頭痛・風邪・熱
風邪だけじゃない? のどの痛みの原因と対処法、長引くときの注意点
監修/市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
不快なのどの痛み。その原因は、主に鼻からのどにかけて生じた炎症によるものと考えられます。炎症を引き起こすのは、いわゆる風邪だけではありません。さまざまなウイルスや細菌、乾燥やアレルギーなどによって現れるケースもあります。原因に応じた対処法、のどの痛みや違和感が長く続くときの注意点について、「東京みみ・はな・のどサージクリニック」名誉院長の市村恵一先生に伺いました。
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のどの痛みを和らげる方法
さまざまな原因で生じた炎症による、のどの痛み。医療機関で処方された薬による治療以外にも、セルフケアの方法も知っておくとよいでしょう。炎症を和らげ、のどの痛みを少しでも緩和するための方法を紹介します。
ハチミツ入りの紅茶でのどを潤す
欧米ではプロポリスやハチミツなどの天然成分を活用して、のどの痛みに対するセルフメディケーションにつなげています。ハチミツには、のどの炎症を抑え、咳を鎮める効果があるといわれています。のど飴などさまざまな加工品が市販されているので、手軽に使いやすいです。
ハチミツを紅茶に溶いて飲むのもおすすめです。紅茶に含まれるカテキンやタンニンは、のどの炎症を和らげ、のどの粘膜を乾燥から守る働きがあるといわれています。熱過ぎると、傷んだのどの粘膜を刺激するので、ほどよく温かい紅茶でのどを潤すのがよいでしょう。ただし、ハチミツは乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、1歳未満の乳児の摂取は避けてください。
塩水うがい、うまみ成分の摂取で唾液分泌を促し、粘膜を保護
塩水でうがいをすると、のどの痛みを一時的に和らげることができます。塩水の浸透圧によって、のどの腫れた部分の水分がにじみ出て痛みが和らぐとともに、塩分が唾液の分泌を促進します。炎症を起こしたのどの粘膜を保護、補修するうえで唾液の分泌は非常に重要です。
唾液を促進するという点では、出汁などうまみ成分を多く含む食品もおすすめです。例えば、昆布やキノコなどに豊富に含まれるグルタミン酸やイノシン酸などのうまみ成分は、持続的に唾液腺を刺激します。昆布茶や出汁の効いた味噌汁などは、少量であっても唾液の分泌が促され、のどの粘膜を潤してくれます。
のど飴やキャンディーでのどを潤す
飴をなめることで唾液の分泌が促されるため、のど飴やキャンディーもある程度の効果は期待できます。ただ、糖分にはのどを刺激する作用があるとの報告もあり、甘すぎるとのどの痛みを逆に強めることもあるので選ぶときには注意が必要です。医薬品や医薬部外品のトローチもしくはのど飴を使う場合は、用法・用量を守りましょう。こまめに水分補給を行うことも大事です。
のどの痛みの原因と症状別の対処法
のどの痛みの原因はさまざまです。何らかの原因でのどに生じた炎症が痛みを引き起こします。そうした炎症がなぜ起こるのか、原因と症状別の対処法について説明します。
風邪やインフルエンザによるのどの痛み
風邪やインフルエンザになると、多くの場合で発熱や咳、鼻水といった症状とともにのどの痛みを感じます。ウイルスがのどの粘膜に感染し、炎症が起こって、腫れや痛みがもたらされるためです。二次的に細菌感染も起こり、これだけでも痛みが出ます。この場合、抗ウイルス薬の服用や安静が大切です。のどを刺激しないようにこまめな水分補給と保湿を心がけ、炎症を少しでも和らげましょう。適切な治療とセルフケアにより、数日で改善することがほとんどですが、後で述べるように痛みや違和感が長引く場合は注意が必要です。
乾燥によるのどの痛み
のどの乾燥も痛みが起こる原因の一つです。乾燥で炎症を起こしているのどの粘膜を保湿しつつ、いかに休めるかが重要です。鼻づまりや咳を伴っている場合にはマスクをするのも有用でしょう。低湿度の環境であれば、加湿器を使うのも効果的です。そして風邪やインフルエンザなどの感染症と同様に、こまめな水分補給と保湿が大切です。ただし、アルコールやカフェインには利尿作用があり、摂り過ぎると逆に体内から水分が奪われ、のどが乾燥して炎症を引き起こす可能性があります。痛みが治まるまでは控えたほうがよいでしょう。
声帯の酷使によるのどの痛み
