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手軽に効果!運動・ボディケア

慢性的な肩こりや腰痛は“ファシア”が原因かも?

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監修/高平 尚伸先生(北里大学大学院 医療系研究科長、北里大学 医療衛生学部 教授)

腰や肩の痛みやこりには、「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」や「変形性肩関節症」など原因が分かっているものもありますが、はっきりした原因が分からない痛みやこりも多く存在します。近年では、こうした原因不明の痛みやこりなどの不調に関する研究が進み、改善するための新たなアプローチが見出されています。そこで注目が高まっているのが、筋肉を覆う“ファシア”です。ファシアに関する正しい知識と、腰痛や肩こりを改善する方法などを、整形外科、スポーツ医学や運動器リハビリテーションなどを専門とする、北里大学大学院 医療系研究科長であり北里大学 医療衛生学部 教授の高平尚伸先生に伺いました。

ファシアと筋膜はどう違う?

ファシアとは、全身の筋肉や内臓などを包む“膜”のような存在です。といっても、単なる1枚の膜ではなく、筋肉を包む膜や内臓を包む結合組織、さらにその他の結合組織による複雑な構造をしています。

筋肉を包むファシアには、「浅層(せんそう)ファシア」と「深層(しんそう)ファシア」の2種類があります。このうち、筋肉にぴったりくっつき、筋肉を包んでいる深層ファシアの一部が、「筋膜リリース」などで一般的に知られる「筋膜」です。筋膜=ファシア、と誤解している人も少なくありませんが、ファシアの一部に筋膜が含まれるのだと覚えておきましょう。

■ファシアのイメージ

ファシアはコラーゲンやエラスチンなどの線維状のたんぱく質と、水を含んだゼリー状の基質と呼ばれる部分からできており、綿菓子のような網目状の形状をしています。それが体全体の筋肉を覆うことで、筋肉を伸び縮みさせたり、クッションのような役割を担ったりしながら、体がスムーズに動くようにサポートしているのです。

全身のファシアは“ライン”でつながっている

ファシアは頭のてっぺんからつま先までを覆うボディスーツによく例えられます。しかしそのボディスーツは1枚ではなく、主に下のイラストのような6枚のボディスーツが重なりあっていると考えられています。

下のイラストは、全身を構成する主なファシアの6つのラインを示しています。

  1. 1  浅い層のフロントライン(体の前面を覆う)
  2. 2  浅い層のバックライン(背面を覆う)
  3. 3  ラテラルライン(体の両サイドを走る)
  4. 4  スパイラルライン(体幹にらせん状に巻きつく)
  5. 5  アームライン(体幹から腕の先に伸びる)
  6. 6  ファンクショナルライン(下肢・体幹・上肢を機能的に連結する)

ファシアのラインは、東洋医学の「経絡」(ツボの連なるライン)とほぼ同じであることが分かっています。

ファシアの“硬さ”が痛みやこりの原因に

痛みやこりがない状態のファシアは、適度な水分を含み、柔軟性や弾力性が高く、皮膚と筋肉の間を滑るように動いています。しかし、筋肉と同様に、同じ姿勢を長時間続けたり、体を動かす機会が少なかったりすると、次第に弾力を失い、硬くなっていきます。すると、
皮膚と筋肉の間の滑りが悪くなり、筋肉や体全体をスムーズに動かしにくくなるほか、痛みやこりなどを引き起こしやすくなります。

■ファシアの硬さとこり・痛みの状態

【ファシアの硬さとこり・痛みの状態】よいファシアは、やわらかく弾力があり、滑りが良く、水分が豊富な状態です。反対に、悪いファシアは硬く、弾力がなく、滑りも悪い上に、脱水や癒着が起きている状態です。こうなると、筋肉は硬くこわばり、動きが悪くなり、しこりや引きつれが生じやすくなり、結果としてこりや痛みを引き起こします。

自分のファシアが硬くなっているかどうか、チェックしてみましょう。

  1. 1  肩の上の皮膚(筋肉まで届かない浅い部分)を指でつまんでみる
  2. 2  腰の後ろの皮膚(筋肉まで届かない浅い部分)を指でつまんでみる

1、2ともに
○ しっかりつまめて、よく動き、動かしても痛くない場合はファシアがやわらかいサイン
× つまめない、あるいは動きが悪く、動かすと痛い場合はファシアが硬くなっているサイン

