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原因はスマートフォンの使い過ぎ!?「脳過労」を防ぐデジタルデトックス術

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監修/枝川 義邦先生(立命館大学 OIC総合研究機構 教授)

今や生活に欠かせないツールの一つとなったスマートフォン。しかし、毎日長時間使い続けることで、気づかないうちに脳が過度に疲れ、不調をきたしている可能性があります。そこで注目されているのが、スマートフォンを置いてデジタル世界から一時的に距離を置き、脳の疲労回復を促す「デジタルデトックス」です。脳のメカニズムから、デジタルデトックスのポイントまで、立命館大学 OIC総合研究機構 教授の枝川義邦先生に伺いました。

環境に適応する脳の働き

環境に適応する脳の働き
  • 「以前に比べて怒りっぽくなっている」
  • 「ささいなことでイライラしてしまう」
  • 「頭の中がいつもモヤモヤしている」
  • 「寝床に入ってもなかなか寝つけない」
  • 「物覚えが悪くなってきた」

上記の症状のいずれかに、心当たりはありませんか?これらの原因はさまざまですが、最近ではスマートフォンの使い過ぎによる「脳の疲れ」もこうした症状を引き起こすといわれています。そもそもなぜ、スマートフォンを使い過ぎると脳が疲れてしまうのでしょうか。まず、脳のしくみから見ていきましょう。

脳は、生命維持、運動や言語、感覚、意識、知的活動など、人の心身をコントロールし、あらゆる活動をつかさどる、重要な臓器です。脳の活動は、体の内外からの情報の処理と保存を行う「神経細胞(ニューロン)」が発する電気信号をメインにして起こります。目や耳などから送られてきた情報を脳の神経細胞が受け取ることで、体を動かしたり、何かを考えたりしています。意思決定や記憶、感情のコントロールなども行われます。

自分自身を脳の“オーナー”に例えると、脳はオーナーが生きている世界(生息環境)に適応するように働きます。脳の中では神経細胞同士が手をつないで神経ネットワークをつくり、活発な情報処理が行われています。オーナーの行動や思考などに関わるネットワークでは効率よく情報処理が行われ、それが追いつかなくなると神経細胞がつなぐ手の数を増やしたり、あるいは手を伸ばしたりするといった方法で、情報のやりとりをスムーズにしていきます。

一方で、あまり使わない機能に関わるネットワークは消滅させるなど、脳は常に変化し、オーナー自身に適応しているのです。

脳がなぜ「過労」になるのか

脳がなぜ「過労」になるのか

スマートフォンの使い過ぎによる脳の疲れは、前述のような脳のしくみにひも付きます。国内では2010年頃からスマートフォンが普及し始め、個人保有率は2013年から2017年の間に、10代から80代までの全体で、10%以上上昇したというデータもあります※1

脳は神経ネットワークを活発化させることで情報を処理するため、スマートフォンを通じて送られてきた情報にも適応しています。しかし、その一方で、多くの情報処理をすることで脳は疲れます。通常、休息をとることによって疲れは回復しますが、スマートフォンは下記のように、朝起きたときから、夜寝る間際まで使い続けているケースが少なくありません。

【スマートフォンを使う生活シーンの例】

  • 朝、目覚まし時計に使う
  • 朝食をとりながらSNSやメールなどをチェック
  • 通勤電車の中でもチェック
  • 仕事の休憩時間にもチェック
  • 夜、寝床に持ち込んで、眠くなるまでSNSや動画などを見る

目覚まし時計に使うことも、時計を止めるといった行動の指令を脳が出すので、脳を使っているという意味では同じといえます。また、就寝間際まで脳を使っていると、疲れたまま眠りに就くことになり、回復の妨げになるといわれています。

1日中スマートフォンを使い続けるということは、脳を1日中ずっと働かせているのと同じことといえます。こうした状態が続くと、休んでも疲れが回復しない「過労」となります。脳が過労を起こすことから、「脳過労」と呼ばれています。

※1:総務省「情報通信白書平成30年版」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142110.html)を2023年11月14日に参照

