カンタン健康生活習慣
発酵性食物繊維で無理のない腸活を
監修/青江 誠一郎先生(大妻女子大学 家政学部食物学科 教授)
整腸作用をはじめとするさまざまな健康効果を持つ食物繊維。多くの種類がある中でも近年注目を集めているのが「発酵性食物繊維」です。腸に対してどのような働きを持つのか、どのような食品に多く含まれているのかなど、大妻女子大学 家政学部食物学科 教授の青江誠一郎先生に伺いました。不足しがちな食物繊維を上手に取り入れて、腸活に役立てましょう。
概要・目次※クリックで移動できます。
腸活には食物繊維が重要
糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素に続く「第6の栄養素」と呼ばれるのが食物繊維です。人の消化酵素では消化できない物質のため、吸収して利用することはできません。しかし、整腸作用や余分な脂質・糖・ナトリウムなどを吸着して体の外に排出する働きなど、腸活にかかわるさまざまな健康効果を有しています。
食物繊維の種類は非常に多く、その分類にもいくつかの方法があります。広く知られているのが水に溶けない「不溶性食物繊維」と水に溶ける「水溶性食物繊維」です。それぞれ次のような特徴があります。
「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」の主な働き
不溶性食物繊維 | 水溶性食物繊維 |
---|---|
・便のカサを増やして腸の働きを刺激する | ・糖質の吸収を穏やかにして血糖値の急上昇を抑える ・小腸で胆汁酸やコレステロールを吸収し、体外に排出しやすくする ・乳酸菌やビフィズス菌など体に良い働きをする腸内細菌を増やす |
さらに昨今注目されているのが、腸内での発酵のしやすさによって「発酵性食物繊維」「難発酵性食物繊維」に大別する分類法です。発酵性食物繊維には多くの水溶性食物繊維と、一部の不溶性食物繊維が該当します。代表的な成分は下記のとおりです。
「発酵性食物繊維」と「難発酵性食物繊維」の代表成分
発酵性食物繊維 | 難発酵性食物繊維 |
---|---|
βグルカン アラビノキシラン ペクチン 難消化性オリゴ糖 イヌリン アルギン酸 レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)など |
セルロースなど |
発酵性食物繊維が多く含まれる主な食品は次のとおりです。
- 穀類
大麦、オーツ麦(オートミール)、小麦全粒粉、玄米など - 野菜、果物
バナナ、キウイ、玉ねぎ、ごぼう、らっきょう、とうもろこし、アボカドなど - 豆類
大豆、小豆など - 海藻類
ワカメ、昆布、ヒジキなど - いも類
さつまいも、長いもなど
例えば大麦にはβグルカン、小麦全粒粉にはアラビノキシラン、キウイにはペクチン、バナナや玉ねぎ、豆類には難消化性オリゴ糖、ごぼうやらっきょうにはイヌリン、海藻類にはアルギン酸、いも類にはレジスタントスターチが、それぞれ多く含まれています。
セルロースが主な成分の難発酵性食物繊維に該当する食材は、玄米、小麦、大豆、小麦ふすま、えんどう豆などです。
発酵性食物繊維が作り出す「短鎖脂肪酸」の働き
発酵性食物繊維の特徴は、腸内細菌(善玉菌)のエサとなり、腸内細菌が代謝・分解される過程で「短鎖(たんさ)脂肪酸」を作り出すことにあります。
腸で作られる短鎖脂肪酸には多くの種類がありますが、代表的なのが次の3つです。
- 酢酸
腸の粘膜にできた傷の修復を促し、腸から体内へと異物が入らないようにするバリアー機能を担う作用があります。病原菌やウイルスの侵入を防ぐ「IgA(免疫グロブリンA)」の産生を促進するというマウスを対象とした研究結果もあります※1。 - 酪酸
腸内細菌の活動を活発にし、免疫機能を高めたり大腸の炎症を抑えたりする作用があります。また、関節リウマチや膠原病(こうげんびょう)、潰瘍性(かいようせい)大腸炎などに代表される自己免疫疾患やアレルギーは、免疫細胞の一つであるT細胞が誤って自分の体を攻撃することで発症します。このT細胞の暴走を抑えて調整する「制御性T細胞」の増加に酪酸が関与しているというマウスを対象とした研究結果もあります※2。 - プロピオン酸
体内に吸収されると肝臓で代謝され、血液中のコレステロールを減らす働きがあるといわれています。また、妊娠中の母親の腸内で作られるプロピオン酸が、生まれてくる子どもの肥満を抑制するというマウスでの研究報告もあります※3。
※1:Hidenori Shimizu, et al. Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids, Glycative Stress Research6 (3): 181-191.2019.(https://www.toukastress.jp/webj/article/134/)を2024年5月21日に参照
