季節のテーマ
夏だけではない!寒い時期にも油断大敵、“冬バテ”に注意
監修/佐藤 純先生(愛知医科大学 客員教授 中部大学 生命健康科学研究科 教授)
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冬バテの原因~寒暖差~
暑さが落ち着き、ようやく過ごしやすい気温になったと思ったら、あっという間に寒くなる。そんな冬を迎える頃に、次のような症状を経験した人もいらっしゃるのではないでしょうか。
冬に起こるこのようなさまざまな不調を一般的に「冬バテ」といいます。
冬バテには、体温を調節する働きを持つ自律神経が大きく関係しています。
暑い時期は体温を下げるため、自律神経の働きにより、末梢の血管が拡張して皮膚の表面に血液を流し込み、熱を体の外に逃がしています。
一方、寒い時期は体温を保つ必要があるため、血管を収縮させて熱を体内にため込みます。暑さ、寒さの変化がはっきりしていれば自律神経が自然に切り替わり、気温に応じた体温調節が行われます。
しかし、まだ本格的な冬を迎える前で日中と夜の気温差が大きかったり、暖かかったり、急に冷え込んだりと日によって寒暖差があると体温調節が難しく、自律神経に負担がかかります。
また、自律神経は体のエネルギーの消費や温存、回復などの働きも担います。体は体温を下げるよりも上げるときに多くのエネルギーを使います。そのため、暑い時期から寒い時期へ移り変わる際には、エネルギーを多く消費するように変化していきます。これらのことが疲労感や倦怠感などを引き起こす一因となります。
冬バテの原因~日照時間~
夏と冬との日照時間の違いも、自律神経に影響を及ぼすといわれております。自律神経は約24時間の周期でバランスが保たれており、活動的になる日中は交感神経が優位になります。夕方から夜間にかけては副交感神経が優位になり、心身がリラックスして休息モードへと切り替わります。冬は日照時間が短く、日が暮れるのが早いため、本来であれば副交感神経が優位になる時間も夏に比べて長くなります。
しかし、夏と同じ活動レベルを続けていると、夕方になっても交感神経から副交感神経への切り替えがうまくいかず、本来リラックスすべき時間がずれていきます。その結果、一種のジェットラグ(時差ぼけ)のように、時間のずれが積み重なることで生体リズムが乱れ、不調が生じる要因となります。
また、日照時間が短いと、日光に当たることで合成される脳の神経伝達物質であるセロトニンが不足しやすくなります。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神を安定させる作用などがあるといわれており、セロトニンが不足すると気分が落ち込んだり、意欲が低下したりするなど、抑うつ症状を引き起こす可能性があります。
冬は身体的にも精神的にも多くのエネルギーを要しますが、暑い時期から寒い時期へと切り替わる頃は、まだ体の準備が十分に整っていません。そのため、エネルギーの供給が間に合わず、エネルギーのバランスが崩れて、疲れやすい、だるい、といった前述の冬バテの症状が起こりやすくなるのです。
冬バテの原因~爆弾低気圧~
気温や日照時間に加えて、気圧にも注意が必要です。気圧の変化は耳の鼓膜の奥にある内耳がキャッチして脳に伝わります。すると自律神経にも影響が及び、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、不調が起こりやすくなります。
冬は、春や秋に比べると全体的に気圧は安定しているものの、冬型の気圧配置によって温度差を起因とした急速な気圧低下が起こり、爆弾低気圧が発生する場合があります。気圧の変化によって自律神経が乱れることでも、頭痛やだるさ、めまい、吐き気、肩こりといった多くの不調が生じやすくなります。
内耳が敏感な人や、梅雨時や台風など気圧変化が大きいときに不調を生じやすい人は、爆弾低気圧の影響を受けやすいと考えられます。
耳のマッサージで自律神経を整える
冬バテの予防や対策としておすすめの方法の一つが、「くるくる耳マッサージ」です。耳のまわりにあるツボを刺激することで、自律神経系の中枢である脳の視床下部に刺激が伝わり、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。気圧変化の影響を受けやすい人は、爆弾低気圧が発生する前などにマッサージを行うことで、内耳の血行が良くなり、気圧を感じるセンサーの感受性を下げることにつながります。
