
手軽に効果!運動・ボディケア
ウォーキングで脳活を!生活習慣病予防につなげよう
監修/浦上 克哉先生(鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座<寄付講座>教授)

最近、物忘れが増えてきたと感じることはありませんか?加齢と共に認知機能は低下していくものですが、将来の認知症予防には生活習慣の改善が欠かせません。定期的な運動もその一つ。気軽にできて、なおかつ継続しやすいウォーキングは、実は「脳活」(脳の働きを活性化させる活動や習慣)にも効果的です。認知症予防としての運動の効果や、歩きながら脳を活性化する方法などについて、鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座<寄付講座>教授の浦上克哉先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
若い世代にも認知症のリスクはある

2050年には日本における認知症患者数は586万人以上、認知症予備軍とされるMCI(軽度認知障害)の患者数は631万人以上にのぼる。こうした推計が、九州大学の研究により示されています※1。
つまり、25年後には認知症およびその予備軍が1200万人を超えることになります。超高齢化が進む社会では、将来的に誰でも発症するリスクがあると考えられます。また、認知症やMCIは高齢者だけでなく、年齢が若くても発症する場合があります。
65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」といい、2020年3月に発表された18~64歳人口における人口10万人当たりの若年性認知症者数(有病率)は50.9人と推定されています※2。
働き盛り世代では「自分はまだ大丈夫」「認知症の心配はない」と考える人も多いかもしれません。しかし、脳と心身の健康を末永く維持するためにも、早いうちから認知症の予防に努めることが大切です。
※1:令和5年度老人保健事業推進費等補助金「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(研究代表者 九州大学 二宮利治教授)
※2:日本医療研究開発機構認知症研究開発事業による「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」(2020年3月)
運動不足は認知症のリスク因子の一つ

認知症には、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などが原因で起こる「血管性認知症」や、レビー小体という異常なタンパク質が蓄積して神経細胞が障害される「レビー小体型認知症」、前頭葉と側頭葉を中心とする神経細胞が障害される「前頭側頭型認知症」などいくつかの種類があります。
最も患者数が多いのが「アルツハイマー型認知症」です。脳内でつくられるタンパク質の一種「アミロイドβ」の蓄積などにより、神経細胞が壊れてしまうことが原因で発症します。65歳未満の若年性認知症でも、アルツハイマー型認知症が過半数を占めています。
■原因疾患別若年性認知症有病率

データ:日本医療研究開発機構認知症研究開発事業による「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」(2020年3月)
アルツハイマー型認知症の要因には、加齢や遺伝など自分では変えられないものもありますが、生涯を通じてリスク因子となるものとして次の12項目が報告されています※3。
- 1 教育水準の低さ
- 2 高血圧
- 3 肥満
- 4 難聴
- 5 喫煙
- 6 抑うつ
- 7 運動不足
- 8 社会的孤立
- 9 糖尿病
- 10 過度の飲酒
- 11 頭部外傷
- 12 大気汚染
これらのリスク因子をすべて修正できれば、認知症の40%は予防可能または進行を遅らせることができると考えられています。
※3:Livingston G,et al. Lancet.2020;396:413-446.
中でも運動不足がアルツハイマー型認知症の発症と強く関連するリスク因子であり、運動習慣が認知症予防の面からも重要であることを示す報告※4もあります。
※4:Barnes DE,et al. Lancet Neurol.2011;10:819‒828.
運動による認知症予防の効果とは

