光の浴び方のポイントは、日中に浴びる光と夜間に浴びる光の差をできるだけ大きくすることです。原始的な人間の暮らしでは、日中は太陽の光を浴び、夜はせいぜい月明かりやたき火程度の暗い空間で過ごすのが当たり前でした。しかし現代人の場合、日中は屋内にいることが多く、太陽光ほど強い光を浴びることが少ない一方、夜も照明がついていて明るい場所が多いため、昼と夜の差が小さくなっています。

日中はできるだけ光をたくさん浴びるようにしましょう。浴びるべき光の量や時間について、基準値などは確立されていませんが、1,000ルクス以上の光を最低1時間浴びることが一つの目安になると考えられます※10。屋外で太陽の光を浴びるのがベストですが、屋内であっても光の差し込む窓際であれば、おおむね1,000ルクス以上の光を浴びられるでしょう。屋内外を問わず、暑い季節は熱中症に十分気をつけてください。

就寝前には強い光を浴びないように注意しましょう。網膜にある光を受容する細胞は、特に波長の短いブルーライトの影響を強く受けます。パソコンやスマートフォン、タブレットなどは、寝室に持ち込まず、寝る直前まで見るのは避けたいものです。特に、スマートフォンやタブレットを寝転がって眺めると、目と画面の距離が近くなりやすく、多くの光が目に入ってきます※11。また、室内の照明からもブルーライトは出ています。夜間に使用する照明は、できるだけ暖色系の光にする、間接照明を使って照明の光が直接目に入ってこないようにする、といった工夫が考えられます。

就寝中の光については、暗ければ暗いほど良いといえます。アイマスクを付けて光が目に入らないようにするのも一考です。しかし、寝室を真っ暗にすると、特に高齢者はトイレに起きたときの転倒リスクなどが懸念されます。間接照明を使うなど、危険ではない程度に暗くしましょう。また、寝室に遮光カーテンなどを使用して、光が外から入ってこない環境を作ることが勧められます。「朝日を浴びて目覚めると良い」といった話も聞かれますが、平城京スタディでは、目が覚める前に寝室に光が入ってくることで睡眠が中断してしまい、睡眠障害が増加するという結果が出ています※12。夜型の生活を送っている人ほど、十分な睡眠を取れないまま朝日を浴びてしまう可能性がありますので、寝室には光が入らないようにして、起きてから太陽の光を浴びるようにするほうが良いでしょう。

※11 Yoshimura M, et al. Nat Sci Sleep. 2017: 9:59-65.
※12 Obayashi K, et al. Sleep Med. 2019; 54:121-125.

監修者プロフィール
大林 賢史先生(奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 特任准教授/医療法人啓成会グループ CEO)

【大林賢史(おおばやし けんじ)先生プロフィール】

奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 特任准教授
医療法人啓成会グループ CEO
東京医科大学医学部を卒業後、東京女子医科大学附属心臓血圧研究所に入局。心不全や不整脈に関する循環器臨床に従事した後、奈良県立医科大学住居医学講座助教として疫学研究を開始。2017年から同大学疫学・予防医学講座准教授に着任、2020年から現職。主に光環境が生体リズムや健康に及ぼす影響に関する疫学研究を実施している。専門は疫学、循環器学。

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