
季節のテーマ
食べ方次第でパフォーマンス倍増!ビジネスパーソンの正しいランチ術
監修/松永 貴子(済生会熊本病院 栄養部技師長代行、臨床栄養室・給食管理室室長)

概要・目次※クリックで移動できます。
昼食こそ1日のかなめ!外食・中食でも上手に取るためのコツ
社会人になると忙しくて、なかなか昼食を落ち着いて食べる時間が取れない、という話をよく聞きます。しかし、ランチタイムはお腹を満たすことだけが目的ではなく、上手に使えば心身のリフレッシュになり、午後からのパフォーマンスをさらに引き上げられます。「何を食べようか」と考えること自体、楽しみや活力にもなります。しかも昼食は、栄養学の観点からも最もエネルギーを取るべき時間帯なのです。
その理由の1つとして、体脂肪の蓄積を促すタンパク質の一種「BMAL1(ビーマルワン)」が挙げられます。BMAL1は体内時計に関係していて、夜間になると活性化する特性があるため、夕食に脂質を多く摂ると脂肪をため込み、肥満になりやすいといわれています。一方、食事をした後に食べ物を消化・吸収・分解するために体内で消費されるエネルギー(食事誘発性熱産生:DIT)は、夜間になると50%程度低下することが分かっています※1。
これら2つのメカニズムを考え合わせると、BMAL1の活性は抑制されつつ、代謝が高い朝食・昼食の時間帯であれば、ハイカロリーの食事でも消化・吸収がよく働くため、脂肪になりにくいことが分かります。この時間帯にしっかり栄養価の高い食事をするのは、体内時計や人間の生体リズムにも合っているのです。こってりした食事を好む人は、昼食として取り入れることをおすすめします。
「糖質オフ」「糖質制限」という言葉が広く認知され、実践しているという人もいるのではないでしょうか。栄養学的にバランスの取れた理想的な食事をエネルギーの内訳でみると、1日の栄養のおよそ半分(50~65%)は糖質で、残りは、たんぱく質が13~20%程度、脂質が20~30%程度となります。しかし、主食となるご飯やパン、麺類などの糖質を減らしたり、あるいは完全に抜いて主菜を増やしたりすると、脂質やたんぱく質が過剰になりがちです。また、薄味であっても大量に食べれば、それなりの食塩を摂取することになります。野菜をたくさん食べているという人も、味付けのためにかけるドレッシングには食塩や脂質も含まれていることを念頭において量を調節しましょう。腎機能が低下している人は、たんぱく質過多になると腎臓に大きな負担をかけることになるので、特に注意が必要です。
糖質は良質なエネルギー源です。その糖質を極端に減らし、エネルギーが不足すると、身体は筋肉を分解してエネルギー供給にあてる仕組みになっています。つまり筋肉量が落ちてしまいます。筋肉が落ちると基礎代謝が落ちるため、かえって太りやすくなるという悪循環を招きます。糖質を上手に取り入れて、代謝を落とさない食事を心がけましょう。
健康志向の高まりもあり、コンビニエンスストアの弁当や総菜メニューも小分けになったさまざまな副菜が揃っていて、かつての「コンビニ飯」のイメージから一変しました。メニュー選びの際は、できれば定食やお弁当のように、何種類かおかずが入っているものが理想です。主食+主菜+副菜がバランスよく入り、トータルでエネルギー量や食塩摂取量が計算されているので、それらを参考に選ぶことで食べ過ぎや食塩の摂り過ぎを防ぐことができます。
おにぎりやサンドイッチに小さな副菜のカップ入り総菜をプラスするのは、偏りのない栄養を摂るという観点では間違っていないのですが、気になるのは食塩摂取量です。これらは1品当たり、食塩がおおむね2~3g含まれているのが一般的です。1日に摂る食塩の目標量は成人女性で6.5g未満、成人男性で7.5g未満※2なので、1品で食塩相当量2g程度のカップ入り総菜を食べるだけで1日の1/3量程度になります。そこにマヨネーズで和えた具材のサンドイッチや、梅干しおにぎりを合わせると、食塩摂取量が多くなります。食塩量が気になるのであれば、ドレッシングが別添えになっている生野菜サラダなど、自分で調節できるものにすると良いでしょう。
1食ごとの栄養バランスを完璧にしようとすると、現実的にはかなり難しいものです。栄養バランスにばかりフォーカスすると、活力を得て心身のリフレッシュにもなるはずのランチタイムが味気ないものになってしまいます。2~3日の食事の中で、緩やかにバランスの取れた食事ができればよいのです。試しに週半ばと週末の2回ほど、食べたメニューの栄養バランスを振り返ってみましょう。意識をするだけで明日のランチメニューの選択がきっと変わります。
※1:佐々木裕之,柴田重信ほか. 時間栄養学的視点で健康な食生活リズム, Journal of Japanese Biochemical Society 93(1): 82-92 (2021)
※2:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書PDFで開きます」を2025年9月30日に参照
食後の眠気の原因「血糖値スパイク」とは
