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細胞から元気に!“エネルギー工場”ミトコンドリアを活性化して「免疫老化」を防ごう

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監修/森下竜一先生(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)

免疫は、病原体から体を守る大切な機能ですが、加齢とともに衰え、「免疫老化」が進んでしまいます。免疫の働きを活性化して老化を防ぐには、細胞の中にある「ミトコンドリア」が重要な役割を果たしています。ミトコンドリアの役割や免疫との関係、免疫老化を防ぐ方法などについて、大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授 森下竜一先生に伺いました。

活動エネルギーを生み出すミトコンドリア

人間の体は、37兆個とも60兆個ともいわれる膨大な数の細胞でできています。では、これらの細胞は、どこから活動のエネルギーを得ていると思いますか?細胞を動かすエンジンの役割を果たすのが、ミトコンドリアです。ミトコンドリアは、1つの細胞の中に1つしかない場合もありますが、多い場合は数千個含まれており、細胞の活動エネルギーとなるアデノシン3リン酸(ATP)を合成します。

細胞の活動に必要なエネルギーの90%以上はミトコンドリアで生産され、それぞれの細胞に供給されています。ミトコンドリアがしっかりと働いてくれることで、それぞれの細胞が元気よく役目を果たし、生命が維持されるのです。

ミトコンドリアが生み出すエネルギーで免疫システムも機能する

ミトコンドリアは、免疫機能にも大きな役割を果たしています。

ウイルスや細菌などの異物が体内に入ってくると、防御機能を持った細胞が複雑に関係しながら病原体を撃退し、体外へ排出しようとします。このような体の反応を「免疫」といい、免疫反応を担う細胞を「免疫細胞」といいます。体内に入ってきた異物を即座に攻撃する顆粒球やナチュラルキラー細胞、一度入ってきた異物を記憶して、2回目以降に効果的に攻撃するB細胞やT細胞などがあります。

免疫細胞も、他の細胞と同じように、ミトコンドリアが生産するATPをエネルギーとして働くため、ミトコンドリアが十分に機能することによって、免疫細胞にエネルギーが供給され、免疫力が維持されます。

ミトコンドリアはエネルギーを作り出すだけでなく、ATPを作り出すとき、副産物として活性酸素も一緒に作り出します。活性酸素は、体を酸化させてさびつかせる物質で、増えすぎるとがんや心臓病、脳卒中などの生活習慣病に深く関わると考えられています。しかし、ミトコンドリアには、ビタミンEや還元型コエンザイムQ10(CoQ10)などの抗酸化物質が存在しているため、活性酸素がもたらす害を軽減する働きが備わっています。さらにミトコンドリアは、この活性酸素を、病原体を駆除する際にうまく活用するしくみも持っており、免疫機能にも貢献しています。

そして、ミトコンドリアは、免疫反応全体のバランスを取る「司令塔」のような役割も担っています。ウイルスや細菌に感染したことで細胞が傷ついた際には、他の細胞に影響を与えないうちにアポトーシス(個体をより良い状態に保つために、不要な細胞を死なせて除去すること)させたり、免疫細胞が暴走する「サイトカインストーム」を抑えたりします。

免疫老化を防ぐカギは、ミトコンドリアの活性化

免疫力は、体力などと同じように、加齢に伴って低下します。加齢を避けることはできませんが、免疫老化を少しでも防ぎ、免疫細胞の働きを元気に保つためには、免疫細胞にエネルギーを供給するミトコンドリアを活性化する必要があります。

ミトコンドリアがエネルギーを生み出すために最も重要な成分が還元型CoQ10です。ATPエネルギーを作り出す過程で必要不可欠な栄養素(補酵素)で、ミトコンドリアが細胞を動かすエンジンだとすれば、還元型CoQ10はエンジンの動きを円滑にするエンジンオイルのような関係です。そのほか、細胞内には「長寿遺伝子」と呼ばれ、寿命に関連すると考えられている遺伝子がありますが、還元型CoQ10はこれを活性化し、ミトコンドリアを元気にするという報告があります。また、白血球のミトコンドリアの量を増加させる働きなども報告されています。ミトコンドリアが働くために欠かせない還元型CoQ10ですが、年齢を重ねるとともに体内の還元型CoQ10量は減少するため、中高年になるほど、持続的に補うことが大切になります。還元型CoQ10は、加齢だけでなく、脂質異常症の薬として使われるスタチンや、病気などによっても減少することが分かっていますので、不足が心配で補給を検討したい場合は、医師に相談してみるとよいでしょう。

免疫は、いざというときに慌てて備えようとしても、すぐに強化できるものではありません。普段から免疫のシステムが働きやすい環境を整えておくことが重要です。ミトコンドリアを活性化し、免疫年齢のアンチエイジングを図りましょう。

監修者プロフィール
森下竜一先生(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)

【森下竜一(もりした りゅういち)先生プロフィール】

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授
1987年大阪大学医学部卒業、米国スタンフォード大学循環器科研究員・客員講師、大阪大学助教授 大学院医学系研究科遺伝子治療学を経て、2003年より現職。日本血管認知症学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長、日本抗加齢協会副理事長、日本遺伝子治療学会副埋事長など各学会の理事を務めるほか、内閣官房健康医療戦略本部戦略参与、大阪府・大阪市特別顧問を務める。著書『防げ!免疫老化~免疫の鍵はミトコンドリア~』(エスクリエート)など。

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