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季節のテーマ

住環境を整えて健康な毎日を!

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監修/鈴木 規道先生(千葉大学予防医学センター准教授)

在宅勤務などで家にいる時間が長くなった人も少なくないことと思います。そうなると気になるのが家の中の環境。日本では、住居内の空気汚染が原因で生じる「シックハウス症候群」が1990年代後半以降問題となりました。過去のことと思われるかもしれませんが、現在もシックハウス症候群に悩まされている人はいて、シックハウス症候群を起こしやすい生活スタイルや、化学物質が健康に与える影響などについて、研究が進められています。千葉大学予防医学センター准教授の鈴木規道先生に伺いました。

個人差の大きいシックハウス症候群

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シックハウス症候群は、住宅など建物に由来して生じるさまざまな健康障害の総称です。主な原因とされるのは、住居の壁、床、天井、接着剤、家具、家電、おもちゃなどから発生する化学物質、タバコの煙、暖房器具から出る一酸化炭素、ダニ、カビ、細菌などさまざまです。住宅の高気密化や高断熱化などが進み、室内の空気汚染が起こりやすくなっていることや生活スタイルの変化が背景にあると考えられています。

症状は、目がチカチカする、鼻がムズムズする、鼻水、喉の乾燥や痛み、頭痛、湿疹、吐き気、めまいなど、多岐にわたります。どの症状がどの程度の重さで生じるかは、個人差が大きく、あまり気にせず生活できる人もいれば、室内にいられないほど症状が重い人もいます。家の外に出て新鮮な空気にさらされると症状が軽減される・消える点が、シックハウス症候群の最大の特徴といえます。

シックハウス症候群は、日本では建材などに含まれる化学物質による症状が頻発し、1990年代後半から社会問題化しました。それに伴い、2003年に建築基準法が改正され、建築物における一部の化学物質の使用に規制がかかり、すべての建築物に24時間換気システムなどの機械換気設備の設置が義務付けられました。しかし、現在でもシックハウス症候群に悩まされている人がいます。規制対象外の化学物質が原因の一つとなってシックハウス症候群が発生している可能性があります。どの化学物質によって、またどのくらいの化学物質濃度によってシックハウス症状が生じるかは人それぞれです。そのため、まずは今後も増え続けるであろう代替品も含めた未規制の物質に対応するため、TVOC(Total Volatile Organic Compounds:総揮発性有機化合物)による総量での規制が現実的な対策の一つと考えられます。

シックハウス症候群になりやすいのはどんな人?

シックハウス症候群になりやすいのはどんな人?

鈴木先生らのグループでは、シックハウス症候群のリスク要因を調べて予防・改善に役立てるために、全国調査を行い、得られたデータを分析しました。

■シックハウス症候群を経験しやすい人や環境の特徴

以下のような人は、シックハウス症候群を経験する可能性が高いことが示唆されました。※1

  • 女性は、男性の1.2倍
  • 若い人(20代)は、60代の2.42倍
  • 喘息の既往歴がある人は、ない人の1.41倍
  • 神経質な人は、そうでない人の1.56倍
  • 喫煙歴がある人は、ない人の1.24倍
  • 室内で喫煙する人がおり、受動喫煙している人は、そうでない人の1.25倍
  • 床にカーペットを敷いている人は、敷いていない人の1.48倍
  • 室内でホコリをよく目にする人は、目にしない人の1.56倍

※1:Suzuki, Norimichi, et al. “Risk factors for the onset of sick building syndrome: A cross-sectional survey of housing and health in Japan.”Building and Environment202 (2021): 107976.

■実証実験棟を用いた滞在型の被験者実験。化学物質を総量で抑えることで、リスク低減につながるのか?休息時のリラックス効果を高めるのか?

