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老化を遅らせるたんぱく質のパワーと正しい摂取法

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監修/藤田聡先生(立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科教授)

年齢を重ねるにつれて、体の変化を感じることが増えてきます。近年さまざまな研究によって、たんぱく質の適切な摂取が老化の進行を遅らせるカギとなることが分かってきました。たんぱく質は、筋肉の維持、免疫機能の強化、肌の健康を保つために欠かせない栄養素です。そこで、たんぱく質の効果と、適切な摂取方法について、立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科教授の藤田聡先生に伺いました。

健康を維持するために必要なたんぱく質

炭水化物、脂質と共にたんぱく質は「エネルギー産生栄養素」の一つとして、生きていくうえで欠かせないもので、年齢と共に減少してしまう筋肉量の維持に大きく関わっています。

たんぱく質は、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などに多く含まれ、下記の役割があります。

1.構造的役割

たんぱく質は、筋肉、皮膚、髪、爪などの構造を形成する。例えば、たんぱく質の一種であるコラーゲンは、皮膚や体のさまざまな部分を結びつけ支える組織を、丈夫でしなやかにする役割を果たす

2.酵素の役割

酵素の主成分はたんぱく質であり、化学反応を促進させる。例えば、消化酵素は、食べ物を小さく分解して、栄養を取り込みやすくする

3.ホルモンの役割

多くのホルモンはたんぱく質で作られていて、体内のさまざまなプロセスを調節する役割がある。一例として、インスリンは血糖値を調節し、成長ホルモンは成長と発達を促進するが、ホルモンのバランスが崩れるとさまざまな健康問題が発生する可能性がある。体の機能を維持するために非常に重要

4.免疫系の役割

抗体は、体内に侵入した病原体(ウイルスや細菌など)を攻撃するために作られる「免疫グロブリン」というたんぱく質である。病原体を認識し攻撃することにより、免疫反応を引き起こし体は感染症から守られる

5.輸送の役割

たんぱく質は、酸素や栄養素を体内で輸送する役割も果たす。例えば、ヘモグロビンは酸素を肺から体の各部位に運ぶ

6.エネルギー源

たんぱく質は炭水化物や脂肪が不足している場合にエネルギー源として利用される

これらの役割を持つたんぱく質は、老化のプロセスにおいて重要な役割を果たします。老化の一因として、酸化ストレスが挙げられます。酸化ストレスは、活性酸素種(ROS)によって引き起こされ、たんぱく質を酸化し、機能を損なうことがあります。例えば、メチオニン残基が酸化されると、細胞機能の低下につながることが知られています。メチオニン残基とは、メチオニンというアミノ酸がたんぱく質の中に組み込まれた部分を指し、たんぱく質の合成に寄与しています。

適切なたんぱく質の摂取は、老化を遅らせる効果があります。良質なたんぱく質を摂取することで、筋肉量を維持し、骨格の健康を保つことができます。血清アルブミン値が高いと生存率が高く、逆に低いと生存率が低くなることが示されています※1。血清アルブミンは、体の中でたんぱく質が足りているかを知るための良い指標となります。

※1:Riviati N,et al.Gerontol Geriatr Med.2024 May 7:10:23337214241249914.

最近の研究では、特定のたんぱく質が老化を遅らせる効果を持つことが示されています。例えば、ERp18というたんぱく質が亜鉛と結合すると、活性酸素を分解し、寿命を延長する効果があることが発見されています※2

※2:Tsutsumi C,et al.Cell Rep.2024 Feb 27;43(2):113682

たんぱく質は老化のメカニズムにおいて重要な役割を果たしており、適切なたんぱく質の摂取や酸化ストレスの管理が老化予防につながると考えられます。

40代以降は摂取量不足に注意

たんぱく質は体の大部分の材料であり、筋肉の約80%はたんぱく質でつくられています。たんぱく質が不足すると、筋肉量や歩行速度、下肢機能の維持がしにくくなり要介護状態の要因になるほか、免疫力の低下により感染症にかかりやすくなる恐れがあります。

