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不調改善ヘルスケア

味がしない、疲れやすい……それって亜鉛不足のサインかも?

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監修/駒井 三千夫先生(東北大学 名誉教授、株式会社東北アグリサイエンスイノベーション 代表取締役社長)

亜鉛は人体にとって重要な微量ミネラルですが、日本人の亜鉛摂取量は不足ぎみといわれています※1。亜鉛が不足すると、味覚障害や貧血、子どもの発育障害など、全身にさまざまな影響が生じるため、意識して摂取したい栄養素です。亜鉛不足によって生じる症状や、亜鉛を摂取するための食習慣について、東北大学名誉教授の駒井三千夫先生に伺いました。

※1:Kodama, H. et al. Int J Mol Sci. 2020 Apr 22;21(8):2941.

亜鉛不足は全身の多様な症状の原因に

亜鉛不足は全身の多様な症状の原因に

亜鉛は、人間の体に不可欠な微量ミネラルの一つで、筋肉、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓など、全身のさまざまな部位に存在しています。体内にある300種類以上の酵素の働きに亜鉛が必要であり、細胞の増殖やタンパク質の合成において重要な役割を担っています。

亜鉛が不足すると、亜鉛が必要な酵素の活性が低下し、細胞の増殖やタンパク質の合成が正常に行われなくなるため、全身の細胞や臓器に影響が出ます。亜鉛不足による代表的な症状としては、以下のようなものがあります。

・皮膚炎、傷の治癒の遅れ

亜鉛が不足すると、皮膚でのタンパク質合成がうまくいかなくなり、皮膚炎が生じやすくなると考えられています。また、亜鉛不足によって傷も治りにくくなります。床ずれ(褥瘡[じょくそう])の悪化や治りにくさと亜鉛不足の関連も指摘されています。

・味覚障害

舌の表面には、亜鉛を必要とする酵素が多く存在しています。亜鉛が不足すると、この酵素がうまく働かなくなり、味細胞の増殖にも支障が出て、味を感じにくくなると考えられています。

関連記事:「味が分からない!? 突然起こる味覚障害とは」

・貧血

貧血には、鉄だけでなく亜鉛も関係します。赤血球の増殖や、赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質の合成には亜鉛が必要になるため、亜鉛不足によって貧血が生じ、疲れやすくなったり、立ちくらみやめまいなどの症状が出たりすることがあります。鉄を補う治療を行っても貧血が治らない場合、亜鉛不足による貧血も疑われます。

・食欲低下、下痢

亜鉛不足は、胃腸の粘膜にも影響を及ぼします。亜鉛が不足すると、胃腸の働きが低下し、食欲の低下や下痢を起こすことがあります。食欲が低下して食べる量が減ると、亜鉛の摂取量がさらに低下しやすくなります。

・免疫機能の低下

亜鉛には体内の毒素を取り除き、炎症や感染を抑える生体防御機能との関連があり、免疫機能の維持にも必須のミネラルです。亜鉛が不足すると、こうした機能が働きにくくなって免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなると考えられます。

・生殖機能の異常

亜鉛は、男性ホルモンの一種であるテストステロンの合成にも関わっています。亜鉛が不足するとテストステロンが減少し、男性更年期や不妊の原因になる場合があります。近年、元気に長生きしている人は血中テストステロン濃度が高いともいわれており、亜鉛と長寿との関連にも注目が集まっています。

男性だけでなく女性の体内でも、少量ですがテストステロンが生合成されるため、女性にも亜鉛は必須です。女性ホルモンであるエストロゲンの分泌にも亜鉛が必要になります。

・子どもの発育障害

子どもの成長にも亜鉛が欠かせません。亜鉛は成長ホルモンや性ホルモンの分泌にも関わるため、小児期に亜鉛が不足すると、身長の伸びが悪くなる、体重が増加しにくい、性成熟が遅れるといった発育障害がみられる場合があります。