見た目は可能な限り同じで化学物質濃度だけが異なる実験用の住宅2棟(一般的な新築を想定した化学物質濃度の家と、化学物質濃度をきわめて低く抑えた家)を使った研究も実施しました。実験は約4年にわたり実施し、延べ300名以上(解析にはその一部を使用)が参加しました。どちらの家に入っているのか被験者には分からない状態で約90分間滞在してもらい、脳波測定やアンケート等を実施したところ、化学物質濃度が高い空間に入ると、約6.89倍シックハウス症状を経験する可能性が示唆されました。※2

さらに、化学物質濃度をきわめて低く抑えた家の中では、新築を想定した化学物質濃度の家と比べて、リラックス状態を表すα/β波が約1.6倍多くなりました。※3 アンケートでも、「リラックスできて快適」と評価した人の割合は、化学物質濃度が低い家のほうが新築を想定した家よりも約1.2倍多くなりました。※3 化学物質濃度を低く抑えることは、シックハウス症候群対策になるだけでなく、休息時のリラックス効果を高める可能性があるといえます。

※2:Suzuki, Norimichi, et al. “Association between sum of volatile organic compounds and occurrence of building-related symptoms in humans: A study in real full-scale laboratory houses. ”Science of the Total Environment 750 (2021): 141635.
※3:Nakayama Y, Suzuki N, Nakaoka H, Tsumura K, Takaguchi K, Takaya K, Hanazato M, Todaka E, Mori C. “Assessment of personal relaxation in indoor-air environments: study in real full-scale laboratory houses.” International Journal of Environmental Research and Public Health,18(19) (2021):10246

日常生活でできる、健康に暮らせる住環境づくり

日常生活でできる、健康に暮らせる住環境づくり

シックハウス症候群のリスクを減らす方法の一つは、化学物質や原因となる物質が少しでも少ない家に住むことです。上記の研究結果からも分かるように、化学物質が少ないことはリラックス効果にもつながります。化学物質を100%取り除くのは不可能ですが、家を建てる機会がある場合は、少しでも化学物質を抑えられないかどうか、ハウスメーカーなどに相談してみるのもよいでしょう。なお、「天然素材の家なら大丈夫ではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、「天然素材だからシックハウス症候群にならない」と言い切ることはできません。例えば、木の香りも化学物質であり、その成分に反応してしまう人もいます。

シックハウス症候群の原因は建物自体から出る化学物質だけではありませんので、家を建てたり引っ越したりしなくても、以下のように、日常の中で行える対策もあります。子どものいる家庭では特に留意したいものです。大人よりも子どものほうが、1日に呼吸する空気の量(体重1kgあたり)が多いことから、空気に含まれる化学物質の影響を受けやすいと考えられます。※4

■日常の中で行えるシックハウス症候群対策

換気をする

窓を開けてこまめに換気するよう心がけましょう。2003年以降に建てられた家の場合は、24時間換気設備の設置が義務付けられています。寒いからといって切ることはしないようにしましょう。また、換気口の近くや、空気の通り道となる場所に大きな家具などを置いてしまうと、十分な換気が行えない場合がありますので、物の置き場所にも注意が必要です。

こまめに掃除をする

ホコリがたまらないよう、できるだけこまめに適切な掃除を心がけましょう。床にカーペットを敷くと、使用状況によってはホコリがたまりやすくなる可能性があります。意識的に丁寧な掃除を行うことで、ホコリやダニなどをできる限り除去することが大切です。

においのする家具などはできるだけ避ける

家具やおもちゃなどから揮発する化学物質も、シックハウス症候群の原因となります。購入時ににおいがするものは避けるか、可能な場合はしばらく屋外に置いて、化学物質を揮発させるのも一案です。

湿気に注意する

カビもシックハウス症候群の原因の一つです。室内の湿度が高くなりすぎないように注意しましょう。適切な温度・湿度を保つことは、さまざまな疾患の予防にもつながります。

タバコを吸わない

室内で吸わないことはもちろんですが、ベランダに出て喫煙しても、室内に煙が少しずつ流入することがあります。禁煙することが望ましく、自分自身はもちろん、一緒に暮らす家族のシックハウス症候群やその他のさまざまな疾患のリスク低下にもつながります。電子タバコも同様です。

※4:東京都「化学物質の子供ガイドライン(室内空気編)」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/kankyo_eisei/jukankyo/indoor/indoorindex/indoorairguideline.files/h22_guideline.pdf(2022年12月12日閲覧)

監修者プロフィール
鈴木規道先生(千葉大学予防医学センター准教授)

【鈴木規道(すずき のりみち)先生プロフィール】

千葉大学予防医学センター准教授
設計事務所勤務を経て現職に従事。環境を改善することで疾患を予防する環境改善型予防医学/ゼロ次予防をキーワードに、空間デザインと健康・ウェルビーイングに関する研究と教育活動を推進している。
ラボHP:https://www.bewell.cpms.chiba-u.jp/

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