特に40代以降は筋肉量の減少スピードが加速します。普段の生活を振り返り、炭水化物中心の食生活でたんぱく質が不足していたり、運動習慣があまりなかったりすると老化につながりやすくなるので注意しましょう。

たんぱく質の摂取が一時的に不足しても、すぐに体調に影響が表れるわけではありません。しかし、たんぱく質は体を動かすエネルギー源であることから、健康な体を維持し続けるためにも、毎日の食事でたんぱく質をしっかり摂ることを心がけましょう。

たんぱく質摂取量不足による影響

1.筋肉量の低下

たんぱく質は筋肉の構築と維持に必要。不足すると筋肉量が減り、筋力の低下を引き起こす

2.免疫機能の低下

たんぱく質は免疫システムの構成要素。不足すると感染症に対する抵抗力が弱まり、病気にかかりやすくなる

3.髪、皮膚、爪の健康問

たんぱく質は髪の毛、皮膚、爪の健康を維持するために重要。不足すると、これらの部分が弱くなり、髪が抜けやすくなったり、皮膚が乾燥したり、爪が割れやすくなったりする

4.成長障害

子どもや若者の場合、たんぱく質不足は成長障害を引き起こす可能性がある。成長期には特に注意が必要

5.栄養失調

重度のたんぱく質不足は、栄養失調やそのほかの健康問題を引き起こす

自分の必要摂取量を知る

自分の必要摂取量を知る

1日にどのくらいのたんぱく質を摂れば良いでしょうか。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」※3で定められる1日の推奨摂取量は、18~64歳の男性で65g、女性は50gです。ただし、これは最低限必要な量と捉えましょう。

※3:日本人の食事摂取基準(2025年版)(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316462.pdfPDFで開きます)を2025年4月3日に参照

1日に必要なたんぱく質の摂取量は、体重や身体活動レベルによって人それぞれ異なります。近年の研究結果では、筋肉の合成には「1食当たり、体重×0.4g」のたんぱく質量が必要※4と報告されています。体重70kgなら28g、つまり30g程度が1食ごとに必要になります。食事摂取基準では1日65g、つまり1食当たり20g強が推奨されますが、筋肉をつくるには不十分だと考えられます。働く現役世代の男性の場合は、少なくとも毎食20~30g程度のたんぱく質摂取を目指しましょう。

※4:Moore R D,et al.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62

●移動や立って行う仕事が多い人、運動や筋トレをする人※5

体重(kg)×1.6g※=1日に必要なたんぱく質量(g)
※活動量により1.0~2.2gの幅がある

※5:Morton W R,et al.Br J Sports Med.2018 Mar;52(6):376-384.

毎食20~30g摂ることを心がけ、摂取量が少ない食事と多い食事を組み合わせて1日の総量で調整するのは避けましょう。筋肉の合成は、たんぱく質を摂取しアミノ酸の血中濃度が高まると活発になります。すなわち、1食分のたんぱく質量が少ないとアミノ酸の血中濃度が上がらないため筋肉の合成が活発化せず、筋肉の分解が進む恐れもあります。逆に多く摂り過ぎても体内で利用しきれないため、必要な摂取量を毎食摂ることが大切です。

摂取量を増やす効果的な摂り方

毎食20~30gのたんぱく質を摂ろうとしても、朝食や昼食は、時間にゆとりがなかったり、簡単に済ませてしまったりと不足しやすい傾向があります。

慌ただしい朝には、調理しなくても効率良くたんぱく質を摂取できる牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品がよいでしょう。

水切りヨーグルトの一種である無糖のギリシャヨーグルトは、1個分に相当する100g中のたんぱく質量が10g前後あります。パッケージに記載されている栄養成分表示を確認してから選びましょう。このほかに、ツナ(水煮マグロツナ/100g当たり約16.0g、油漬けマグロツナ/100g当たり約17.7g)やゆで卵(全卵可食部100g当たり/12.5g)※6も手軽に取り入れやすい高たんぱく質食品としておすすめです。

