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手軽に効果!運動・ボディケア

筋肉を鍛えていつまでも健康に! 今日から始めたい「貯筋」習慣

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監修/石井 直方先生(東京大学名誉教授)

筋肉は、何もしなければ30歳を過ぎると減り始めることをご存じでしょうか。筋肉は、体を動かすために不可欠なだけでなく、健康の維持にも大きく関わっているため、できるだけ早くから鍛えておかなければなりません。筋肉が果たす役割や効果的な鍛え方について、東京大学名誉教授の石井直方先生に伺いました。

健康維持に欠かせない筋肉

筋肉は、体を動かすための運動器の一つです。立つ・歩く・座るといった活動も、呼吸、発声、食事といった行動も、筋肉がなければ行うことができません。全身を動かす「エンジン」のような役割を果たしています。

また、筋肉には熱を生み出す「ストーブ」のような役割もあります。体内の糖質と脂質を分解しながら熱を発生させるのです(基礎代謝)。筋肉量が多いほど基礎代謝量は増し、体の中の余分な糖質や脂肪がどんどん燃焼されます。その結果、血糖値の上昇が抑えられ、肥満防止やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防にもつながります。

しかし、筋肉の量は加齢に伴って減少します。ピーク時の筋肉量は、男性の場合は体重の約40%、女性の場合は約35%といわれています。しかし、30歳を過ぎた頃からゆっくりと減り始め、80歳の時点ではピーク時の7割以下にまで減ってしまうのです。筋肉量が減るほど、転倒しやすくなり、要介護状態に陥るリスクが高くなってしまいます。

年齢に伴う太ももの筋⾁の太さの変化

年齢に伴う太ももの筋⾁の太さの変化

※太もも前部の⼤腿四頭筋から採取した筋⽣検を顕微鏡観察し、筋線維(筋細胞)48本の横断⾯積を合計した値と年齢の関係を調べたもの。

以下を参考に作図

Lexell, J., Taylor, C.C. and Sjostrom, M. 1988. What is the cause of the ageing atrophy? Total number, size and proportion of different fiber types studied in whole vastus lateralis muscle from 15- to 83-year-old men. J Neurolog Sci 84: 275–294.

筋肉量が減ると、基礎代謝量も減るので、燃焼されずに残った糖質や脂肪が体内に蓄積されやすくなり、肥満や生活習慣病のリスクも高まります。「ストーブ」としての機能が弱くなるため、寒さにも弱くなります。男性と比較して筋肉量が少ない女性のほうが冷え性になりやすいのはこのためです。

加齢による筋肉量の減少を食い止めるには、筋トレを行って筋肉を鍛え、蓄えておくことが大切です。筋トレを始めるのに、遅すぎることはありません。何歳になっても、筋トレを行えば筋肉を増やせます。ただ、筋トレを続けるには精神的なエネルギーも必要になりますから、少しでも若いうちに始めたほうが続けやすいでしょう。

まずは衰えやすい足腰の筋肉を鍛えよう

健康維持のために筋トレを始める場合、優先的に行いたいのが足腰(下肢)の筋トレです。下肢の筋肉は、手や腕といった上肢の筋肉と比べて、筋肉量が低下するスピードが速いからです。特に重要なのは、太ももの前にある筋肉(大腿四頭筋)とお尻の筋肉(大殿筋)です。これらの筋肉は、私たちが2本の足で立ったり歩いたりするために不可欠です。

ここでは、あまり運動をしてこなかった人でも足腰を鍛えやすい「スロースクワット」をご紹介します。週2~3回のペースで行いましょう。

1.足を肩幅に開き、つま先を少し外に向けて立ちます。手のひらを上に向け、太ももの付け根(鼠径部)に当てます。

2.4秒かけてゆっくりと腰を落とします。上体を立てたまましゃがむと膝に負担が強くかかるため、背筋を伸ばして顔を前に向けたまま、鼠径部に当てた手のひらをお腹と太ももで挟むようにしましょう。
膝とつま先は、同じ方向を向くようにします。また、膝がつま先より前に出ないように、股関節、膝、足首をバランスよく曲げましょう。

3.腰を落としたら動きを止めず、今度は膝を伸ばしきる手前まで、4秒かけてゆっくりと腰を上げます。これを8~10回繰り返すのが1セット。途中1~2分の休息を挟みながら、3セット行います。

※1~3の動きが楽にできる人は、手をまっすぐ前に出しながら行いましょう。姿勢を保つために大切な背中の筋肉も一緒に鍛えられます。

毎日の生活の中でできる「貯筋」習慣

日常生活で自然と筋肉を使っていた昔と異なり、生活が便利になった現代は、筋肉を使うシーンが減っています。特に、健康への影響が大きい足腰の筋肉は、日常生活の中で意識的に使うように心がけたいものです。

例えば、エスカレーターやエレベーターに頼らずに、階段を使うだけで、筋肉に負荷をかけることができます。「上りも下りも階段だときつい」と感じるなら、下りだけでも階段を使いましょう。下りでも上りと同等かそれ以上の筋トレ効果が期待できます。

ウォーキングも有効な運動ですが、少し工夫が必要です。ただ平地を歩くだけでは、筋肉に対する刺激が足りません。早歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返す、坂道のあるコースを選ぶなど、少し負荷を大きくすることを心がけると効果的です。ウォーキングの前に筋トレを行うと、脂肪が燃焼しやすくなって、ダイエットと筋トレの相乗作用が期待できます。

筋肉を増やすためには、筋トレに加えて、タンパク質を意識的に摂取することも大切です。筋トレ後30分以内に良質のタンパク質を摂取すると、筋肉を合成する働きが促進されるといわれています。牛乳やヨーグルト、プロテインドリンクなどを摂取するとよいでしょう。

タンパク質を効率良く吸収するには、実は糖質も一緒に摂取することが必要です。ダイエット目的で糖質制限を行っている人も多いですが、制限しすぎると体内のエネルギー源が少なくなり、筋肉の合成にブレーキがかかってしまいます。ダイエットを意識するのであればなおさら、極端な食事制限を行うのではなく、バランスのとれた食事を摂って筋肉量 を減らさないことが大切です。

監修者プロフィール
石井 直方先生(東京大学名誉教授)

【石井 直方(いしい なおかた)先生プロフィール】

東京大学名誉教授
1955年生まれ。東京大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。2020年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科・新領域創成科学研究科教授。日本における筋肉研究の権威として知られ、少ない運動量で大きな効果を得る「スロトレ」の第一人者。テレビや雑誌などでも活躍中。ボディビル選手としても輝かしい実績を誇る。

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