季節のテーマ
やっぱり運動は大切!筋肉が出す「マイオカイン」が病気や老化に関係
監修/家光 素行先生(立命館大学スポーツ健康科学部教授)
概要・目次※クリックで移動できます。
筋肉から出るマイオカインがさまざまな臓器に作用
マイオカインとは、骨格筋(筋肉)から分泌されるホルモンやペプチドなどの物質の総称です。マイオカインの存在が知られて研究が進んできたのは、この20年ほどのことで、これまでに数十種類のマイオカインが見つかっています。
マイオカインは筋肉から分泌された後、筋肉自体に作用するものもありますが、血流に乗って全身に運ばれ、さまざまな臓器に対して良い影響を与えるものも多くあることが分かっています。筋肉を動かすことによって分泌される「運動誘発性」のマイオカインもあるため、運動をすることがさまざまな臓器に良い影響をもたらすことになります。
健康のために運動が大切であることはよく知られていると思います。運動によって筋肉を動かす際に、エネルギー源として糖や脂肪が消費されることから、肥満や糖尿病などさまざまな疾患の予防につながることも分かっています。しかし、従来の認識では、筋肉自体はエネルギーを消費する「受け身」の組織だと考えられており、筋肉が物質を分泌して、他の臓器にメッセージを出していることは知られていませんでした。マイオカインの存在が分かったことで、運動と健康の関係がさらに明確になり、運動の重要性に対する科学的な裏づけが強化されつつある、といえるでしょう。
マイオカインが全身に与える効果
マイオカインの作用については、動物やヒトにおける研究が多数実施されています。例えば、筋肉自体に作用して、筋肉の代謝や肥大などに関わるマイオカインがあります※1-5。筋肉への糖の取り込みを増やし、血糖値を安定させる働きを持つマイオカインもあります※5-8。
また、血液を介して脂肪組織に到達し、蓄積した脂肪を燃焼させるマイオカインも確認されています。脂肪には「ため込む脂肪」(白色脂肪細胞)と「燃焼する脂肪」(褐色脂肪細胞)の2種類がありますが、ため込む脂肪から燃焼する脂肪へと脂肪の性質を変える(白色脂肪細胞を「ベージュ化」する)働きがあると考えられています※9。
そのほか、血管の老化を抑制して動脈硬化のリスクを下げるマイオカイン※10,11や、骨粗鬆症※12や認知症※13と関連するマイオカインがあることも分かっています。さらに、大腸がんの前段階の状態にある細胞に働きかけて、がんを抑制する可能性のあるマイオカインがあることも、動物実験で確認されています※14,15。
マイオカインの中には、運動誘発性ではなく常に分泌されているものもあります。また、加齢に伴って筋肉から分泌されるようになる「加齢誘発性」マイオカインもあって、これは健康に悪い影響を与えることも分かってきています。
例えば、年齢を重ねるにつれて、一見筋肉が十分についているように見えても質が悪く、霜降り肉のように筋肉の間に脂肪が入ってしまったり、肉の筋のように硬くなったりする(線維化)ことが増えますが、筋肉の線維化を進めてしまうマイオカインがあります※16-18。筋肉の質が悪くなると、サルコペニア(加齢による筋力の低下や筋肉量の減少)やフレイル(心身が衰えた、健康と要介護の間の状態)の原因にもなり、糖の代謝の悪化や心疾患との関連性も指摘されるなど、さまざまなリスクを高める可能性があります。
継続的な運動を習慣づけて健康に
現在同定されているマイオカインの多くは運動誘発性ですので、マイオカインによる健康効果を得るためには、運動が効果的です。マイオカインの効果を継続的に得るためにも、運動を習慣化しましょう。また、加齢誘発性マイオカインは運動で減少することが分かっています。加齢誘発性マイオカインによる悪影響を防ぐためにも、早いうちから運動を習慣化しておきたいものです。
マイオカインは、運動強度が高いほど分泌量が増えるという報告が多い※14,19ため、できるだけ強度の高い運動を長時間行うことが、健康効果を得るための近道になります。しかし、運動習慣のない人が急激に強度の高い運動を行うことは困難ですし、体を痛める可能性もあります。運動強度が低くても、継続的に筋肉を動かすことでマイオカインは分泌されますので、まずは無理なく続けられる程度の運動から始めるようにしましょう。
忙しくて運動習慣があまりない人の場合、平日は以下のような方法で、生活の中で運動する機会を増やすようにするのがおすすめです。
- 通勤の際など、できるだけ歩くことを心がける。
- 歩く際は、スピードを速くすることで運動強度を上げる。
- エスカレーターやエレベーターではなく、階段を使う。
- 座りっぱなしの時間が長い場合は、スタンディングデスクを使って、立ったまま仕事をする時間を設ける。
そのうえで、週末は有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)を行い、可能であればさらに軽いレジスタンス運動(筋トレ)も行いましょう。下肢のほうが筋肉の量が多いため、マイオカインの分泌量も多くなると考えられます。まずは、スクワットを始めてみてはいかがでしょうか。
この程度の運動量に慣れてきたら、ダンベルを使って負荷をかけたり、フィットネスクラブでさらに強度の高いトレーニングを行ったりすることで、マイオカインの分泌量をより増やすことができるようになります。
なお、有酸素運動はできるだけ毎日行いたいものですが、筋トレは、筋肉が刺激を受けて大きくなるための時間を空ける必要があります。同じ部位の筋トレは毎日連続して行うのではなく、1~2日おきに行うのが最適です。
※1:Horii N, Sato K, Mesaki N, Iemitsu M. Increased Muscular 5α-Dihydrotestosterone in Response to Resistance Training Relates to Skeletal Muscle Mass and Glucose Metabolism in Type 2 Diabetic Rats. PLoS One. 2016 Nov 10;11(11):e0165689. doi: 10.1371/journal.pone.0165689. PMID: 27832095; PMCID: PMC5104401.
