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カンタン健康生活習慣

食物繊維に要注意!お腹が繊細な人こそ知っておきたい「FODMAP(フォドマップ)」

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監修/江田 証先生(江田クリニック院長)

「腸活には食物繊維」と、積極的に摂取している方も多いでしょう。しかし、過敏性腸症候群の患者さんなど、人によっては食物繊維でかえってお腹の調子が悪化することがあるのをご存じでしょうか。ポイントは、小腸で吸収されにくい発酵性の糖質「FODMAP(フォドマップ)」。このFODMAPを多く含む食品を一定期間避ける食事法によって、お腹の症状を軽減できる可能性があります。どのように実践すればよいのか、江田クリニック院長の江田証先生に伺いました。

食物繊維や発酵食品がかえってお腹に悪い人も

食物繊維や発酵食品がかえってお腹に悪い人も

「腸の健康のためには食物繊維が大切」だとよくいわれます。腸内細菌が食物繊維をエサとして代謝すると、健康に有益とされる短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を作り出すため、食物繊維を積極的に摂取したほうが良いと考えられています。

関連記事:発酵性食物繊維で無理のない腸活を

お腹の調子に問題がない人であれば、たしかに食物繊維は腸の健康に良いといえるでしょう。しかし、食物繊維によってかえってお腹の調子が悪くなる人もいるのです。腸に炎症や腫瘍などが見つからないにもかかわらず、お腹の張りや下痢、便秘、腹痛などの症状が出る「過敏性腸症候群」の患者さんです。

関連記事:過敏性腸症候群(IBS)とは?症状と原因、検査と治療法を解説

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健康な人と過敏性腸症候群の患者さんでは、腸内細菌の種類が異なるという研究結果が報告されています。この研究では、過敏性腸症候群の患者さんでは健康な人と比べて、酢酸やプロピオン酸を多く作り出す腸内細菌が増加していたほか、酢酸やプロピオン酸が多い患者さんほど症状が重くなっていました※1。過敏性腸症候群の患者さんが食物繊維をたくさん摂取すると、短鎖脂肪酸が過剰に産生され、お腹の張りや下痢、腹痛などの原因になる可能性があります。

※1:Tana C, et al. Neurogastroenterol Motil. 2010 May;22(5):512-519, e114-115.

お腹の不調の原因かも?「FODMAP」とは

お腹の不調の原因かも?「FODMAP」とは

過敏性腸症候群の患者さんにおける不調の原因の一つとして、「FODMAP」があります。FODMAPとは、小腸で吸収されにくい4種類の発酵性糖質を指す用語です。

Fermentable:発酵性の、Oligosaccharides:オリゴ糖、Disaccharides:二糖類、Monosaccharides: 单糖類、And、Polyols:ポリオール(糖アルコール)

江田証監修『自分で治す過敏性腸症候群の本』(宝島社)を参考に作成

通常の糖質は小腸で吸収されますが、FODMAPは小腸で吸収されにくいことから、そのまま大腸に送られます。過敏性腸症候群の患者さんがFODMAPを多く含む食品を食べると、腸内細菌がFODMAPを急速に発酵させて分解します。その際、腸内でガスや過剰な短鎖脂肪酸が産生されて、お腹の張りや下痢、便秘などの症状を引き起こす場合があります。実は、食物繊維を多く含む食品の中にもFODMAPを多く含むものがあります。

過敏性腸症候群の患者さんがFODMAPを多く含む食品を避けることで、症状の改善が期待できます。過敏性腸症候群以外に、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患でも、炎症が落ち着いている状態にもかかわらずお腹の不調を抱えている炎症性腸疾患の患者さんがFODMAPの少ない食事を摂ることで、症状の改善につながったという報告があります※2。なぜなら、炎症性腸疾患をもつ人では、一般の人よりも乳糖と果糖の吸収不良をもっている率が高いからです。重要なことは、どの食品によってどのような症状が出るかは個人差が大きく、食べても症状が出ない食品まで避ける必要はないということです。

※2:Pedersen N, et al. World J Gastroenterol. 2017 May 14;23(18):3356-3366.

