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仕事中や運転中にうとうと居眠り……「マイクロスリープ」どう予防する?

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監修/林 光緒先生(広島大学大学院人間社会科学研究科 教授)

仕事中や授業中に眠くなって、うとうと居眠りしてしまった……という経験は多くの人がお持ちではないでしょうか。居眠りの中でも、眠気が強いときに瞬間的に生じる「マイクロスリープ」は、運転中などに生じると事故につながりかねないため、何とかして予防したいところです。マイクロスリープはなぜ生じるのでしょうか。また、予防や対処は可能なのでしょうか。広島大学大学院人間社会科学研究科教授の林光緒先生に伺いました。

睡眠不足で脳が強制終了!?

睡眠不足で脳が強制終了!?

マイクロスリープとは、眠気が強いときにほんの数秒間だけ続く瞬間的な睡眠のことを指します。目が開いていて起きているようにも見えますが、脳波を測定すると覚醒時とは異なり、睡眠に入っていることが確認できます。眠気は自覚しており、視界がぼんやりしたり、意識が途切れたりしている状態ですが、非常に短時間しか持続しないため、本人に「寝た」という自覚はほとんどありません。仕事中や授業中に眠気に襲われ、首がカクッと落ちて目が覚めた経験はありませんか。マイクロスリープはこれよりもっと手前の段階で既に発生していることがあります。

マイクロスリープの大きな原因は睡眠不足です。睡眠不足には「量」の不足と「質」の不足があります。夜ふかしや夜勤、時差ボケなどで十分な睡眠時間を確保できていない場合はもちろん、途中で何度も目が覚めて睡眠が浅いなど、睡眠の質が悪い場合もマイクロスリープが生じやすくなります。不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害は睡眠の質を下げるため、マイクロスリープを起こしやすくなります。睡眠障害と診断されている場合は、治療を続けることが睡眠の質の改善につながります。

ただ、知っておきたいのは、睡眠が足りなければ健康な人でもマイクロスリープが生じる、そしてマイクロスリープが起こる状態は、人間にとって危険であるということです。睡眠不足が慢性化すると、眠気に慣れてしまい、眠気を感知しにくくなることが多いため、睡眠不足を自覚していない人もいます。また、日中に眠くなっても、「ちょっと居眠りしただけ」と軽く考える人も多い印象です。しかし実際には、脳が「強制的に活動をすべてストップして睡眠モードに切り替えなければならない」と判断したために生じるのがマイクロスリープで、パソコンの「強制終了」のようなものです。マイクロスリープはいつ生じるか予想できず、突然意識が途切れるため非常に危険であり、そういったリスクが生じるほど睡眠が足りていないと認識する必要があります。特に運転中や機械の操作中にマイクロスリープに陥ると、命にかかわる可能性もあります。

マイクロスリープ予防は睡眠不足の解消が第一

マイクロスリープ予防は睡眠不足の解消が第一

マイクロスリープや日中の眠気を防ぐためには、睡眠不足を解消することが第一になります。必要な睡眠時間には個人差がありますが、全米睡眠財団では、就労世代に7~9時間の睡眠を推奨しており※1、子どもや若者はこれより長く、高齢者はこれより短くなる傾向にあります。忙しくて十分な睡眠を確保するのが難しい人もいるかもしれませんが、10分でも15分でも、可能な限り睡眠時間を伸ばすように努めてください。その分だけマイクロスリープのリスク低下につながります。

関連記事:「ぐっすり快眠のために大切なこと5つ」

平日の寝不足を解消しようと、週末に寝だめをする人もいるかもしれませんが、生活リズムが崩れて時差ボケのような状態に陥る「社会的時差ボケ」には注意が必要です。週末だけ遅くまで寝ていると、日中の活動時間や就寝時間が後ろにずれ込んで、睡眠のリズムが崩れてしまい、週明けにまた睡眠不足に陥ることがあります。週末にたくさん寝たいのであれば土曜日だけにして、日曜日はできるだけ平日のリズムに近づけるようにすると、社会的時差ボケが起きにくくなります。