※2:Horii N, Sato K, Mesaki N, Iemitsu M. DHEA Administration Activates Transcription of Muscular Lipid Metabolic Enzymes via PPARα and PPARδ in Obese Rats. Horm Metab Res. 2016 Mar;48(3):207-12. doi: 10.1055/s-0035-1564132. Epub 2015 Sep 25. PMID: 26406917.
※3:Sato K, Iemitsu M, Matsutani K, Kurihara T, Hamaoka T, Fujita S. Resistance training restores muscle sex steroid hormone steroidogenesis in older men. FASEB J. 2014 Apr;28(4):1891-7. doi: 10.1096/fj.13-245480. Epub 2014 Jan 17. PMID: 24443372.
※4:Lightfoot AP, Cooper RG. The role of myokines in muscle health and disease. Curr Opin Rheumatol. 2016 Nov;28(6):661-6. doi: 10.1097/BOR.0000000000000337. PMID: 27548653.
※5:Ahsan M, Garneau L, Aguer C. The bidirectional relationship between AMPK pathway activation and myokine secretion in skeletal muscle: How it affects energy metabolism. Front Physiol. 2022 Nov 21;13:1040809. doi: 10.3389/fphys.2022.1040809. PMID: 36479347; PMCID: PMC9721351.
※6:Sato K, Iemitsu M, Aizawa K, Ajisaka R. Testosterone and DHEA activate the glucose metabolism-related signaling pathway in skeletal muscle. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2008 May;294(5):E961-8. doi: 10.1152/ajpendo.00678.2007. Epub 2008 Mar 18. PMID: 18349113.
※7:Sato K, Iemitsu M, Aizawa K, Ajisaka R. DHEA improves impaired activation of Akt and PKC zeta/lambda-GLUT4 pathway in skeletal muscle and improves hyperglycaemia in streptozotocin-induced diabetes rats. Acta Physiol (Oxf). 2009 Nov;197(3):217-25. doi: 10.1111/j.1748-1716.2009.02011.x. Epub 2009 Jun 12. PMID: 19523145.
※8:Sato K, Iemitsu M, Aizawa K, Mesaki N, Fujita S. Increased muscular dehydroepiandrosterone levels are associated with improved hyperglycemia in obese rats. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2011 Aug;301(2):E274-80. doi: 10.1152/ajpendo.00564.2010. Epub 2011 Feb 1. PMID: 21285401.
※9:Boström P, Wu J, Jedrychowski MP, Korde A, Ye L, Lo JC, Rasbach KA, Boström EA, Choi JH, Long JZ, Kajimura S, Zingaretti MC, Vind BF, Tu H, Cinti S, Højlund K, Gygi SP, Spiegelman BM. A PGC1-α-dependent myokine that drives brown-fat-like development of white fat and thermogenesis. Nature. 2012 Jan 11;481(7382):463-8. doi: 10.1038/nature10777. PMID: 22237023; PMCID: PMC3522098.
※10:Fujie S, Sato K, Miyamoto-Mikami E, Hasegawa N, Fujita S, Sanada K, Hamaoka T, Iemitsu M. Reduction of arterial stiffness by exercise training is associated with increasing plasma apelin level in middle-aged and older adults. PLoS One. 2014 Apr 1;9(4):e93545. doi: 10.1371/journal.pone.0093545. PMID: 24691252; PMCID: PMC3972107.
※11:Inoue K, Fujie S, Hasegawa N, Horii N, Uchida M, Iemitsu K, Sanada K, Hamaoka T, Iemitsu M. Aerobic exercise training-induced irisin secretion is associated with the reduction of arterial stiffness via nitric oxide production in adults with obesity. Appl Physiol Nutr Metab. 2020 Jul;45(7):715-722. doi: 10.1139/apnm-2019-0602. Epub 2019 Dec 20. PMID: 31860334.