※6:文部科学省「食品データベース」(https://fooddb.mext.go.jp)を2025年4月17日に参照

昼食に麺類や丼ものといった単品メニューを選ぶ場合は、肉類や魚介類、卵、大豆製品などのたんぱく質食品を1~2品プラスすると良いでしょう。たんぱく質には満腹中枢を刺激する作用があるので、昼食をしっかり食べると、夕方まで空腹を感じにくくなる効果も期待できます。

どうしても時間がなければ、コンビニエンスストアやドラッグストアで買えるプロテインゼリー飲料やプロテインバーなどの高たんぱく質食品を活用するのも一つの手です。栄養成分表示から、たんぱく質量を確認できます。上手に活用して1食20~30gに近づけましょう。

■主なたんぱく質の摂取目安

自分の手を使った「手ばかり」を目安にしよう 肉や魚などの高たんぱく質食品は、手のひらサイズで16~20g程度。動物性たんぱく質、肉類(100g前後)16~20g、魚介類(100g前後)16~20g、牛乳コップ1杯(約200ml)6~7g、卵1個約7g、植物性たんぱく質、豆腐1/3丁(約100g)6~7g、納豆パック(約50g)約8g、豆乳コップ1杯(約200ml)6~7g、油揚げ1枚(約30g)約7g

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 たんぱく質の話』(監修/藤田聡、発行/日本文芸社)

たんぱく質は動物性と植物性の2種類があります。動物性たんぱく質の代表的な食品は、肉類、魚介類、卵、牛乳。植物性たんぱく質の代表的な食品は、大豆製品や穀類などが挙げられます。

動物性たんぱく質は、ほとんどの食品が必須アミノ酸をバランス良く含んでおり、体内への吸収率が高いのが特徴です。必須アミノ酸は体内で合成できないため、食事から摂取する必要があります。植物性たんぱく質については必須アミノ酸が不足する食品もあり、体内への吸収率も動物性たんぱく質に比べて低い傾向があります。

ただし、動物性たんぱく質を摂る際には脂質に気を付けましょう。肉類は脂質を多く含みます。さらに揚げ物にすると摂取エネルギーが過剰になる恐れがあります。脂質の摂り過ぎは肥満や脂質異常症、動脈硬化、循環器疾患などのリスクを高めます。脂質の摂り過ぎを防ぐためにも、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を組み合わせて摂ることをおすすめします。なお、動物性と植物性の摂取バランスは1対1が目安です。

脂質の多い食品は体内での消化吸収に時間がかかります。肉類の中でも比較的脂質の少ない鶏のささみやむね肉、また、魚介類は同じ動物性たんぱく質の中でも消化吸収されやすく、筋肉をつくるアミノ酸の血中濃度が上がるスピードも速くなります。筋肉をつくるためには、なるべく脂質が少なめの食品を選びましょう。

また、筋肉量の維持や増加には、たんぱく質の摂取と同時に運動も欠かせません。筋トレよりも日常生活の中で歩数を増やしたり階段を使ったりすることをおすすめします。

今、すでに習慣となっていることにプラスして行動をくっつける「Habit Stacking(ハビット・スタッキング)」を利用することも有効です。「ハビット」は習慣、「スタック」は積み重ねるという意味です。つまり、決まった習慣と筋トレをセットにすることです。

例えば、デスク仕事をしていて立つときにスクワットを1~2回してから立つ、歯磨きしながらスクワットをするなどです。たんぱく質を効果的に摂ることと運動をセットにして筋力を高めることが、老化防止につながります。継続できる運動を習慣化しましょう。

監修者プロフィール
藤田 聡先生(立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科教授)

【藤田聡(ふじた さとし)先生プロフィール】

立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科教授
博士(運動生理学)。1993年、ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部卒業。2002年、南カリフォルニア大学大学院博士号取得。テキサス大学医学部内科講師、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任助教を経て、2009年より立命館大学着任。2021年、長年の研究に基づき企業の健康経営をサポートする株式会社OnMotionを設立。2023年より立命館先進研究アカデミー RARA アソシエイトフェロー。

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