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季節のテーマ

その不調、季節のせいかも?胃腸トラブルを未然に防ぐ!

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監修/江田 証先生(江田クリニック院長)

夏から秋への季節の変わり目を迎えると、「何となく胃が重い」「急におなかが緩くなる」といった胃腸の不調を感じやすくなりませんか?胃腸のトラブルを防ぎ、健やかに保つためにはどうすれば良いか、消化器の専門医である江田クリニック院長の江田 証先生に伺いました。

脱水が腸のバリアー機能低下の要因に

胃腸は気温の影響を受けやすく、夏の暑さで脱水状態が続くと、腸の「バリアー機能」が低下し、体調不良を引き起こすおそれがあります。

腸には、わずか数十ミクロンという非常に薄い壁があります。これは「腸管上皮」と呼ばれる細胞層で、栄養や水分を吸収しています。
腸管上皮は粘液層で覆われており、大腸の粘液層は、外層(アウターレイヤー)と内層(インナーレイヤー)の2層構造になっています(下図参照)。粘膜層は細菌や未消化のたんぱく質などが体内に侵入するのを防ぐ働きも担っています。この防御機能をバリアー機能といいます。腸内細菌は外層までは到達できますが、一方、内層には腸内細菌は到達できません。この2層の粘液によって、腸内細菌や有害物質が腸の粘膜内へ侵入するのをブロックしているのです。

■大腸の粘液層の構造

出典:江田先生ご提供資料を基に2025年9月1日作成

ところが体内の脱水状態が続くと、粘液層の外層が次第に薄くなります。それに伴ってバリアー機能が低下し、腸内細菌や有害物質が腸の粘膜内に侵入しやすくなります。すると細菌が原因となる感染や炎症が起こり、腹痛や下痢といった症状を引き起こす場合があります。そのため、適切に水分を補給して脱水を防ぐことは、腸内環境を健やかに保つ上でも大切です。

自律神経の乱れが胃の不調を招く

夏から秋への季節の変わり目は、食欲不振や胃もたれといった症状も起こりやすくなります。こうした症状が起こる要因として、自律神経の乱れが胃に及ぼす影響が考えられます。

胃には「適応性弛緩(てきおうせいしかん)」という機能があります。これは、食べ物が食道から入ってくると穹窿(きゅうりゅう)部(胃の天井部)がふくらみ、消化のために食べ物を一時的にためる働きです(下図参照)。この働きは、自律神経の一部である脳の迷走神経の反射によって起こります。食べ物は胃の天井部に2~3時間とどまり、少しずつ消化されます。最終的に粥(かゆ)状になり、十二指腸へと送られます。

■胃の適応性弛緩のイメージ図

しかし、夏の室内外の気温差や生活リズムの変化などで自律神経が乱れると、迷走神経の反射に影響し、適応性弛緩がうまく機能しなくなります。食べ物が入ってきても胃の天井部がふくらまないため、胃の下部に食べ物がたまり、食べるとすぐにおなかがいっぱいになります。

また、十分に消化されないままの食べ物が急速に胃から送り出されると、十二指腸で処理しきれずに、食べ物を逆流させることがあります。これを「十二指腸ブレーキ」といいます。十二指腸から胃に戻された未消化の食べ物が胃の中でとどまることで、胃もたれが起こりやすくなるのです。

■胃の適応性弛緩が機能していないイメージ図

季節の変わり目に起こる胃の不調の予防には、自律神経のバランスを乱さないような生活習慣が大切です。自律神経を調節する2大スイッチは睡眠と食事です。毎日決まった時間に就寝・起床し、食事も3食しっかり摂る、といった規則正しい生活を心がけましょう。

冷えと飲み物の選び方にも注意

季節の変わり目は寒暖差があるため、おなかをこわしがちです。ある調査によると、特に過敏性腸症候群(IBS)のような持病や胃腸のトラブルがもともとある人は、冷房が効き始める時期から冷えによって腹痛や下痢の症状が起こりやすくなることが分かっています※1

※1:Haedrich J, Huber R. Crohn’s disease, irritable bowel syndrome, and chronic fatigue: the importance of communication and symptom management-a case report. J Med Case Rep. 2025 Jan 9;19(1):9.

