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健康レシピ&ダイエット

意外と知らない!健康に役立つオイルの知識

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監修/井上浩義先生(慶應義塾大学医学部化学教室教授)

私たちの体に欠かせない油。健康のためには、良質な油を摂取することが必要ですが、摂りすぎが気になっている人も多いでしょう。体に良い油の摂り方とは、どのようなものなのでしょうか。油の種類や働き、油の上手な摂り方などについて、慶應義塾大学医学部化学教室教授の井上浩義先生に伺いました。

油が体の中で果たす役割

油が体の中で果たす役割

油(脂質)は、タンパク質、炭水化物と並ぶ、体に必要なエネルギー産生栄養素(3大栄養素)の1つです。しかし、タンパク質や炭水化物は1グラムあたり約4キロカロリーなのに対して、脂質は1グラムあたり約9キロカロリー。カロリーの高さもあり、肥満や生活習慣病のリスクが気になって、油の摂取は控えたほうがいいと考えている人も多いのではないでしょうか。

カロリーが高いということは、効率的に体を動かすエネルギー源になってくれるということです。さらに、油には「細胞や血管を健やかに保つ」という大切な働きがあります。人間の体の中にある細胞を覆う細胞膜は、「リン脂質」と「コレステロール」という脂質でできています。細胞膜が健やかな状態を維持するための新陳代謝には、脂質の摂取が必要なのです。

また、油には血管を丈夫に保つ働きもあります。血液の通り道である血管は、血流の変動により膨張と収縮を繰り返し、絶えず負荷(血圧)がかかっています。健やかな血管を維持するには、血圧に負けない強度と、血流による摩耗を受け流すしなやかさを保つことが大切ですが、そのために油が必要になります。油がないと、血管が血圧に耐えられず、簡単に破れてしまうでしょう。

不飽和脂肪酸(オメガ3、6、9)に注目

油にはたくさんの種類があり、体に与える影響は少しずつ異なります。これらの違いを知り、上手に摂取することが、健康管理には欠かせません。

油の働きは、油の主成分である「脂肪酸」によって分類されます。大別すると、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類に分かれます。

飽和脂肪酸は、「直鎖脂肪酸」とも言われていたように、分子が直列の鎖のようにまっすぐ連なっているタイプの脂肪酸です。バターやラードが代表的なもので、常温では白く固まっています。飽和脂肪酸は、体を動かすエネルギー源として働きます。食物から摂取する以外に体内合成も可能なため、過剰に摂取した分は脂肪として蓄えられます。そのため、肥満や循環器系の疾患の原因になりやすいことが指摘されています。

一方、不飽和脂肪酸は、分子構造がまっすぐではなく、折れ曲がっています。常温では液体で、エネルギー源になるほか、体の構成成分や脳の働きに寄与するような物質として働きます。代表的な脂肪酸が、オメガ3、オメガ6、オメガ9です。このうちオメガ3とオメガ6は、体内でつくることができません。

●オメガ3(n-3系脂肪酸)

α-リノレン酸:エゴマ油やアマニ油などに多く含まれ、血中の中性脂肪値を下げる働きがあると言われています※1

EPA(エイコサペンタエン酸):青魚の油などに多く含まれ、血液をサラサラにして血栓を予防する働きがあるとされています。

DHA(ドコサヘキサエン酸):青魚の油などに多く含まれ、脳や神経の発達に関連があると言われています※2

●オメガ6(n-6系脂肪酸)

リノール酸:サラダ油、ごま油、大豆油など、一般的な植物油に多く含まれ、血中のコレステロール濃度を下げる働きがあるとされています※3

●オメガ9(n-9系脂肪酸)

オレイン酸:オリーブ油やハイオレイックタイプの油(オレイン酸を豊富に含むよう品種改良された原材料から採取した油。ひまわり油やべにばな油などが市販されている)などに多く含まれ、酸化しにくく、悪玉コレステロールを抑制する働きがあるとされています※4

※1: Am J Clin Nutr. 2003 Dec;78(6):1098-102.

※2: Omega-3 Fatty Acids. NIH (National Institute of Health) Office of Dietary Supplements

※3: Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 18;7(7):CD011094.