■耳のマッサージ法
1 両耳の上部を軽くつまみ、5秒間、上に引っぱる。
2 両耳の真ん中を軽くつまみ、5秒間、横に引っぱる。
3 両耳の下部を軽くつまみ、5秒間、下に引っぱる。
4 両耳の真ん中を軽くつまみ、横に引っぱり、そのまま前から後ろにゆっくり大きく5回まわす。
5 両耳を包むように曲げて、5秒間キープする。
6 両耳を手のひらで覆い、円を描くように前から後ろにゆっくり5回まわす。
体を温め、冷やさない生活を
寒くなると体温を維持するために自律神経の交感神経が働き、熱をつくり出します。その際に多くのエネルギーが消費されると疲労やだるさなどを引き起こすので、なるべく体を冷やさないよう気をつけて、常に温かく保つことを心がけましょう。
特に生活の中で意識したいポイントは次の3つです。
1 就寝時は長袖、長ズボンのパジャマを着用し、冬用の掛け布団をしっかりかける
体を温かくして眠ると全身の血流が良くなり、皮膚から熱が放出されます。それによって、冷えた血液が脳に戻り、脳の温度(深部体温)が下がります。脳が冷えることで眠りが深くなり、疲労感の解消にもつながります。
2 首、手首、足首の“3首”を温める
首、手首、足首の皮膚の近くには太い血管(動脈)が走っています。首まわりを温めることで脳の血流を促進する効果が期待できます。また、体温調節をする血管は手のひらと足の裏に多く集まっています。この部分を温めるだけでも全身の体温が上がり、ぽかぽかするのを感じられるでしょう。そのほかにも、首はマフラーやネックウォーマー、手首は手袋やアームウォーマー、足首は厚手の靴下やレッグウォーマーなどを活用するとよいでしょう。
3 お風呂上がりに、足にぬるめのシャワーをかけて冷やす
お風呂に入ると下半身が温まり、ぽかぽかしますが、このとき血管は開いて拡張しています。そのままお風呂から出ると、体内の熱が逃げて湯冷めしやすくなります。湯船から出たら、体が温かいうちにひざから下にぬるめのシャワーをかけると、血管が収縮して熱が逃げにくくなります。その後、すぐに靴下をはけば、温かさが長続きします。
寒暖差から体を守るには、外に出る5分前くらいに暖房を切って、体を寒さに慣らしてから出かけるのがおすすめです。寒いからといって室内にこもるのではなく、散歩やジョギングなどの軽い運動を続けましょう。
自律神経の働きを整え、冬バテを防ぐためには、朝は早く起きて日光を浴び、日中はよく体を動かし、夕方以降は家でリラックスして過ごす、といったメリハリのある生活を送ることも大切です。
冒頭のチェック項目にあるような症状が出た場合は、放置せずに総合診療科や内科、また症状によっては心療内科を受診することをおすすめします。
監修者プロフィール
佐藤 純先生(愛知医科大学 客員教授 中部大学 生命健康科学研究科 教授)
【佐藤純(さとう じゅん)先生プロフィール】
愛知医科大学 客員教授
中部大学 生命健康科学研究科 教授
天気痛ドクター。医学博士。日本慢性疼痛学会認定専門医。1983年、東海大学医学部卒業。名古屋大学大学院で疼痛生理学・環境生理学の研究をスタートした後、米国ノースカロライナ大学に留学。慢性疼痛と自律神経の関係について研究を行う。名古屋大学教授を経て、2005年、愛知医科大学病院に日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設。また、東京竹橋クリニックで気象病・天気痛外来医として診療を行う。『1万人を治療した天気痛ドクターが教える「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本』(アスコム)など著書多数。
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暑さによるさまざまな不調の総称である「夏バテ」は古くからよく知られていますが、昨今は冬を迎える頃から調子が悪くなる「冬バテ」も注目されています。冬バテとはどのような症状なのか、どんな原因で起こるのか、予防や対策はどうすればよいのか、気象病や天気痛診療のエキスパートである愛知医科大学 客員教授の佐藤純先生に伺いました。