「腸の声を聞く」食事法を実践してみよう

「腸の声を聞く」食事法を実践してみよう

FODMAPを多く含む食品をいったん避けて、どの食品が自分の症状に影響しているかを調べる食事法があります。以下の3ステップで進めます。

①3週間、FODMAPを多く含む食品を避ける

以下の表を参考に、3週間にわたってFODMAPを多く含む食品を避け、それらが少ない食品を選択するようにします。これは、後にFODMAPを多く含む食品の摂取を再開した際に、自分に合う糖質、合わない糖質をより明確に知るためです。FODMAPの多い食品を厳密に避けられるほど「腸の声がよく聞こえる」と理解してください。

FODMAPが多い食品(穀物:小麦、大麦、ライ麦、パン、パスタ、ラーメン、うどんなど 野菜・いも・豆類:玉ねぎ、にんにく、ごぼう、きのこ類、カリフラワー、アスパラガス、キムチ、さつまいも、豆類(大豆、いんげん豆、ひよこ豆、レンズ豆、あずき)、納豆、絹ごし豆腐など 果物:りんご、すいか、メロン、桃、アプリコット、梨、グレープフルーツ、柿、マンゴー、いちじく、FODMAPの多い果物を含んだジャム、ドライフルーツ、缶詰の果物など 乳製品・乳製品を含む食品:牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、生クリーム、プロセスチーズ、クリームチーズ、ミルクチョコレート、カスタード、プリンなど 調味料など:トマトケチャップ、はちみつ、オリゴ糖、人工甘味料(ソルビトール、キシリトールなど)、コーンシロップ(果糖ブドウ糖液糖など)、バーベキューソース、カレーソース、バルサミコ酢など 飲み物:FODMAPの多い果物を含んだジュース、オレンジジュース、ウーロン茶、チャイ、レモネード(加糖)、エナジードリンク、甘いワイン・スパークリングワインなど)
      FODMAPが少ない食品(穀物:米、玄米、もち米、米粉類、そば(そば粉100%のもの)、グルテンフリーの食品、オートミール、キヌアなど 野菜・いも・豆類:なす、トマト、ブロッコリー(茎を除く)、ピーマン、にんじん、かぼちゃ、きゅうり、じゃがいも、オクラ、レタス、大根、キャベツ、木綿豆腐など 果物:バナナ、いちご、ぶどう、レモン、ライム、キウイフルーツ、みかん、オレンジ、ラズベリー、ブルーベリー、クランベリー、ココナッツクリームなど 乳製品・乳製品を含む食品:バター、カマンベールチーズ、チェダーチーズ、モッツァレラチーズなど 調味料など:マヨネーズ、オリーブオイル、メープルシロップ、しょうゆ、酢、トマトソース(玉ねぎやにんにくを含まないもの)、魚油、マスタード、オイスターソース、ピーナッツバター、味噌など 飲み物:水、緑茶、紅茶、コーヒー(ブラック1日1杯まで)、ココア、レモネード(無糖)、ビール、ジン、日本酒、ウイスキー、甘くないワイン・スパークリングワインなど

江田証監修『自分で治す過敏性腸症候群の本』(宝島社)を参考に作成

〈外食やテイクアウトにも便利!FODMAPの多い食品を上手に避けるためのポイント〉

  • 小麦より米を選ぼう
    小麦はフルクタンを多く含みます。パン、パスタ、ラーメンは避け、FODMAPの少ない米を選びましょう。小麦が除かれたパン(グルテンフリーのパン)や、米粉でできたパンや麺(フォーなど)も代わりの選択肢になります。
  • ヨーグルトに注意!
    乳製品の中でも、牛乳やヨーグルトは乳糖を多く含みます。特にヨーグルトは、「お腹に良いから」とたくさん摂取している人も見受けられますが、ヨーグルトをやめるだけでお腹の症状が改善する人もいます。
  • 玉ねぎとにんにくは必ず避ける
    FODMAPの多い食品でも、少量であれば症状を悪化させないものもありますが、玉ねぎやにんにくは、少量でも症状の引き金になりやすい食品だといわれています。ドレッシングなどの加工食品も含め、3週間は完全に避けてみましょう。
  • 甘いジュースは避けよう
    市販の清涼飲料水には、「果糖ブドウ糖液糖」などの甘味料が使用されているものが多くあります。名前のとおり果糖が多いため、避けたい食品の一つです。パッケージを確認しましょう。腸の健康という点で最も適している飲み物は水(炭酸を含まないもの)です。

