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食生活を改善して、腸内環境を整えよう

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監修/内藤 裕二先生(京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授)

腸内細菌と食事をはじめとする生活習慣や生活環境などとの関連について、近年研究が進んでいます。その1つとして注目されているのが「日本人の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の5つのタイプ」。京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授の内藤裕二先生に、腸年齢の算出方法や腸内環境を整えるための食事のポイントなどについて伺いました。

自分の「腸年齢」をチェックしてみよう

まずは、現在の生活を振り返ります。下記【パート1】【パート2】それぞれの項目について、自分に当てはまるものをチェックして、「腸年齢」を算出してみましょう。

【パート1】

チェックした項目の合計【パート1= 個】

※1:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」での目標量(食塩相当量として)は、成人1人1日当たり男性7.5g未満、女性では6.5g未満。
※2:ウオーキングなど軽めの運動でいいので1日30分程度(内藤先生の取材を基に作成)。

【パート2】

チェックした項目の合計【パート2= 個】

実年齢からパート1の合計を引き、パート2の合計を足した数字が、自分の「腸年齢」です※3

腸年齢の計算方法

腸年齢=実年齢( )-(パート1の合計)+(パート2の合計)

例)40歳の人でパート1が5個、パート2が7個当てはまった場合は、40-5+7=腸年齢42歳

※3:腸年齢の計算式は、内藤先生が臨床経験や数多くの腸内細菌研究を基に、便通や食習慣、服薬など生活行動から腸年齢を推定する方法として作成(内藤先生による「腸の老化度の指標gAge<gut clock of aging、ジーエイジ=腸年齢>」を基に作成※4)。幼少期の生活環境や睡眠、喫煙、飲酒など、世界中で発表されてきた研究論文から腸内細菌や疾病と関係の深い項目も盛り込まれている。
※4:『最高の食べ方がわかる!老けない腸の教科書』(内藤裕二監修、新星出版社)

日本人の腸内細菌叢は大きく5タイプ

腸年齢は、自分の腸内細菌の状態を知るための目安の1つとなるものです。腸内細菌は1000種類ほどあり、大腸を中心に約100兆個もの細菌が生息しているといわれます※5。この細菌のかたまりを腸内細菌叢、あるいは腸内フローラと呼びます。

腸内細菌叢は人によって異なります。食習慣や喫煙・飲酒の習慣、服薬の有無、便通などさまざまな要因が腸内細菌に影響を与えていることが、国内外の多くの研究で分かってきています。

中でも腸内細菌の栄養源にもなる食事は、腸内細菌叢の状態に大きな影響を与えると考えられています。

京都府立医科大学大学院医学研究科を中心とする研究チームでは、健康な人283人を含む日本人1803人のふん便から採取した腸内細菌をAI(人工知能)により解析し、5つの「エンテロ(=腸)タイプ」に大きく分類しています※6。そのデータから、タイプ別に次のような腸内細菌の特徴と食事傾向が見えてきたといいます。

※5:厚生労働省 e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.htmlを2023年3月10日に参照
※6:Takagi T, et al. Microoraganisms 2022, 10: 664.

<A>高たんぱく・高脂肪タイプ

ルミノコッカス科、ストレプトコッカス属の腸内細菌が多い。肉類や唐揚げなどの動物性たんぱく質や脂質の摂取が多い。

<B>バランス食タイプ

バクテロイデス属、炎症を抑える作用をもつ酪酸を産生するフィーカリバクテリウム属の腸内細菌が多い。炭水化物、たんぱく質、脂質の3大栄養素をバランスよく摂取している。

<C>アンバランス食タイプ

バクテロイデス属が多く、フィーカリバクテリウム属の腸内細菌が少ない。ラーメンなどの炭水化物に偏りがちで、他の栄養素が不足しやすい。

<D>高たんぱく・高脂質・糖質が多いタイプ

ビフィズス菌に代表されるビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属の腸内細菌が平均より大幅に多い。たんぱく質、脂質、砂糖の摂取が多い。

