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正しい知識と日々の工夫で、健康的に肥満対策!

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監修/和田高士先生(東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授)

医学的な観点で「健康」と「肥満」の境界線を知るために、今回は肥満に関わる検査値に着目します。どのように目標を設定して健康管理をすればよいのか、東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授の和田高士先生にお聞きしました。

「健康」と「肥満」の境界線はどこ?

太っているかどうかを知るバロメーターとして、日常でよく使われるのは「体重」と「体脂肪率」ではないでしょうか。医学的には、肥満度を判定する世界共通の指標として、身長と体重から算出する「BMI(Body Mass Index)=体格指数」が使われています。

●BMI(体格指数)=体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)
基準範囲 18.5~24.9kg/m2
(※以下、基準範囲は日本人間ドック学会の指標をご紹介しています)

肥満度分類(日本肥満学会)

肥満度分類(日本肥満学会)

BMIが基準範囲を超えると「肥満」と判定されます。しかし、BMIは身長と体重のみから導き出すため、質的な評価ができません。例えばアスリートのような筋肉質の人でも、基準範囲を超えて「肥満」と判定されてしまうことがあります。脂肪太りかどうかという質的な判定には、BMIだけでなく体脂肪率や腹囲を併せて用います。

体脂肪率は家庭用の体組成計で測定できるため、日常的な目安とすることができます。「脂肪が多いと電流が流れやすい」という原理から、微量の電流を流して体脂肪の量を推定するものです。ただし、体内の水分量などに影響を受けやすく、1日の中でも変動します。また、販売する会社によって測定手法が異なり、基準範囲も異なるため、健診などでは採用されていません。

健康診断では、内臓脂肪の蓄積度を知る目安として、腹囲(へそ周り)を測定します。こちらも内臓脂肪か皮下脂肪かを厳密に区別できませんが、へその位置で計測した腹囲が基準範囲を超えると、内臓脂肪が蓄積していることが考えられます。メタボリックシンドロームの診断基準のひとつとしても使われています。

●腹囲
基準範囲:男性85cm未満、女性90cm未満

腹囲が基準範囲を超えるようであれば、近い将来、高血圧や脂質異常、糖尿病を引き起こす可能性があると考えて、関連する中性脂肪や血糖などの値にも注意したほうがよいでしょう。

肥満と関連するさまざまな健康診断数値

BMIや体脂肪率、腹囲以外にも、肥満と関連する検査項目があります。健康診断や人間ドックの結果、以下の指標が基準範囲を外れるようであれば、生活習慣の改善に取り組み、医療機関の受診を検討することをお勧めします。

●中性脂肪(トリグリセリド)
食事で摂取した糖質を材料に、肝臓で合成される。血液をドロドロにするほか、体脂肪蓄積の原因となる。一定以上増えると肝臓に蓄積されて脂肪肝となり、さらに増えすぎると皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積される。

基準範囲:30~149mg/dL

●HDLコレステロール
いわゆる「善玉コレステロール」のこと。血管壁などにある余分なコレステロールを回収して肝臓に運ぶ役割があるため、低すぎると問題になる。中性脂肪とHDLコレステロールは反比例する。つまり肥満では、中性脂肪が増加してHDLコレステロールは減少する。

基準範囲:40mg/dL以上

●血糖(空腹時血糖)
血液中に含まれるブドウ糖の量。通常は、食事をすると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血液中の糖分がインスリンとともに筋肉細胞に取り込まれて、血糖値が一定になるよう保たれる。しかし、食べ過ぎの生活が続くと、膵臓が疲弊し、インスリン分泌や糖の筋肉細胞への取り込みが悪くなり、血液中に糖分が滞って血糖値が上昇する。

基準範囲:99mg/dL以下

●尿酸
細胞内の遺伝子を構成するDNA、情報を伝達するRNA、エネルギーを担当するATPが分解されることで生じる老廃物。血液中の尿酸の値は痛風や高尿酸血症の指標になる。また、食事量が多いと体内で産生されるプリン体が増えて、尿酸値が高くなる。

基準範囲:2.1~7.0mg/dL

なお、肥満の中には、病気が原因となって体重が増加する「二次性肥満」もあります。二次性肥満の場合は、生活習慣を変えるだけでは改善せず、原因となっている病気の治療が最優先となります。減量を試みても数値が改善しない場合は、内科を受診して相談しましょう。

減量したい! どうすればよい?