適切な水分補給は脱水予防のために重要ですが、「何をどう飲むか」も意識したいポイントです。冷たい飲み物の摂り過ぎは消化機能の低下を引き起こす要因となります。胃の疲れやおなかの冷えを感じているときには、常温の水や、ほんのり温かい白湯(さゆ)を選ぶと良いでしょう。

果糖(特に果糖ブドウ糖液糖)を多く含む清涼飲料水やスポーツドリンクの飲み過ぎにも注意が必要です※2。果糖の摂り過ぎは腸内細菌叢のバランスを乱し、善玉菌を減らす要因となるほか、胃腸と同じ消化器の一部である肝臓に大きな負担を掛け、脂肪肝やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)のリスクとなるおそれもあります。胃の調子が悪いときは、胃への刺激が強いアルコールやコーヒー、濃い緑茶なども控えましょう。

※2:Abdelmalek MF, Day C. Sugar sweetened beverages and fatty liver disease: Rising concern and call to action. J Hepatol. 2015 Aug 1;63(2):306–8.
Inci MK, Park S-H, Helsley RN, Attia SL, Softic S. Fructose impairs fat oxidation: Implications for the mechanism of western diet-induced NAFLD. J Nutr Biochem. 2023 Apr;114(109224):109224.

胃腸に優しい食事を摂るには?

胃もたれや胸やけなど胃の不調があるときは、食事に次の食材を積極的に取り入れると良いでしょう。

【大根】

消化酵素のジアスターゼやプロテアーゼを多く含み、消化を促進する作用がある。加熱すると酵素の効果が弱まるため、胃のためには生の大根おろしがおすすめ。

【キャベツ】

キャベツに含まれるビタミンUには、胃酸を抑え、胃の粘膜を保護する作用がある。熱に弱く、水に溶け出す性質があるので、千切りキャベツなど生で食べるのがおすすめ。ビタミンUは冷やすと増える特性があるので、冷蔵庫で冷やすとなお良い。

【オクラ・長いも】

オクラや長いもに含まれるネバネバ成分が胃の粘膜を保護する。便秘改善にも効果的。里いもやモロヘイヤにも同様に、ネバネバ成分が含まれている。

【イカ・タコ・カキ】

イカ・タコ・カキのほか、サザエやホタテにも含まれるタウリンには、胃の炎症を抑え、細胞障害から胃を守る作用がある。ビタミンCを含む野菜や果物と一緒に摂ると、相乗効果が期待できる。

【青魚】

サバやイワシなどの青魚に含まれる不飽和脂肪酸・EPA(エイコサペンタエン酸)には胃炎を抑える作用がある。ピロリ菌の感染で起こる炎症を改善する働きもある。

【海藻類】

昆布やワカメ、もずくなどに含まれるフコイダンには、胃の粘膜を保護し、胃壁を補修する作用がある。

一方、腸内環境を整えるためには、腸内の善玉菌を増やす食品を摂ることが大切です。代表的な4大食品は次のとおりです。

  1. 1  【発酵食品】(キムチやぬか漬け、みそ、納豆、ヨーグルトなど)
    発酵食品には乳酸菌などの善玉菌が多く含まれているため、摂取すると腸内の善玉菌増加につながる。ほかの善玉菌を刺激し、腸のぜん動運動(食べ物や消化物を腸内で移動させるためのリズミカルな筋肉の収縮運動)を活性化する働きもある。
  2. 2  【水溶性食物繊維】(海藻類、ゴボウ、ブロッコリー、ライ麦パンなど)
    善玉菌を育てる有益な成分となり、分解・代謝されるときに「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」が生成される。短鎖脂肪酸には腸の炎症を抑え、腸内環境を整える作用がある。
  3. 3  【オリゴ糖】(バナナ、大豆、玉ねぎ、小麦ブランなど)
    腸内で善玉菌の栄養源となり、善玉菌を効率よく増やす。
  4. 4  【EPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)】(鮭、サバやイワシなどの青魚、アマニ油やエゴマ油など)
    腸の炎症を抑え、善玉菌が増えやすい状態に整える。

