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病気と医療の知って得する豆知識

もはや「国民病」の慢性腎臓病……予防と改善に有効なのは、実は運動!

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監修/上月 正博先生(山形県立保健医療大学理事長・学長、東北大学名誉教授)

慢性腎臓病の患者数は、推定1,330万人。成人の約8人に1人がかかる国民病といえます(※)。かつて、運動は慢性腎臓病を悪化させるため安静にすべきと考えられていきましたが、最近では、運動したほうが慢性腎臓病の改善や予防につながることが分かってきました。慢性腎臓病の基礎知識と、予防や改善に役立つ運動の方法について、山形県立保健医療大学理事長・学長で東北大学名誉教授の上月正博先生に伺いました。

(※)日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」

加齢や生活習慣病が慢性腎臓病の原因に

慢性腎臓病とは、腎臓の機能が低下して最終的に腎不全に陥り、透析が必要になる病気の総称です。進行すると、心筋梗塞や脳卒中といった病気のリスクが高まることも明らかになっています。原因となるのは、加齢による腎機能低下のほか、高血圧や糖尿病といった生活習慣病です。

腎臓の内部には、「糸球体」というフィルターのような役割を果たす器官がたくさんあり、腎臓に流れ込む血液をろ過して尿をつくっています。高血圧や糖尿病は血管を傷めるため、糸球体の細い血管もダメージを受けます。すると、正常に機能する糸球体が減り、腎機能が低下してしまうのです。慢性腎臓病の代表として、高血圧が影響して生じる「腎硬化症」と、糖尿病の合併症として生じる「糖尿病性腎症」がありますが、この2つの病気で、慢性腎臓病が進行して透析が必要となるケースの半数以上を占めています。

また、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)の使いすぎ(何週間も継続して使用するような場合)も、腎機能を低下させ、慢性腎臓病を引き起こすことがあります。

自覚症状に乏しく、気づかないうちに進行

慢性腎臓病にかかっても、初期にはほとんど自覚症状がないため、気づかないうちに進行してしまうおそれがあります。進行すると、以下のような症状が出ることがあります。

  • 疲れやすくなる
  • 尿が泡立つようになる
  • 尿が赤くなったり茶色くなったりする
  • むくみが出る
  • 血圧が上昇する

症状を自覚できる頃には、慢性腎臓病がかなり進行していると考えられます。ある程度まで進行してしまうと、腎機能が回復することはありません。最終的には、老廃物を排出できなくなり、人工透析、腹膜透析や腎移植が必要になります。

尿検査と血液検査で早期発見を

慢性腎臓病は、以下の1と2のいずれか、または両方が3ヵ月以上継続していることが診断基準とされています。

  1. 1  たんぱく尿や血尿、画像診断などの結果から、腎臓に障害があることが明らかだと判断される
  2. 2  糸球体ろ過量(GFR)が60ml/分/1.73m2未満である

1は、尿検査を受けて、尿にたんぱく質や血液が混じっていないかどうか調べれば分かります。
2は、血液検査で血清クレアチニンを調べ、それを計算式に当てはめて糸球体ろ過量の推定値を算出することで判断します。どちらも一般的な健康診断に含まれていることが多いため、定期的に健康診断を受けることが早期発見につながります。ただし、血清クレアチニンは筋肉量に左右されるため、高齢者のうち、筋肉が少ない人やリハビリ中の人、糖尿病や高血圧のある人は、シスタチンCという別の値も測定したほうが、正確に腎機能を測ることができます。

検査で異常が見つかった場合でも、慢性腎臓病の基準を満たさない程度の異常であれば、食事や運動など生活習慣の改善と、高血圧や糖尿病など腎機能に影響する病気がある場合はその治療を行うことで、回復の余地があります。しかし、腎機能の低下が進んでしまうと、元に戻ることはありません。透析の開始を遅らせることを目標に、生活改善や薬による治療を行います。