腰痛や肩こりの予防や改善には、ファシアをやわらかく保つことがカギのひとつになります。

ストレッチ+筋トレが重要な理由とは

肩こりが気になるときは肩をもみほぐしたり、腰痛が気になるときは腰まわりのストレッチをしたりと、改善したい部位にしぼったセルフケアを行っている人は多いのではないでしょうか。しかし、前述のとおり筋肉はファシアで覆われていて、頭のてっぺんから足裏までラインでつながっています。ピンポイントで1つの筋肉をほぐしたり、関節を伸ばしたりするよりも、ファシアを意識してライン全体を伸ばすようにストレッチすることで、効率よく痛みやこりの改善につながると期待できます。

また、ファシアを意識して体全体を見てみると、縮んで硬くなっている筋肉もあれば、伸びて緩んでいる筋肉もあることが分かります。

例えば、猫背の姿勢を続けると首の後ろや肩の前側周辺がこり固まりますが、一方で首の前側や背中の筋肉は伸びて張ることで弱り、緩みやすくなります。おなかや腰も、背骨に沿った筋肉や股関節の前側は縮んで硬くなりやすいですが、おなか、太ももの前側やお尻の筋肉は緩みやすい傾向にあります。体を横から見て、こり固まった筋肉と、伸びて緩んだ筋肉を線で結ぶとクロスすることから、「クロスシンドローム」と呼ばれています(下図参照)。

全身の筋肉をバランスよく保ち、痛みやこりを改善するためには、縮んだ筋肉とファシアをストレッチで伸ばすのと並行して、緩んだ筋肉を鍛える筋トレを行うことも大切です。

続ければ体が変わる「全能ほぐしストレッチ」

ファシアのラインをストレッチで伸ばして筋肉の痛みやこりを緩和し、同時に筋トレ効果も得られる方法として開発した「全能ほぐしストレッチ」を紹介します※1
3つのポーズで、下記のラインを一気に伸ばせます。

※1:医師が教える!60歳からの血流ぐんぐんストレッチ(河出書房新社)

  1. 1  浅い層のフロントライン(体の前面を覆う)
  2. 2  アームライン(体幹から腕の先に伸びる)
  3. 3  浅い層のバックライン(背面を覆う)

① 壁に、肩と同じ高さで左右の手をつく。片足を一歩前に踏み出してひざを曲げ、腰を落とす。顔を上げて、できるだけ上を見ながら20秒キープ。

② 両ひじを曲げて上体を壁に近づけていく。顔を両手より前に出して20秒キープ。

③ ②の体勢から両ひじを伸ばし、おなかをのぞきこむように頭を下げる。背中を丸め、前に出した足のつま先を上げて、両ひざの裏を伸ばすようにして20秒キープ。頭が下がるのと同時に、両手の位置が下がってもOK。
前に出す足を入れ替えて、1~3を行う。左右各3回で1セット。1日3セットを目標に。

いずれのポーズも、息を止めず、ゆっくりした呼吸で行うことで副交感神経が優位になり、筋肉が緩みやすくなります。1セットでも汗が噴き出るほどの運動量があり、血行促進効果も期待できます。朝昼晩のすきま時間に行うなどして、ぜひ習慣化していきましょう。

監修者プロフィール
高平 尚伸先生(北里大学大学院 医療系研究科長、北里大学 医療衛生学部 教授)

【高平尚伸(たかひら なおのぶ)先生プロフィール】

北里大学大学院 医療系研究科長、北里大学 医療衛生学部 教授
医学博士。1989年、北里大学医学部卒業。同大学医学部整形外科医局長、同大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻教授、同大学大学院医療系研究科機能回復学・リハビリテーション科学・整形外科学教授、同大学東病院運動器外科長(整形外科長)、同大学大学院医療系研究科長などを歴任して現職。専門分野は股関節の疾患、運動器リハビリテーション、スポーツ医学、静脈血栓塞栓症。『つらい痛みや不調が消える 家でできる 超快適ストレッチ』(KADOKAWA)、『医師が教える!60歳からの血流ぐんぐんストレッチ』(河出書房新社)など著書多数。

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