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病気と医療の知って得する豆知識

性格診断よりも気になる!? 血液型で違う病気のリスク

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監修/高山渉先生(東京医科歯科大学医学部附属病院 救命救急センター 特任助教)

「血液型で分かること」と聞くと、性格診断を連想する人が多いかもしれません。では、血液型と病気のリスクに関連があることはご存じでしょうか。血液型ごとにかかりやすい病気やその理由などについて、東京医科歯科大学の高山渉先生にお話を伺いました。

血液型とは

「血液型」は誰もが知っているものですが、実は非常に多くの種類があります。私たちが日常的によく耳にする血液型は「ABO式血液型」と呼ばれるものです。赤血球の表面にある物質(抗原)の違いによって、A、B、O、ABの4種類に分類されています。

血液型が特に重要となるのは、輸血を行うときです。別の血液型の血液を輸血してしまうと、本来の自分の血液との間で、アレルギー反応のような副作用が起きてしまいます。血液には抗原を攻撃する成分(抗体)が含まれており、例えばA型の人にB型の血液を輸血すると、B型の血液に含まれる抗体がA型の抗原を攻撃してしまうのです。そのため、輸血は同じ血液型同士で行うのが大原則です。

ただし、O型の血液だけは、他の血液型の人に輸血してもこうした反応が起きません。O型の赤血球には抗原がないため、他の血液型の血液に含まれる抗体から攻撃されることがないのです。そこで、緊急時に限っては、血液型にかかわらずO型の血液を輸血する場合があります。

血液型による病気のリスク

血液型といえば、「A型は几帳面」「O型は大ざっぱ」といった性格診断がおなじみかもしれません。しかし、血液型と性格の関連性には科学的根拠がないことが分かっています。
一方、血液型と病気のリスクに関する研究は、世界各国で数多く行われています。

救急医学を専門とする高山先生は、2018年に発表した論文の中で、「大きなけがを負ったO型の人は、O型以外の人と比べて死亡率が高い」と述べました。日夜、救命救急センターに運ばれてくる患者さんの治療を行う中で、年齢やけがの重さなどの諸条件が似ていても、手術で助かる患者さんもいれば、出血が止まらず亡くなる患者さんもいることに、日頃から疑問を抱いていたそうです。こうした差が出てしまうのはなぜなのか、重傷を負って救命救急センター2施設に運ばれてきた901人のデータを集めて調べてみたところ、O型の人の死亡率は28%、O型以外の人の死亡率は11%でした。血液型によって死亡率に差が出たのです。

このような結果を聞くと、不安になってしまうかもしれません。しかし、高山先生によれば、今回の論文は「大けがを負って生死にかかわるほど極限の状態になった際に、血液型による違いが出るのではないか」という仮説であって、日常生活の中でのちょっとした傷などでは全く問題はないとのことです。

■救命救急センターに運ばれた重症患者の血液型別の死亡率

※出典:Wataru Takayama, Akira Endo, Hazuki Koguchi, Momoko Sugimoto, Kiyoshi Murata, Yasuhiro Otomo. The impact of blood type O on mortality of severe trauma patients: a retrospective observational study. Critical Care. 2018;22(1).

なぜ血液型によってかかりやすい病気に違いがあるのでしょうか。

血液型は赤血球表面の物質の違いによって分類されています。さらに細かく調べると、これ以外にも血液型ごとにさまざまな特徴があります。このような特徴の違いが、特定の病気に対するかかりやすさと関連しているのではないか、と考えられています。

例えばO型の人では、他の血液型の人と比べて、フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand Factor:vWF)という血液凝固因子(血液を固めて止血を助けるタンパク質)が3割程度少ないことが知られています。O型の人の場合、血液が固まりにくい特徴がある反面、血液が固まること(血栓)が原因で発生する病気が、他の血液型の人よりも少ないといわれています。O型以外の人は、O型の人と比べ、心筋梗塞のリスクが1.25倍、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)のリスクが1.79倍との報告があります。

■O型とO型以外の人を比べた場合のvWFの量と病気のリスク

出典:Wu O, Bayoumi N, Vickers MA, Clark P. ABO (H) blood groups and vascular disease: a systematic review and meta-analysis. J Thromb Haemost. 2008;6(1):62–9.

高山先生の研究では、大けがをしたO型の患者さんは、他の血液型の患者さんよりも死亡率が高くなりました。O型の患者さんはvWFが少ないため、大けがをした際に出血が止まりにくいことが、O型の死亡率が高い原因の一つではないか、と考えられます。

リスクの高い病気には、どの程度気をつけたらいい?

