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“貧乏ゆすり”がエクササイズに! “健康ゆすり”「ジグリング」

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監修/大川孝浩先生(久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授)

「あまり好ましくないクセ」と思われることが多い“貧乏ゆすり”ですが、この動きに似た「ジグリング」が変形性股関節症の運動療法として取り入れられ、その健康効果に注目が集まっています。ジグリングを“健康ゆすり”と提唱する久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授の大川孝浩先生にジグリングの方法やポイントなどについて伺いました。

ジグリングの方法をまずチェック!

ジグリングとは、股関節や膝関節を自分で小刻みに動かすエクササイズのことをいいます。まず、どのような方法で行うのかご紹介しましょう。

■ジグリングの基本姿勢

ジグリングの基本姿勢

1)足裏がぴったり床につく高さの椅子を用いて、膝の角度が90度、または90度以内になるように腰かける。両足は開いていても、閉じていてもOK。

<NG>

ジグリングの基本姿勢<NG>

膝から下を前に出しすぎると、股関節に余計な力が入りやすくなるので注意しましょう。

ジグリングの基本姿勢

2)つま先を床につけたまま、左右のかかとを小刻みに上下させ、かかとは床から2cm程度上げます。両足同時もしくは左右交互に行ったり、大きく上下させたりするのもOKです。1日の中で2時間以上行い、3カ月くらい続けてみるのが理想ですが、まずは心地良く感じるペースで、できるだけ多くゆすります。ただし股関節に痛みが生じた場合は中止しましょう。

上記の動きはいわゆる“貧乏ゆすり”に似ていますが、このエクササイズによって以下の改善が期待できることから“健康ゆすり”と呼ばれています。
期待される主な効果として、次の2つが挙げられます。

  1. 1.変形性股関節症の運動療法としての効果
  2. 2.下肢の血流改善効果

変形性股関節症とはどのような病気?

立つ、歩く、座る、しゃがむ、立ち上がる、といった日常生活における主要な動作を担う股関節。胴体と下肢をつなぎ、全身を支えています。

図1のとおり、骨盤のくぼみにある「寛骨臼(かんこつきゅう)」に、太ももの骨の先端「大腿骨頭(だいたいこつとう)」が入り込んだ構造をしています。

股関節をスムーズに動かすためのサポートをしているのが、寛骨臼と大腿骨頭の表面を覆う関節軟骨と、関節包に包まれた関節腔の中にある関節液です(図2参照)。弾力性のある組織である関節軟骨はクッション、関節軟骨に栄養分を運ぶ関節液は潤滑油にたとえられます。

しかし、何らかの要因によって関節軟骨がすり減ってくると、寛骨臼と大腿骨頭のすき間が次第に狭くなり、関節軟骨のクッション作用が低下していきます。すると、寛骨臼と大腿骨頭という硬い2つの骨が直接当たるようになるため、鼠径部などに痛みが生じるようになります。こうして起こる股関節の病気を「変形性股関節症」と呼びます。

■股関節の構造(図1)

股関節の構造

■股関節の断面図(図2)

股関節の断面図

関節の障害は不眠症や将来の要介護を招く可能性も

国内における変形性股関節症の有病率に関する疫学調査はまだ少なく、診断基準の違いによって研究結果の有病率に差がありますが、日本人に多い主な傾向として次のようなことが挙げられます。

●大腿骨頭を納める受け皿となる寛骨臼のふた「臼蓋(きゅうがい)」の形状が、先天的あるいは後天的に小さすぎるなど不完全な状態である「臼蓋形成不全」の人に多い。

●中高年以降の女性に多く見られるが、臼蓋形成不全の場合は若年層でも発症しやすい。

また、関節軟骨にかかる負荷が大きいほど、関節軟骨がすり減るリスクも高くなります。特に股関節には体の重みがかかりやすく、通常の歩行時には体重(※1)の約3~5倍の負荷がかかるといわれています。

※1 岡 正典. 股関節のbiomechanicsからみた骨切り術の理論. 関節外科8: 25-34, 1989
Seireg A. Arvikar RJ, The prediction of muscular load sharing joint forces in the lower extremitis during walking. J Biomech 8: 89-102, 1975