食事の取り方を考える上で気にかけておきたいのが血糖値です。血糖値とは、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度のことで、ブドウ糖は身体のエネルギー源です。食前・食後など生活を通して変動する血糖値。通常はこの変動の波が緩やかですが、食後の血糖値が急激に変動する状態を「血糖値スパイク(グルコーススパイク)」といいます。「スパイク」とはトゲの意味で、血糖値のグラフを見ると、まさにトゲのような形状になっています。さらに、こうした血糖値の乱高下は一時的に食後の強い眠気や疲労感として感じられることがあります。しかし、血糖値の乱高下が長く続くと血管に深刻なダメージを与え、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中といった大きな病気につながるリスクが高まります。
●血糖値スパイクのイメージ
出典:済生会「血糖値スパイクを予防しよう――糖尿病になる前に対策を!別ウィンドウで開きます」を基に作成
血糖値スパイクを起こしやすい食事の取り方として、朝食を抜く、おにぎりやカップラーメンだけといった炭水化物中心の食事や、食べる速度が早いことなどが挙げられます。血糖値スパイクは、健康診断で測る空腹時血糖値の数値には現れないため、なかなか発見されず、見逃されやすい側面があります。健康診断の空腹時血糖の数値が正常な人であっても、血糖値スパイクが起きている可能性があるので注意が必要です。
パフォーマンスを上げる食事法(在宅勤務、眠気防止、疲労回復)
小さなひと手間でバランスの良いランチを取れるのは自炊派ならでは
在宅ワーカーや、手作り弁当派におすすめしたい工夫は、作り置きです。トータルで考えるとコストや時間の節約にもなり、外食よりも手軽に栄養バランスを取りやすいのです。たとえば、シンプルな味付けの肉そぼろを作り置きしておくと、手軽にご飯や麺類の具材になります。ゆでる・炒めるなど加熱した野菜の小分け冷凍も有用で、解凍してレトルト食品などに添えるだけでも栄養バランスが整います。また、肉を使った手間のかかる主菜などを休日に多めに作り置いておくのもおすすめです。栄養バランスのみならず、塩分量や食事量を自分でコントロールできるのは、自炊派ならではのメリットです。
眠気を先回りで回避!活用したい「セカンドミール効果」
前項で、食後の急激な眠気の正体が血糖値スパイクであることを説明しました。この昼食後の血糖値スパイクを防ぐ上でカギとなるのが「セカンドミール効果」です。これは、最初の食事(ファーストミール)の内容が、次の食事(セカンドミール)の食後血糖値に影響を及ぼす現象を意味します。つまり、昼食後の血糖値の上昇を抑制するために、朝食の段階から血糖値が上がりにくい食事をする、という考え方です。
朝食を抜いたり、甘い菓子パンやジュースのみで済ませたりすると、昼食後の血糖値が確実に上がりやすくなります。主食(ご飯・パン)にたんぱく質(卵料理・納豆)、食物繊維(サラダ・味噌汁)を組み合わせて、急激な血糖値の上昇を防ぐ工夫をしましょう。また、ご飯を玄米やもち麦に、食パンを全粒粉パンやライ麦パンに変えると、食材を増やさなくても食物繊維を摂ることができるのでおすすめです。カフェや朝の時間帯のファミリーレストランなどで提供されるモーニングメニューを利用するのも一手です。同様に、昼食でもこうした栄養バランスを考えたメニューにすることで、夕食でセカンドミール効果が得られます。
美味の宝庫!ビタミンB群で代謝を高めて疲労回復
疲労回復に関しては、代謝を高めるビタミンB群をしっかり摂ることが大事です。糖質の代謝に関わるビタミンB1(豚肉・ウナギ、玄米など)、脂質の代謝に関わるビタミンB2(レバー・ウナギ・納豆・卵・牛乳など)、たんぱく質の代謝に関わるビタミンB6(マグロ・カツオ・鶏ササミ・豚ヒレなど)やB12(レバー・貝類・サバなど)を含む食材を使ったメニューがおすすめです。ビタミンB群が豊富な食品は美味しいものが多いので、きっと食事も楽しくなることでしょう。よく噛むことで消化活動が活発になり、食後のエネルギー消費量が増加して疲労回復にも効果的です。なお、ビタミンB群は水溶性のため、身体に蓄えておくことができません。その日だけ摂取するのではなく、日頃から意識して取り入れるようにしましょう。
2017年のノーベル生理学・医学賞で一躍話題になった体内時計は、私たちの健康に大きく関わっていますが、栄養学との関連では、食べる時間帯こそが大事という「時間栄養学」に注目が集まっています。今後さらに研究が進み、朝・昼・夕「いつ」「何を」「どのように」食べるのがパフォーマンスを上げるのに効果的かという観点で、より具体的な提案ができる時代が来るかもしれません。
監修者プロフィール
松永 貴子先生(済生会熊本病院 栄養部技師長代行、臨床栄養室・給食管理室室長)
【松永貴子(まつなが たかこ)先生プロフィール】
済生会熊本病院 栄養部技師長代行、臨床栄養室・給食管理室室長
熊本市南部の高度急性期病院で管理栄養士として栄養食事指導に当たる。2001年には全国に先駆けて、多職種で構成する栄養サポートチーム(NST)を発足。医師、看護師のほか、薬剤師、言語聴覚士、歯科衛生士などと連携しながら患者さんの栄養状態の維持・改善、栄養管理によるQOL向上に尽力している。日本糖尿病療養指導士、NST専門療法士、病態栄養専門管理栄養士。













昼食は日中の大切な活力源です。重要な会議を乗り切るスタミナをつけたい、集中して企画書を書き上げたい……など、その時々によって理由づけをしてメニューを選ぶこともあるでしょう。しかし、食事がパフォーマンスを後押しすることもあれば、逆に足を引っ張ることもあります。中でも、食後の眠気を誘う「血糖値スパイク」をコントロールし、日中のエネルギー補給をより効果的にするためのポイントを、済生会熊本病院栄養部技師長代行で管理栄養士の松永貴子先生に伺いました。