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新しい食の指標「DII(食事性炎症指数)」を知ろう

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監修/蓮澤 奈央先生(久留米大学医学部内科学講座 内分泌代謝内科部門 講師/外来医長)

食事は健康を維持する基本です。血糖値の急上昇を抑える食品選びの指標の一つとして「GI値(グリセミック・インデックス/食品の食後血糖値の上昇度を示す指数)」が知られていますが、近年は食品が体内の炎症にどの程度影響を与えるのかを示す「DII(ディーアイアイ/Dietary Inflammatory Index:食事性炎症指数)」も注目されています。体内に炎症が生じることのリスクや、炎症を起こしやすい食品、あるいは炎症を防ぐ食品にはどのようなものがあるのか、久留米大学医学部内科学講座 内分泌代謝内科部門 講師/外来医長の蓮澤奈央先生に伺いました。

体内の慢性炎症が怖い理由

体内の慢性炎症が怖い理由

炎症と聞いて、思い浮かぶのはどんな状態でしょうか。身近な炎症といえば、扁桃炎や結膜炎など、赤く腫れて、熱をもち、時には痛みを伴う、急性の反応ではないかと思います。これは、細菌やウイルスなどの異物に対して起こる生体の防御反応です。

より詳しくいうと、皮膚や粘膜、消化器などの臓器を構成する細胞や血液中の白血球などの炎症細胞が異物に反応し、サイトカインやケモカインと呼ばれるシグナル物質が分泌されます。すると、体内から炎症細胞が動員されてさらに集まり、異物を攻撃・排除し、やがて炎症が治癒するという一連の反応が起こります。

1929年のペニシリンの発見以来、たくさんの抗生物質、そして抗ウイルス薬が開発され、生体に対する異物の除去をサポートしながら、急性炎症を早く治癒させる治療は飛躍的に進歩してきました。

ところが近年では、こうした感染症の分野以外でも、「炎症」は注目を集めています。というのも、動脈硬化、糖尿病、脂肪肝、がん、認知症など、これまで長年の食事、運動、喫煙などの生活習慣の蓄積によって発症すると考えられてきた慢性疾患にも、炎症が深く関わっていることが分かってきたためです。

例えば、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化も、単にコレステロールが血管の壁に貯まるだけでなく、そこに多くの炎症細胞が集まってサイトカインを分泌し、病態を悪化させているということが明らかになっています※1。生活習慣病に関わる炎症は、急性炎症のように細菌やウイルスなどに対する激しい反応ではなく、異物がない状況でもじわじわと持続する「慢性炎症」と呼ばれます。

慢性炎症は急性炎症と異なり、自覚症状はほとんどありません。そのため、自分では気づかないうちに体内に軽い炎症がくすぶり続け、病気を招いたり、老化を進行させたりしている恐れがあります。

※1:動脈硬化学会 ガイドライン2022(https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_2_220926.pdf)を2024年7月5日に参照

関連記事:万病のもと、慢性炎症を防ぐ!

「DII(食事性炎症指数)」とは

「DII(食事性炎症指数)」とは

慢性炎症が起こる原因には喫煙や過度の飲酒といった生活習慣、体内のホルモンの変化、脂肪や老廃物の蓄積などがあります。近年は、私たちが普段食べるものにも「炎症を起こしやすいもの」あるいは「炎症を防ぐもの」があることが分かってきました。

そこで、食事が体内の炎症状態に与える影響を総合的に評価する指標として開発されたのが「DII」です。

開発したのは米国サウスカロライナ大学の研究チームで、2010年12月までに発行された食事性の炎症に関する約6500件の論文から厳選した約2000件を参照し、45種類の栄養素や食品ついて、炎症促進性あるいは抗炎症性をスコア化しました※2

これは、45種類の栄養素や食品が6種類の生体内の炎症性マーカー(炎症性サイトカインなど炎症の指標となるタンパク質:IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、CRP)に与える影響を数値化したもので、炎症を引き起こすものにはプラスの、炎症を減少させるものにはマイナスのスコアがつけられています。

ある人の1日の45項目の栄養素摂取量を、それぞれこのスコアで重みづけすることで、その人の食事が炎症を起こしやすいか、逆に起こしにくいかということが分かるようになります。ある人の1日の食事内容から計算したDIIの値が「正(DIIが高い)」なら炎症を起こしやすい食事、「負(DIIが低い)」なら炎症を防ぐ食事と評価されます。

