頭痛・風邪・熱
「もしかして喘息?」と思ったら!症状チェックと対処法
監修/大谷 義夫先生(池袋大谷クリニック院長)
特定の誘因に反応して、咳、喘鳴(ぜんめい)、息切れといった症状がみられる喘息。一般的に、子どもの病気だと思われがちですが、小児喘息が軽快後、大人になって再燃する方、成人してから発症する大人の喘息も増加し、大人喘息で悩む方が多くいるのが現状です。本記事では、喘息の原因や症状、発作時の対処法や日常生活における注意点について、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
喘息とは何か?その症状と原因
咳が長引いても「風邪が治っていないのかな」と軽く考えがちですが、2週間以上続く咳は風邪ではない可能性があります。長引く咳の原因として近年、咳喘息も増加しています。咳喘息の方の一部は気管支喘息に移行します。気管支喘息の患者の中で、年間1000人超が死亡※1していますので、しっかり対処および治療したいものです。まずは、喘息の症状と原因を知っておきましょう。
※1:独立行政法人環境再生保全機構:ぜん息などの情報館(https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/investigation/prevalence/02.html別ウィンドウで開きます)を2024年11月12日に参照
喘息の症状
喘息は、気道の慢性的な炎症により、咳、喘鳴(ぜんめい:呼吸をする時にゼーゼー、ヒューヒューと音がなること)、呼吸困難などの症状が繰り返し起こる病気です。気道そのものが過敏になり、冷たい空気による刺激や、ダニ・ハウスダストなどのアレルゲン(アレルギー物質)に敏感に反応し、気管支が狭くなることで発作を起こします。
近年、大人でも増えている咳喘息は、気管支喘息の一歩手前の状態で、痰が絡まない乾いた咳が長引きます。この段階で適切な治療を行わなければ、喘鳴や呼吸困難を伴う気管支喘息に移行する可能性があるため、咳喘息のうちに治療することが重要です。風邪をひいた後、咳だけがなかなか治まらない、早朝や夜間にせき込む、会話でせき込む、冷気や湯気や香水などさまざまな刺激でせき込むといった症状がみられます。咳止め用の市販薬を服用しても咳が止まらないといった症状が続く場合は呼吸器内科を受診しましょう。
喘息の原因 – アレルギーや気道の過敏性
喘息の主な原因は、アレルギー反応や気道の過敏性にあると考えられています。アレルギー反応とは、本来は無害なものに対して免疫系が異常な反応をすることを指します。喘息においては、住居内に生息しているダニやその死骸、糞などのハウスダストのほか、ペットの毛、花粉といったアレルゲンが発症の引き金となる可能性が高いとみられています。
また、風邪やインフルエンザ、コロナなどの呼吸器感染症を契機に発作を生じることも多くあり、台風や低気圧、寒暖差などの天候も影響します。そのほか、ストレスや過労、タバコの煙や大気汚染も気管支を刺激し、喘息発作を誘発することがあります。喘息の発作が起こる原因は多岐にわたり、人によってさまざまです。ご自身にとって何が発作の引き金になっているかを知り、そうした原因をできるかぎり避けることが望ましいです。
喘息の重症度と危険性
喘息の重症度は、軽症間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型の4段階に分けられます。中等症~重症の段階になると、毎日のように発作が出て日常生活や睡眠に支障をきたし、活動が制限されます。ひとたび発作が起きると症状が長引く、薬の効果が思うように得られないといった場合は、重症化の可能性も考慮する必要があります。
- 軽症間欠型:症状は週に1回未満、症状は軽度で短い。夜間症状は月に2回未満。日常生活は可能。
- 軽症持続型:症状は週1回以上だが毎日ではない。月1回以上症状がみられ、日常生活や睡眠が妨げられる。夜間症状は月に2回以上。日常生活は可能だが一部制限される。
- 中等症持続型:症状は毎日。週1回以上、日常生活や睡眠が妨げられる。夜間症状は週1回以上。日常生活は可能だが多くが制限される。
- 重症持続型:増悪症状は毎日。夜間症状もしばしばみられ睡眠が妨げられる。睡眠が困難である。※2
※2:厚生労働省:成人喘息の疫学、診断、治療と保健指導、患者教育 (https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07.pdf別ウィンドウで開きます)を2024年11月1日に参照
喘息の症状チェックリスト
喘息の発作が起こると、喘鳴をはじめとする特徴的な症状がみられます。咳などの呼吸器症状を伴う別の病気と、症状の現れ方にどんな違いがあるのかを知り、適切に対処しましょう。