※4: 厚生労働省e-ヘルスネット「不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)」

しなやかな血管をつくる不飽和脂肪酸

オメガ3、オメガ6、オメガ9は、いずれも不飽和脂肪酸で分子構造が折れ曲がっていますが、折れ曲がっている箇所の数が違っています。オメガ3は3ヵ所、オメガ6は2ヵ所、オメガ9は1ヵ所で折れ曲がっています。折れ曲がっている箇所は、強度は弱くなるものの、柔軟性が増します。針金を折り曲げるとできるバネのようなイメージです。折れ曲がっている箇所が最も多いオメガ3が、最も柔軟な構造をしていると言えます。

こうした構造から、不飽和脂肪酸は血管の健康に役立つと考えられます。血管壁を構成するリン脂質やコレステロールは、分子がまっすぐですので、血管壁を強化してくれますが、柔軟性はありません。しかし、オメガ3などの不飽和脂肪酸は血管の柔軟性を高めてくれるため、動脈硬化が生じにくくなり、血圧も下がることが期待できます。

<オメガ3は血流による血管壁への負荷を緩和する>

・コレステロールは直線的な構造をしており、血管壁を強化する働きをするが、柔軟性がない

・オメガ3は折れ曲がった構造をしているため、クッションのような働きをし、血管壁の柔軟性を高める

さらに、血管がやわらかくなると、血管が広がり、血流量が増え、全身に栄養や酸素を十分に行き渡らせることができます。脳に到達する血流量も増えるため、神経伝達物質の分泌量が増えて、脳の機能に良い影響をもたらすと考えられています。例えば、快感や意欲などに関係するドーパミンの分泌量が増えることでうつ病になりにくくなることが期待されます※5

だからといって、オメガ3ばかりを摂取してしまうと、飽和脂肪酸によって維持されていた血管の強度が弱まってしまい、別の弊害が生じます。さまざまな油をバランス良く摂ることが大切なのです。

※5: J Clin Med 2016 Aug; 5(8): 67. Published online 2016 Jul 27. doi: 10.3390/jcm5080067

油はオメガ3を意識してバランス良く

油はオメガ3を意識してバランス良く

現代の食生活は、脂質を過剰に摂取しがちです。パンや菓子類、インスタント加工食品に脂質が多く含まれているからです。脂質の摂取基準は、総摂取エネルギーの20~30%とされていますが、40%の人が、脂質で30%以上のエネルギーを摂取している状況です。このとき、主に摂取されているのは、飽和脂肪酸と、安価で使いやすいオメガ6の油です。オメガ6は免疫にかかわる物質であるサイトカインの原料となるため、体に必要ではあるのですが、摂りすぎると免疫反応が過剰になり、花粉症や食物アレルギーなどを生じやすくなると考えられます。オメガ6の油を減らすことでアレルギー症状が改善したという報告もあります※6

また、オメガ3も毎日意識して摂取したいものです。エゴマ油やアマニ油を1日小さじ1杯程度でかまいません。オメガ3とオメガ6は、体の組織を機能させるために必要な「必須脂肪酸」であるにもかかわらず、体内で生成することができないため、食物などから摂取する必要があります。オメガ6は通常の食事で十分に摂取可能ですが、オメガ3に関しては、最近は青魚を食べる習慣が減っているため、意識しないと摂取する機会が失われてしまいます。

なお、オメガ3は光と熱に弱く、酸化しやすいという性質があるため、小さな瓶で購入し、早めに使い切るようにしましょう。揚げ物や炒め物などの加熱調理には不向きです。ドレッシングに使ったり、冷や奴やそうめんなどにかけてコクを出したりするのもよいでしょう。オメガ3のサプリメントも販売されていますが、油として食事で摂取するほうがおすすめです。サプリメントの場合はEPAやDHAとして摂取することになりますが、体で使い切れず過剰になった分は体外に排出されてしまいます。しかし、油として摂取した場合は、一時的に肝臓に貯蔵して必要なときにEPAとDHAに変換することができます。

小さじ1杯でOK

油は健康に欠かせないものですが、種類によって役割や作用が異なります。それぞれの特徴を知ったうえで、バランス良く摂取するよう心がけましょう。

※6: Curr Pharm Des 2014;20(6):946-53.

監修者プロフィール
井上浩義先生(慶應義塾大学医学部化学教室 教授)

【井上浩義(いのうえ ひろよし)先生プロフィール】

1961年福岡県生まれ。1989年九州大学大学院理学研究科博士課程修了。山口大学医学部生理学教室助手、久留米大学医学部放射性同位元素施設教授などを経て、2008年から慶應義塾大学医学部化学教室教授。日本抗加齢医学会理事、日本生理学会評議員など。医学博士、理学博士。『からだによいオイル 健康と美容をかなえる油の教科書』(慶應義塾大学出版会)、『知識ゼロからの健康オイル』(幻冬舎)ほか著作多数。

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