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病気と医療の知って得する豆知識

心を癒やし、絆を深める「手当て」の不思議な力!

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監修/山口 創(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)

仕事や日々の生活はもちろん、大きく変化し続ける社会状況や環境などによってストレスを抱える人が増えています。そういった中、いつでもどこでもすぐに癒やし効果を得られる方法として注目されているのが手で体に触れる「手当て」です。なぜ触れたり、触れられたりすることによって人は癒やされるのか、桜美林大学リベラルアーツ学群教授の山口創先生に伺いました。

「手当て」が生み出す‟絆ホルモン”

お腹が痛いときに手で腹部をなでる、不安や緊張を感じるときに手で頬に触れて気持ちを落ち着かせる……。

このように何気なく体のどこかに手を当てて、自分自身を癒やしていることは多いもの。あるいは信頼関係を築いている人に手で触れたり、その人からやさしく触れられたりすることでリラックスしたり、幸福感に包まれたりした経験がある人も少なくないことでしょう。

ケガや病気などの処置をする医療行為を「手当て」といいます。言葉の由来は諸説ありますが、私たちが普段から自然に行っている「手を当てる」ことによって得られる癒やし効果が原点という説もあります。

なぜ手で肌や体に触れると痛みが和らいだり、心が穏やかになったりするのでしょうか。その理由の一つとして挙げられるのが「絆ホルモン」「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンの存在です。

オキシトシンは人の脳で合成され、分泌される物質で、主にホルモンや神経伝達物質としての働きがあります。脳から分泌されるオキシトシンの量は、親しい人と触れ合うなどのスキンシップによって増大することがさまざまな研究から分かっています。

愛情がこもった皮膚刺激は安らぎを与え、ストレスを緩和する、人との信頼関係を築く、母子の絆を深めるなど、さまざまな社会的行動と関わっていると考えられています。オキシトシンが「絆ホルモン」「幸せホルモン」と呼ばれるのはこの働きがあるためです。

オキシトシンの分泌を促す触れ合いのコツ

オキシトシンの分泌を促し、癒やし効果を得るためには次の3つのポイントが重要です。

1 お互いに触れ合うことが快適だと思える相手とスキンシップを図る

触れたい、触れてもらいたいという気持ちをお互いに共有することが不可欠です。触れたくない、触れてほしくないと思う相手とスキンシップを図ってもオキシトシンの分泌量アップはあまり期待できません。

2 自分自身がリラックスした状態で、愛情をもって触れる

オキシトシンには相手の感情と同調する作用があるといわれています。自分自身がリラックスした状態で人に触れることで相手もより安心でき、相手が喜んでくれることで自分もまたハッピーになり、オキシトシンの分泌が促進される効果が期待できます。「面倒くさい」などと思わずに愛情や思いやりをもって触れることで、自分自身を癒やすことにもつながります。

なお、相手が緊張や不安を感じていたり、興奮したりしているときにはぎゅっと圧をかけて抱きしめたり、包み込むように手を握ってあげたりすると自律神経の副交感神経が優位になり、心を落ち着かせる効果が高まります。

3 ゆっくりしたスピードで5~10分触れ続ける

英国の神経心理学者らによって行われた研究(※1)で、1秒に5cm前後の速度でなでたときに最も気持ちよく感じるという結果が出ています。

触れる速度によって神経線維の反応が違い、1秒に5cm前後のスピードで触れたときに反応する神経線維(C触覚線維)から、脳内の感情に関わる部位である扁桃体や自律神経、ホルモンの調節を司る視床下部など、さまざまな部位にゆっくりした速度で触覚情報が届きます。

このように触れることにより体温を一定に保ったり、食欲を抑制することから肥満を防ぎ血糖を一定に保ったり、ストレスを緩和したりするなどの働きが見られることが分かっています。

(※1)Essick,G.K.et al.Neuroreport Jul 13;10(10):2083-2087.1999.

また、スウェーデンのカロリンスカ研究所で行われた、人間が筆でラットに触れたときのオキシトシンの分泌量についての研究では、触れてすぐの段階ではオキシトシンは分泌されないものの、5分ほど続けると分泌されるようになり、触れるのをやめてからも10分程度は分泌され続けることが分かっています。

家族など人にマッサージをしたりするときはもちろん、セルフマッサージを行うときにもゆっくりしたスピードで5~10分程度続けるのがおすすめです。

セルフマッサージの4つのポイント

セルフマッサージを行う際は、次のポイントをぜひ意識してみましょう。

1 テレビを見ながらなどの「ながらマッサージ」ではなく、自分の皮膚の感覚に意識を集中させる

手で触れたところがどのように感じるか、自分の感覚に意識を向けてみましょう。

2 オイルやクリームなどをなじませてゆっくりマッサージする

何も塗らずにマッサージするよりも、オイルやクリームをつけて行ったほうが心地良く感じ、リラックス効果が高まる傾向にあります。

3 ゆっくり深呼吸をしながら行う

深い呼吸によって副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。

4 背中やお腹の下(丹田)は10秒ほど手を当てて温める

ストレスの緩和などの効果が期待できます。

なお、リラックスとは反対に、「頭をシャキッとさせたい」「眠気を早く覚ましたい」といったときは、オイルやクリームはつけず、少し速めのスピードで皮膚をさすってみましょう。自律神経の交感神経が優位になり、覚醒効果が生まれます。

不安やストレス、苦痛などを和らげて心を癒やし、親しい人とより良い関係を築く。これが「手当て」によって得られる最も大きな効用だと考えられます。

「自分は元気だから大丈夫」と思っていても、人に触れられることによって、ストレスで体が凝り固まっていたり、心が想像以上に疲れていたりすることに気がつくケースは少なくありません。

家族や友人、パートナーなど可能な範囲で触れ合える相手との時間を大切にしましょう。プロのマッサージを受けるのも一つの方法ですが、癒やし効果を得るためには強めにもみほぐすタイプより、やさしいタッチでなでるようなタイプのマッサージを選ぶことも大切です。

監修者プロフィール
監修/山口 創(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)

【山口 創(やまぐち はじめ)先生プロフィール】

桜美林大学リベラルアーツ学群 教授
臨床発達心理士。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は身体心理学、健康心理学。聖徳大学人文学部講師を経て、現職。『手の治癒力』(草思社)、『皮膚感覚の不思議』(講談社ブルーバックス)、『からだの無意識の治癒力』(さくら舎)など著書多数。

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