
季節のテーマ
「寝だめ」の思わぬ落とし穴!?不規則な睡眠が招く社会的時差ぼけ(ソーシャルジェットラグ)とは
監修/駒田 陽子先生(国立大学法人東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院 教授)

概要・目次※クリックで移動できます。
「時差ぼけ」が起こるのは海外旅行だけじゃない!?

勤勉で真面目――。よく聞く日本人のイメージですが、実際に調査データにも表れています。OECD(経済協力開発機構)が2024年に報告した、加盟国(候補国も含む)33カ国を対象とした調査によると、日本人15~64歳の平均睡眠時間は7時間42分、調査対象国の平均値は8時間29分でした※1。一般的に、「働き世代」である25~64歳の成人に必要な睡眠時間は7~9時間と考えられており、必要時間は満たしているものの、諸外国に比べると日本人の睡眠時間は短いと言えます※2。
こうした背景もあり、平日の睡眠不足を週末の寝だめで解消する人も多いでしょう。しかし、しっかりと眠ったはずなのに、休み明けに眠気やだるさを感じたことはありませんか。これは、睡眠リズムが不規則になることで体内時計にずれが生じ、「時差ぼけ」の状態が起こっているからだと考えられています。時差のある海外渡航で生じる不調に似ているため、社会的時差ぼけ(ソーシャルジェットラグ)と言われています。毎週末の寝だめだけでなく、ゴールデンウイークなどの大型連休でもソーシャルジェットラグは起こります。また、学齢期の子どもでは学期間の長期休暇で徐々に睡眠リズムがずれてきて、新学期を迎えるころにソーシャルジェットラグの状態に陥りやすくなります。
ソーシャルジェットラグは、日中の身体機能や心身の健康に影響を及ぼします。短期的には作業能率の低下や昼間の眠気、ストレス反応、中長期的には生活習慣病リスクとの関連が示されています※3。週末のわずか1~2時間の体内時計のずれであっても、気分の落ち込みや昼間のパフォーマンス低下、肥満、生活習慣病につながりやすくなります。
※1:OECD “Time Use Database 2024”, OECD Social and Welfare Statistics (database), https://doi.org/10.1787/675ecc4a-en別ウィンドウで開きます(2025年4月1日に参照)
※2:National Sleep Foundation’s updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015
※3:駒田陽子「社会的ジェットラグ24時間社会の課題」. 実験医学, Vol.37, No.3(2月号), 2019.
ソーシャルジェットラグはなぜ起こる?

平日は仕事や学校に合わせて活動するものの、週末は朝寝坊や夜更かしをしてしまう。こうした平日と休日で睡眠のタイミングが異なる状況は、週末の夜に数時間の時差がある地域に行って月曜日の朝に戻ってくるようなものです。
例えば、平日は午前0時に寝て朝6時に起きる人が、休日は午前2時に寝て朝10時に起きたとします。睡眠時間は2時間増えていますが、睡眠の中央値(就寝時間と起床時間のちょうど中間の時刻)をみると、平日は午前3時、休日は午前6時となり、3時間のずれがあります。平日は午前0時に寝て朝5時に起きる人が、休日は午前4時に寝て、お昼の12時に起きたとすると、トータルで8時間眠れているものの、中央値は5.5時間もずれています。

この中央値のずれこそが「時差ぼけ」の正体です。ちなみに3時間のずれは日本-インド、5.5時間は日本-ドバイの時差程度と考えられます。つまり、毎週末これらの地域に旅行し、週明けに戻ってきて仕事をするのと同じだと考えると、いかに大きな負担を身体にかけているかがお分かりいただけるでしょう。起床および就寝時間のずれが体内時計の狂いを招き、結果的に心身の不調につながるのです。睡眠は一定のリズムを保つことも大切なポイントです。
カギは自身の「クロノタイプ」にあり!ソーシャルジェットラグ予防法

ソーシャルジェットラグをできるだけ回避し、睡眠不足を解消するために、まずは自身の体内時計のタイプを知りましょう。
人間には、ほぼ1日(24時間)の周期で体内環境を変化させる機能が備わっています。この約24時間周期のリズムは概日(がいじつ)リズムと呼ばれます。このリズムをつかさどっているのが体内時計で、そのリズムが早い時間帯に活発なのか、遅い時間帯に活発なのかによって、朝型・中間型・夜型といった分類(クロノタイプ)ができます。自身のクロノタイプが分かると、より体内時計に合った自然なリズムで過ごす助けになるでしょう。自身がどのクロノタイプなのか、下記の質問項目でセルフチェックをしてみましょう。
■セルフチェック:あなたは朝型?夜型?
以下の質問に答えて、合計点を計算してみましょう。
(1)あなたの体調が最高と思われる生活リズムだけを考えてください。その上で、1日のスケジュールを本当に思い通りに組むことができるとしたら、あなたは何時に起きますか(1~5点)。

