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膀胱炎とは?症状と原因、検査と治療法を解説
監修/佐藤 亜耶先生(自由が丘ウロケアクリニック院長)
尿をためて排出する膀胱(ぼうこう)に、尿道を経由して細菌が入ることが原因で起こる膀胱炎。排尿時の痛みや残尿感、頻尿、血尿といった症状があり、日常生活に影響を起こすこともあります。さらに、放っておいたり十分に治療しないでいたりすると、膀胱炎を繰り返し引き起こす要因につながります。特に、女性は体の構造から膀胱炎になりやすい傾向があります。膀胱炎の症状と原因、治療法、予防法について、自由が丘ウロケアクリニックの佐藤亜耶院長に伺いました。
膀胱炎とは
膀胱は、尿をためたり(蓄尿)、出したり(排尿)する臓器です。膀胱炎は、その膀胱に細菌が侵入して炎症を起こす病気です。膀胱炎はいくつかのタイプに分かれ、最も多いのが細菌性膀胱炎です。細菌性膀胱炎のタイプには、「急性膀胱炎」と「慢性膀胱炎」があり、なかでも、20~40代の女性の25~35%が急性膀胱炎にり患するといわれています※1。そのほか、膀胱炎には稀に発症する「間質性膀胱炎」などがあります。
※1:(https://www.ebm.jp/disease/urinary/01bouko/guide.html)を2023年12月19日に参照
■膀胱炎の主な特徴
ここでは細菌性膀胱炎について解説します。
・急性膀胱炎
基礎疾患がない人に起こる膀胱炎。急に起こることが多いが、比較的治りやすい。女性に多い。
・慢性膀胱炎
急性膀胱炎を放置したり、治りきらずに繰り返したりするものや、他の基礎疾患が原因で起こるものがある。
なお、稀に発症する「間質性膀胱炎」の特徴は、尿が膀胱にたまったときに痛みを感じたり、頻尿になったりします。治療も難しく、難治性の病気といわれています。
膀胱炎の症状
膀胱炎の症状はタイプによって異なります。特に多い急性膀胱炎の主な症状は、下記の通りとなります。
- 排尿の回数が増えた
- 排尿の終わりにツーンとした強い痛みがある
- 排尿のあとに残尿感がある
- 膀胱付近に違和感がある
- 尿が白濁している
- 血尿が出る
- 下腹部に違和感がある
慢性膀胱炎の場合、急性膀胱炎と同様の症状がみられますが、自覚症状はないかあっても弱く、慢性的に膿(うみ)が混じった膿尿(のうにょう)と、細菌が混じった細菌尿がみられることが多くあります。急性の場合と違い、持続的に症状が続いたり、繰り返したりすることが多くなります。
膀胱炎の原因
膀胱炎が男性に比べて女性に多い理由は、外尿道口の近くに肛門や腟が並んでいるため、細菌が尿道に入り込みやすいからです。また、女性の尿道は男性に比べて短く、3~4cmしかないことも要因の一つといわれています※2。
※2:大森正志. 尿道のはたらきと尿道の疾患. 泌尿器ケア Volume 13, Issue 4, 366 – 372 (2008)
膀胱炎の治療法
一般的に膀胱炎かどうかを診断するには、問診による自覚症状の有無、尿定性および尿沈渣(にょうちんさ)を行います。また、膀胱炎の治療は症状によって異なります。
急性膀胱炎の場合、抗生物質や抗菌薬、漢方薬を使って治療します。原因としては、大腸菌が最も多く、投与期間は症状の進行具合にもよりますが、3~5日程度で頻尿や排尿痛といった症状が改善されます。なお、抗菌薬には、妊婦への投与が禁忌のものもあるので、妊娠の可能性がある場合は医師に相談しましょう。
また、市販薬でセルフケアをする方法もありますが、医療機関で原因菌に適した抗生物質の処方を受けること、しっかりと細菌がなくなったかどうかを判断するために経過観察をすることが重症化や慢性化を防ぐうえでも大切です。診療の際に、下着を脱ぐのではといった不安から、受診をためらう人もいるかもしれませんが、少しでも膀胱炎の可能性がある場合は、早めに泌尿器科か内科に相談することをおすすめします。
慢性膀胱炎の場合、細菌が原因のときは急性膀胱炎と同様に抗生物質による治療を行います。基礎疾患がある場合は、そちらの治療を優先します。
