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乗り物酔いは克服できるの? 対策を考える

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監修/石井正則先生(JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長)

車や船などの乗り物に乗ると気分が悪くなってしまい、旅行に出かけても楽しめない……。せっかくの楽しい時間に水を差してしまう乗り物酔いを、克服する方法はあるのでしょうか。乗り物酔いのメカニズムや、乗り物酔いを予防するための対策などについて、JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則先生に伺いました。

乗り物酔いが起こる仕組み

冷や汗、生唾、だるさ、吐き気、嘔吐といった乗り物酔いの症状は、自律神経のバランスが崩れることで起こります。症状が出るまでには3つの段階があります。

第1段階は、目から入ってくる情報と耳で感知される情報にずれが生じること。乗り物に乗って感じる加速度、揺れ、回転などの刺激は、内耳にある三半規管や耳石器などがセンサーとなり、その情報を脳に伝えています。通常、こうした耳からの情報と、目から入ってくる視覚情報は一致しますが、例えば車内で読書をしている場合、視線は固定される一方、内耳からは「体が動いている」という情報が伝わります。このように、目と耳からそれぞれ入ってくる情報がずれていると認識されるのが最初の段階です。自分が運転しているとほとんど酔わないのは、景色が自分の操作どおりに動くため、目と耳から得られる情報にずれが生じにくいからです。

第2段階は、この情報のずれが「不快」と判断されること。目と耳からの情報は、脳の中の扁桃体に送られます。扁桃体の近くには、海馬と呼ばれる記憶を司る器官があり、過去の不快な記憶と照らし合わせて、情報のずれを「不快」と判断します。これが第2段階です。

第3段階は、乗り物酔いの症状が起こる段階です。扁桃体は、情報を「不快」と認識すると、自律神経に働きかけます。自律神経は異常に興奮して、冷や汗や吐き気などのさまざまな症状を引き起こします。胃の収縮をコントロールしているのも自律神経なので、胃が不規則に動き、最終的には胃がギュッと収縮することで嘔吐してしまいます。

乗り物酔いの起こる仕組み

目から入ってくる情報と内耳で感知される情報にずれが生じる

第1段階 目から入ってくる情報と内耳で感知される情報にずれが生じる

脳が過去の記憶と照らし合わせて「不快」と判断する

第2段階 脳が過去の記憶と照らし合わせて「不快」と判断する

自律神経が興奮して乗り物酔いの症状が起こる

第3段階 自律神経が興奮して乗り物酔いの症状が起こる

遊園地の絶叫マシンが好きな人もいれば、酔ってしまって乗れない人もいるように、情報のずれをどこまで不快と感じるかには個人差があります。また、年齢によっても異なります。子どもは自律神経が未発達で反応しやすく、脳の情報ネットワーク形成も途上にあるため、酔いやすい傾向があります。乳児でも車酔いが見られますが、小学生頃から酔う人が増え、中学・高校生頃がピークになります。

大人でも、精神的ストレスやうつなど、自律神経が不安定になる要因を持っていれば酔いやすい傾向があります。普段は酔わない人でも睡眠不足や空腹で体調が悪いとき、あるいは温度や匂いなどの環境が影響して酔うこともあります。

乗り物酔いを防ぐための13カ条

乗り物酔いを予防するには、自律神経の揺らぎを抑えることが大切です。乗り物に乗る前の準備として、まず前日はよく睡眠をとって体調を整えましょう。満腹も空腹も良くないので、食事は消化しやすいもの(脂肪分が少ないものなど)を適度に摂ります。厚着や締め付ける服装などは自律神経が興奮しやすいので注意しましょう。不安が強ければ、出発前に酔い止めの薬を服用しておくと安心です。

乗り物に乗っているときの対策としては、目からの情報と耳からの情報にずれが生じないようにすることです。ドライバーと離れた座席ほど視覚情報のずれが生じやすいため、前方の席に座り、加速度に影響されないずっと遠くの景色(例えば月など)を眺めるようにしましょう。また、下を向いて本やスマートフォンなどを操作していると酔いやすくなります。気分が悪くなりそうだと思ったら、早めに背もたれを倒すか横になって頭を上に向けましょう。横になることで頭が固定されると情報がずれにくくなるため、酔いにくくなります。

それでも酔ってしまったときの応急対策としては、アイスキューブ(氷)を2~3個(子どもは1個)口に含む方法があります。痛いと感じるほど冷たい刺激が、自律神経の乱れを抑えます。唐辛子や生姜でも同様の効果が期待でき、乗る前に予防として食べるのも効果的です。一方、梅干しや柑橘類など生唾が出る酸っぱいものは、胃を刺激して逆に酔いを促進してしまうので、特に酔ってしまってからは厳禁です。

乗り物酔いを防ぐ13カ条(石井先生への取材を基に作成)

乗り物酔いは、慣れることで克服できる

乗り物酔いの根本的な克服につながる最も効果的な方法は、「慣れる」ことです。乗り物酔いは病気ではなく、体が適応しようとして起こる反応だからです。酔ってしまうからと乗り物を避けるのではなく、酔い止めの薬を使ってでも乗り物に乗って慣れることが、克服につながります。

市販の酔い止め薬の多くは、抗ヒスタミン薬(第1世代)と呼ばれるもので、脳の興奮を抑える成分が主成分です。乗り物に乗る30分ほど前に服用するのが効果的とされますが、酔ってから飲んでも作用するものもあります。

子どものうちは乗り物酔いを経験しても、おしゃべりをしたり歌を歌ったりと楽しいことをしていたら酔わなかったという「成功体験」を積み重ねることによって、成長とともに酔わなくなる人も多いものです。逆に、酔ったときに叱られたり、過剰に心配して不安を煽ったりすると、なかなか克服できないこともあります。緊張や不安から乗り物を避けるよりも、薬を上手に使って不安を取り除き、リラックスして楽しく過ごしながら乗り物酔いを克服していきましょう。

監修者プロフィール
石井正則先生(JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長)

【石井正則(いしい まさのり)先生プロフィール】

JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長
1980年、東京慈恵会医科大学卒業。84年、同大学院卒業とともに、米国ヒューストン・ベイラー医科大学・耳鼻咽喉科へ留学。87年に帰国後、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科医長に就任。2000年より、同大学准教授。現在はJCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長。日本耳鼻咽喉科学会評議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。ヨガインストラクターとしても活動中。

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