肥満などで体重が重い人は股関節にかかる負荷がより大きくなるため、注意が必要です。適正体重になるようダイエットしたり、リバウンドしないよう維持したりすることを心がけましょう。痛みや下肢の動かしづらさ、歩きにくさなど変形性股関節症にはさまざまな症状がありますが、次のような経過をたどるケースは少なくありません。

  1. 1.痛みが生じる。
  2. 2.痛みのために体を動かしたくなくなり、外出などを控えるようになる。
  3. 3.靴や靴下を履く、階段を上るといった日常生活の動作に支障が生じるようになる。
  4. 4.安静にしていても痛みが生じる。就寝中に痛みで目が覚め、そのまま眠れなくなる「痛みのための不眠症」になることもある。

痛みのせいで歩かない、動かない、という生活を続けていると、下肢の筋力が低下するのはもちろん、精神的にも抑うつ状態に陥りやすくなります。長い目で見ると虚弱状態になるフレイルの要因の一つになる可能性もあり、将来の要介護リスクにつながることも考えられます。股関節に痛みや何らかの異常を感じたら整形外科などを受診し、きちんと診断してもらうことが大切です。

運動療法としてのジグリングに注目

変形性股関節症の治療には、薬物療法や理学療法による「保存療法」と、変形が進んだ股関節を人工関節に置き換える人工関節置換術などの「手術療法」の大きく2つがあります。ただし、すり減った関節軟骨を根本的に治す薬剤はまだありません。

また、人工関節置換術は痛みがほぼ消える、股関節の可動範囲が大幅に改善する、など多くのメリットがありますが、人工関節の耐用年数には限りがあるといわれています(※2)

※2 変形性股関節症診療ガイドライン 2016
日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 編集 149-152, および 161-171 ,2016

その点、ジグリングは病気の進行度や年齢などにかかわらず、座ったまま行うことができるので、多くの人にとって取り入れやすい運動療法の一つといえるでしょう。

詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、股関節に負荷をかけることなく持続的に動かすことで関節液が循環しやすくなり、関節軟骨に栄養が供給されやすくなる可能性があると考えられています(※3)

※3 R B Salter, et al.The biological effect of continuous passive motion on the healing of full-thickness defects in articular cartilage. An experimental investigation in the rabbit. J Bone Joint Surg Am, 62(8):1232-51. 1980

とはいえ、軟骨が再生するのには時間を要します。また、すべての人の変形性股関節症が改善するわけではありません。運動療法として行う場合は主治医とよく相談したうえで取り入れましょう。

座りっぱなしの人にもおすすめ

変形性股関節症の人だけでなく、デスクワークなどで長時間座りっぱなしの生活をしている人にもジグリングはおすすめです。

冒頭に挙げた、ジグリングによる「下肢の血流改善効果」が期待できるからです。血流が良くなることで脚の冷えやむくみなどの軽減につながりやすくなります。また、動かさないことで凝り固まりやすくなる下肢の筋肉の柔軟性を高める効果も期待できます。

変形性股関節症の運動療法として行う場合も、デスクワークなどの合間のエクササイズとして行う場合も、無理のない範囲で短い時間から少しずつ始めていきましょう。クセになるほどこまめに行うようにするとよりいっそう効果が高まりやすくなると考えられます。

また、できるだけリラックスした状態で行うこともポイントの一つです。関節液の循環がよりスムーズになり、関節軟骨に栄養が届きやすくなると考えられるためです。なお、痛みが生じたり、痛みが強くなったりした場合は速やかに中止しましょう。治療中の場合は主治医に相談してください。

監修者プロフィール
大川孝浩先生(久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授)

【大川孝浩(おおかわ たかひろ)先生プロフィール】

久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授
1990年、久留米大学大学院医学研究科修了。済生会二日市病院整形外科部長、久留米大学医学部整形外科講師、米国ベーラー医科大学への研究留学などを経て、2019年より現職。日本整形外科学会 専門医・指導医、リハビリテーション医、スポーツ認定医、リウマチ医。

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