頭痛・風邪・熱
発熱の原因と対処法:自宅でのケアから解熱薬の使用まで徹底解説
監修/市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)

発熱は、病原体が体内に侵入すると免疫細胞が異常を感知し、病原体と戦っている防御反応のサインですが、体内で何が起こっているのでしょうか。発熱の原因と対処法、市販の解熱薬を選ぶ際の注意点や自宅でのセルフケアについて「東京みみ・はな・のどサージクリニック」名誉院長の市村恵一先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
発熱の主な原因とメカニズム
細菌やウイルスなどの病原体に感染すると、それを排除しようと免疫細胞が活性化し、体の各所で炎症反応が起こります。この反応の一つとして、炎症物質が血流を通じて全身に広がることで発熱がみられます。
感染症による発熱
多くの人が経験する発熱は感染症によるものです。インフルエンザや風邪が代表的ですが、そのほかに肺炎や髄膜炎(ずいまくえん)、腎盂腎炎(じんうじんえん)、尿路感染症などが挙げられます。
発熱はウイルスや細菌の感染に対する防御反応であり、体が病原体と戦っている証拠でもあります。ただ、高熱は体に負担をかけるため、適切な対処が必要です。
風邪やインフルエンザのように、発熱の特徴から自身で原因をある程度見極めることができるケースもありますが、症状の現れ方には個人差もあります。周囲で感染症の流行がみられる場合は、医療機関で検査を受けるほうがよいでしょう。特に、高い熱が数日続く場合は早めの受診をおすすめします。
炎症性疾患や悪性腫瘍による発熱
感染症以外で発熱がみられる場合、炎症性疾患や悪性腫瘍の可能性も考えられます。炎症性疾患には、大きく分けて、自己炎症性疾患(ベーチェット病、成人スチル病など)、膠原病・自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)、自己免疫疾患(橋本病、バセドウ病など)が挙げられます。
悪性腫瘍には「がん」と「肉腫」があり、これが原因となる発熱を「腫瘍熱」といいます。比較的発熱の症状がみられることが多いものとして、悪性リンパ腫やリンパ性白血病、腎臓がん、肝臓がん、副腎がん、骨肉腫、褐色細胞腫などがあります。
発熱の症状が現れ、風邪と思っていても、その後の経過によっては別の病気と分かる可能性もあるため、体調の変化を見逃さないようにすることが大事です。
発熱は生体防御反応の一つ
ウイルスや細菌が体内に侵入したり、けがで皮膚や細胞組織が傷ついたり、異変を感知すると、脳の中枢から体温を上昇させる指令が出ます。これは病原体から体を守るために必要な防御反応です。医師は、感染症の場合、一般的には初めからむやみに熱を下げようとするのではなく、抗菌薬や抗真菌薬などを使って感染症に対する適切な治療を行いつつ、自然な解熱を待つようにしています。
ただし、高熱は体に負担をかけ、脱水症状や意識障害を招く危険性もあります。発熱が続いて体力を消耗する場合などは、解熱薬を使います。後でも述べますが、38度以上の発熱が3〜4日以上続いている、あるいは41度を超える場合は医療機関に受診しましょう。乳幼児は体温調節機能が未発達なため、大人以上に炎症反応が激しく、急激に体温が上昇することがあります。子どもの症状は変化しやすいので、注意すべき兆候を見落とさないことが大事です。
ストレスや疲れによる発熱
診断や検査の結果、発熱が感染症や炎症性疾患ではない場合、心身のストレスによる可能性も考えましょう。また、疲れによって免疫機能が低下し、ウイルスや細菌に感染して発熱を引き起こすこともあります。
ストレスが発熱を引き起こすメカニズム
極端な忙しさや緊張、環境の変化などによるストレスは、自律神経系や内分泌系に影響を与え、発熱を引き起こすことがあります。これを心因性発熱もしくはストレス性高体温症・機能性高体温症と呼びます。この場合、風邪などの感染症で引き起こされる炎症反応としての発熱とはメカニズムが異なり、解熱薬を服用してもあまり効果が得られません。
ストレスに起因するという意味では、心配ごとや不安によって眠れないもしくは睡眠の質が悪くなる、食生活の乱れなどが原因で体の抵抗力が落ちることがあります。その結果、感染症などの病気を寄せつけやすくなり、発熱するケースもあります。
疲れによる発熱の原因
ストレスと同様に、疲れが蓄積すると免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。慢性的な疲労は自律神経のバランスを乱し、体温調節機能にも影響を与えると考えられます。そのため、栄養のある食事や十分な睡眠で体の抵抗力を高め、健康な状態を保つことが大事です。そして、生活リズムをキープすることが大切であり、一度決めたらできるだけ同じ時間に食事を摂り、寝起きすることを心がけましょう。こうした習慣の積み重ねが、疲れやストレスの軽減につながり、免疫機能や抵抗力を高めることにもなります。
ストレスや疲れによる発熱の対処法
