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胃腸・肛門の痛みや不調

便秘、下痢、おならは「腸疲労」のサイン

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監修/藤田紘一郎先生(東京医科歯科大学名誉教授)

食べ過ぎたわけではないのに、おなかの調子が悪い……。それは、“腸が疲れている”のかもしれません。現代の生活には、腸を疲れさせる要因がたくさんあるのです。腸疲労の原因や対策、予防法について、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生に伺いました。

腸疲労で3つの機能が低下

腸には、(1)食べ物を消化する、(2)栄養素や水分を吸収する、(3)不要なものを便として排出する、という働きがあります。腸が疲れると、これらの機能が低下してしまいます。すると、便秘や下痢、臭いおならが出るといった症状が表れます。また、腸には免疫細胞の60~70%が存在しているとされており、腸が弱るとアレルギーの原因になることもあります。

では、「腸が疲れる」とはどのような状態なのでしょうか。それは、腸内細菌のうち善玉菌(有用菌)が減ってバランスが崩れ、それが影響して腸の粘膜がきちんと修復されずに“荒れた”状態です。

現代の生活には、腸が疲れる原因があふれています。まず、食事です。善玉菌のエサとなる食物繊維の摂取量が減り、腸内細菌の働きを妨げる添加物の摂取量が増えています。肉類の摂り過ぎも、腸にとってはよくありません。たんぱく質は悪玉菌のエサになるのです。悪玉菌の産生物が臭いおならのもとになります。

そして、刺激が多く不規則な生活も、腸が疲れる原因になります。腸内細菌は食物繊維というエサを食べて、体に必要な成分(短鎖脂肪酸やビタミンB群、ビタミンKなど)を作り出しています。この働きをするのは夜中。睡眠中、副交感神経が優位になっているときです。しかし、現代の生活は夜でもテレビやネットなどの刺激に囲まれて、交感神経優位の時間が長くなっています。

あなたの「腸疲労度」をチェック

このように、腸を疲れさせる原因は、食事だけでなく生活のさまざまな場面にあります。あなたの「腸疲労度」をチェックしてみましょう。

  • 野菜やキノコ、海藻をあまり食べない
  • 肉をよく食べる
  • インスタントやレトルト食品、出来合いの食品をよく食べる
  • 甘いものが大好き
  • 食事の時間が不規則だ
  • 夜更かしすることが多い
  • 睡眠時間が短い(6時間以下)
  • ほとんど運動しない
  • まじめで、完璧主義である
  • コロナ禍の前から、除菌・抗菌グッズを愛用している

当てはまるものが1~3個の人は、「腸疲労予備軍」、4~6個の人は「やや腸疲労」、7個以上の人は「超腸疲労」です。腸の状態を整えるには、チェックをつけた項目を一つでも改善するよう、心掛けていただきたいと思います。

腸疲労を回復する3つのポイント

それでは、腸を休めて機能を回復するために大切なこと、腸疲労にならないために心掛けたいことをご紹介します。

〈1〉善玉菌のエサ、食物繊維を摂る
まず大切なのは、腸内にいる善玉菌のエサとなる食物繊維を摂ることです。ご存じのとおり、腸内には善玉菌と悪玉菌、そして日和見菌がいますが、腸疲労にならないためには、善玉菌に元気に働いてもらうことが必要です。

食物繊維にも「水溶性」と「不溶性」の2種類があり、善玉菌がエサにするのは主に水溶性食物繊維です。善玉菌は水溶性食物繊維を食べて、短鎖脂肪酸という成分(代謝産物)を出します。短鎖脂肪酸とは、酢酸(お酢の成分)、酪酸(バターなどに含まれる成分)、プロピオン酸をまとめた名称です。これが、腸の粘膜のエネルギーになる、腸の蠕動運動を促進する、免疫機能を高める、といった働きをするのです。

食事がどのくらい腸の健康に影響しているかを示す、次のような報告があります。

食物繊維が多く低脂肪の食事が主のアフリカ人(アフリカ農村部の住民)と、動物性たんぱく質・動物性脂肪の摂取量の多いアフリカ系アメリカ人を比べると、前者のアフリカ人では酪酸産生細菌が多く、後者のアメリカ人では胆汁酸代謝細菌の数が多いということが分かりました。胆汁酸代謝産物の一部には発がん性があることも示唆されています。こうしたことが分かったところで、この2グループの食事を2週間入れ替える実験を行いました。すると、腸内細菌叢とその代謝産物に変化が表れ、がんのリスクを示すバイオマーカーが、アフリカ人で高まり、アメリカ人で減った、という結果になりました。

水溶性食物繊維が多い食品は、大麦などの穀物や、こんにゃく、大豆、らっきょう、ゴボウなどです。

ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌やビフィズス菌も、腸にいい食品です。ヨーグルトの場合、使われている菌がさまざまで、合うものは人によって違います。どんな菌がどのくらいいるのかという腸内細菌の構成が人によって違うため、相性のいい菌、あまりよくない菌があるのです。どれが自分に合っているかを知るには、2週間、その食品を摂ってみて便秘などが改善されたかをみてください。改善した場合は相性のいい菌、そうでなかった場合は相性があまりよくない菌だと判断できます。

〈2〉睡眠をきちんととる

腸内細菌が働くのは、主に夜中、副交感神経が優位になっているときです。睡眠が不十分だと腸内細菌が十分に働けず、腸内の状態が乱れてしまいます。

腸では、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質も作られています。セロトニンは精神の安定に関わっているもので、“幸せホルモン”と呼ばれることもあり、ドーパミンは“やる気ホルモン”ともいわれます。腸が健康でないと、これらのホルモンが作られなくなり、気持ちが落ち込んだりイライラしたりすることにつながるリスクがあります。また、セロトニンは“睡眠ホルモン”の原料となるもので、これが足りないと睡眠が乱れたりするという悪循環に陥りかねません。

〈3〉運動で腸を刺激する

運動も効果的です。腸を刺激する運動として、藤田先生は「スカイツリー体操」を勧めています。体を動かすことで、腸も動きます。

[スカイツリー体操]

①足を肩幅に開く。腕を上に伸ばし、左右の手首を返して交差させ、手のひらを合わせる。

②そのまま体を横へゆっくり倒す。元の位置に戻った後、反対側も同様に行う。

③体を前にゆっくり倒す。元の位置に戻った後、後ろにも倒す。

④体を横にゆっくりねじる。元の位置に戻った後、反対側も同様に行う。①~④を1分ほど行う。

このほか、ストレスをためない(ストレスが大きくなると交感神経優位になり、腸内細菌が働かない状態になります)、おなかを温める、といったことも心掛けたいことです。

腸をいい状態に保って、楽しい生活を送りましょう。

きれいで元気な腸でいることが大切なのね。
食物繊維、しっかり摂らなくちゃ♪

監修者プロフィール
藤田紘一郎先生(東京医科歯科大学名誉教授)

【藤田紘一郎(ふじた こういちろう)先生プロフィール】

東京医科歯科大学名誉教授
1939年中国・旧満州生まれ。東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。テキサス大学研究員、長崎大学医学部教授などを経て、1987年東京医科歯科大学医学部教授。2005年定年退官、名誉教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『腸内細菌を増やせば「太らない」「病気にならない」』(だいわ文庫)、『免疫力 – 正しく知って、正しく整える -』(ワニ・プラス)など著書多数。

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