上に挙げた検査項目が基準範囲を超えて、健康への影響が懸念される場合は、食事や運動などの生活習慣を改善して減量を試みましょう。摂取エネルギーと消費エネルギーの差で余ったエネルギーが蓄積すると肥満の原因となります。肥満を防ぐためには、摂取エネルギーを減らし、消費エネルギーを増やすことが原則となります。まずは次のようなポイントに気を付けることから始めましょう。

・ゆっくり食事をする
肥満の人の食生活の特徴は、早食いで過剰なエネルギーを摂り過ぎてしまうこと。満腹感は、食事開始から20分以上経ってから感知されます。20分以内に食事を完食してしまうと満腹感がなく、物足りなさから追加で食べたくなってしまいます。ゆっくり食べるよう心がけましょう。

・規則正しく食事をとる
ムラのある食生活は体重増加につながります。朝食を食べる日と食べない日がある、忙しくて昼食を抜くことがある、食事の時刻が毎日バラバラ……といった不規則性があれば、これを規則正しくすることから取り組みましょう。

・食品の栄養成分表示をチェック
最近は大半の食品(生鮮品以外)に栄養成分表示があります。表示を確認して、エネルギーや脂質、糖質の少ない商品を選ぶとよいでしょう。ただし、いくらこうした成分が少なくても、単品だけを食べるようなダイエットは栄養が偏ってしまうため避けること。さまざまな食品を摂ることで、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が自然に摂れるようになります。

・飲酒量を減らす
飲酒量が増えるほど糖質の摂取量も増えてしまいます。過剰にならないように注意しましょう。

・身体活動・運動を行う
運動せずに食事だけでやせようとすると、筋肉が落ちてしまい、高齢期のロコモティブシンドローム(運動器症候群)、サルコペニア(筋肉減少症)などにもつながりかねません。筋肉を保ちながら効率的にやせるためにも、身体活動量を増やし、運動と食事の両面で取り組みましょう。

一方、どんなに減量したくても、やってはならないことがあります。

・急激に体重を落とさない
半年で10kgなどの急激な体重減少は、達成できたとしてもリバウンドが起こり、かえって健康に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。あくまで無理なく、長く続けられるペースでの減量を目指しましょう。なお、減量をしておらず、生活を特に変えていないのに1年で3kg以上の体重減少がみられる場合には、病気の可能性があるので医療機関を受診しましょう。

・「やせ薬」を使用しない
下剤、甲状腺ホルモン薬、糖尿病薬などをダイエット目的で服用した結果、健康被害が出るケースが問題となっています。輸入健康食品の中にも、食欲抑制剤や甲状腺ホルモン薬の成分が含まれているものがあり、中には死亡するケースも報告されています。安易に薬やサプリメントに頼るのは危険です。

できることから始めて継続することが大切

減量は数字上の計算ほど単純ではありません。そもそも、人間の体は飢餓に備えてエネルギーを蓄えるようにできています。また、体には恒常性を保とうとする仕組みが備わっていて、常にだいたい一定の体重を維持しようと働きます。やせるためには、その恒常性を打破するほどの生活や行動の変化が求められるのです。

加えて、現代社会は動かなくても何でもできるようになり、おいしい食べ物の誘惑も後を絶ちません。自らが「今の生活を変えよう」という強い意志を持って、創意工夫をしていかなければ、やせることは難しいと覚悟しましょう。

自分に合う方法を見つけて根気よく自己管理に取り組んだ結果、減量に成功している人はたくさんいます。どのように自分のライフスタイルに組み込んで行動を実践し、それを継続できるかが重要です。楽にやせることを優先したり、逆に無理をしたりしてしまいがちですが、どちらも禁物。5年、10年といった長期的な視点で、無理なく続けられる「習慣」にしていきましょう。

監修者プロフィール
和田高士先生(東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授)

【和田高士(わだ たかし)先生プロフィール】

東京慈恵会医科大学大学院健康科学教授
博士(医学)。1981年東京慈恵会医科大学卒業。1985年同大学内科系大学院修了。1993年同大学第4内科講師、大学附属病院総合診療室診療医長を経て、2000年に東京慈恵会医科大学健康医学センター長、2008年に東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授に就任、2009年より現職。日本生活習慣病予防協会副理事長、日本人間ドック学会理事。著書に『ちょっと気になる カラダの数値がみるみるよくなる本』(学研プラス)などがある。

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