喘鳴の有無
呼吸のたびにゼーゼー、ヒューヒューといった音がなる喘鳴は、喘息の主な症状の一つです。喘息による気道の炎症で気管支が狭くなっているため、特に息を吐く時に笛を吹くような音が聞こえます。喘鳴の程度は個人によって異なり、喘息が重症化すると、聴診器がなくても聞こえるくらいに音が大きくなることがあります。喘鳴を感じたら早めに医療機関を受診し、喘息の可能性を確認することが重要です。喘鳴は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や心不全でも認めることがありますが、いずれにせよ、医療機関を受診して適切な診断を要する症状です。
咳の頻度と特徴
咳も喘息の典型的な症状の一つです。喘息に伴う咳は、特に夜間や早朝によく現れます。このほか、咳が出始めるとしばらく続く、話すと咳き込む、走ると咳が出る、布団に入ると咳が出るといった、特定の状況や動作の時に高い頻度で発作が起きることが多いです。
風邪をひいていないのに、長期間にわたり咳が続くのも喘息の特徴です。咳と同時に、ゼーゼー、ヒューヒューという喘鳴音が聞こえる場合、喘息の可能性が高いと考えられます。加えて、さまざまなアレルギー物質や、タバコの煙などの汚染された空気に含まれる刺激性物質に反応して咳が出る場合も喘息の可能性が疑われます。
呼吸困難感や息苦しさの程度
呼吸困難感や息苦しさは、喘息が疑われる重要な症状の一つです。喘息による気道の炎症が進行すると、気道が狭くなり、肺に入ってくる酸素量が少なくなるため、呼吸が苦しくなります。
息苦しさの程度は人によってさまざまです。会話をするのがつらい、横になると呼吸が苦しいといった場合はQOL(生活の質)が低下し、さらに進行して重症になると日常生活に支障をきたします。階段を上ったり、少し早歩きをしただけで息切れを感じたり、胸が締めつけられるような感覚がある場合は要注意です。すみやかに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。
喘息が疑われる症状
症状が現れるタイミングや誘因
喘息の症状が現れるタイミングや誘因は、人によってさまざまです。先に述べたようにアレルギー物質や刺激性物質に触れたことが発作の引き金となるケースが多いほか、季節の変わり目や風邪をひいた時、ストレスがたまっている時にも発作が起こりやすいといわれています。
また、春や秋の花粉シーズンに喘息の発作が起こる人もいます。喘息の人は、咳や息苦しさの症状がない時でも慢性的に気道の炎症が続き、炎症により気道は過敏になっています。その状態で花粉症を発症すると、花粉による鼻の炎症に気道が影響を受け、気道の炎症が悪化しやすくなるのです。自分の症状が出やすいタイミングや状況を把握することが、喘息の予防とコントロールに役立ちます。
喘息が疑われる場合の対処法
喘息が疑われる発作的症状が起きた場合、どのように対処したらよいでしょうか。医療機関を受診した場合と、ご自身でできる応急処置やセルフケアについて説明します。
医療機関への受診 – 診断と治療方針の決定
喘息が疑われる症状が出た場合は、早めに医療機関を受診し、正しい診断を受けることが大切です。呼吸器内科やアレルギー内科では、より専門的な知見に基づいた診断、治療を受けることができます。
医師は問診や聴診、胸部レントゲン、肺機能検査、呼気中一酸化窒素濃度測定(FeNO)、気道抵抗(モストグラフ)、血液検査などを行い、喘息の診断および重症度の評価を行います。その結果に基づき、適切な治療方針が決定されます。
喘息治療薬は、予防薬としての「長期管理薬」と、急性発作を治す「発作治療薬」に大別されます。発作治療薬だけでなく、長期管理薬の継続で気道の炎症を抑えることが喘息発作の予防とコントロールでは重要になります。
喘息発作時の応急処置と対処法
発作が起きると慌ててしまうかもしれませんが、まずは落ち着いて対処することが大切です。安静にしてゆっくり深呼吸しましょう。発作が起きたら、医師から処方された発作止めの薬(短時間作用性β2刺激薬)を使用します。悪化する、重症であるといった場合は、すみやかに救急外来を受診しましょう。 日ごろから発作が起きた場合の行動計画を医師と相談し、準備しておくことをおすすめします。
日常生活での喘息管理 ― 環境改善とセルフケア
喘息のコントロールには、薬だけでなく生活環境の改善やセルフケアが欠かせません。タバコの煙やハウスダストなど、気道の炎症を引き起こし、喘息の症状を悪化させるとみられる原因は避けること。部屋の掃除を徹底し、アレルゲンであるダニやカビの繁殖を防ぐことが大切です。
規則正しい生活リズムを心がけ、バランスの取れた食事や適度な運動を取り入れましょう。ストレスも喘息の引き金になることがあります。日ごろから自分なりのリフレッシュ方法を見つけ、ストレスをため込まないようセルフマネジメントできるように心がけましょう。
