手軽に効果!運動・ボディケア
つま先立ちで高血圧予防も!どこでも簡単トレーニング
監修/新浪 博先生(東京女子医科大学病院 心臓血管外科 教授)
概要・目次※クリックで移動できます。
ふくらはぎが重要なのはなぜ?
「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎ。その理由をご存じでしょうか。私たちの体内では、次のようなメカニズムで血液が循環しています。
- 1 心臓から血液が勢いよく送り出される
- 2 血液は動脈を通り、心臓から体の末端へと向かって流れる
- 3 体の末端に到達した血液は、静脈を通って心臓に戻る
上記の「3」のときに力を発揮するのがふくらはぎです。というのも、足先まで流れてきた血液を心臓に戻すためには、重力に逆らって押し上げる力が必要だからです。ふくらはぎの筋肉が収縮と弛緩をくり返し、ポンプのような役割を担うことで、スムーズに血液を心臓に戻すことができるのです。
しかし、血液が心臓に戻る途中で押し上げる力が低下すると、重力に負けて逆流する恐れもあります。それを防ぐため、静脈には「静脈弁」と呼ばれる扉のようなものが多数付いています。(下図参照)
●静脈弁のイメージ図
参考:新浪先生の取材をもとに作成
血液が心臓に戻る際には弁が開き、血液が足先に逆流しようとする際には弁が閉じます。この弁はもともと薄く壊れやすい構造をしていますが、加齢や出産、長年の立ち仕事の影響などの要因で壊れてしまうと、逆流した血液が静脈内にたまることに。その状態が長期にわたって続くと、静脈がデコボコしたり、曲がりくねったりする「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」を引き起こす要因となります。こうした病気を防ぐ意味でも、ふくらはぎの筋肉のポンプ機能を維持することが大切です。
つま先立ちでふくらはぎの筋肉を強化!
ふくらはぎの筋肉を鍛える方法は、ジョギングやウォーキング、筋力トレーニングなどいろいろあります。しかし、仕事などで忙しい日々を送っていると、運動のために時間を作ったり、定期的にジムに通ったりするのはなかなか難しいものです。また、外で行うスポーツは天候にも左右されがちです。
筋力を高め、キープしていくためには毎日コンスタントに続けることが重要です。いつでもどこでも簡単にできて、続けやすい方法をぜひ取り入れましょう。
そこでおすすめしたいのが「つま先立ち」です。文字通り、ただつま先で立つだけでふくらはぎの筋肉が刺激され、筋力アップにつながります。具体的な方法は次の通りです。
●つま先立ちトレーニング
- 1 壁などに両手のひらを当てて、まっすぐ立つ
- 2 両足のかかとを上げて10秒間キープ。その後ゆっくりかかとを下ろす
- 3 2を1セットとして5回くり返す
上記の時間や回数は目安なので、できる人はかかとを上げて20~30秒間キープしたり、1日に何回もくり返し行ったりしてもOKです。ただし、疲れない範囲で行うようにしましょう。通勤時に電車のつり革につかまってつま先立ちをするなど、隙間時間を利用して行うのも一考です。
●座って行うつま先立ちトレーニング
- 1 椅子に浅く座り、背筋を伸ばす
- 2 手で椅子の端をつかんだ状態で両足のかかとを上げて10秒間静止し、ゆっくりとかかとを下ろす
- 3 2を1セットとして5回くり返す
つま先立ちで期待できる効果とは
つま先立ちによってふくらはぎの筋肉が鍛えられると、全身はもちろん、特に下半身の血流が良くなります。ふくらはぎの筋肉が収縮・弛緩して、ポンプのように静脈内の血液を送り流すことで、正常に血液を心臓に戻すことができます。血流が良くなると代謝も促進されるため、足がむくみにくくなる効果が期待できます。また、足の冷えを改善しやすくなるというメリットもあります。