慢性腎臓病の予防にも役立つ「腎臓リハビリテーション」

慢性腎臓病の改善や予防に役立つのが運動です。従来、運動は慢性腎臓病を悪化させる要因だと考えられてきたため、慢性腎臓病の患者さんには運動制限がありました。しかし、さまざまな研究によってその常識は覆り、運動をしたほうが心筋梗塞、心不全、脳卒中など心血管疾患の予防や腎機能の改善につながることが分かりました。ウォーキングによって死亡率や透析への移行率が低下したというデータも得られています。さらに、腎機能を低下させないための予防としても、運動は役立ちます。慢性腎臓病の原因となる生活習慣病の予防にも効果的です。

また、運動せずに安静にしていると、筋肉はどんどん減ってしまいます。特に透析の患者さんは、透析中は長時間にわたって安静の状態が続くため、筋肉が落ちて、全身の筋力が低下する「サルコペニア」や、心身の活力が低下する「フレイル」になりやすくなります。現在では、透析を受けている最中に自転車こぎなどの運動を取り入れることも、保険診療の範囲内で可能となっています。

ここで、具体的な運動を紹介しましょう。慢性腎臓病のための「腎臓リハビリテーション」は、ストレッチ(体操)、有酸素運動、筋トレの3種類が基本になります。最も効果が高く、優先して行いたいのは有酸素運動です。ただ、これだけでは筋肉は増えにくいため、筋トレも並行して行います。日常的に体を動かしていない人の場合、急に運動を行うとケガにつながる可能性があります。ウォーミングアップも兼ねて、強度の低い体操から無理なく始めるとよいでしょう。

1 ストレッチの例:ばんざい

ばんざい
  1. 1  足を肩幅に開いて立つ。ゆっくり息を吸う。
  2. 2  息を吐きながらゆっくり両腕を上げ、腕を耳に近づけるように伸ばす。
  3. 3  ゆっくり両腕を下ろす。

5~10回を1セットとして、1日3セット行います。週2~3回が目安です。

2 有酸素運動の例:ウォーキング

ウォーキング

腕を前後に大きく振り、歩幅はなるべく大きくとる。
週3~5回、1週間で合計150分を目安に行います。

※体力のない方は1回3~5分から始めて、徐々に1回の運動時間や1日の運動回数を増やしていきましょう。

3 筋トレの例:スクワット

スクワット
  1. 1  肩幅より少し広く足を開き、両手を頭の後ろで組む。
  2. 2  息を吐きながらゆっくりひざを曲げて、腰を落とす。
  3. 3  息を吸いながらゆっくり元の姿勢に戻る。

5~10回を1セットとして、1日3セット行います。週2~3回が目安です。

※筋トレは毎日行わず、間隔を1日以上空けるようにします。

頻度や回数はあくまで目安です。自分の体力に合わせて増減し、無理なく行いましょう。また、病気の状態によっては運動が推奨されない場合もありますので、主治医に相談してください。

なお、運動をして筋肉をつけるためには、たんぱく質が必要ですが、慢性腎臓病が進むとたんぱく質制限が必要になります。病院で指導を受けながら運動を行うようにしましょう。

監修者プロフィール
上月正博先生(山形県立保健医療大学理事長・学長、東北大学名誉教授)

【上月正博(こうづき まさひろ)先生プロフィール】

山形県立保健医療大学理事長・学長、東北大学名誉教授
1981年、東北大学医学部卒業。メルボルン大学内科招聘研究員、東北大学医学部附属病院助手、同講師を経て、2000年、東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻内部障害学分野教授、2002年、東北大学病院リハビリテーション部長(併任)、2008年、同障害科学専攻長(併任)、2010年、同先進統合腎臓科学教授(併任)。日本腎臓リハビリテーション学会理事長、国際腎臓リハビリテーション学会理事長を歴任。2022年より現職。心臓や腎臓などの内部障害のリハビリテーションを専門とする。腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させる「腎臓リハビリテーション」を提唱している。著書『腎機能 自力で強化! 腎臓の名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。

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