医師の指示に従って薬を適切に使用し、症状の変化に注意深く対処することで、喘息と上手に付き合うことができます。
喘息治療の選択肢 ― 吸入ステロイド薬と気管支拡張薬
喘息治療のガイドラインでは、重症度に応じ、長期管理時の薬物治療を定めています。成人喘息では4つの治療ステップに分類して治療薬を決定します。症状が改善し、3カ月安定したら薬を段階的に減量(ステップダウン)します。また、長期的に症状が悪化し、症状の安定が望めない時は、薬を段階的に増量(ステップアップ)します※3。
喘息治療の中心は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬と、発作を和らげる気管支拡張薬です。吸入ステロイド薬は毎日使用し、炎症を長期的にコントロールするのに効果的です。一方、気管支拡張薬は発作が出た時に使用することで、すみやかに効果が得られるのが特徴です。
吸入ステロイド薬は、取り扱いが比較的簡単で自宅で毎日使用できますが、正しい吸入方法で使うことが重要です。薬の使い方に不安があれば、医師あるいは薬剤師に確認することをおすすめします。
ステロイドと聞くと副作用が心配になる人もいるでしょう。しかし、吸入薬は内服薬(飲み薬)と異なり、全身への影響が少ないといわれています。用法・用量を守り、正しく薬を使用することで喘息のつらい症状をコントロールし、QOL(生活の質)の向上にもつながります。
※3:一般社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会 監修『喘息予防・管理ガイドライン2024』
喘息診断後の生活
喘息と診断されたら、日常生活ではどのようなことに留意すべきでしょうか。長期的な治療が必要な喘息をめぐっては、経済的な支援制度や、病気について学ぶ講演会や啓発イベントなどが実施されている場合があります。
喘息患者の生活上の注意点
喘息と診断されたら、生活習慣に気をつける必要があります。喫煙習慣のある人は、直ちに禁煙し、受動喫煙も避けましょう。こまめな掃除により、ハウスダストやペットの毛といったアレルゲンを減らすことも大事です。適度な運動と十分な睡眠を心がけ、ストレスや疲労をためないよう意識しましょう。
喘息治療以外で薬を使用する時にも注意が必要です。例えば、一部の解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)、高血圧症や緑内障治療に使用するβ遮断薬は、喘息の症状を悪化させる可能性があります。新たに薬を使用する場合は、喘息があることを医師や薬剤師に伝えましょう。
喘息に関する社会的支援制度と相談窓口
喘息の治療を進めるにあたって、経済的な支援を受けられる場合があります。治療期間が長期に及ぶ場合や、高額な治療を選択しなければならない場合、自治体によっては医療費を助成してくれる制度があります。お住まいの都道府県や市区町村の制度を確認し、活用しましょう。
喘息をコントロールするためには、医師に任せきりにするのではなく、ご自身やご家族が喘息について理解を深めることも大切です。喘息について相談、勉強したい場合には、地方公共団体や患者会、学会などが主催する講演会や啓発イベントへの参加も一案です。
喘息研究の最新動向と将来の治療法
喘息の研究は日々進歩していて、新たな治療法の開発が期待されています。重症の患者さんの治療法として近年、注目を集めているのが生物学的製剤です。アレルギーを引き起こす原因物質を分子レベルで標的に定め、症状のコントロールが良好となる可能性があります。
吸入ステロイドを最大限使用してもコントロール不良な重症喘息、難治性喘息は、生物学的製剤の適応になると考えられます。生物学的製剤は高額なため、患者さんの負担を減らす高額医療費制度や付加給付制度の活用も検討してみましょう。
監修者プロフィール
大谷 義夫先生(池袋大谷クリニック院長)
【大谷義夫(おおたに よしお)先生プロフィール】
池袋大谷クリニック院長
呼吸器内科医・医学博士。1963年東京都生まれ。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。1989年群馬大学医学部卒業。九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学などを経て、2009年に池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の患者数を誇る呼吸器内科のスペシャリストとして、テレビ等でも情報発信を行う。著書に『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP)など多数。