特に疲れやすい脳の部位と影響とは

特に疲れやすい脳の部位と影響とは

脳には、大脳、小脳、間脳(視床、視床下部)、脳幹といった部位があり、それぞれ異なる働きをしています。脳の中でも疲れにくい部位と疲れやすい部位があり、血圧や脈拍、呼吸の調節など本能的な働きに関わる脳幹は疲れにくい部位です。一方、疲れやすいのが、大脳の前方にある前頭葉です。

■脳の構造

脳の構造

前頭葉は「脳の司令塔」とも呼ばれ、コミュニケーションや判断、意思決定、スケジューリングなど社会生活を送るうえで重要な役割を担っています。また、脳の中でも特に高度な情報処理能力を有しています。

スマートフォンの使い過ぎが前頭葉をはじめとする脳の機能に与える影響については、今後さらなる研究や医学的な検証が必要ですが、脳過労が続くことで、意欲や判断力、記憶力の低下、感情のコントロールができなくなる、といった状態につながる可能性が考えられます。また、今後の研究によっては、将来の認知症リスクなど、長期的な影響も明らかにされるかもしれません。

使い方の「見直し」がデトックスへの第一歩

使い方の「見直し」がデトックスへの第一歩

スマートフォンの性能は日進月歩で、近年は通信環境も格段に良くなっています。動画観賞や、配信のゲームなどもストレスなくできるようになり、楽しみ方も広がっています。一方で、便利になった分だけ脳に入る情報量も多くなっています。

日々のスマートフォンを使う時間が増えて、その期間が長くなると、脳の情報処理が追いつかなくなり、ますます疲労が蓄積することになりかねません。

そこで重要なのが、自分のスマートフォンの使い方を意識的に見直すことです。特に次のようなことをポイントに見直してみましょう。

また、記事の冒頭に挙げた下記の症状はないか、それはスマートフォンを使い始める前にはなかった症状ではないか、といった気づきも大切です

スマートフォンと適度な距離を置く「デジタルデトックス」は次のようなステップで行うのがおすすめです。

  1. 1  スマートフォンの使い過ぎに「気づく」という見直し
  2. 2  「やめなくては」という意思決定
  3. 3  「やめる」という実行

3の実行に関しては、「○時になったら電源を切る」など自分でルールを決め、それがクリアできたら少しずつハードルを上げてルールを厳しくしていくとよいでしょう。

スマートフォンの使い過ぎを防ぐ方法

スマートフォンの使い過ぎを防ぐ方法

スマートフォンの使い過ぎを防ぐためには、次のような方法も効果的です。

●画面をモノクロに設定したり、音が出ないようにしたりする
→使う楽しさが半減するため、自然と使用頻度が減りやすくなります。

●暗証番号を入れないと見られない、検索しないとアプリが出てこないなど、あえて手続きを多くする
→面倒が増えることで、距離を置くきっかけになります。

●スクリーンタイム機能などを使い、利用時間や頻度、使用アプリなどを可視化する
→自分がどのくらいスマートフォンを使っているのか、客観的に知ることで、コントロールがスムーズに。

●充電中は操作ロックするような充電器を使う
→スマートフォンから離れる時間をつくり出すことができます。

●メールやSNSなど緊急性の低い通知はオフにする
→通知がいつ届くのかなど、余計なことに注意が向くことがなくなります。

スマートフォンは便利なツールだからこそ、「使われる」のではなく、主体的に「使いこなす」という意識が大切です。必要がないのに四六時中使い続けるのではなく、「使わない」時間もこまめに生活の中に取り入れて、脳に疲れが蓄積しないよう心がけていきましょう。

監修者プロフィール
枝川 義邦先生(立命館大学 OIC総合研究機構 教授)

【枝川義邦(えだがわ よしくに)先生プロフィール】

立命館大学 OIC総合研究機構 教授
1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。2007年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年、早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の称号を得る。早稲田大学理工学術院教授などを経て現職。2015年早稲田大学ティーチングアワード総長賞、2017年ユーキャン新語・流行語大賞を「睡眠負債」で受賞。一般向けの著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『最新の脳科学と心理学で高まる 集中力の科学』(監訳、ニュートンプレス)などがある。

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