亜鉛不足に陥らない食生活のポイント

亜鉛不足に陥らない食生活のポイント

1日の亜鉛摂取の推奨量は、成人男性で11mg(75歳以上は10mg)、成人女性で8mgとされています※2。しかし、実際の亜鉛摂取量は、男性で平均9.2mg、女性で平均7.7mgとなっており※3、不足ぎみです。

亜鉛の摂取量が不足している原因として、まず動物性食品の摂取量が不足していることが考えられます。亜鉛は、生牡蠣、豚レバー、牛肉などの動物性食品に多く含まれています。おにぎりやパンなど炭水化物のみで食事を済ませがちな人や、ダイエットなどを理由に肉類を避けている人は、特に亜鉛が不足しやすくなります。肉や魚介類も含めたバランスの良い食生活が大切です。他に、豆類や種実類にも亜鉛は含まれています。

亜鉛を多く含む代表的な食品

亜鉛を多く含む代表的な食品

出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」

加工食品の摂り過ぎも、亜鉛不足の原因になります。コンビニなどで手軽に買える出来合いのお弁当やカップ麺といった加工食品は、ビタミンやミネラルが不足しているものが多く、栄養が偏りがちです。さらに、こうした食品に含まれている一部の食品添加物には、体内で亜鉛と結合して体外に排出してしまう「キレート作用」を持つものがあります。毎食のように加工食品に頼ることは避けたいものです。

このほか、コーヒーは亜鉛の吸収を阻害するとされています。亜鉛を含む食品と同時に摂取するのは避けるとよいでしょう。アルコールの大量摂取も亜鉛の排出量を増やすといわれています。一方、玄米や豆類などに多く含まれるフィチン酸も、亜鉛の吸収を阻害すると考えられていますが、こればかり大量に摂取するのでなければあまり心配しなくてもよいでしょう。

※2:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586568.pdf)を2024年2月5日に参照
※3:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」(https://www.mhlw.go.jp/content/000711006.pdf)を2024年2月5日に参照

薬の服用中も亜鉛不足に注意

薬の服用中も亜鉛不足に注意

薬の中にもキレート作用を持つものが多数あります。長期にわたってこうした薬を服用していると、亜鉛が不足して味覚障害などの症状をきたすことがあります。すべての薬にキレート作用があるわけではないですが、さまざまな病気に対する薬が該当するため、薬を長く服用している場合や、複数の薬を服用している場合は、積極的に亜鉛を摂取するよう意識しましょう。かかりつけ医に相談のうえ、亜鉛サプリメントで補うことを検討してもよいかもしれません。

ただし、亜鉛は摂り過ぎにも注意が必要です。亜鉛の1日の上限摂取量は成人男性で40~45mg、成人女性で30~35mgとされていますが※2、これを大きく超える量の亜鉛を摂取すると、胃の不快感や吐き気、めまいといった中毒症状が出たり、免疫機能が低下したりする場合があります。また、亜鉛を摂り過ぎると、同じく体に必要な微量ミネラルである銅の吸収が阻害され、銅が欠乏する可能性があります。食事だけで亜鉛を摂り過ぎることは考えにくいですが、サプリメントを使用する場合は、パッケージに記載されている目安量を必ず守るようにしましょう。

食生活に注意していても味覚障害や皮膚炎、食欲低下といった症状がみられるようであれば、一度医療機関を受診するのがよいでしょう。前述したような亜鉛不足による症状があり、血液検査で亜鉛の値が低い場合は、薬(亜鉛製剤)で補う治療を行うことがあります。

監修者プロフィール
駒井 三千夫先生(東北大学 名誉教授、株式会社東北アグリサイエンスイノベーション 代表取締役社長)

【駒井三千夫(こまい みちお)先生プロフィール】

東北大学 名誉教授、株式会社東北アグリサイエンスイノベーション 代表取締役社長
東北大学農学部教授・農学研究科長を経て、2019年度から東北大学名誉教授。著書に『亜鉛の機能と健康』(建帛社)など。ビタミンおよび微量元素栄養学、味覚生理学の専門家として、亜鉛をはじめとする栄養素の機能解明とその周知に携わる。

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