※12:Kirk B, Feehan J, Lombardi G, Duque G. Muscle, Bone, and Fat Crosstalk: the Biological Role of Myokines, Osteokines, and Adipokines. Curr Osteoporos Rep. 2020 Aug;18(4):388-400. doi: 10.1007/s11914-020-00599-y. PMID: 32529456.
※13:Islam MR, Valaris S, Young MF, Haley EB, Luo R, Bond SF, Mazuera S, Kitchen RR, Caldarone BJ, Bettio LEB, Christie BR, Schmider AB, Soberman RJ, Besnard A, Jedrychowski MP, Kim H, Tu H, Kim E, Choi SH, Tanzi RE, Spiegelman BM, Wrann CD. Exercise hormone irisin is a critical regulator of cognitive function. Nat Metab. 2021 Aug;3(8):1058-1070. doi: 10.1038/s42255-021-00438-z. Epub 2021 Aug 20. Erratum in: Nat Metab. 2021 Oct;3(10):1432. PMID: 34417591.
※14:Matsuo K, Sato K, Suemoto K, Miyamoto-Mikami E, Fuku N, Higashida K, Tsuji K, Xu Y, Liu X, Iemitsu M, Hamaoka T, Tabata I. A Mechanism Underlying Preventive Effect of High-Intensity Training on Colon Cancer. Med Sci Sports Exerc. 2017 Sep;49(9):1805-1816. doi: 10.1249/MSS.0000000000001312. PMID: 28463901.
※15:Aoi W, Naito Y, Takagi T, Tanimura Y, Takanami Y, Kawai Y, Sakuma K, Hang LP, Mizushima K, Hirai Y, Koyama R, Wada S, Higashi A, Kokura S, Ichikawa H, Yoshikawa T. A novel myokine, secreted protein acidic and rich in cysteine (SPARC), suppresses colon tumorigenesis via regular exercise. Gut. 2013 Jun;62(6):882-9. doi: 10.1136/gutjnl-2011-300776. Epub 2012 Jul 31. PMID: 22851666.
※16:Naito AT, Sumida T, Nomura S, Liu ML, Higo T, Nakagawa A, Okada K, Sakai T, Hashimoto A, Hara Y, Shimizu I, Zhu W, Toko H, Katada A, Akazawa H, Oka T, Lee JK, Minamino T, Nagai T, Walsh K, Kikuchi A, Matsumoto M, Botto M, Shiojima I, Komuro I. Complement C1q activates canonical Wnt signaling and promotes aging-related phenotypes. Cell. 2012 Jun 8;149(6):1298-313. doi: 10.1016/j.cell.2012.03.047. Erratum in: Cell. 2012 Aug 3;150(3):659-60. PMID: 22682250; PMCID: PMC3529917.
※17:Horii N, Uchida M, Hasegawa N, Fujie S, Oyanagi E, Yano H, Hashimoto T, Iemitsu M. Resistance training prevents muscle fibrosis and atrophy via down-regulation of C1q-induced Wnt signaling in senescent mice. FASEB J. 2018 Jul;32(7):3547-3559. doi: 10.1096/fj.201700772RRR. Epub 2018 Jan 30. PMID: 29401629.
※18:Watanabe S, Sato K, Hasegawa N, Kurihara T, Matsutani K, Sanada K, Hamaoka T, Fujita S, Iemitsu M. Serum C1q as a novel biomarker of sarcopenia in older adults. FASEB J. 2015 Mar;29(3):1003-10. doi: 10.1096/fj.14-262154. Epub 2014 Dec 9. PMID: 25491308.
※19:Archundia-Herrera C, Macias-Cervantes M, Ruiz-Muñoz B, Vargas-Ortiz K, Kornhauser C, Perez-Vazquez V. Muscle irisin response to aerobic vs HIIT in overweight female adolescents. Diabetol Metab Syndr. 2017 Dec 28;9:101. doi: 10.1186/s13098-017-0302-5. PMID: 29299068; PMCID: PMC5746008.
監修者プロフィール
家光 素行先生(立命館大学スポーツ健康科学部教授)
【家光素行(いえみつ もとゆき)先生プロフィール】
立命館大学スポーツ健康科学部教授
1996年、川崎医療福祉大学医療技術学部卒業。2003年、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。筑波大学先端学際領域研究センター客員研究員、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所身体活動研究部客員研究員などを経て、2014年より現職。著書に『体がやわらかくなると血管が強くなる』(アスコム)がある。
運動が健康に良いことは、多くの方が知っていることでしょう。近年、筋肉が「マイオカイン」という物質を分泌していることが分かってきており、運動と健康の関係がさらに解明されつつあります。マイオカインは、全身のさまざまな臓器に影響を与え、病気や老化の抑制にも関連すると考えられています。研究が進むマイオカインについて、立命館大学スポーツ健康科学部教授の家光素行先生に伺いました。