目・耳・鼻
侮れない、大人に起こる危険な鼻血
監修/三輪 高喜先生(金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科学 主任教授)
多くの血管が集中する鼻の粘膜は、ちょっとした刺激や傷などで出血しやすい傾向にあります。しかし、「たかが鼻血」と侮るのは避けたいものです。その陰には深刻な病気が潜んでいるケースがあるからです。一般的な鼻血の原因と、正しい止血方法、危険な鼻血などについて、金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科学 主任教授の三輪高喜先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
一般的な鼻血の原因とは
鼻を強くかむ、ぶつける、鼻の穴を指でいじる、鼻毛を抜く、といった物理的な刺激によって起こる鼻血は、ほとんどの場合、鼻の穴を左右に分ける壁である鼻中隔(びちゅうかく)の入口にある「キーゼルバッハ部位」(下図参照)からの出血です。キーゼルバッハ部位は、鼻の穴から1~2cmのところの鼻中隔前方に位置し、ほんの少し指を入れると指先で触れることができます。この部位には多くの静脈と毛細血管が集中し、また粘膜も薄いため、傷がつくと出血しやすい傾向にあります。
※三輪先生の取材を基に作成
子どもの頃はよく鼻血が出たという経験がある人や、自分の子どもがよく鼻血を出すという親御さんも少なくないのは、子どものほうが大人よりも鼻の粘膜が薄いため、少しの刺激でも傷つき、出血しやすいためといえます。こうした子どもの鼻血も含め、鼻の粘膜の傷による鼻血は一時的なものがほとんどです。短時間で止まるため、あまり心配はありませんが、頻繁に鼻の穴をいじったり、鼻毛を指で強く引き抜いたりするようなクセがあるならば控えましょう。また、空気が冷たく乾燥する冬は、鼻の粘膜の表面にある粘液も乾き、傷つきやすくなります。マスクをつけることは鼻の粘膜の保護にも役立つと考えられます。
なお、「チョコレートやピーナッツを食べ過ぎると鼻血が出る」「のぼせると鼻血が出る」といった説が古くから聞かれますが、医学的な根拠はありません。
鼻血の止め方の間違いと正解
鼻血が出たら、速やかに「正しい方法」で止血することが重要です。実は間違った方法で鼻血を止めようとしているケースが少なくありません。間違いの多い例は次のとおりです。
【間違い例1・ティッシュを鼻の穴に詰める】
ティッシュをつたって鼻血が出てくるため止まりにくくなるほか、ティッシュの繊維などで鼻の粘膜を傷つけ、さらに出血する部位を増やしてしまう可能性があります。ティッシュを抜く際に、かさぶたをはがしてしまうリスクもあります。
【間違い例2・上を向く】
上を向くと、鼻血がのどに流れて飲み込んでしまうことになります。すると血液に含まれる鉄分が胃で酸化して、嘔吐を引き起こす要因になる場合があります。その際、横になったりしていると吐しゃ物がのどに詰まり、窒息の原因になる恐れもあるため、鼻血が出たときに上を向くのは避けることが重要です。
【間違い例3・首を叩く、鼻を冷やす】
首を叩いたり、鼻を冷やしたりすると鼻血が止まりやすい、という説がありますが、いずれも科学的根拠はなく、思うような効果は期待できません。
では、どのような方法が正しいのでしょうか。その答えは次のとおりです。
★鼻血の正しい止め方※1
- 1 椅子などに腰かける
(病気や要介護状態など、どうしても体を起こしていられない場合以外、横になるのは避ける) - 2 少しうつむき、出血している側の小鼻(鼻のふくらんでいる部分)を指で押さえる
- 3 5分程度、指を離さずに、じっと押さえ続ける
大抵の場合、この方法で鼻血は止まります。もし5分程度で止まらない場合は、「危険な鼻血」が疑われます。
※1:一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学学会ホームページ
(https://www.jibika.or.jp/modules/nose/index.php?content_id=1を2023年10月4日に参照)
危険な鼻血の症状をチェック
危険な鼻血とは、前述のキーゼルバッハ部位からの出血だけではなく、鼻腔の奥にある蝶口蓋(ちょうこうがい)動脈から出血しているケースです。また蝶口蓋動脈に加え、上方の前篩骨動脈(ぜんしこつどうみゃく)なども危険な鼻血です。
何らかの要因で動脈の血管が裂けると大量の出血を引き起こし、鼻を押さえたタオルがすぐに真っ赤に染まるような事態になります。
高血圧の場合はこうした動脈性の出血を起こしやすく、また出血した際の勢いが強いため、止まりにくくなることがあります。
また、次のような病気が原因で鼻血が出やすくなったり、止まりにくくなったりする場合もあります。
- 血液を固める作用のある凝固因子(ぎょうこいんし)が作られにくくなる、肝硬変などの肝臓の病気
- 血小板が少なくなる白血病や、凝固因子が生まれつき欠損している血友病などの血液の病気
- 血液の凝固を助け、出血を止めるために必要なたんぱく質を作ることができない腎不全などの慢性の腎疾患
- 鼻腔や副鼻腔にできる鼻の腫瘍の病気
肝臓や血液、腎臓の病気が原因の鼻血の場合は、大量の出血ではなく、じわじわした出血が長く続くのが特徴です。
また、「オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)」という全身の血管に異常が起こる難病でも、鼻血をくり返しやすくなります。
さらに、脳梗塞や心筋梗塞などの治療のために、血液をサラサラにして血栓を予防する薬(抗血小板薬、抗凝固薬)を服用している場合も、鼻血が出たときに止まりにくくなる原因となります。
次のような症状が見られるときは、速やかに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
- 前述の正しい方法で止血を行っても、5分以上出血が止まらない
- 出血量が明らかに多い
- 毎日、あるいは1日おきなど、短期間に何度も鼻血をくり返す
- 歯ぐきなど、他の部位からも出血している
- 顔色が青ざめている
- 鼻血に加え、発熱もしている
- 出血の勢いが強く、下を向いて鼻を押さえていても、血がのどのほうまで流れてくる
※三輪先生の取材と一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページ(https://www.jibika.or.jp/owned/contents4.htmlを2023年10月5日に参照)を基に作成
医療機関でもまずは止血するための処置を行いますが、医師が診断することで鼻の腫瘍など、隠れている病気が見つかる場合もあります。病気の早期発見・早期治療のためにも、「いつもとは違う鼻血だ」と感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。
監修者プロフィール
三輪 高喜先生(金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科学 主任教授)
【三輪高喜(みわ たかき)先生プロフィール】
金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科学 主任教授
金沢医科大学 副学長、理事。金沢医科大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部甲状腺外科センター長、耳鼻咽喉科科長。医学博士。1983年、富山医科薬科大学医学部卒業。高岡市民病院耳鼻咽喉科医長、バージニア州立大学医学部客員教授、金沢大学大学院医学系研究科准教授などを経て、2009年より金沢医科大学部門教授(主任教授)、2016年より同大学副学長。日本鼻科学会常任理事。