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心の健康にも食事は大切! メンタルヘルスと栄養の関係

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監修/功刀 浩先生(帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授)

身体の健康のために日々の食事が大切であることはよく知られていますが、近年になって、食事は心の健康にも影響することが分かってきました。食生活の偏りが、うつ病など精神疾患のリスクとも関連することを示した研究結果も次々に発表されています。メンタルヘルスと栄養の関連性について、帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授の功刀浩(くぬぎ ひろし)先生に伺いました。

なぜメンタルヘルスに栄養が大切なのか?

なぜメンタルヘルスに栄養が大切なのか?

従来、精神科の領域で食事はあまり重要視されていませんでした。しかし、2000年以降になって、身体の健康管理だけでなく、メンタルヘルスにも食事が大切であるという研究が盛んに行われるようになりました。

現代の食生活で陥りやすい問題は主に2つあり、いずれもメンタルヘルスの問題と関係しています。1つはエネルギーの過剰摂取です。特に、スナック菓子やカップ麺などの加工食品は、食べやすく、スーパーやコンビニで簡単に手に入りますが、糖質や脂肪が多く、過剰なエネルギー摂取は肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などの原因になります。これらの病態とうつ病の発症には関連があるという研究結果が得られています※1-3。例えば、肥満があるとうつ病発症のリスクが高まり、うつ病が肥満発症のリスクを高める※4、と報告されており、うつ病とエネルギー過剰摂取との間には双方向性の関連があることが知られています。

もう1つの問題は、栄養不足です。加工食品や、白米、白パン、白砂糖など精製された食品は、美味しく食べやすい一方、ビタミンやミネラルなど大切な栄養素が取り除かれているものがあります。そのため、エネルギーは過剰になっているにもかかわらず、ビタミンやミネラルなどの大切な栄養素が十分に摂りにくくなります。うつ病になると、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が不足し、感情や気分を調節する機能が低下することで、前向きな気分になりにくくなると考えられています。神経伝達物質の原材料になるほか、神経伝達物質の産生を助ける因子として必要となるのが、食事から摂取する栄養素です。栄養不足の状態では、活力ある生活を送る上で必要なこうした神経伝達物質を十分に作ることができなくなります。

エネルギーの過剰摂取を防ぎつつ、心の健康のために必要な栄養素を十分に摂ることが、精神疾患の予防につながると考えられます。

※1:Pan A, Keum N, Okereke OI et al: Bidirectional association between depression and metabolic syndrome: a systematic review and meta-analysis of epidemiological studies. Diabetes Care 35(5): 1171-1180, 2012.
※2:Kawakami N, Takatsuka N, Shimizu H et al: Depressive symptoms and occurrence of type 2 diabetes among Japanese men. Diabetes Care 22(7): 1071-1076, 1999.
※3:Yoshida S, Hirai M, Suzuki S et al: Neuropathy is associated with depression independently of health-related quality of life in Japanese patients with diabetes. Psychiatry Clin Neurosci. 63(1): 65-72, 2009.
※4:Luppino FS, de Wit LM, Bouvy PF et al: Overweight, obesity, and depression: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Arch Gen Psychiatry. 67(3): 220-229, 2010.

メンタルヘルスと関連する栄養素

メンタルヘルスと関連する栄養素

うつ病などメンタルヘルスとの関連が指摘されている栄養素を紹介します。

(1)ビタミン

うつ病との関連が指摘されているビタミンで、特に不足しやすいのが葉酸です。葉酸は、神経伝達物質の合成にかかわる栄養素です。健康な人と比較してうつ病の患者さんでは葉酸欠乏が多いという調査結果が得られています※5

ビタミンDも脳の機能のために大切な栄養素であり、うつ症状との関連が報告されています※6。ビタミンDは、紫外線を浴びることによって体内で作られるため、食品から摂取するだけでなく日光を浴びることも大切です。

(2)鉄や亜鉛などのミネラル

鉄は、神経伝達物質を正常に機能させるために必要な栄養素で、鉄が不足するとうつ病のリスクが高まることが分かってきました。ある大規模調査では、鉄欠乏性貧血とうつ病やストレス症状との間に有意な関連が認められています※7。亜鉛やマグネシウムの不足も、うつ病のリスクと関連することが報告されています※8,9