ただし、これらの「腸に良い」といわれる食品を摂ると、おなかの調子がかえって悪くなる人もいます。その原因として、小腸で吸収されにくい糖質「FODMAP(フォドマップ)」が含まれていることが考えられます。

参考記事:食物繊維に要注意!お腹が繊細な人こそ知っておきたい「FODMAP(フォドマップ)」別ウィンドウで開きます

FODMAPは、発酵性のある次の4つの糖質を指します。

  • オリゴ糖(ガラクトオリゴ糖、フルクタン)
  • 二糖類(ラクトース)
  • 単糖類(フルクトース)
  • ポリオール

上記の発酵性のある糖質で、なおかつ自分に合わないものを控える「低FODMAP食」という食事療法が、近年注目されています。過敏性腸症候群やSIBO(シーボ:小腸内細菌異常増殖症)といった病気がある人や、おなかにガスがたまりやすい、おなかが張りやすいといった腸の不調が日常的に続いている人は、胃腸科や消化器内科など医療機関に相談してみましょう。

受診のタイミングを逃さない

季節の変わり目に起こる一時的な胃腸の不調は、食事に気を付けたり、生活習慣を改善したりすることで自然に改善する場合がほとんどです。しかし、胃腸の不調が長く続き、なおかつ下記の項目のいずれかに該当する場合は、なるべく早めに医療機関を受診することをおすすめします。

出典:『一流の男だけが持っている「強い胃腸」の作り方』(江田 証著 大和書房)を基に作成(2016年2月発刊)

受診の際には次のようなメモを作っておくと、診察がスムーズになります。

キーワード 意味
L(Location) 場所 みぞおちが痛い、下腹部が痛い、
みぞおちから右下に痛みが移動した
Q(Quality) 性質 しくしく痛む、ズキンズキン痛む、
おなかが張っている
Q(Quantity) 程度 今まで経験したことがない痛み、
最大が10なら8くらいの痛み
T(Timing) 時間 昨日から、1週間前から、
食事時間に関係なく症状がある
S(Sequence) 経過 どんどん痛くなる、痛くなったり治まったりを繰り返す
F(Factor) 関連要素 排便すると治まる、食べ物とは関連がないようだ
A(Associated symptoms) 随伴症状 高熱、吐き気、おう吐、軟便、血便など

出典:『悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決 おなかの不調』(江田 証著 新星出版社)を基に作成(2024年6月発刊)

なお、胃がんの原因であるピロリ菌の除菌治療は2013年から胃潰瘍だけでなく、慢性胃炎に対しても保険適用となり、ピロリ菌は国民総除菌の時代へと進んでいます。若いうちにピロリ菌を除菌したほうが、胃がんの発症を抑える効果は高くなります。早めにピロリ菌を調べる検査をし、適切な治療を受けることが大切です。

胃に負担がかからない食事や十分な睡眠時間の確保といった規則正しい生活を送ることで、季節の変わり目の胃腸トラブルを防止しましょう。

監修者プロフィール
江田 証先生(江田クリニック院長)

【江田証(えだ あかし)先生プロフィール】

江田クリニック院長
医学博士。自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会奨励賞受賞。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバーを務める。毎日、国内外から最新の治療法を求めて来院する、おなかの不調をかかえた患者を胃内視鏡・大腸内視鏡で診察し、改善させることを生きがいにしている。『おなかの弱い人の胃腸トラブル』(幻冬舎)、『新しい腸の教科書』(池田書店)など著書多数。

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