日中の眠気は生体リズムの影響も受けており、睡眠不足の有無にかかわらず、昼下がり(13~15時ごろ)は眠くなりやすいと考えられています。「昼食を食べた後だから眠くなるのではないか」と思うかもしれません。たしかに、高カロリーの食事を摂ると眠気が強くなって、運転手が車線をはみ出すことが増えたという研究があります※2。しかし、昼食の影響を除外した実験でも、やはりこの時間帯に眠くなりやすいという結果が出ています※3,4。このような生体リズムが生じる理由について詳しいことは分かっていませんが、昼下がりは、深夜~早朝とともに居眠り運転事故の発生件数が多い時間帯であり※5、眠気に注意が必要な時間帯だと知っておくとよいでしょう。

※1:Hirshkowitz M., et al. Sleep Health. 2015 Mar; 1(1): 40-43.
※2:Reyner L.A., et al. Physiol Behav. 2012 Feb 28; 105(4): 1088-91.
※3:Stahl M.L., et al. Sleep. 1983; 6(1): 29-35.
※4:Carskadon M.A., et al. Sleep. 1992 Oct; 15(5) :396-9.
※5:林光緒. 国際交通安全学会誌. 2013-05; 38 (1): 49-56.

正しく仮眠を取って活力を取り戻そう

正しく仮眠を取って活力を取り戻そう

もし日中に眠気を感じたら、眠気を解消してその後の活力を高めるためにも、安全な場所を確保して仮眠(パワーナップ)を取ることをお勧めします。

仮眠を取る際のポイントは寝すぎないことです。目安としては、就労世代では10~15分程度、長くても20分以内にとどめましょう。高齢者は睡眠が浅くなりやすいため、30分までを目安とします。これ以上寝ると、睡眠が深くなり、体温が下がり始めて、目覚めた後にも強い眠気やだるさが残りやすく、かえってパフォーマンスに影響が出ます。

一方、仮眠が短すぎても、睡眠の入口段階で終わってしまうため、覚醒効果が十分に得られません。最低でも10分程度は眠る必要があります。なお、マイクロスリープも非常に短いため、覚醒にはつながりません。

適切な長さの仮眠を取るには、姿勢にも気を配りましょう。横になって寝てしまうと長く眠ってしまいがちです。ヘッドレストのある椅子などを使って、頭を支えられる姿勢で寝るようにします。椅子を壁際に移動して、壁で頭を支えながら寝る方法もあります。椅子に座って机にうつ伏せで寝てもかまいません。机が低いと腰が曲がって痛くなることがあるため、クッションやタオルを置いて机を少し高くすると寝やすいかもしれません。

寝やすい姿勢のイラスト

どうしても仮眠が取れない環境の場合は、以下の対処が考えられます。これらの方法は、仮眠直後に眠気が残っているときにも使えます。

  • カフェインを摂取する
    コーヒーを飲むなどカフェインを摂取することで、覚醒効果が期待できます。ただし、摂取後すぐに効果が表れるわけではなく、吸収されて効果が出るまで最低でも10~15分かかるため、眠気がピークを迎える前に摂取する必要があります。仮眠が取れる場合は、仮眠の前にカフェインを摂ると、目覚める頃に効果を得られるでしょう。
  • 五感を刺激する
    明るい光を浴びる(視覚)、音楽やラジオを聴く(聴覚)、ミントなどすっきりした香りをかぐ(嗅覚)、ガムやスルメを噛む(味覚)、皮膚をつねったり叩いたりする(触覚)など、五感を刺激する方法もあります。一時的な刺激で効果が長続きしないものもありますが、複数の刺激を組み合わせることで効果を得やすくなります。

ただし、第一のマイクロスリープ対策はあくまで睡眠不足の解消であることを忘れないようにしましょう。十分な睡眠を確保できているにもかかわらず眠気が続き、生活や仕事に支障が出る場合は、睡眠外来や精神科、心療内科などを受診するのも選択肢の一つとなります。

参考記事:「寝ているはずなのに眠い」冬の睡眠対策

監修者プロフィール
林 光緒先生(広島大学大学院人間社会科学研究科 教授)

【林光緒(はやし みつお)先生プロフィール】

広島大学大学院人間社会科学研究科 教授
1991年広島大学大学院博士課程修了(学術博士)。広島大学総合科学部助手、同講師、同助教授を経て、2008年から現職。専門は睡眠学、精神生理学。共著書に『睡眠学(第2版)』(朝倉書店)、『快適な眠りのための睡眠習慣セルフチェックノート』(全日本病院出版会)、『眠気の科学』(朝倉書店)などがある。

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