(2)普段、起床後30分間のけだるさはどの程度ですか。
大変けだるい……1点
どちらかといえばけだるい……2点
どちらかといえば爽快である……3点
大変爽快である……4点
(3)あなたは、夜、何時になると疲れを感じ、眠くなりますか(1~5点)。

(4)1日のどの時間帯に体調が最高であると思いますか(1~5点)。

(5)「朝型」か「夜型」かと尋ねられたら、あなたは次のどれにあてはまりますか。
明らかに「朝型」……6点
「夜型」というよりむしろ「朝型」……4点
「朝型」というよりむしろ「夜型」……2点
明らかに「夜型」……0点
【判定結果】
合計得点から5つのタイプに分類されます
合計得点
22~25点:超朝型
18~21点:朝型
12~17点:中間型
8~11点:夜型
4~7 点:超夜型
コリーン・ヴァインツェップレン「おしゃべりなネコに学ぶ からだの中の大切な時計」 駒田陽子, 田原優 翻訳 “Enlighten your clock: How your body tells time.”,より引用
人は年齢によって適正な睡眠時間や睡眠リズムが変わります。年齢に応じた一般的な変化があることを踏まえつつ自身のクロノタイプを認識することは、より体内時計に合った活動時間帯、適切な睡眠時間帯を知ることができ、ひいてはソーシャルジェットラグの回避にもつながります。
その上で、ソーシャルジェットラグを防ぐポイントをお伝えします。まずは、平日も休日も起きる時間を変えないことです。日ごろの睡眠不足を休日の寝だめで補っている人は、寝だめで多く寝ている数時間を平日に割り振り、1日30分でも早く布団に入るようにしてみましょう。寝る前のスマホゲームやSNSチェックをやめる、もしくは早めに切り上げるなど、工夫次第で1日あたりの睡眠時間をわずかでも延ばすことは可能です。
朝日を浴びて体内時計をリセットすることも効果的です。光は体内時計のリズムを調節する上で重要な役目を担っています。太陽の光を浴びることは、脳内の神経伝達物質で精神を安定させるセロトニンの分泌が促進される一方、睡眠の質向上に関係しているメラトニンの分泌も増えます。午前中はできるだけ外で過ごし、日光を浴びるようにするとよいでしょう。
それでも日中に眠気を感じる場合は、無理をせずに目を閉じて10~20分程度のごく短い仮眠をとることもおすすめです。夜の就寝に影響しないよう、昼食後から遅くても15時までの間にとることがポイントです。
ソーシャルジェットラグという概念が2006年に初めて提唱され、今後さらに研究データや知見が蓄積されていくでしょう。しかし、予想以上に心身の健康や社会生活に影響を及ぼしていることが、すでに明らかになっています。私たちが個人レベルで実践できる取り組みも大事ですが、一方で、人間の生体リズムに応じた社会的スケジュールの見直しなど、政策的取り組みとの両輪で進めていく必要があると研究者たちは考えています。
監修者プロフィール
駒田 陽子先生(国立大学法人東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院 教授)
【駒田陽子(こまだ ようこ)先生プロフィール】
国立大学法人東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院 教授
早稲田大学第一文学部哲学科心理学専攻卒業、同大学大学院人間科学研究科生命科学専攻修了。博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経センター精神保健研究所特別研究員、東京医科大学睡眠学講座准教授、明治薬科大学薬学部准教授などを経て、2022年4月より現職。日本睡眠学会幹事、日本時間生物学会副理事長、Sleep and Biological Rhythms Associate Editor。
ゴールデンウイークなどの長期休暇明け、リフレッシュしたはずなのに心身のだるさを感じたことはありませんか。実は、「時差ぼけ」が原因かもしれません。海外旅行で経験するものと思うかもしれませんが、休日前の夜更かしや朝寝坊、日ごろの睡眠不足を解消する寝だめによっても「時差ぼけ」状態になることが睡眠をめぐる研究で明らかになり、専門家によって社会的時差ぼけ(ソーシャルジェットラグ)と名付けられました。このソーシャルジェットラグが起こる原因や対策について、東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授の駒田陽子先生に伺いました。