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過敏性腸症候群(IBS)とは?症状と原因、検査と治療法を解説

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監修/溝上 裕士先生(新東京病院 健診部主任部長・消化器内科)

腸が精神的ストレスや自律神経失調などの原因により、刺激に対して過敏な状態になり、便通の異常を起こす過敏性腸症候群。腸の内臓知覚神経が、何らかの原因で過敏になり引き起こされると考えられています。強いプレッシャーや環境の変化などに伴う緊張や不安など、心理的なきっかけによって排便異常を起こすことがあるため、学業や仕事などに支障をきたすケースもあり、生活の質(QOL)に大きく影響します。過敏性腸症候群の症状と原因、検査と治療法について、新東京病院健診部・消化器内科の溝上裕士先生に伺いました。

過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome、以下IBS)は、腸の検査をしてもただれや腫瘍などが認められないにもかかわらず、慢性的に腹部の張りや不快感、腹痛を訴えたり、下痢や便秘などの便通の異常を繰り返したりする疾患です。ここで大切なのは、IBSは原則として大腸内視鏡検査で腸に異常がないことを確認した上で診断されるということです。

ネットなどを検索するとさまざまな情報が入手できるため、検査をしないで「自分はきっとIBSだ」と自己判断する人や、「ストレス性」というところにばかり目が行き心療内科などを受診する人が若い世代で増えていて、実は大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病だったというケースも少なからず報告されています。特に40歳以上の方が自己判断し、医療機関を受診しないと大腸がんが見過ごされることもあるので要注意です。日常的にストレスを感じていて、下痢や便秘を繰り返しているということだけを理由に、安易な自己判断を行うのがもっとも危険です。たしかに、原因にはストレスなどメンタル面の影響があることが考えられますが、症状が出ているのはあくまでお腹です。まずは胃腸を専門とする消化器内科の医師に相談し、その症状に向き合うことが正しい診断のためにとても重要であることを知っておいてください。

過敏性腸症候群(IBS)の症状

IBSは、その症状の現れ方から大きく下痢型・便秘型・混合型という3つに分けられます。外来においては男性、特に40歳以下の若い世代で下痢型が多く、女性の場合には年代問わず便秘型が多い傾向にあります。下痢と便秘を繰り返す混合型は前者2つの型に比べると少ない印象です。

腸の働きは通常、便が下りてきたときにその便を通過させるために規則正しく動いて便を押し出していくのですが、下痢型のIBSの場合、便が下りているわけでもないのに腸だけが不規則に動くのが特徴です。また「下痢になってしまうのではないか」というプレッシャーそのものがストレスとなり、腸の不規則運動を誘発するという悪循環もあります。「脳腸相関」という言葉があり、脳と腸は密接に関連しています。心配なことや重要なイベントが控えていると、自律神経に異常をきたして腸が自分の意思にかかわらず動くことがあると考えられます。
「過敏性―」の病名から、まずは下痢型を想像する方も多いと思いますが、便秘もこの病気の特徴的な類型です。便秘型は、逆に腸の動きが鈍くなり、便を通過させるために必要な蠕動(ぜんどう) 運動が低下し、便を押し出す力が弱くなるのが特徴です。一般的に女性に便秘型が多い理由は、はっきりとは分かっていませんが、生理周期などホルモンが関わっているのではないかと考えられています。IBSと思い込んでいたら実は婦人科系疾患が隠れていたということもあるので、これも安易な決めつけや自己判断は危険です。

過敏性腸症候群(IBS)の原因

IBSは心身のストレスや暴飲暴食、過度の飲酒、不規則な食生活などで内臓神経が過敏になることにより発症することが多いため、まずは生活習慣の改善を行います。ストレスが原因とみられる場合は、その原因をはっきりさせてストレスを緩和していくことが必要です。
食生活の乱れは、IBS発症にかなり強い相関関係があります。IBS治療の第一歩が食事指導を含めた生活習慣改善と位置づけられている※1ことからも、正常な便を生成できる食事量をきちんと摂り、偏りのない食事内容を心がけることが大切です。

※1:日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS)改訂第2版」(https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf)を2023年12月15日に参照

過敏性腸症候群(IBS)の検査

IBSの診断には、先述の通り大腸内視鏡検査を実施します。ただその目的は内視鏡でIBSの原因を突き止めるというものではなく、その他の器質的疾患(大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病など)との鑑別を行うためです。高齢などの理由で大腸内視鏡検査の実施が難しい人には、CT検査のみ行い、大きな病変がないかをおおまかに確認することもあります。このほか、原因は異なるのですがIBSと非常によく似た症状の小腸内細菌異常増殖症(SIBO)という病気があるので、いずれにしても消化器専門医による適切な検査が大事です。

過敏性腸症候群(IBS)の治療法

薬による治療

下痢型の場合には高分子重合体という腸管の水分を吸収し、便の水分量をコントロールする薬剤を用います。また、腸の運動を促すホルモンのセロトニンは精神状態に関わる物質なので、セロトニン受容体拮抗薬を使うこともあります。1日1~2回の服用で症状の改善が期待できる薬剤です。下痢による腹痛が強く出ているときにはコリン薬を使う場合もあります。

便秘型の場合には酸化マグネシウムの処方が一般的で、症状によっては上皮機能変容薬が併用もしくは単剤で処方されます。患者さんが希望する場合には漢方薬も処方可能です。

生活改善指導

IBSの治療では、下痢型・便秘型・混合型を問わず基本的な食事指導を含めた生活改善指導を行います。繰り返しになりますがIBSは脳腸相関、つまり社会心理ストレスが発症や増悪因子となることが分かっています。外的要因には個別の対処が必要ですが、自身の生活習慣を見直し、規則正しい生活や十分な睡眠を心がけるだけでも予防効果が期待できます。

中でも、食生活の正常化が便通改善にはとても大切です。1日3食を決まった時間にきちんと摂る、これにつきます。まずは何でも良いので朝1日の活動を始める前に食べることを習慣づけましょう。野菜や繊維質の食物を意識して取り入れられるとなお良いです。便秘型の場合に見過ごせないのが、食事をきちんと摂っていないために便が出ないという人が若い世代で非常に多いということです。特に朝食を摂らないために便秘になることが少なくありません。食事のバランスや時間の乱れを改善するだけでも、かなり症状は緩和されます。

過量なアルコール摂取は消化液の正しい分泌を妨げ、それによって下痢や便秘を誘発することもあるので、アルコールはできるだけ控えることをおすすめします。また、運動不足の場合にはできる範囲で週1~2回のウォーキングなどから始めてみてください。体の適度な疲れが食事や睡眠の改善にも大いに役立ちます。

監修者プロフィール
溝上 裕士先生(新東京病院 健診部主任部長・消化器内科)

【溝上裕士(みぞかみ ゆうじ)先生プロフィール】

新東京病院 健診部主任部長・消化器内科
1981年3月東京医科大学卒業。兵庫医科大学、国立加古川病院、東京医科大学、蒲郡市民病院を経て、2011年筑波大学附属病院光学医療診療部部長・病院教授、2018年同院消化器内科科長、2020年11月より現職。専門は消化管疾患の診断と治療、特に消化性潰瘍、炎症性腸疾患。主な著書に『消化性潰瘍診療ガイドライン2015 改訂第2版』(2015年南江堂/共著)、『慢性便秘症診療ガイドライン2017』(2017年南江堂/共著)、『ピロリ除菌治療パーフェクトガイド第3版』(2020年日本医事新報社/共著)など。

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