長時間の会話や大声での発声、カラオケなどが原因でのどが痛むこともあります。これらは、のどの使い過ぎという生理的な刺激によって声帯を傷めた炎症と考えられ、細菌やウイルス感染とは原因も痛みのメカニズムも異なります。水分補給をしたうえで、安静にしてのどを休めることが第一です。
のどの痛みに効果的な薬の選び方と服用方法
つらい痛みが続く場合は薬で治療することになります。炎症の原因によって薬もさまざまな選択肢がありますので、市販薬によるセルフケアを行う際にも参考にしてください。
トローチやスプレー式の薬の効果
トローチやスプレー式の薬は、のどの痛みを和らげるのに効果的です。トローチは、唾液で薬効成分を少しずつ溶かしながら、のどの粘膜に感染した細菌を殺菌したり、増殖を防いだりする作用があります。スプレー式の薬は、のどの痛みや違和感などの症状が気になったとき、1日数回の使用が目安とされています。
薬の使用は用法や用量を守って短期間にとどめ、長期的な使用は避けましょう。痛みが改善されない場合は、対処法が異なる原因の可能性もあるため、医師に相談することをおすすめします。
痛み止めや抗炎症薬の服用方法
イブプロフェンやアセトアミノフェンは、強いのどの痛みや高熱などの症状を伴う際に医薬品、市販薬としても多く使われている鎮痛剤です。薬効が強く、胃に負担がかかりやすいのが特徴です。のどの痛みのほかに消化器症状がある場合には服用を避けるか、胃を保護する薬も一緒に服用します。
市販薬でも多く使われているトラネキサム酸などは、症状が比較的軽い人や小児で多く使われています。効き目は緩やかですが、のどの痛みや不快感を和らげるのに効果的です。
漢方薬や生薬の活用法
のどの痛みに効果的な漢方薬があり、症状の出方や時期によって使い分けます。麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、唾液が出にくいときや口腔内が乾燥状態のときに服用すると効果が期待されます。半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、のどの違和感や粘膜の知覚過敏などを自覚したときに服用すると症状の改善が期待されます。いずれものどの痛みがあるときに有用ですが、急性期にはあまり使われません。
発熱を伴う急なのどの痛みがある場合には、葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)で体を温めて体温を下げつつ、桔梗湯(ききょうとう)や小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)などで痛みを和らげるのがおすすめです。
先に述べたハチミツのほか、生姜やシソなどの生薬も有用です。ハチミツはのどを潤し、生姜は抗炎症作用、シソには殺菌作用があるといわれています。漢方薬や生薬は体質によって効果も人それぞれに異なります。漢方医など専門家に相談することをおすすめします。
のどの痛みが長引く場合の対処法と受診の目安
のどの痛みは、服薬や安静によりおおむね3日間程度で徐々に治まるのが一般的ですが、痛みや違和感が長く続く場合には注意が必要です。
のどの痛みが長く続く場合の注意点
服薬や安静でも症状が改善せず3日以上続く場合、もしくは痛みが強まった場合には、専門的な診察ができる耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。耳鼻咽喉科ではのどの痛みの場合、細長い板(舌圧子など)で舌を下げて見える範囲だけでなく、さらに気道の奥や鼻腔内も詳細に観察して炎症の原因を探ります。
長引くのどの痛みは、溶連菌感染症やマイコプラズマ肺炎などの細菌感染症、もしくは喉頭がんの随伴症状であることなども考えられます。自己判断せずに耳鼻咽喉科を早めに受診し、医師の診断を受けることが重要です。
高熱や呼吸困難を伴う場合の受診の目安
のどの痛みに加えて、39度以上の高熱、呼吸困難、嚥下痛、唾液が飲み込めないといった強い症状が出ている場合は、特に注意が必要です。急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)や咽後膿瘍(いんこうのうよう)などの重篤な感染症が潜んでいる可能性があります。不安を感じたら迷わず救急外来を受診しましょう。適切な診断と治療を受けることで重症化を防ぎ、早期の回復にもつながります。
慢性的なのどの痛みへの対処法
慢性的なのどの痛みがある場合は、生活習慣を見直してみましょう。過度な飲酒やカフェイン摂取が習慣になっていませんか。アルコールやカフェインには利尿作用があるため体の水分が失われやすく、のどが乾燥し、痛みや炎症が悪化する可能性があるので、できるだけ控えたいところです。
