頭痛・風邪・熱
風邪の原因・症状は?回復までの目安と対処法
監修/市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
ウイルス感染による気道の炎症で、のどの痛みや鼻水・鼻づまり、くしゃみ、咳などの症状が出る「風邪」。一般的には冬場に多いものの、近年の気候変動による極端な気温変化などで、シーズンを問わずさまざまなウイルスの流行がみられます。本記事では、風邪の原因や症状、回復までの目安や対処法について「東京みみ・はな・のどサージクリニック」名誉院長の市村恵一先生に伺いました。
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風邪の原因と感染経路
風邪と一口にいっても、その原因となるウイルスは数百種類にも及びます。ここでは、「風邪」と診断される症状が起こる原因と、主な感染経路について説明します。
ウイルスによる上気道感染が主な原因
ウイルスによる気道の炎症を総称して、一般的に「風邪」といいます。コロナウイルス感染症も風邪の1タイプとして分類されます。ただし、インフルエンザウイルスによる感染症は「インフルエンザ」と呼ばれ、ほかの風邪とは別に扱われます。
風邪のウイルスは鼻や口から侵入し、上気道(鼻腔・副鼻腔・咽頭・喉頭)の粘膜で増殖して炎症を引き起こします。その結果、のどの痛みや鼻水・鼻づまり、くしゃみ、咳といった症状が多くみられます。ウイルスの種類によっては発熱や倦怠感などの全身症状も現れますが、症状としては比較的軽いケースがほとんどです。
しかしインフルエンザは、急激な高熱に加えて関節痛や筋肉痛、強い倦怠感などの全身症状が現れるケースが多いです。加えて、症状の急激な悪化や肺炎などの合併症リスクが高いため、抵抗力の弱い子どもや高齢者、免疫力の低下している方は特に注意が必要です。
風邪は誰もがかかる病気ですが、頻繁に風邪をひく、一度ひくと長引くといった場合には、疲労の蓄積や睡眠不足、栄養バランスの偏りなど、さまざまな原因によって免疫力が低下しているかもしれません。日ごろから規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。
飛沫感染と接触感染の2つの感染経路
風邪の感染経路は、大きく分けて飛沫感染と接触感染の2つが考えられます。感染している人が咳やくしゃみ、会話をした際に、口から飛ぶ病原体が含まれた小さな水滴(飛沫)を近くにいる人が吸い込む、もしくは浴びることにより、口腔粘膜や鼻粘膜、目の結膜に付着して感染するのが飛沫感染です。飛沫は1~2m飛び散るので、2m以上離れていれば感染の可能性は低くなるといわれています。また、飛沫が直接かからないかぎり、空気を介しての感染はありません。
接触感染は、感染している人に触れることで伝播する直接接触感染と、汚染されたドアノブや手すりを介して伝播する間接接触感染があります。ウイルスの付着した手で口、鼻、目を触ることで病原体が体内に侵入します。このように、日常生活のさまざまな場面に感染のリスクが潜んでいるため、日ごろからのこまめな手洗いやうがい、マスクの着用などの予防策が大切です。
風邪の症状と経過
風邪のウイルスは鼻や口から侵入し、上気道の粘膜で増殖して炎症を引き起こします。ここでは、感染直後からどのような症状が現れ、症状が落ち着くまでにどのような経過をたどるかを説明します。
くしゃみ、鼻水・鼻づまり、のどの痛みなどの上気道症状が現れる
ウイルスに感染すると、そうした異物を排除しようと免疫細胞が活性化し、その結果さまざまな炎症反応が起こります。この炎症反応は、のどの痛みや鼻水・鼻づまり、くしゃみといった局所的な症状として現れます。
鼻づまりは、ウイルス感染によって鼻粘膜が炎症を起こし、血管が拡張して腫れることで起こります。鼻水・づまりがあると、鼻腔に出口のある鼻涙管(びるいかん)や耳管にも炎症が及び、耳がつまった感じがします。耳管に炎症が及ぶと中耳炎にもなりやすいです。特に子どもは耳管が大人より短くて太く、風邪もひきやすいため注意しましょう。
ウイルスがのどの粘膜に感染すると、扁桃炎を含む咽頭炎(いんとうえん)や喉頭炎(こうとうえん)といった炎症が痛みを引き起こします。急性期は、のどの痛みでものを飲み込むのがつらくなったり、声がれによって会話しづらくなったりします。