膀胱炎の予防法
急性膀胱炎の場合、いったん完治しても繰り返してしまうことがあります。その要因には生活習慣が関わっているといわれています。ストレスや疲労によって免疫機能が低下してしまうと、自浄作用が弱まって菌に対抗できなくなり、膀胱炎を引き起こすのです。特に、急性膀胱炎は20~40代の女性の25~35%がり患するといわれています。この世代の女性はライフステージが忙しい時期でもあり、放置してしまいがちですが、そういう時期だからこそさまざまな要因で再発しやすくなるので、日頃から予防することを心がけましょう。
また、閉経後の女性も注意が必要です。女性ホルモン(エストロゲン)が欠乏すると、腟の粘膜が薄くなって乾燥しやすくなり萎縮性腟炎の状態になります。同時に、健康な膣にあるラクトバチルスを中心とした乳酸菌のもととなるグリコーゲンも減少するため、腟内の酸性度が下がり、自浄作用が低下します。それにより、雑菌の繁殖を抑える力が低下し、膀胱炎を発症しやすくなるといわれています。
■女性のための主な予防法
- 水分を多く取る
膀胱内にある細菌を排出するために、水分はこまめに多く取るようにする。成人の尿量は1日当たり1000~1500mlといわれているので、平均すると1日当たり4~6回は排尿が必要。特に暑い時は水分補給を心がける。なお、コーヒーや緑茶といったカフェインを含む飲み物やアルコール飲料は、逆に体内の水分を減らす働きがあり、脱水症状を誘発する要因になるので注意が必要。 - 生理の時は、ナプキンをこまめに替える
忙しいからと長時間ナプキンを替えないと、付着している汚物によって菌が繁殖してしまう。 - 排尿を我慢しすぎない
長時間にわたりトイレを我慢すると膀胱に尿がたまり、細菌が増える。水分を取り、3~4時間おきくらいにトイレに行って排尿するようにする。 - 性交渉前後にデリケートゾーンを清潔にする
性交渉することで細菌が入りやすくなるので、性交渉の前後にはシャワーを浴びたりしてデリケートゾーンをきれいにする。性交渉後は必ず排尿しましょう。 - 温水洗浄便座はできるだけ使用を控える
肛門の細菌が尿道に入ってきたり、洗いすぎて乾燥してしまったりするので、温水洗浄便座の使用はできるだけ使用を控える。 - 免疫力を高める
生活習慣が乱れると免疫力が低下するので、十分な睡眠時間とバランスが取れた食事、ウォーキングやストレッチといった適度な運動、ストレスをためないことで、免疫力を高める。 - 排便後の拭き方に気をつける
肛門の細菌が尿道に入らないようにするためにも、拭くときは動かさず押さえるだけにする。
なお、膀胱炎の予防を意識し過ぎるあまり、デリケートゾーンを洗い過ぎることは避けましょう。健康な人にある常在菌が失われることで免疫力が低下し、かえって雑菌を増やすことになります。また、デリケートゾーンが乾燥していると雑菌が増えやすくなるため、適度に保湿することが大切です。保湿剤を使う場合は、体や顔に使うボディクリームや乳液ではなく、ワセリンかデリケートゾーン専用の保湿剤を選びましょう。
膀胱炎は放っておくと繰り返し発症したり、場合によっては膀胱のさらに奥の腎盂(じんう)にまで細菌が侵入し、腎臓にまで炎症が及ぶ「腎盂腎炎(じんうじんえん)」といった深刻な病気を引き起こしたりすることもあります。少しでも気になる症状が出た場合は、早めに泌尿器科または内科を受診しましょう。
監修者プロフィール
佐藤 亜耶先生(自由が丘ウロケアクリニック院長)
【佐藤亜耶(さとう あや)先生プロフィール】
自由が丘ウロケアクリニック院長
2006年、日本大学医学部卒業。2008年、日本大学医学部附属板橋病院泌尿器科医局入局、2010年、東京都保健医療公社豊島病院(現・東京都立豊島病院)、2013年、日本大学医学部付属練馬光が丘病院、2014年、埼玉県立小児医療センター、2018年、新都心むさしのクリニック女性泌尿器科を経て、2019年、女性と子どものための泌尿器系を専門とした自由が丘ウロケアクリニックを開院。医学博士、日本泌尿器科学会認定専門医。