さらに注目したいのが、動脈硬化や高血圧の予防につながる点です。動脈硬化とは、動脈の血管が硬くなり、弾力性や柔軟性が失われた状態のこと。血管内に血栓が生じたり、血管老廃物などのかたまりであるプラークが付着したりすることで血管が詰まりやすくなり、進行すると心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まります。
動脈硬化によって血管の弾力性や柔軟性が低下すると、血圧が高くなりやすくなります。
高血圧が続くと血管がダメージを受け、動脈硬化につながる場合もあります。
動脈硬化と高血圧は密接な関係にあり、予防のためには血管のしなやかさや軟らかさを保つことが大切です。
そこで重要な役割を担うのが、血管の内皮細胞で産生され、分泌される「NO(エヌオー:一酸化窒素)」です。NOには主に次のような働きがあります。
- 血管を拡張して、血管の弾力性を保つ
- 硬くなり、ダメージを受けた血管(動脈硬化)を修復する
NOの分泌は、血流が加速し、血管の内壁が刺激を受けることで促進されます。つま先立ちを習慣にすることで全身の血流が良くなれば、血液中のNOが増え、血管がしなやかで軟らかい状態に近づくと考えられます。結果的に、動脈硬化や高血圧の予防につながる可能性も高くなります。
もちろん血管だけでなく、筋肉そのものに対する効果も見逃せません。ひざから下の筋力が強化されることで足を持ち上げやすくなるため、ちょっとした段差でつまずいたり、うっかり転倒したりといった事故やケガの予防につながります。
ふくらはぎの筋肉が引き締まり、美脚につながる可能性もあります。
なお、つま先立ちをしたときに足にしびれなどの異常を感じた場合は、血管などに何らかの問題がある可能性が考えられます。早めに医療機関を受診しましょう。
また、次のような血管の障害に伴う症状や疾患がある場合は、つま先立ちを無理に行うことで血管に負荷がかかり、血流が悪くなる要因となるので避けましょう。
間欠性跛行
少し歩くと足にしびれや痛みが生じ、少し休むとまた歩けるようになる状態。閉塞性動脈硬化症
手足の血管に生じる動脈硬化で、冷えやしびれ、歩行時の痛みなどがある。労作性狭心症
階段を上る、重い物を持つなどの体に負荷がかかる動きをしたときに、胸の圧迫感や痛み、締め付け感が生じる。
動脈硬化や高血圧対策は若いうちから
「まだ自分は若いから心配はないだろう」とつい思いがちですが、ストレスや喫煙、脂質の多い食事の取り過ぎといった要因によって、30代、40代でも動脈硬化や高血圧を発症する人は少なくありません。
将来的に大きな病気を患うことがないよう、「まだ大丈夫」と思えるうちからしっかり予防していくことが大切です。その予防法の一つとして、つま先立ちを無理なく続けていきましょう。
また、血圧を測定するのは年1回の健康診断や人間ドックのときだけ、という人も多いかもしれませんが、40代以降はできれば血圧計を自宅に用意し、毎日測るのが理想的です。血圧は時間帯やその時の状況などによって常に変動しているので、起床時、食後、就寝前というように、1日数回測定することで自分の血圧の傾向が見えてきます。明らかに高い数値が続く場合は、早めに受診しましょう。
監修者プロフィール
新浪 博先生(東京女子医科大学病院 心臓血管外科 教授)
【新浪博(にいなみ ひろし)先生プロフィール】
東京女子医科大学病院 心臓血管外科 教授
1987年、群馬大学医学部卒業後、東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所に入局し、米・ウェイン州立大学、豪・アルフレッド病院などに留学。帰国後、東京女子医科大学附属第二病院心臓血管外科助教授、順天堂大学医学部心臓血管外科助教授、埼玉医科大学国際医療センター心臓病センター心臓血管外科教授などを経て現職。
若いからといって油断できない、動脈硬化や高血圧などの生活習慣病のリスク。予防のカギとなるのが「血流」です。特に滞りやすい下半身の血流の改善におすすめなのが「つま先立ち」。その方法や健康効果について、東京女子医科大学病院 心臓血管外科教授の新浪博先生に伺いました。