●参考 ミネラル記事一覧

(3)必須アミノ酸

必須アミノ酸も、神経伝達物質の原料として大切です。必須アミノ酸は体内で作ることができないため、食事から摂取する必要があります。例えば、セロトニンの原料となるトリプトファンは必須アミノ酸の一つです。うつ病の患者さんでは、血中トリプトファン濃度が健康な人よりも低下しているという報告があります※10

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(4)EPA、DHA

EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、魚に多く含まれるn-3系(オメガ3)脂肪酸です。EPA、DHAとうつ病の関連を示す報告が数多くなされています。
例えば、フィンランドの疫学研究では、魚をよく食べる人はそうでない人に比べてうつ病の罹患率が低いことが報告されています※11

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これらの栄養素を多く含む食品の例を以下に挙げます。

※功刀浩著『心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方』(翔泳社、2019年)p90を参考に作成

※5:功刀浩,古賀賀恵,小川眞太郎:うつ病患者における栄養学的異常. 日本生物学的精神医学会誌26: 54-58, 2015.
※6:Anglin RE, Samaan Z, Walter SD et al: Vitamin D deficiency and depression in adults: systematic review and meta-analysis. Br J Psychiatry. 202: 100-107, 2013.
※7:Hidese S, Saito K, Asano S et al: Association between iron-deficiency anemia and depression: A web-based Japanese investigation. Psychiatry Clin Neurosci. 72(7): 513-521, 2018.
※8:Swardfager W, Herrmann N, Mazereeuw G et al: Zinc in depression: A meta-analysis. Biol. Psychiatry. 74(12): 872-878, 2013.
※9:Jacka FN, Overland S, Stewart R et al: Association between magnesium intake and depression and anxiety in community-dwelling adults: the Hordaland Health Study. Aust N Z J Psychiatry 43: 45-52, 2009.
※10:Ogawa S, Fujii T, Koga N et al: Plasma L-tryptophan concentration in major depressive disorder: new data and meta-analysis. J Clin Psychiatry. 75(9): e906-915, 2014.
※11:Tanskanen A, Hibbeln JR, Tuomilehto J et al: Fish consumption and depressive symptoms in the general population in Finland. Psychiatr Serv. 52(4):529-531, 2001.

夜食を避けて朝食を摂ることも大切

夜食を避けて朝食を摂ることも大切

心の健康を保つためには、上記で紹介した栄養素を含む食品をバランスよく食べつつ、エネルギーばかり摂り過ぎてしまいがちな加工食品をできるだけ避けるようにしましょう。伝統的な和食は、魚や大豆製品が多く、メンタルヘルスの観点でも好ましいと言えます。主食は量を控えめにし、精製度の低い穀物(白米よりも玄米など)を選ぶことをおすすめします。ただし、和食は塩分が多いことと、乳製品が摂れないことに注意が必要です。減塩を心がけるとともに、ヨーグルトや牛乳などを補うとよいでしょう。

食事の内容だけではなく、規則正しく食べることも大切です。1日のリズムを整えるためにも、朝食をきちんと摂りましょう。朝食を摂る人のほうがうつ病の既往が少ないという調査結果も得られています※12。また、朝起きて空腹を感じられるように、夜遅い時間の食事はできるだけ控えましょう。遅くに食べてしまうと夜更かしや肥満にもつながります。夕飯は早めに済ませて、早めに寝るように心がけたいものです。

※12:Hidese S, Asano S, Saito K, Sasayama D, Kunugi H: Association of depression with body mass index classification, metabolic disease, and lifestyle: A web-based survey involving 11,876 Japanese people. J Psychiatr Res. 102:23-28, 2018.

監修者プロフィール
功刀 浩先生(帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授)

【功刀浩(くぬぎ ひろし)先生プロフィール】

帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授
1986年東京大学医学部卒業。帝京大学医学部精神神経科学講座を経て、1994年ロンドン大学精神医学研究所にて研究を行う。1998年帝京大学医学部精神神経科学講座講師を経て、2002年国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第三部部長、2017年より同センター気分障害センター長を兼務。2020年より帝京大学医学部精神神経科学講座教授、2021年より同主任教授。『心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方』(翔泳社)、『こころに効く精神栄養学』(女子栄養大学出版部)など、著書多数。

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