日ごろからストレス解消法や自分なりのリフレッシュ方法を見つけ、ストレスや疲れをため込まないようセルフマネジメントすることが、心因性発熱を予防するカギになります。特に大切なのが睡眠です。適切な時間で質の良い睡眠を取ることは、体の疲れを軽減させるのはもちろん、内分泌系や自律神経が整うことでメンタル不調の改善にもつながります。
運動は、緊張状態にある体をほぐすのに効果的なだけでなく、体を動かすことによって得られる適度な疲れが、質の良い眠りにつながることも期待できるため、おすすめです。
深呼吸や瞑想などのリラクゼーションは、医療的対処法ではありませんが、ストレスの解消や緊張状態の緩和につながる側面もありますので、セルフケアに取り入れてみてはいかがでしょうか。症状が改善しない場合は、医療機関を受診して医師に相談してみましょう。
発熱時の対処法と受診の目安
ここまで述べてきましたように、発熱の原因はさまざまです。発熱の程度や期間、その他の付随する症状を踏まえて、セルフケアで回復できそうか、それとも受診が必要か、適切な見極めと判断が重要になります。
発熱の程度と持続期間に応じた対処法
典型的な風邪の場合、発熱は37〜38度程度で、微熱から徐々に上昇し、数日で下がるのが一般的です。一方、インフルエンザでは38度を超える高熱が、頭痛や倦怠感、筋肉痛などと共に突然現れます。
38度以上の発熱が3〜4日以上続いている、あるいは41度を超える場合は医療機関の受診をおすすめします。平熱よりもやや高い微熱が5日以上続く場合も、注意が必要な目安と考えられます。「熱が出ているだけ」と軽く考えず、適切なタイミングで医療機関を受診しましょう。
特に、子どもの発熱で注意すべきなのは髄膜炎です。ウイルスや細菌に感染し、記憶障害、歩行機能障害、難聴、眼球運動障害、てんかんなどの後遺症を引き起こす可能性があります。乳児の場合は、ぐずりや不機嫌、嘔吐、発疹、けいれんといった症状がみられます。不安に思うことがあれば、早めにかかりつけ医や救急相談センターに相談しましょう。
発熱時の自宅でのケア方法
発熱時には体温管理が重要になります。熱の上がり始めは、体温が上昇しているにもかかわらず寒気を感じることがあります。その時は布団や着衣で体を温め、汗をかきましょう。汗が出ると、次第に体温が下がっていきます。また、発熱による発汗では、体から多くの水分が失われます。そのため、こまめな水分補給や消化の良い食事を心がけましょう。通常の水分補給はお茶や水で十分ですが、発熱のほかに下痢や嘔吐があり、脱水症状が強く出ている場合には、経口補水液を使いましょう。
熱が高い場合は、額や首筋に冷却シートや濡れタオルを当てて冷やすのも有効な方法です。また、高熱時に何より大切なのが安静です。できるだけ活動を控えて横になり、しっかり体を休めましょう。熱が下がった直後は、体力を消耗して疲れやすくなっているので、無理は禁物です。食事は、消化の良いものを少量ずつ摂るようにし、徐々に元の生活リズムに戻していきます。体力の回復度合いを見極めながら、自身のペースで安静と適度な活動をうまく組み合わせて過ごしましょう。
解熱鎮痛薬の適切な使用方法と注意点
解熱鎮痛薬は、高熱や発熱による倦怠感が強い場合に使います。アセトアミノフェンやイブプロフェンなどが一般的で、年齢や体重、症状に合わせて適切な用法・用量を守ることが重要です。
前述の通り、発熱はウイルスの増殖を防いだり病原体と戦っている防御反応で、やみくもに熱を下げるのは、体が本来持っている免疫機能を抑えてしまうことにもつながります。「発熱の程度と持続期間に応じた対処法」の項も参考にして、解熱薬に頼りすぎず、安静や十分な栄養と睡眠で回復に努めることも大事です。
不明熱への対処と専門医への相談
診察や検査の結果、原因となる病原体や疾患が特定できる場合がほとんどですが、なかなか診断がつかない「不明熱」の場合があります。一般的に「1)38.3度以上の発熱が3週間以上持続、2)3日間の入院精査あるいは3回の外来診療で原因不明」と定義されており※1、診断を確定させるために詳細な検査が必要になることもあります。
発熱がみられたら、まずは内科(小児科)や耳鼻咽喉科を受診する人が多いかと思います。仮に「不明熱」であった場合心配に思うかもしれませんが、その後の検査の過程で診断がつけば、それに応じた治療を行う診療科を紹介されるので、適切な治療方法について専門医に相談しましょう。
※1:日本臨床検査医学会 ガイドライン作成委員会編:臨床検査のガイドライン JSLM2021
監修者プロフィール
市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
【市村恵一(いちむら けいいち)先生プロフィール】
東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、浜松医科大学耳鼻咽喉科を経て、1982年より米アトランタ市エモリー大学留学。帰国後、東京都立府中病院耳鼻咽喉科医長、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師その後助教授、自治医科大学耳鼻咽喉科学教授、副学長、石橋総合病院院長などを経て、2019年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)。小児耳鼻咽喉科学会初代理事長。オスラー病鼻出血治療の第一人者。現在は主に補聴診療を担当。