風邪など、何らかの感染症に罹患した自覚がなく、原因の分からないのどの痛みが長く続く場合は、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。適切な診断と治療により、のどの不調から解放されることでしょう。
のどの痛みを予防するための生活習慣
のどの痛みを伴うさまざまな疾患について説明してきましたが、最も大事なのは予防です。ここでは、病気を寄せ付けない強い身体でいるために日常生活のなかで取り入れたい習慣をご紹介します。
こまめな水分補給と加湿器の活用
のどの粘膜の表面には粘液が層を作り、潤いを保っています。乾燥すると粘液も減り、細胞の隙間も拡がり、神経が露出するので痛みを感じます。それだけでなく、そこに細菌やウイルスが侵入しやすくなり、炎症が生じます。したがって、いかにのどの潤いを保つかがとても大事です。
まずは、こまめな水分補給を心がけましょう。水分補給には二つの役割があります。一つは、粘膜を潤すための純粋な水分補給。もう一つは唾液腺を刺激するためです。鼻づまりなどで口呼吸になっていると、唾液の分泌が低下して乾燥状態になりやすくなります。
加湿器の活用も有効です。空気が乾燥する冬場だけでなく、冷房を効かせた夏場の室内も低湿度になりがちです。そうした場合は、加湿器や濡れタオルを使用して室内の湿度を適切に保ちましょう。就寝時に加湿器を使うことで、のどの乾燥を防ぎ、良質な睡眠にもつながります。
手洗いとうがいの習慣づけ
手洗いとうがいはのどの痛みだけでなく、あらゆる病気の予防に役立つ基本かつ有用な衛生習慣です。のどの痛みを引き起こすウイルスや細菌のほとんどが口から侵入します。しっかりと手洗いを行うことで、ウイルスや細菌の侵入を防ぐことができます。
うがいも、のどの清浄や感染症予防の観点からおすすめです。痛みがあるときはポビドンヨードやアズレン含嗽液(がんそうえき)などの市販のうがい薬を使用しますが、日頃の感染症予防においては塩水うがい、もしくは水道水でのうがいでもかまいません。
免疫力を高める食事と十分な睡眠
のどの痛みは、ストレスや疲労によって免疫力が低下することで扁桃腺が細菌やウイルスによって炎症を起こして生じやすくなります。したがって、バランスの取れた食事や十分な睡眠で身体の抵抗力を高め、健康な状態を保つことが大事です。
生活リズムの基礎となる食事や睡眠は、ライフステージによって、最適な量やかけるべき時間が異なります。大切なのは、一度決めたらできるだけ同じ時間に食事を摂り、寝起きするよう努めること。こうした習慣の積み重ねが、病気になりにくい安定した健康状態につながります。
タバコを控え、声帯の酷使を避ける
タバコはのどの痛みを引き起こす原因の一つです。タバコに含まれるニコチンやタールといったさまざまな有害物質がのどの粘膜を刺激し、炎症を引き起こします。これはタバコを吸っている本人のみならず、副流煙によって周りの人にも同様の影響を及ぼします。喫煙歴が長い人は、慢性的にのどの粘膜に刺激が加わり続け、傷みが進行している可能性があります。喫煙は、口腔がんや咽頭がんを誘発する大きなリスク因子でもあります。喫煙習慣があり、のどの痛みを自覚する人は、早急に喫煙量を減らす、もしくは禁煙することが望ましいです。
声がれや、のどに痛みを感じている間は炎症が続いているので、長時間の会話や大声での発声は避けましょう。炎症を起こしているのどの粘膜を保湿しつつ、いかに休ませるかが重要です。
のどの痛みは、時期を問わずさまざまな原因で生じます。それぞれの原因に応じた対処法や予防法を知り、セルフケアで少しでも痛みのつらさを軽減できるようになりましょう。
監修者プロフィール
市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
【市村恵一(いちむら けいいち)先生プロフィール】
東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、浜松医科大学耳鼻咽喉科を経て、1982年より米アトランタ市エモリー大学留学。帰国後、東京都立府中病院耳鼻咽喉科医長、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師その後助教授、自治医科大学耳鼻咽喉科学教授、副学長、石橋総合病院院長などを経て、2019年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)。小児耳鼻咽喉科学会初代理事長。オスラー病鼻出血治療の第一人者。現在は主に補聴診療を担当。