②1週間に1種類ずつ、糖質別にFODMAPの多い食品を試す

どの糖質が自分に合わないのか知るために、以下のスケジュールと分量に沿って、1週間に1種類ずつ、糖質別にFODMAPの多い食品を試していきます(にんにく、玉ねぎ、豆類、きのこ類は熱を加えたもの)。

1週目:フルクタン
・パン2切れまたはにんにく1片を毎日食べる
・最終日には玉ねぎ1/4個も食べる

2週目:ガラクトオリゴ糖
・レンズ豆、いんげん豆、ひよこ豆のいずれか1つを毎日1/2カップ食べる

3週目:乳糖
・牛乳1/2~1カップ、またはヨーグルト170gを毎日食べる

4週目:果糖
・はちみつ小さじ1杯またはマンゴー半分を毎日食べる

5週目:ソルビトール・マンニトール
・桃、生のアプリコット、またはきのこ類1/2カップを毎日食べる

③FODMAPの多い食品を食べた後の症状の変化を確認する

②で食べても症状が出なかった糖質は、今後も食べて問題ありません。ただし、FODMAPの少ない食品であっても、食べすぎるとFODMAPの総量が増えることで症状が悪化することがあるため、注意してください。
食べたときにお腹の張り、腹痛、下痢などの症状が出たら、その糖質を多く含む食品は引き続き避けるようにします。

まずは受診して、他の病気がないか確認を

まずは受診して、他の病気がないか確認を

腸の不調があってこの食事法を試したい場合は、まず医療機関を受診して大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。お腹の張りや下痢、便秘、腹痛といった過敏性腸症候群の症状は、大腸がんなど他の病気でも生じることがあるためです。「ストレスが多いから過敏性腸症候群に違いない」などと自己判断せず、他の病気がないことを確認してから食事法に取り組みましょう。

なお、「FODMAPの多い食品のすべてを一生避けなければならない」と誤解されることがあるのですが、そんなことはありません。FODMAPの5つの糖質(フルクタン、ガラクトオリゴ糖、乳糖、果糖、ポリオール)のうち、どれが自分の腸に合わないのか(耐性がないのか)を見極めて、合わない糖質だけを避けるのです。また、FODMAPは食物アレルギーとは異なります。食物アレルギーの場合、少しでもアレルゲンとなる食品を食べると命にかかわる可能性がありますが、FODMAPの場合は少量であれば症状を引き起こさないケースも多くありますので、神経質になりすぎる必要はありません。むしろ、FODMAPの多い食品のすべてを長期にわたって完全に断つと、糖質の摂取量が減りすぎたり、ミネラル不足につながったりする可能性も考えられますので、上記で紹介した期間を守って実践してください。

また、体に合わない食品があったとしても、その食品を生涯にわたって食べられないとは限りません。食べられる食品が変化することもあります。年に1回程度、それまで合わなかったFODMAPの多い食品を食べてみて腸の声を聞く機会を設けて、食べられる食品を見直すことも大切です。

監修者プロフィール
江田 証先生(江田クリニック院長)

【江田証(えだ あかし)先生 プロフィール】

江田クリニック院長
医学博士。自治医科大学大学院医学研究科修了。自治医科大学消化器内科を経て現職。日本消化器病学会奨励賞受賞。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバー。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)などメディア出演多数。『新しい腸の教科書 健康なカラダは、すべて腸から始まる』(池田書店)、『腸を治す食事術』(新星出版社)など著書多数。

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