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その他症状

万病のもと、慢性炎症を防ぐ!

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監修/大石 由美子先生(日本医科大学大学院医学研究科代謝・栄養学分野 大学院教授)

「炎症」といえば、赤く腫れたり熱を持ったりするイメージを抱く人が多いかもしれませんが、外には表れず、体内でくすぶり続ける「慢性炎症」をご存じでしょうか。この慢性炎症が、がんや生活習慣病などさまざまな病気の発症に関係していることが分かってきました。慢性炎症とはどんなもので、どうしたら防げるのでしょうか。日本医科大学大学院医学研究科代謝・栄養学分野 大学院教授の大石由美子先生に伺いました。

自覚症状のないまま続く「慢性炎症」とは?

慢性炎症は脂肪細胞から全身に波及

炎症は、体を守るために免疫機能が働くことで起きる防御反応です。一般的によく知られているのは「急性炎症」でしょう。急性炎症は、けがをしたときや、細菌・ウイルスに感染したときなどに生じるもので、体内に入ってくる異物を排除しようとする正常な働きです。発赤(赤くなること)、熱感(熱を持つこと)、腫れ、痛み、機能障害(例えば足の炎症に伴う痛みで歩けなくなる、など)という5つの特徴がみられます。通常は数日から1週間程度でおさまります。

一方、「慢性炎症」は、軽度の炎症が体内で長期にわたってじわじわと続く状態です。急性炎症と違って自覚症状はなく、必ずしも特定の細菌やウイルスの感染によって生じるわけではありません。慢性炎症はさまざまな病気と関連すると考えられています。例えば、生活習慣病(肥満、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪肝炎など)は、慢性炎症が発症に関係しています。これらが重なると動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳卒中など)につながります。また、一部のがんも慢性炎症を基盤として発症する病気のひとつと考えられています。

慢性炎症は脂肪細胞から全身に波及

慢性炎症は脂肪細胞から全身に波及

慢性炎症はなぜ生じるのでしょうか。急性炎症と比べてみましょう。

急性炎症の場合、外傷や感染によって、その部分に白血球が集まってきます。集まった白血球は「炎症性サイトカイン」という物質を出し、さらに多くの白血球を呼び寄せて細菌などの異物を排除しようとします。異物が排除されると、炎症はおさまります。

異物に対して白血球が集まり、炎症性サイトカインを出す。炎症性サイトカインがさらに白血球を呼び寄せて、遺物を排除する→炎症がおさまる

一方、慢性炎症の開始に外傷や感染は必須ではなく、例えば肥満時の脂肪組織で起こる可能性があります。脂肪組織には皮下脂肪と内臓脂肪があり、内臓脂肪のほうが生活習慣病リスクが高いとされているため※1、生活習慣病の発症に関係している慢性炎症も起こりやすいと考えられます。

余分なエネルギーを摂取し、体内に脂肪が蓄積されると、脂肪組織を構成する脂肪細胞一つひとつが太って大きくなります。すると、脂肪細胞から脂肪分解によって放出された飽和脂肪酸に惹かれて白血球が集まることで炎症が生じ、炎症性サイトカインが放出されて、さらに白血球が呼び寄せられます。外傷や感染ではないのに、急性炎症と同じような事態が起こるわけです。急性炎症の場合は、傷が治ったり異物が排除されたりすることでおさまりますが、慢性炎症は、原因となる脂肪細胞をすぐに取り除けるわけではないため、炎症が長く続いてしまいます。

さらに、炎症性サイトカインの働きで、脂肪細胞に含まれる遊離脂肪酸が放出されます。遊離脂肪酸は、血流に乗って全身に運ばれ、他の臓器や組織にも慢性炎症を波及させます。例えば、血管に慢性炎症が波及すると、動脈硬化の原因となります。膵臓で慢性炎症が生じると、血糖値をコントロールするインスリンの分泌が低下し、糖尿病の発症につながります。糖尿病はがんのリスクを高めることも分かっています。このようにして、慢性炎症は全身に影響し、さまざまな病気の引き金となるのです。

脂肪細胞に白血球が集まり炎症を起こし、炎症性サイトカインが出される。炎症性サイトカインによってさらに白血球が呼び寄せられ、遊離脂肪酸が放出される→遊離脂肪酸が血液に乗って全身に運ばれ、慢性炎症が広がる

※1:Fox, C. S. et al. Abdominal visceral and subcutaneous adipose tissue compartments: association with metabolic risk factors in the Framingham Heart Study. Circulation 116, 39–48 (2007).

生活習慣の改善が慢性炎症予防の近道

生活習慣の改善が慢性炎症予防の近道

慢性炎症は自覚症状がありません。しかし、肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病が重なるほど、慢性炎症も進行していることが推測されます。健康診断で脂質やコレステロール、血圧、血糖値などに異常がみられる場合は、放っておかずに受診しましょう。既に脂質異常症や高血圧、糖尿病などで薬を飲んでいる場合は、自己判断で中断することなく治療を継続することが、慢性炎症対策としても大切です。

また、慢性炎症は脂肪細胞で生じることから、減量して慢性炎症のもとになる脂肪を減らすことが、根本的な対策になります。減量は、糖尿病や高血圧などの改善にも直結します。BMI(体重[kg]÷身長[m]2)が25未満となるのを目安に取り組みましょう。

減量のためには生活習慣の改善が必要です。第一に意識したいのは食生活です。野菜や果物を積極的に食べましょう。飽和脂肪酸を多く含む肉の摂取は控えめにするのが効果的です。魚に含まれる不飽和脂肪酸は、細胞をしなやかにする、炎症を抑制するなど、体に良い影響が多いとされていますので、肉よりも魚を積極的に摂取しましょう。また、減塩も心がけたいものです。1日の食塩摂取量の目安は6g未満とされています。アルコールを摂りすぎないこと(1日あたり日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、焼酎なら半合、ウィスキー・ブランデーならダブルで1杯、ワインなら2杯が目安)※2、タバコをやめることも大切です。

運動も習慣づけたいものです。中等度の有酸素運動(息が軽く上がる程度のウォーキングなど)を毎日30分以上行うのが目安となります。

生活習慣の改善に関しては、「これだけやればいい」「これさえ食べれば大丈夫」というものはありません。上記の内容を複合的に取り入れることを心がけましょう。

※2:特定非営利活動法人日本高血圧学会、特定非営利活動法人日本高血圧協会、認定特定非営利活動法人ささえあい医療人権センターCOML編『一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子 高血圧の話』
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf(2022年12月5日閲覧)

監修者プロフィール
大石 由美子先生(日本医科大学大学院医学研究科代謝・栄養学分野 大学院教授)

【大石由美子(おおいし ゆみこ)先生】

日本医科大学大学院医学研究科代謝・栄養学分野 大学院教授
1998年、群馬大学医学部卒業。2006年、東京大学大学院にて博士号(医学)を取得。群馬大学医学部附属病院、国立病院機構高崎総合医療センター、榊原記念病院などを経て、2009年から米国カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。帰国後、東京医科歯科大学難治疾患研究所准教授を経て、2018年より現職。内科・循環器内科の診療も担当する。

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