発熱、倦怠感、頭痛などの全身症状を伴うことも
上気道症状のほか、炎症物質が血流を通じて全身に広がることで発熱がみられます。熱が高いと、倦怠感や頭痛、関節や筋肉の痛みを感じることもあります。免疫系の反応としての発熱は、ウイルス感染に対する防御反応であり、体が病原体と戦っている証拠でもあります。
風邪の発熱は37〜38度程度で、微熱から徐々に上昇し、数日で下がるのが一般的です。ただ、個人差もあり、お年寄りや基礎疾患のある人、免疫力が低下している場合は重症化するリスクがあります。また、症状がなかなか改善しない、あるいは1週間以上続くような場合は、細菌の二次感染の可能性があります。そうした場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
風邪の一般的な発病期間と回復までの目安
風邪の症状が良くなるまでの目安は、一般的に4日から1週間程度です。急性期は安静に過ごし、十分な睡眠と栄養のある食事を摂ることが免疫力を高め、早期回復に役立ちます。
逆に、睡眠不足や偏った食生活は風邪を長引かせ、時に悪化の原因にもなります。風邪のひき始めや、何となく体調がすぐれないと感じた時は、無理せず早めに休養を取りましょう。できれば仕事や学校を休んでゆっくり休息し、こまめな水分補給や消化の良い食事を心がけましょう。
風邪の予防法
風邪をひかないためには、先に述べた大きく2つのルート(飛沫感染と接触感染)からの感染をいかに防ぐか、そして体のバリアー機能(免疫力)によってウイルス感染を阻止できるかがポイントです。
手洗い、うがい、マスク着用で飛沫感染と接触感染を防ぐ
手洗いとうがいは、病気の予防に役立つ基本かつ有用な衛生習慣です。ウイルスや細菌の多くは口から侵入します。石けんを使い、指の間や爪の間までしっかり洗うことで、接触感染を防ぐことができます。
うがいも、のどの清浄や感染症予防の観点からおすすめです。風邪でのどに痛みがある時はポビドンヨードやアズレン含嗽液(がんそうえき)などの市販のうがい薬を使用しますが、日ごろの感染症予防においては塩水うがい、もしくは水道水などで行ってもかまいません。
マスクの着用も効果的です。ウイルスを含んだ飛沫を防ぐだけでなく、ご自身が感染した風邪を人にうつさないという点でも有用です。また、マスクで口と鼻を覆うことで、のどや鼻の粘膜を乾燥から守る保湿効果も期待できます。
栄養バランスの取れた食事と十分な睡眠で免疫力を維持
風邪をひきやすいと自覚している人は、免疫力を低下させる要因がないか、ご自身の生活を振り返ってみましょう。栄養面で偏りのない食事を摂っていますか?ぐっすりと眠れる質の良い睡眠を、疲れが取れる必要な時間とれていますか?忙しい毎日でも、バランスの取れた食事や十分な睡眠で身体の抵抗力を高め、健康な状態を保つことが大事です。
生活リズムの基礎となる食事や睡眠は、ライフステージによって、最適な量や時間が異なります。大切なのは、一度決めたらできるだけ同じ時間に食事を摂り、寝起きするよう努めること。こうした習慣の積み重ねが、病気になりにくい安定した健康状態につながります。
適度な運動と湿度管理で体調を整える
日ごろからの運動習慣も風邪の予防に効果的です。ウォーキングや軽いジョギングで体を適度に動かすと血行が良くなり、体温が上がって免疫機能の向上も期待できます。
また、湿度管理も風邪の予防には大切です。鼻やのどの粘膜の表面には粘液が層を作り、潤いを保っています。湿度が低く乾燥状態になると粘液が減り、そこに細菌やウイルスが侵入しやすくなり、炎症が生じます。空気が乾燥する冬場や、冷房を効かせた夏場の室内も湿度が低くなりがちです。そうした場合は、加湿器や濡れタオルを使用して室内の湿度を適切に保ちましょう。就寝時に加湿器を使うことで、のどの乾燥を防ぎ、良質な睡眠にもつながります。
風邪の治療法
風邪をひいたら、まずはセルフケアで対処するという人も多いのではないでしょうか。そうした時にできることと、市販薬を使用する場合の注意点をお伝えします。
セルフケアの基本は安静、保湿、保温
繰り返しになりますが、風邪をひいたら無理をせず、安静にして休養を取ることが大切です。のどや鼻に炎症がみられる時は、こまめな水分補給を心がけましょう。