<E>ヘルシー食タイプ

食物繊維が多い食事と関連があるプレボテラ属の腸内細菌が多い。肉の摂取が少なく、野菜や魚が多いなど、栄養素をバランスよく摂取している。

このうち病気が少なく健康な人にはBタイプとEタイプが多く、AタイプはEタイプに比べると高血圧が11倍、糖尿病が12.5倍、DタイプはEタイプと比べると肝臓の病気との関連性が11倍に及ぶ と同研究で分かっています※6

しかし、高血圧や糖尿病のリスクが高い傾向がみられるAタイプでも、動物性のたんぱく質や脂質の摂取を控えることで、バランスよく食べているBタイプへと腸内細菌の状態が変わることも研究を進める中で分かってきたといいます。

心当たりがある場合は、食生活を改善することがやはり大切です。

腸内環境を整える食生活のポイントとは

自分の食生活を改善するポイントとして、見直したいのが冒頭のチェック項目です。特に【パート2】の食に関する項目に該当した場合は、その点をまず改善するようにしましょう。

<例>

  • 朝食を毎日摂る
  • 外食は週に4日未満にする
  • コーヒーに砂糖を入れない
  • 野菜を積極的に摂る
  • 肉類だけでなく魚介類も摂る

また、【パート1】の食に関する項目を心掛けたり、積極的に実践したりするのもよいでしょう。

  • 豆腐、厚揚げなどの大豆製品を摂取する
    →大豆製品には整腸作用や腸内のビフィズス菌を増やす作用があるとされるオリゴ糖が多く含まれます。
  • 塩分を制限する
    →塩分の摂り過ぎが腸内細菌に悪影響を及ぼすことが、国際的な科学総合ジャーナル『Nature』などで報告されています※7。日本人は塩分の摂取が過剰になりやすい傾向があるので注意が必要です。
  • 玄米、麦など全粒穀物を3食に1度は食べる
    →玄米や麦などの全粒穀物には、白米や白いパンなどの精製された食品に比べて、食物繊維が多く含まれています。腸内細菌のエサとなる食物繊維を摂取することは、腸内環境を整えるうえで重要です。
    また、全粒穀物に多い水溶性食物繊維には便を軟らかくし、排便をスムーズにする働きもあるとされています。全粒穀物などを主食に取り入れることで、食物繊維を効率よく摂ることが期待できます。
  • 発酵食品を摂る
    →みそやぬか漬け、キムチ、納豆、ヨーグルトやチーズなどの発酵食品には、乳酸菌、ビフィズス菌、こうじ菌、納豆菌といった、いわゆる“善玉菌”が多く含まれています。野菜や豆腐を入れた具沢山のみそ汁なら、食物繊維と発酵食品を一度に摂ることができます。

上記のような食生活のポイントを押さえつつ、バラエティーに富んだ食事を日々楽しみましょう。
さまざまな食品を摂取することで、腸内細菌の多様性が保たれ、健康につながる可能性があることが近年の複数の研究で分かってきています※8

※7:Wilck N, et al. Nature. 2017 Nov 30;551:585-589.
※8:Huang X.et al.(kome 6Eur J Nutr. 2022 Dec;61(8):3915-3928.
Latinen K,Mokkala K.Int. J. Mol. Sci. 2019, 20(8), 1835.
Liu Y.White DL.et al.Am J Clin Nutr.2019;110(3):701-712.

監修者プロフィール
内藤 裕二先生(京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授)

【内藤裕二(ないとう ゆうじ)先生プロフィール】

1983年京都府立医科大学卒業。2001年米国ルイジアナ州立大学医学部客員教授、京都府立医科大学(消化器内科学)准教授などを経て2021年から現職。日本酸化ストレス学会理事長、日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025大阪・関西万博大阪パビリオンアドバイザー。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。『すごい腸とざんねんな脳 最先端の研究でわかった 驚くべき「腸」と「脳」の働き』(総合法令出版)など著書多数。

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