運動にはまず、全身の血流を促進する効果があります。全身の血流が良くなれば、脳の血流も増加します。十分な血流があることで、脳の働きを担う神経細胞が活性化します。また、体を動かすことで感じるさまざまな感覚が脳にインプットされることでも、神経細胞は活発に働きます。
さらに近年では、運動すると神経細胞の成長や再生を促す物質であるBDNF(脳由来神経栄養因子)が増え、認知機能を高めることが動物を用いた研究で分かってきました※5。
※5:CW Cotman,et al. Trends Neurosci.2002;25(6):295-301.
運動にはさまざまな種類がありますが、認知症予防に効果的なのは有酸素運動です。おすすめしたいのは散歩のような、ゆっくりと酸素を吸ったり吐いたりしながら歩く運動です。誰でも取り入れやすく、習慣化しやすいでしょう。
息が上がるようなジョギングやマラソンなどハードな運動は、ケガのリスクもあるため認知症予防の観点からはあまりおすすめできません。
働く世代は通勤などで歩く機会はあるかもしれませんが、デスクワークなどが中心だとどうしても運動不足になりがちです。意識して1日の歩数を増やすようにするなど、積極的に歩くことを心がけましょう。
ウォーキングと頭の体操を同時に行う

認知症予防のためには、運動と知的活動(頭の体操)を同時に行うのも効果的です。例えば、歩くときに次のような知的活動をプラスするとよいでしょう。
- 歩数を数えて、決まった数がきたら早歩きする
- 周りの景色をよく見て、建物の数を数える
- 道に咲いている花の名前を当てたり、香りをかいだりする
出典:『科学的に正しい認知症予防講義』(浦上克哉著、翔泳社)
頭の中で暗算やしりとりをしながら歩くといった方法もありますが、あまりそちらに集中し過ぎると事故などのリスクがあるので注意が必要です。できれば公園やスポーツジムのウォーキングマシンなど、安全な場所で行うようにしましょう。
室内でできる有酸素運動+頭の体操として、次の2つもおすすめです。
■「足踏み+拍手」

- 1 声を出して歩数を数えながら30歩足踏みする。立って行っても、イスに座って行ってもOK
- 2 5の倍数で胸の前で手を叩き、30歩まで行う
※慣れてきたら3の倍数に変えるなど、難易度を調整する
■「足踏み+グーパー」

- 1 片手を胸の前でグー、反対の手は伸ばしてパーにして、声を出して歩数を数えながら30歩足踏みする。立って行っても、イスに座って行ってもOK
- 2 5の倍数のタイミングで右手と左手を入れ替えて、声を出して歩数を数えながら30歩足踏みする。
出典:とっとり方式認知症予防プログラム(https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1362911.htm別ウィンドウで開きます)を2025年2月20日に参照
筋トレやストレッチも併せて行う

なお、ウォーキングは誰でも気軽に取り入れられる有酸素運動であり、体重の増加や太り過ぎを気にする人にとっては余分な脂肪を燃焼させる効果も期待できます。一方で、歩き過ぎると筋肉のもととなるアミノ酸が分解され、かえって筋力が落ちてしまう恐れがあります。高齢者は筋力が低下すると、転倒やケガのリスクが大きくなります。骨折を機に寝たきりになってしまう例も少なくありません。
認知症予防の観点からは1日7000歩程度にとどめ、スクワットなどの筋力トレーニングや、体の柔軟性を保つストレッチを併せて行うのがおすすめです。十分な筋力や柔軟性があると日常生活での動作がスムーズになり、転倒予防につながります。また、転倒しても骨折しにくくなるというメリットもあります。
知的活動については、なるべく手書きで文字を書くようにする習慣も大切です。仕事などでパソコンを使う機会が多い場合、いざ自分で書こうとするとまったく書けない、という事態に陥りがちです。パソコンやスマートフォンに頼らず、自分でどんな漢字か思い出して書く、調べて書く、といったことも、立派な脳活の一つです。
監修者プロフィール
浦上 克哉先生(鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座<寄付講座>教授)
【浦上克哉(うらかみ かつや)先生プロフィール】
鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座<寄付講座>教授
医学博士。1983年、鳥取大学医学部卒業。同大学医学部脳神経内科講師などを経て、2001年より同大学医学部保健学科生体制御学講座・環境保健学分野教授を務める。2022年より現職。日本認知症予防学会理事長。日本認知症予防学会専門医。アルツハイマー型認知症および関連疾患を専門とし、診断マーカーの開発研究、外来での診察と治療、予防、ケアなど総合的に認知症に取り組む。