他にも、血液型による病気のリスクの違いが報告されています。例えば、胃がんにかかりやすいのはA型の人だという報告があります。2010年にスウェーデンの大学が発表した研究結果によると、A型の人の胃がんのリスクは、最もリスクの低かったO型の人と比べて1.2倍でした。

膵臓がんのリスクが高いとされているのはB型の人です。2009年にアメリカ国立がん研究所が発表した論文では、B型の人は最もリスクの低かったO型の人に比べて、膵臓がんのリスクが1.72倍高いと報告されました。

脳卒中のリスクは、AB型の人が最も高いと報告されています。2014年に発表されたアメリカの研究では、AB型の人は最もリスクの低かったO型の人と比べて、脳卒中のリスクが1.83倍高くなりました。

■血液型別・かかりやすい病気一覧

出典:*1:Edgren G, Henrik H, Klaus R, et al. Risk of gastric cancer and peptic ulcers in relation to ABO blood type: a cohort study. Am. J. Epidemiol. 2010;172:1280–1285. *2: Ewald DR, Sumner SC. Blood type biochemistry and human disease. Wiley interdisciplinary reviews: Systems biology and medicine.
2016;8(6):517-35. *3:Wolpin BM, Chan AT, Hartge P, et al. ABO blood group and the risk of pancreatic cancer. J Natl Cancer Inst. 2009;101:424–31. *4:Fagherazzi G, Gusto G, Clavel CF, Balkau B, Bonnet F. ABO and Rhesus blood groups and risk of type 2 diabetes: evidence from the large E3N cohort study. Diabetologia 2015;58(3):519-522. *5:Alkebsi L, et al. Gastroduodenal Ulcers and ABO Blood Group: the Japan Nurses’ Health Study (JNHS). Journal of epidemiology. 2018 Jan 05;28(1);34-40. *6:扁平上皮癌、基底細胞癌のリスクが高い(悪性黒色腫は有意差なし)Xie, J.; Qureshi, A.A.; Li, Y.; Han, J. ABO blood group and incidence of skin cancer. PLoS ONE 2010,5(8),e11972. *7:Zakai NA, Judd SE, Alexander K, McClure LA, Kissela BM, Howard G, Cushman M. ABO blood type and stroke risk: the REasons for Geographic And Racial Differences in Stroke Study. J Thromb Haemost. 2014(4);12:564–570. *8:Alexander KS, Zakai NA, Gillett S, McClure LA, Wadley V, Unverzagt F, et al. ABO blood type, factor VIII, and incident cognitive impairment in the REGARDS cohort. Neurology. 2014;83(14):1271–6.

血液型と病気に関する研究がさらに進んだ場合、治療方法が変わる可能性が考えられます。

例えば、救急の現場では患者さんの血液型が不明な場合も多く、検査結果を待つ余裕がないときは、反応の起きにくいO型の血液(緊急時用にストックされている)をひとまず輸血します。そして、容体が落ち着いてから患者さんの血液型を調べ、本来の血液型の血液へ変更するケースが一般的です。しかし、もしO型の血液自体が、出血しやすさの原因と関連しているのであれば、少しでも早く本来の血液型の血液を輸血する方針に変えたほうが、患者さんの出血リスクを下げることができるかもしれません。

また、もし血液型ごとにかかりやすい病気が違うのであれば、血液型別に治療薬や予防法を開発することで、一人ひとりの患者さんに合わせた対策が可能になるかもしれません。

現段階では実際の治療に生かされるまで研究は進んでいませんが、今後の研究に大きな期待がされています。高山先生も、O型の人の死亡率が高くなった原因をさらに詳しく調べ、救急の治療に応用できるよう、現在も研究を続けています。

今後、どのような結論が出るかまだ分かりませんが、血液型は日本人にとってなじみの深いものです。過剰に気にする必要はありませんが、まずは血液型と病気のリスクに関連があることを知り、これをきっかけに自分自身の健康にもさらに関心を持つよう心がけてみてはいかがでしょうか。

監修者プロフィール
監修/高山渉先生(東京医科歯科大学医学部附属病院 救命救急センター 特任助教)

【高山渉(たかやま わたる)先生プロフィール】

東京医科歯科大学医学部附属病院 救命救急センター 特任助教
2010年島根医科大学卒業。板橋中央総合病院にて初期臨床研修後、東京医科歯科大学救命救急センターに入局。土浦協同病院、松戸市立総合医療センターを経て救急の経験を積み、現職に至る。日本救急医学会救急科専門医、日本外科学会外科専門医。専門は外傷、集中治療、蘇生など。

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