水分補給には2つの役割があります。一つは、粘膜を潤すための純粋な水分補給。もう一つは唾液腺を刺激するためです。鼻づまりなどで口呼吸になっていると、唾液の分泌が低下して乾燥状態になりやすくなります。唾液を促進するという点では、出汁などうまみ成分を多く含む食品もおすすめです。昆布茶や出汁の効いた味噌汁などは、少量であっても唾液の分泌が促され、のどの粘膜を潤してくれます。
熱の上がり始めは、体温が上昇しているにもかかわらず寒気を感じることがあります。そのような時は布団や着衣で体を温め、汗をかきましょう。汗が出ると、次第に体温が下がっていきます。状態に応じてこまめに調節してください。
症状に合わせた風邪薬の正しい選び方と使用方法
風邪の治療には数多くの市販薬があります。さまざまな症状を和らげる総合感冒薬(かんぼうやく)や、特定の症状に特化した薬があり、どれを選ぶべきか迷う人も多いと思います。
鼻水・鼻づまりやくしゃみが主な症状であれば、アレルギー反応や炎症を引き起こす神経伝達物質であるヒスタミンの働きを抑える、抗ヒスタミン成分を含む薬が効果的です。
のどの痛みには、アズレンスルホン酸ナトリウムやセチルピリジニウム塩化物水和物、桔梗湯などの漢方を配合したトローチやスプレーを使います。いずれの薬も効き目が緩やかで、症状が比較的軽い場合や小児で多く使われています。食事や飲み物が十分に摂れないほどの強い痛みや高熱などの症状を伴う場合は、イブプロフェンやアセトアミノフェンを使うと、すみやかな鎮痛効果が期待できます。
どの薬を選んでも、用法・用量を守ることが大切です。適切な風邪薬を選び、正しく服用することで回復を早めることが期待できます。
風邪が長引く場合の対処法
セルフケアで症状の改善がみられない場合は、細菌の二次感染や重症化の疑いがあります。下記のようなケースでは自己判断や様子見をせず、医師の診断を仰ぎましょう。
症状が改善されない場合は医療機関を受診
風邪の症状が1週間以上続く場合は、免疫能の低下や、自律神経の乱れを考えねばなりません。アレルギー疾患や悪性腫瘍を合併していることも考えられます。症状が長引く場合は自己判断せず、早めに医療機関を受診することが大切です。特に、高熱や呼吸困難の症状がみられる場合は、重症化の疑いがあるので、すみやかに医療機関を受診しましょう。
細菌の二次感染の可能性もあるため医師の診断が必要
風邪の症状が長引く場合、細菌による二次感染の可能性も考えられます。例えば、風邪で免疫力が低下した気管支に細菌が感染し、気管支炎や肺炎を引き起こすことがあります。また、子どもに多くみられるのが細菌性の中耳炎や副鼻腔炎です。こうした細菌感染が疑われる場合は医療機関を受診し、医師の診断を受けましょう。
「ただの風邪だから大丈夫」と油断せず、症状が改善しない場合は早めに受診することが大切です。医師の適切な診断と治療が風邪の長期化を防ぎ、二次感染の予防にもつながります。
慢性疾患がある人は重症化リスクが高いので注意が必要
糖尿病や心臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器系の慢性疾患がある場合、風邪をきっかけに悪化したり、風邪が重症化したりするリスクが高いので要注意です。風邪をひいて、なかなか症状が改善しない場合は早めに医療機関を受診しましょう。風邪を長引かせると、その分重症化リスクを高める可能性があります。
「風邪は万病のもと」と昔からいわれています。規則正しい生活、適切な睡眠と食事を心がけることが風邪の予防につながり、あらゆる病気を寄せつけない健康な体づくりにも通じるのです。
監修者プロフィール
市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
【市村恵一(いちむら けいいち)先生プロフィール】
東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、浜松医科大学耳鼻咽喉科を経て、1982年より米アトランタ市エモリー大学留学。帰国後、東京都立府中病院耳鼻咽喉科医長、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師その後助教授、自治医科大学耳鼻咽喉科学教授、副学長、石橋総合病院院長などを経て、2019年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)。小児耳鼻咽喉科学会初代理事長。オスラー病鼻出血治療の第一人者。現在は主に補聴診療を担当。