※2:Nitin Shivappa,et al. Designing and developing a literature-derived, population-based dietary inflammatory index. Public Health Nutrition.201417(8), 1689–1696.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23941862/)を2024年6月12日に参照

低DII食品が炎症を防ぐ

低DII食品が炎症を防ぐ

米国サウスカロライナ大学の研究チームが発表した論文※2では、DIIが低く、炎症を防ぐ栄養素や食品として下記が示されています。

■DIIが低く、炎症を防ぐ栄養素や食品※2

栄養素

  • ビタミン類
    ビタミンB6、βカロテン、葉酸、ナイアシン、リボフラビン、チアミン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE
  • ミネラル類
    マグネシウム、セレン、亜鉛
  • 脂質
    n-3系脂肪酸(オメガ3)、n-6系脂肪酸(オメガ6)、MUFA(一価不飽和脂肪酸)、PUFA(多価不飽和脂肪酸)
  • 食物繊維

食品

  • 野菜
    ニンニク、ショウガ、タマネギ
  • スパイス、ハーブ
    サフラン、ターメリック、コショウ、タイム/オレガノ、ローズマリー
  • 飲料
    緑茶/紅茶、アルコール

抗酸化作用のある成分

カフェイン、オイゲノール(クローブに含まれる精油成分)、フラバン—3-オール、フラボン、フラボノール、フラバノン、アントシアニジン、イソフラボン

一方、DIIが高く、炎症を起こしやすい栄養素には次のものがあります。

■DIIが高く、炎症を起こしやすい栄養素※2

栄養素

  • ビタミン類
    ビタミンB12
  • 炭水化物
  • 脂質
    コレステロール、中性脂肪、リン脂質、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸
  • タンパク質
  • ミネラル類

このように見てみると、例えば炭水化物や脂質を多く含むパンやスナック菓子、揚げ物などはDIIを高める傾向にあり、反対に、ビタミン類やミネラル類、食物繊維を多く含む野菜や果物、n-3系脂肪酸が豊富な魚介類や魚油、イソフラボンを含む大豆製品などを毎日の食事に取り入れると、炎症を抑える効果が期待できそうです。ビタミンEが豊富なアボカドや、ビタミンCが豊富なブルーベリーなども挙げられます。

これらはイメージ通りの健康にいい食事と言えますが、DIIのメリットはこれらの多くの栄養素や食品を含む食事の炎症性をトータルに数値化できるという点です。

もちろん、これらの食品だけを摂ればよいというわけではなく、栄養バランスが大切なことはいうまでもありません。

DIIの高い食生活のリスク

DIIの高い食生活のリスク

DIIと病気や老化の関係については世界各国で研究が進められており、人生100年時代の健康課題「フレイル(健康な状態と要介護状態の中間の段階)」とDIIの関わりについても注目が高まっています。

フレイルの原因の一つに、加齢に伴う筋力の低下があります。国立長寿医療研究センター研究所は、1997年から実施している老化に関する長期縦断疫学研究「NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)」のデータから、慢性炎症を起こしやすい食事と握力の低下について調査を行っています。

その結果、第一次調査時40~59歳の女性において、DIIの高い食事を摂っていたグループは、DIIの低い食事を摂っていたグループに比べて、約12年後の握力の低下が大きいことが分かっています※3

※3:国立長寿医療研究センター研究所「食習慣と筋力低下~食事と慢性炎症の観点から~【フレイル予防】」(https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/41.html)を2024年6月12日に参照

日本ではまだ研究段階にありますが、実際に医療の現場で病気の予防や治療にDIIを活用できるよう取り組みが進められています。久留米大学では、DIIを簡易的に評価し、食事指導や食品選択に利用できる方法を開発し、2024年6月特許出願しました。将来的には炎症に特化して個人の食事を評価するツールなども登場するかもしれません。ぜひ、先に紹介したDIIの低い栄養素や食品を参考に、健康的な食生活を続けていきましょう。

監修者プロフィール
蓮澤 奈央先生(久留米大学医学部内科学講座 内分泌代謝内科部門 講師/外来医長)

【蓮澤奈央(はすざわ なお)先生 プロフィール】

久留米大学医学部内科学講座 内分泌代謝内科部門 講師/外来医長
医学博士。2006年、東京医科歯科大学医学部医学科卒業。九州大学大学院医学研究院修了、2018年、久留米大学医学部内科学講座内分泌代謝内科部門助教を経て、2023年から講師、2024年から外来医長。日本内科学会認定内科医。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。日本糖尿病学会糖尿病専門医。

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