※2:Yukihiro Furusawa, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature504:446-450.2013.(https://www.nature.com/articles/nature12721)を2024年5月21日に参照
※3:Ikuo Kimura,et al.Maternal gut microbiota in pregnancy influences offspring metabolic phenotype in mice.Science 28:367(6481).2020.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32108090)を2024年5月21日に参照
さらに、食べ過ぎにより摂取エネルギーが過剰になると短鎖脂肪酸の量も大きく増加しますが、短鎖脂肪酸を認識するセンサー(受容体)である「GPR43」が活性化し、脂肪組織への余分な蓄積を抑え、肥満を防ぐこともマウスでの研究結果で明らかにされています※4。
※4:Ikuo Kimura,et al.The gut microbiota suppresses insulin-mediated fat accumulation via the short-chain fatty acid receptor GPR43. Nature Communications4, Article number: 1829. 2013.(https://www.nature.com/articles/ncomms2852)を2024年5月21日に参照
発酵性食物繊維の効果的な摂り方とは
免疫力強化や肥満予防も期待できる短鎖脂肪酸を増やすためには、毎日の食事で発酵性食物繊維を積極的に摂ることを心がけたいものです。
効率よく発酵性食物繊維を摂取するには、主食に大麦やオーツ麦(オートミール)、小麦全粒粉、玄米などを取り入れるのがおすすめです。
現在の日本人の1日あたりの食物繊維の目標量は18~64歳の男性で21g以上、女性で18g以上です(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より※5)。
※5:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.htmlを2024年6月3日に参照
白米や精製された小麦粉を使用したパン、うどんなどを、玄米や全粒粉のパン、麺類に置き換えれば、100~150gあたり5~6g程度の発酵性食物繊維が摂れると推定できます。これを1日3食摂れば15~18gと、1日の目標量のほとんどを摂取できると考えられます。そのうえで豆類や海藻類を使った副菜もプラスすれば、無理なく目標量をクリアできるでしょう。
1日3食、それぞれの食事で発酵性食物繊維を摂るのが基本ですが、中でも朝食は重要です。腸が刺激されて体内時計がリセットされ、朝食で発酵性食物繊維を摂取すると1日を通じて腸内細菌のエサとなり、短鎖脂肪酸による健康効果が期待できます。
ただし、発酵に対して腸が過敏に反応する体質の人もいます。多くの発酵性食物繊維はゆっくりと発酵するため、それほど腸の刺激になる心配はありませんが、フルクタンやイヌリン、オリゴ糖などは発酵のスピードが比較的速く、摂取した後におなかがゴロゴロし不調をきたすケースもあります。小腸内で消化・吸収しにくい糖質であるFODMAPが影響する場合もあります。
関連記事:食物繊維に要注意!お腹が繊細な人こそ知っておきたい「FODMAP(フォドマップ)」
発酵性かどうかにかかわらず、食物繊維が不足しているとおなかが張りやすくなったり、ガスが出やすくなったりします。思い当たる場合は1週間程度続けて、食物繊維を多く含む食品を摂ってみましょう。
もしそれでも改善しない場合は、腸の状態が悪くなっている可能性があるので、早めに内科あるいは消化器内科を受診することが大切です。
監修者プロフィール
青江 誠一郎先生(大妻女子大学 家政学部食物学科 教授)
【青江誠一郎(あおえ せいいちろう)先生 プロフィール】
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
農学博士。日本食物繊維学会理事長。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授、2007年から教授、2022年から同大学大学院人間文化研究科教授。『最強!毒出しごはん: 3つの食物繊維が毒を排出 免疫力を高める!』(河出書房新社)など著書多数。