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対面機会が急増し、コミュニケーションがつらい……「コロナ以降」の心の守り方

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監修/西多 昌規先生(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

2020年初頭から長らく続いた新型コロナ対策。2023年春以降、マスク着用ルールが大幅に緩和され、リモートワークを廃止する会社も出てくるなど、生活様式の移行が進んでいます。一方で、非対面でのコミュニケーションに慣れ、人と直接顔を合わせることにつらさを感じる人も少なくないようです。対面機会の急増によるストレスには、どう対処していけばよいのでしょうか。早稲田大学スポーツ科学学術院教授の西多昌規先生に伺いました。

会話の減少で「コミュニケーション力の低下」を実感する人も

2023年春、マスクの着用が個人の判断とされ、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行しました。これを機にリモートワークが廃止され、通勤して同僚と対面する機会が増えた人もいるでしょう。旅行に出かけたり、飲み会の頻度が増えたりと、レジャーや社交の機会が増えた人もいるかもしれません。

一方、この3年間は、リモートワークなど非対面のコミュニケーションが増えたほか、マスク着用や黙食など、対面でのコミュニケーションにも影響がありました。ある企業の調査※1によると、コロナ禍で約2割の人が「コミュニケーション力の低下」を実感し、若い世代ほど影響を感じている人の割合が高くなっていました。人と話す機会が減ったことで、「コミュニケーションが下手になった」と感じている人がいるのだと考えられます。

特に減ったと思われるのは、雑談など業務外のインフォーマルなコミュニケーションです。飲み会が減ったり、黙食が推奨されたりしたことで、雑談をする機会が少なくなった人が多いのではないでしょうか。また、リモートワークによってオンラインのコミュニケーションが増えたことも影響しているでしょう。職場で会議をする場合、対面での会議では前後に自然と雑談が発生することもありますが、Web会議だと基本的に用事が終わったら切断されてしまうため、対面と比べて業務外の会話が生じにくいのです。

若い人の場合、進学や就職といった重要なタイミングがコロナ禍と重なった人もいるでしょう。就職直後からリモートワークで、上司や同僚と直接顔を合わせられず、細かい指導を受けられないまま働いている人もいるかもしれません。前述のように雑談の機会も減っているため、上司の人柄や社内の雰囲気などを十分につかめず、どう振る舞ったらいいのか分からない、仕事で分からないことがあっても上司や同僚に聞きにくい、といったケースもあったようです。すでに社会に出てから何年も経っていたり、職場での人間関係が十分に構築されたりしている年長世代と比べて、経験が浅く、人間関係も新たに構築する必要があった若い人たちほど、大きな影響を受けたと推測されます。

※1:「深刻な『コロナコミュ障』の実態が明らかに コロナ禍きっかけに、2割がコミュ力の衰えを実感 53.3%が感染リスクなしでも『マスクなし会話』に抵抗感 コロナ禍がコミュニケーションに与える影響について調査を実施」(https://www.atpress.ne.jp/news/327472を2023年6月21日に参照)

なまった心身を少しずつ慣らしていこう

人と会ってコミュニケーションを取る機会や、外出する機会が減っていた3年間を経て、今の私たちは心も身体も「なまった」状態といえます。それにもかかわらず、社会の変化に伴って急に活動しなければならないため、疲れやすくなっている可能性があります。もちろん、制限なく活動できることによるメリットもたくさんありますが、コミュニケーション力が衰えたと感じている状態で人と会う頻度が増えたり、身体がなまった状態にもかかわらず通勤やレジャーなどで移動が増えたりすると、知らないうちに疲れがたまりやすくなっていると考えられます。

こうした活動の増加によるストレスは、今の状況に少しずつ適応していくことで自然と解消されるでしょう。もともと社交的で活動的だった人ほど、自然に慣れていけると思われます。しかし一方で、「コロナ禍で人に会わないほうが快適だった」という人もいるでしょう。こうした人ほど変化に慣れるのに苦労する可能性が高いかもしれません。また、4月に就職や転職、進学など大きな変化があった人は、5月病の時期は無事に乗り越え、夏休みに心身を休めてリフレッシュできたとしても、涼しくなってくる秋頃に、気づかないうちにたまっていたストレスが限界に達して調子を崩す可能性が懸念されます。どの程度ストレスに耐えられるかは人それぞれ異なりますが、過度に疲れをためないように注意が必要です。

疲れを感じているようであれば、夏休みなどの長期休暇は予定ですべて埋めてしまうのではなく、休養に充てる日を設けるようにするのも一つの方法です。飲み会など人と会う予定も、「久しぶりだし行かなければ」と多少無理をしてでも参加したくなるかもしれませんが、すべての誘いに応じようとせず、心身の調子と相談しながら参加したほうがよいでしょう。少しずつペースを上げていくイメージで、無理をしないことが大切です。

睡眠と生活リズムの乱れには要注意

疲れやストレスがたまってくると、多くの場合、睡眠と生活リズムに影響が出やすくなります。以下のような状態は、疲れがたまってきているサインだと考えられます。「以前はそうではなかったのに」と思うものがあれば要注意です。休みを取ることや、これ以上負担がかからないようにスケジュールを調整することなどを検討しましょう。

<要注意!疲労のサイン>

  • 以前と比べて、朝起きるのがつらくなってきた
  • 朝起きると、以前よりも身体が重く感じる
  • 平日の夜の寝つきが悪くなってきた/眠れなくなってきた
  • 十分寝ているはずなのに寝足りない
  • 睡眠不足のはずなのに、昼寝をしようとしても眠れない
  • 休日になると、平日よりも3時間以上起きる時間が遅くなる
  • 目が覚めても身体が動かず、欠勤や遅刻をしてしまう

※最後の項目に該当する場合は、精神科や心療内科を早めに受診することをおすすめします。

コロナ禍を経た今、対面でのコミュニケーションの良さを改めて実感している人も多いと思います。リモートワークで孤独を感じていた人は、直接顔を合わせるようになれば孤独が解消されるでしょう。気軽な雑談はストレス解消にもつながります。さまざまな変化に上手に適応していくためにも、仕事の合間などに雑談の時間をうまく取り入れたいものです。

しかし、リモートワークによって、対面で密に人と関わる場合と比べて、他人と距離が取りやすくなり、コミュニケーションがかえって楽になったという声も聞かれました。可能であれば、100%対面に切り替えるよりも、リモートワークも可能な環境を残したほうが、対人関係によるストレス緩和という点ではメリットがあるかもしれません。「コロナ前に戻していく」というよりは、対面とリモート、それぞれの良さを取り入れた新しい環境をつくっていけると理想的だと思われます。

監修者プロフィール
西多 昌規先生(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

【西多昌規(にしだ まさき)先生プロフィール】

早稲田大学スポーツ科学学術院教授
精神科医(医学博士)。東京医科歯科大学卒業。国立精神・神経医療研究センター病院、ハーバード大学医学部精神科研究員、東京医科歯科大学大学院精神行動科学分野助教、自治医科大学精神医学教室講師、スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師などを経て、2017年早稲田大学スポーツ科学学術院准教授、2023年より現職。2022年9月より、早稲田大学保健センター副所長も兼任。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本医師会認定産業医、日本老年精神医学会専門医、日本臨床神経生理学会認定医(脳波部門)。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。『休む技術』(大和書房)など著書多数。

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